著者
上神 貴佳
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3/4, pp.39-80, 2008-03-14

国政レベルにおける政党再編成は,なぜ地方政治に浸透しないのであろうか.本稿は岩手県釜石市議会議員に対するアンケート調査を用いて,国と地方における政党政治が連動する程度は政治家間のリンケージのあり方と地方議会の選挙制度によって左右されるとの仮説を検証する.分析の結果によると,国政レベルの政党再編成の影響を強く受けている県政とは対照的に,釜石市議会においては,党派的変容の痕跡を見出すことが難しい.国会議員と釜石市議の関係はインフォーマルな系列関係によって結ばれており,政党によって媒介されない割合が高いこと,釜石市議を選出する定数26の大選挙区制においては,政党ラベルに基づく棲み分けよりも地域的な棲み分けが有効な選挙戦略であることの双方が確認された.我が国の市町村議会においては,系列関係と大選挙区制の組み合わせが比較的に多いと考えられるため,本稿の分析結果には釜石市の事例を超えるインプリケーションがあるといえる.
著者
飯味 淳
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3/4, pp.193-211, 2005-03-10

情報通信技術の急速な発達によって,電気通信産業は競争的市場に移行しつつあると言われる.料金規制は撤廃され,新規参入は自由化されている.しかし,このことは通信産業が政府規制から完全に解放されたことを意味しない.特に,双方向のネットワーク・アクセスとネットワーク間競争によって特徴付けられる移動体通信分野は,相互接続料金,戦略的な価格差別化といった新しい課題に直面している.日本の携帯電話市場では,総括原価に基づくオープン・アクセスが制度化されている一方,間接的なネットワークの外部性をもたらす着信者別価格差別化については一切の規制がない.本稿の実証分析は,着信者別差別化料金が消費者のキャリア選択に有意に影響していることを示している.従って,競争政策の観点からは,こうした価格差別化を規制する必要性があり,小売料金規制がなければ,市場シェアの大きな既存キャリアが市場を占有してしまう恐れがある.
著者
山元 一
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.83-104, 2007-12-17

日本もまた、他国の法と同様に世界を揺るがした9.11の衝撃を免れることはできなかった.本稿は,ポスト9.11状況における日本法におけるテロリズム対策にかかわる法的変動とそれを取り巻く推進論及び批判論から提示された法的ディスクールの諸相を明らかにする〔→I〕とともに,それについてささやかな考察を行おうとする〔→II〕ものである.Iにおいては, 9.11以前の法状況を一瞥した上で,9.11以後の制定法の展開〔「テロ対策特別措置法」(2001年)→「武力攻撃事態対処法」(2003年)→「国民保護法」(2004年)→「改正出入国管理・難民保護法」(2006年)〕とそれらについてなされた法的ディスクールを跡付ける.IIにおいては,日本法の諸変動についての四つの特色を摘示した後で,「安全の専制」論を批判的に言及し,テロリズム対策において司法権の果たすべき役割について検討する.
著者
前田 幸男
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.3-25, 2003-03-31

米国において全国規模の選挙調査が稀であった時代には,集計データ分析,あるいは地方小都市調査による投票行動研究が主流であったが,そこでは社会的影響仮説は重要な研究主題の一つであった.しかし,全国規模の調査が選挙研究の主流になる1950年代以降,社会的影響仮説の研究は顧みられなくなる.1960年代以降も幾つかの論文が散在したとは言え,それらはいずれも深刻な方法論的問題を抱えたものであった.1980年代以降社会的影響仮説に対する関心は再び高まったが,そこでは従前の方法論的困難を克服するために,斬新な設計を施した調査がハックフェルトとスプラーグにより行われた.日本の選挙データを用いた社会的影響研究はフラナガンとリチャードソンの研究を嚆矢とするが,彼らは極めて小さな社会的影響しか発見できなかった.これに対して近年のハックフェルトとスプラーグの研究に触発された社会心理学者の研究は別の角度から日本人の投票行動における社会的影響を明らかにした.ただし日本における社会的影響研究は日米の制度的違いを明確に意識して行われていないので,幾つかの点で改善の余地があるように思われる.米国製の理論を日本に応用する際の陥穽が最後に検討される.
著者
中村 浩爾
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.11-44, 2009

