著者
中野 雅史 佐藤 整尚 高橋 明彦 高橋 聡一郎
出版者
東京大学大学院経済学研究科
雑誌
経済学論集 (ISSN:00229768)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.2-30, 2017-01-01 (Released:2022-01-25)
参考文献数
32

本稿では,粒子フィルタを活用したポートフォリオ構築の新しい手法を提案する.特に,モンテカルロ・フィルタに基づく資産の期待リターンとボラティリティの推定により,平均分散ポートフォリオのパフォーマンスが飛躍的に向上することを示す. 我々は,状態空間モデルの枠組みにおいて,非対称性を持つボラティリティに加え,期待リターンに関する状態変数も確率過程として取り込むことにより,ボラティリティの時間変化と整合的なリターンを予測する.その結果,一般的な移動平均・分散に基づく平均分散ポートフォリオのみならず,等ウェイト(Equal Weight),最小分散,リスクパリティ(Risk Parity)などのリターン予測に依拠しない手法を凌駕する運用成果が実現可能なことを明らかにする. また,投資対象としては,国内外の株式・債券に加えリート(REIT)を組み入れ,空売り禁止条項や取引費用,投資比率制約も考慮することで,より現実的な国際分散投資を考察する.さらに,ポートフォリオのパフォーマンス指標として,複利リターンやシャープ・レシオに加え,実務的には重要な指標であるソルティノ・レシオや最大ドローダウンも採用し,多角的に評価することにより,我々の提案する手法の有効性及び頑健性を確認する.
著者
国友 直人
出版者
東京大学大学院経済学研究科
雑誌
経済学論集 (ISSN:00229768)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.2-16, 2013-04-01 (Released:2022-03-25)
参考文献数
12

2011.3.11 に発生した東日本大震災では災害の発生後に応急仮設住宅の建設問題がマスメディアなどで大きく取りあげられた.住宅供給サイドからの仮設住宅建設の経緯を振り返るとともに,将来に起きるかもしれない大災害への教訓と大災害に備えた住宅政策のあり方に関する提言をまとめた.また統計的極値論を利用した大規模災害のリスク評価及び大規模な災害への対応上への応用可能性も議論した.
著者
松島 斉 照山 博司
出版者
東京大学大学院経済学研究科
雑誌
経済学論集 (ISSN:00229768)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.17-49, 2013-04-01 (Released:2022-03-25)
参考文献数
7

複数種財をオークションによって売却する状況について実験をおこなった結果を,効率性,売り手収入,入札者利益などの観点から説明する.2 財を2 入札者によって競う取引状況を,逐次一位価格入札,時計入札,VCGメカニズムについて比較し,アンケート調査もおこなった.各入札者は,相手の金銭的利得構造を知らないことを仮定して,代替的評価と補完的評価の様々な組み合わせについて実験した.アンケートによる意識調査とは対称的に,実験においては,VCGメカニズムはおおむね好結果であるが,時計入札は Exposure Problem の弊害が顕著であることを示した.
著者
馬場 哲
出版者
東京大学大学院経済学研究科
雑誌
経済学論集 (ISSN:00229768)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.2-22, 2018

<p>本稿は,1906~1907年に,議会の外部で繰り広げられたイギリス都市計画運動の展開過程とその特質を明らかにすることを課題とする.この運動についての研究は,田園都市協会(GCA)の活動に関心が集中する傾向があるが,他の様々な団体との協力と対抗のなかで運動が展開したことに注意する必要がある.1906年7月にバーミンガムのカウンシルで都市計画立法を求める決議が出されたのち,同年秋にさまざまな会議で開かれた.いくつかは都市自治体協会(AMC)主導のものであり,バーミンガムのカウンシル議員のJ・S・ネトルフォールドは,AMC理事会の委託を受けた都市計画法案のためのスキーム案の作成を主導した.ネトルフォールドは,全国住宅改良評議会(NHRC)が後援した10月27日のミッドランド会議でも議長を務めたが,これには『ドイツの範例』の著者T・C・ホースフォールやNHRC会長のW・トンプソンも出席していた.そして11月6日にトンプソン,ホースフォールら17名からなるNHRCの代表団が首相H・キャンベル=バナマンと地方行政庁(LGB)長官J・バーンズを訪問し,「住宅・都市計画改革の包括的プログラム」を提示した.また1907年8月7日にはAMC代表団が首相・LGB長官を再度訪問したが,その中心はネトルフォールドであった.そして10月25日に田園都市協会(GCA)が準備しロンドン市長が主催したギルドホール会議が開催され,関係機関や専門家団体の代表が250人以上参加したが,この会議にも,トンプソン,ホースフォール,ネトルフォールドはそろって参加した.イギリス都市計画運動は,この時点でNHRC,AMC,GCAが人的にも重なりながら連携してひとつのピークを迎えたとみることができる.また,この過程でNHRCとAMCは,GCA以上に重要な役割を果たしたと考えられる.ドイツ流の都市計画の重要な手段であった自治体による土地の購入について,ネトルフォールドはそれを都市計画から切り離すという現実的方針を提案するにいたったが,この点については異論もあった.しかし,参加者は全員一致で,政府が都市計画の法制化を約束することを歓迎する決議を出し,舞台は政府と議会に移った.こうして,イギリス最初の都市計画法である1909年住宅・都市計画等法成立への道が開かれることになった.</p>
著者
石原 俊時
出版者
東京大学大学院経済学研究科
雑誌
経済学論集 (ISSN:00229768)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.2-54, 2020

<p>スウェーデン救貧連盟は,1918年の救貧法改革の実現に貢献した有力な圧力団体として注目されてきた.また,その児童福祉に関わる活動も,スウェーデンの児童福祉の発展に重要な役割を果たしたことが知られている.しかし,このように活動の一部に関心が集中する一方で,そもそもこの団体が如何なる課題をもち,どのような活動を展開したのかを検討する作業は十分行われてこなかった.そこで,本稿では,担った課題や活動の展開を万遍なく把握することを通じて,この団体の全体像を明らかにし,それによりこの団体がスウェーデン福祉国家の形成に果たした歴史的役割を解明することを試みることとする.この第5部では,児童福祉をめぐる諸活動の展開を,24年の社会的児童福祉法成立に至る児童福祉諸立法の制定に関らせながら見ていくこととする.また,最後に論文の締めくくりとして,この団体の歴史的意義について検討することとする.</p>
著者
三和 良一
出版者
東京大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學論集 (ISSN:00229768)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.65-77, 2017-01-01

日本経済史研究を先導してこられた石井寛治氏の『資本主義日本の歴史構造』は,研究史で十分掘り下げられていない論点を選んだ分析の深さ,方法的に試みられる「数量分析重視の最近の経済史的アプローチでもなければ伝統的な社会経済史的アプローチでもなく,新たな政治経済史的アプローチ」の鋭さ,歴史法則論・国家論の展開の大胆さ,そして,社会科学,歴史学の研究者が真正面から対峙すべき現代の課題の所在提示の鮮明さを特徴とした力作である.石井氏の問題提起について,評者の評価と見解を述べたい.論壇/Communication