著者
齋藤 民徒
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.41-80, 2003-03-31 (Released:2008-09-19)

冷戦終結後,国際政治学・国際関係論において規範の重要性が見直されてきた.これとともに,北米を中心に国際政治学・国際関係論と国際法学の相互接近が試みられ,一定の研究成果が出されてきている.そのような研究動向の中,従来,国際法学において「ソフト・ロー」と呼ばれてきた各種の「非法」規範についても,新たに研究が進められてきた.本稿は,このような国際規範研究の最新動向の現状と課題について,国際法学の見地から,「遵守」研究の問題点,「法」と「非法」の区別の問題等を論じる近時の諸業績に検討を加えたうえ,大沼保昭の提唱する「行為規範/裁判規範」概念の国際規範の基礎理論としての可能性を探究し,「法」と「非法」の区別の実態を分析するための理念型として,「適用」/「援用」/「参照」という規範使用・作用の三類型を提案するものである. This article reviews current interdisciplinary research on international norms by international lawyers and international relations scholars, focusing especially on how "non-legal" norms should be dealt with in international legal studies. Major issues discussed include the problems of "compliance analysis" for studying international norms and the distinctions made by various actors between law and non-law. Having examined the notions of "norms of conduct" and "norms of adjudication" as a potential basis for the future research on how various actors distinguish legal and non-legal norms, the author proposes additional subcategories to analyze different types of law-related behavior ; "application", "invocation", and "reference".
著者
間淵 領吾
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.45-84, 2004-11-12

日本における労働者の労働組合離れに関わる意識の諸側面について,その時系列的推移を既存の世論調査や主要単産の労働組合員意識調査の結果により検討した.その結果,意識の上での労働組合離れは,極めて長期的に継続して進行してきたことが判明した.組合満足感については近年増加傾向にある労働組合もあるが,労働組合に対する有効性感覚,意見反映感,必要性感覚,信頼感や,労働組合の存在感は,いずれも概ね低下傾向にあることを明らかにした.また,職場における労働者の連帯感は喪失される趨勢にあり,同僚との理想とする人間関係も部分化・形式化が進行してきた.特に,職場における連帯感や人間関係の希薄化は,労働者の労働組合離れに大きく影響するものと考えられるが,近年の成果主義的人事制度の強調は,職場における労働者の利害共有感覚を失わせることに繋がり,連帯感や人間関係の希薄化を促進したものと考えられ,結果的に労働組合離れを加連させたのではないかと推測した.
著者
大賀 哲
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3/4, pp.37-55, 2006-03-28

本稿の趣旨は,実証主義とポスト実証主義の認識論的差異,国際関係論における理論と歴史の方法論的な差異を踏まえながら,国際関係論における歴史社会学の用法を考察していくことにある.歴史社会学の用法や,理論と歴史の差異,言説分析の可能性とその限界等は既に社会学で広範に議論されているが,国際関係論において,歴史社会学のもつ可能性についての研究は少なく,未だ十分に議論されていないというのが現状である.本稿の意図するところはまさに国際関係論における歴史社会学の展開を掘り下げ,その研究上の可能性を考察する事にある.具体的には二つの歴史社会学(ウェーバー型とフーコー型)を比較検討し,とりわけフーコー型の歴史社会学にどのような特徴・妥当性があるのかを吟味していく.換言すれば,歴史社会学における先進的な研究動向を取り入れ,ポスト構造主義の概念を援用して歴史・思想要因を考察する.そして,ポスト国際関係史(或いはポスト国際関係論)を再構成した場合にそこにどのような可能性があるのかを検証する.
著者
赤川 学
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3/4, pp.81-95, 2006-03-28

読売新聞「人生案内」欄を素材として,「資料に向かい合う作法」としてのセクシュアリティの歴史社会学を実践する.第一に,1935~95年に掲載された身上相談を,見田宗介が用いた分類を修正しつつ,10年おきに量的分布の変遷を調べた.恋愛と結婚に関する悩みは漸減する一方,自己の性格や心に関する悩みが増加していた.第二に,性に関する悩み(身下相談)は,どの時期にもみられる「普遍的な悩み」,処女・純潔のように,ある時期以降消失する「可変的な悩み」,親密なパートナーとの関係に発生する「関係性の悩み」,自己の身体や性的欲望に関連する「個体性の悩み」等に分類される.第三に,身下相談では女性投稿者の比率が漸増しており,そこでは,「関係性の悩み」が突出して語られやすい.逆にいえば性を,自己の身体や欲望に関連づけるような語りが,隠蔽される傾向が確認された.