国家と市民社会の二元論に対して, 国家・市場・社会の三元論や国家・市場・コミュニティ・アソシエーションの四元論など, 多様な市民社会論の展開がある. マルクス主義の側も深化ないし修正を迫られていると同時に, 新しい市民社会論の側にも課題がある. 市民社会の構造, 編成, 構成員について考えた場合, 個人的構成か集団的構成かということが問題となり, 家族と階級が論点となる. また, 市民社会のメルクマールがフランス革命の理念たる自由・平等・友愛とされることが多いが, 友愛は軽視されてきた. 元来この三理念は古代に遡るものであって, マルクスらも言及しているものである. それ故, この三理念をめぐる議論も論点となる. 更に, 市民社会における社会規範の存在様式について考える場合, 法哲学的観点からは, 法律のみならず, 他の社会規範も視野に入れなければならない. とくに, 慣習が重要であるが, 本稿では, 法律, 道徳, 慣習を, 市民社会の三元構造と対応させることによって, 他の論点とも関連させながらそれを明らかにする.There are various theories on the civil society, as the three elements theory of the state, market and society or four elements theory against the dualism of the state and civil society. In considering about the structure, constitution and constituant memmber, it will come into question whether the civil society is constituted by the individual or the groups among which the family and the class are important. The liberty, equality and fraternity used to regarded as the ideas of the civil society from both camps are also the subjects of argument. From the viewpoint of legal philosophy, we cann't discuss about a mode of social rules in the civil society without counting in not only the law but also other social rules, among which the custom should be made much of. My purpose is to make it clear by corresponding the law, the morality and the custom to the three spheres.
著者
佐藤 俊樹
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3/4, pp.157-181, 2006-03-28

靖国神社(およびその前身の東京招魂社)は,長く「国家神道」の中心施設だと見なされてきた.しかし実際には,第二次大戦以前でも,その宗教的な性格や政治的な位置づけはかなり変化しており,特に1900年代の前と後では大きくことなる.ほとんどの靖国神社論は政治的立場のいかんを問わず,この点を無視されている.それらが1911年に出た『靖国神社誌』の靖国神社像を踏襲しているからである.本論では,『武江年表続編』や東京ガイドブックといった同時代史科をつかって,1900年代以前の靖国神社(東京招魂社)がどんな宗教的・政治的な意味をおびていたかを,政治家でも宗教家でもない,東京のふつうの生活者の視線から描きだす.それによって,戦前前半期の日本における宗教-政治の独特な様相の一端を明らかにする.
著者
大瀧 雅之
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社会科学研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.11-23, 2006

本稿では貨幣を保蔵手段とした世代重複モデル(OGモデル)と独占的競争均衡を用いて,動学的な乗数理論を構築した.従来のMankiw (1988), Startz (1989), Reinhorn (1998)らの乗数理論では増税が負の所得効果を通じて労働供給を増加させる効果が支配的であった.このため浪費的な財政政策は却って経済厚生を低下させるという結論が得られていた.モデルの動学化により,Mankiwらには存在しない二つの相乗効果が生まれ,浪費的であっても不完全雇用下の拡張的財政政策が経済厚生を改善するという命題を得た.二つの相乗効果とは,貨幣発行益による財政支出のファイナンスと貨幣の非中立性である.まず貨幣発行益によるファイナンスは,税負担なしに財政拡張が可能になり,経済厚生を低下させる経路が遮断される.さらに本稿モデルでは相対価格であるインフレ率は名目貨幣供給量から独立に決定され,現在の物価水準もそこから独立となる.したがって政府は実質貨幣残高をコントロールが可能で,貨幣は非中立的となり,財政拡張に伴う貨幣増は有効需要を刺激し,独占利潤の増加を通じて経済厚生を高めるのである.
著者
池元 有一
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.3-32, 2003-03-31

初期の日本のコンピュータ産業は,急成長する内需に依存して発展した.そこで,本稿ではその内需をいかに国産機が獲得したかを,コンピュータ利用の変化とメーカーの対応に着目し,(超)小型機を対象として明らかにした.1960年代,日本のユーザーの一部は,コンピュータ導入に対する不安から廉価な小型機を望み,国産メーカーは,PCSや会計機並の低価格でより高機能の小型機で新市場を開拓する.ここには,ライバルとなる外国機が存在せず,また,小型機ユーザーは経済成長に伴い上位機種へ移行する例も見られ,国産メーカーにとって有利な市場であった.富士通は,この小型機で売上を伸ばし,それを上位機種につなげコンピュータ市場全体のシェアを拡大した.日本電気は,超小型機で成功したが,提携先(ハネウェル)や販売店の都合で,それを上位機種につなげることができなかった.目立製作所は,小型機の自主開発も試みたが,提携先(RCA)や上層部の判断で,製品投入のタイミングを左右され,思うようにシェアを拡大できなかった.
著者
塙 武郎
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5/6, pp.163-184, 2008-03-21

本稿は,ニューヨーク市(以下,市教育局)を事例としてアメリカの初等中等教育の財政構造と特質について「州・地方財政」の視点から検討する.初等中等教育行政に専門特化する学校区は,財政面で州から独立性をもつ地方政府であり,地方財産税の自主管理により教育費を賄っている.市教育局の場合,市の行政組織の一部であるため,教員給与や学校施設費等の経常的経費(一般基金)だけを主に管理し,その一般基金には市の自主財源と州運営費交付金(Flex Aid)が投入されている.州運営費交付金は,学校区の「財政力指数」(CWR)を用いて算定・配分され学校区間の所得再分配を担っている.教育財政の特質を象徴する同補助金は,第1に財源格差の「平準化」ではなく,「縮小」を目的とし,第2に貧困学校区には手厚いが,富裕学校区にも少額ながら配分することによって州・地方政府間の公平なパートナーシップを図り,第3に富裕学校区から余剰財源を削ぎ取って貧困学校区に分配するものではないと論じる.
著者
有田 伸
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3/4, pp.77-97, 2011-03-15

非正規雇用という概念の具体的な意味内容は, 社会によって大きく異なり得る. 本稿は, 韓国社会にこの概念がどのように適用され, 何が「非正規雇用」とされてきたのかを現実の雇用構造と照らし合わせながら検討することで, 韓国労働市場における「格差」の性格を明らかにしていく. 韓国においてこれまで非正規雇用として読み替えられることが多かった経済活動人口調査の臨時・日雇カテゴリーは, 確かに労働市場における雇用の安定性や報酬等の格差をすくいとっているが, 分類基準の「土着化」故に, これらの格差は韓国に根強く存在する企業規模間格差の反映ともなってしまっている. これらを考慮すれば, 韓国では正規/非正規雇用の区分が日本ほどには自明でなく, その影響もそこまで独立的なものではない可能性が高い. 以上の韓国の事例と比較すると, 日本の非正規雇用は自明性/標準性と独立性が強く, それが非正規雇用の認識・分析枠組にも影響を及ぼしているという点で特徴的といえる.
著者
藤田 弘夫
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3/4, pp.117-135, 2006-03-28

日本の社会学者は都市社会学者にかぎらず,何よりも「現代」社会の研究者であることに意義を見出してきた.したがって,都市の歴史社会学的な研究は多くはなかった.もっとも,これも都市の定義や歴史社会学をどう考えるかでかなりの違いがある.日本は都市社会学をアメリカから導入した.アメリカの都市社会学はアメリカ社会の非歴史的性格を反映して,歴史への関心が欠如している.このため日本の都市社会学は最近までほとんど歴史に関心を持ってこなかった.現在,都市社会学者は歴史家の研究に影響を受けながら研究を進めている.これに対して,都市社会学者の歴史家への影響は少ない.矢崎武夫の統合機関理論による日本都市の発展史,中川清の生活構造論による近代化論,藤田弘夫の権力論による都市の発生論や飢餓論などわずかしかない.とはいえ,最近の佐藤香の社会的移動論,中筋直哉の身体の本源的対他相関性論などにもとづく研究は,新しい歴史社会学的研究の可能性を拓いている.この意味では,都市の歴史社会学的研究はようやく,はじまったばかりである.
著者
加瀬 和俊
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:3873307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.125-155, 2006-09-30

戦前日本に失業保険制度は存在しなかったが, そのための諸構想は存在し, その一部は法案として議会に提出された.また, 失業保険形態の給付制度は小規模なものではあれ大都市自治体によって実施された.本稿は, それらの諸構想・諸制度を比較し, 諸構想が英独等の制度を参考にしながらも日本資本主義に許容可能な種々の制度的工夫を案出していたことを確認した.実施された日雇共済制度については, 保険形態をとりつつも実質的には公的扶助であり, 赤字削減のための制度的工夫が制度の利用減と休眠化を招いたプロセスを示した.また1920年代には貯蓄奨励制度的な失業給付を容認していた資本家団体が, 1930年代には失業保険形態をとる全制度に反対するにいたった経過を明らかにした.
著者
田中 悟 林 秀弥
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.135-162, 2010-01-27

本稿では, わが国のパテントプールに対して競争政策上問題とされたリーディングケースである「パチンコ機特許プール事件」(平成9年8月6日公正取引委員会勧告審決)についての法と経済学的接近が行われる. そこでは, この事件に対する公正取引委員会勧告審決が認定した事実そのものに遡って, パテントプールがもたらした競争上の効果についての検討が加えられる. 本パテントプールが形成された歴史的経過とその変遷が吟味された後, パテントプールに集積された特許権をめぐる特許引用関係を用いたネットワーク分析を通じて, これらの特許権の性格が検討される. こうした分析を通じて, パテントプールに集積された特許権がパチンコ機製造にとって必要不可欠なものであり, 公取委審決で問題とされたパテントプールを通じた参入排除が実効性を有していたことが明らかとされる.これらの帰結をベースにして, 本パテントプールに関して行われた審決の独占禁止法および競争政策上の意味についての考察が行われる.
著者
根岸 毅宏
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.67-99, 2009

アメリカの福祉再編は, 福祉受給者を就労させることで福祉から脱却させる1990年代の政策から, 経済的な自立のためにフルタイム雇用とキャリア向上を促す2000年代の政策へと, 就労を重視する方向にさらに一歩進むことになった. 本稿は, こうしたアメリカの福祉再編を州政府の側に重点を置いて検討することにより, 次の3点を明確にする. 第1に, 1990年代の福祉再編が, グローバリゼーションのもとで, 労働技能を高める方向での労働編成の再編を大枠とする政策体系の一環として行われたことである. 第2に, 1996年連邦福祉改革は, それ以前に州政府がウェイバー条項を活用して導入した施策への, 連邦政府の側の対応であったことである. 第3に, 2006年の連邦福祉改革法の再承認で, 就労を重視する方向にさらに一歩進んだ背景としては, フロリダ州のように, 福祉受給者や低所得者のキャリアの向上に成果を上げつつあるプログラムもあったことである.The priority of U.S. welfare policy in the 1990's was for recipients to leave welfare through employment. The priority of the current decade is for welfare leavers and recipients to achieve independence by getting a full-time job and climbing the career ladder. Consequently, U.S. welfare policy has advanced further in the direction of putting an emphasis on work. This paper discusses U.S. welfare policy from the viewpoint of state governments. In this paper I focus on the followlng three points. First, state governments implemented welfare reform as part of a policy framework based on a high productivity work model to fit with the global economy. Second, the 1996 Federal welfare reform responded in a favorable and complementary fashion to State welfare policies introduced around 1990. Third, state-based job trainlng programs that encouraged welfare recipients to climb the career ladder had an impact on the 2006 Federal welfare reform reauthorization.
著者
大賀 哲
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3/4, pp.37-55, 2006-03-28 (Released:2008-09-19)

本稿の趣旨は,実証主義とポスト実証主義の認識論的差異,国際関係論における理論と歴史の方法論的な差異を踏まえながら,国際関係論における歴史社会学の用法を考察していくことにある.歴史社会学の用法や,理論と歴史の差異,言説分析の可能性とその限界等は既に社会学で広範に議論されているが,国際関係論において,歴史社会学のもつ可能性についての研究は少なく,未だ十分に議論されていないというのが現状である.本稿の意図するところはまさに国際関係論における歴史社会学の展開を掘り下げ,その研究上の可能性を考察する事にある.具体的には二つの歴史社会学(ウェーバー型とフーコー型)を比較検討し,とりわけフーコー型の歴史社会学にどのような特徴・妥当性があるのかを吟味していく.換言すれば,歴史社会学における先進的な研究動向を取り入れ,ポスト構造主義の概念を援用して歴史・思想要因を考察する.そして,ポスト国際関係史(或いはポスト国際関係論)を再構成した場合にそこにどのような可能性があるのかを検証する. The aim of this paper is, through considering an epistemological difference between positivism and post-positivism, and a methodological difference between theory and history within the study of international relations, to examine uses of historical sociologies in international relations. While issues like an application of historical sociology, a difference between theory and history, and potentials and limits of discourse analysis, have been already and widely discussed in sociology, there are, in the discipline of international relations, few works that examine an effectiveness of historical sociology and the discussion has been still insufficient. Therefore, this paper tries to explore the positive potentials of historical sociology by widely investigating the development of historical sociology in international relations. The contention of this paper compares Weberian and Foucauldian versions of historical sociology and uncovers features and potentials of the latter. In other words, this paper harmonizes post-structuralism and the well-developed researches of historical sociology in order to examine historical and ideological factors. And this paper finally constructs post-international relations (history), as a unification of post-structuralism and historical sociology, and evaluates its potentials.
著者
中村 圭介
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3/4, pp.57-75, 2011-03-15

1994年に日本の労働組合員数は1,270万人と戦後最高を記録した. しかし, それ以降, 組合員数は減り続けた. この縮小トレンドは2007年に止まった. それをもたらしたのは, 1つには企業別組合による非正規労働者の組織化である. 非正規に職場を侵食された企業別組合は, 経営不安などをきっかけに, 集団的発言メカニズムの危機, 代表性の危機を察知し, 自らを守るために非正規の組織化に乗り出した. 他方で, 縮小トレンドのストップにはさほど貢献しているわけではないが, 地域に根を張り, 一般組合主義に基づいて, 企業, 産業, 職業, 雇用形態に関わらずに, 小零細企業で働く未組織労働者を組織化する「新しい主体」の活躍が目立つようになってきた. コミュニティ・ユニオン, 地域ユニオン, ローカル・ユニオンなどである. これらのユニオンは, 地域で暮らし働く労働者たちに労働組合というセイフティネットを提供している. そこに重要な機能がある. この2つの新しい動きを推進していくことが, 企業の外への関心の弱きと非正規労働者への配慮の少なさという企業別組合が持つ2つの短所を克服し, 日本の労働組合を再生させる契機となるかもしれない.
著者
山本 潔
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.111-133, 2009-12-24 (Released:2011-06-01)

資料紹介 Research Source Guide A労働組合調査No.11『戦後労働組合の実態』(1947/8)により, 大河内一男教授は, 戦後の労働組合は「新人」が「大勢に順応」して結成したと主張. しかし組合結成時期別に調査原票を再集計すると, 敗戦直後の結成組合は, 戦前「労働運動経歴」「有」る者が「要求を出す」ために結成している. B労働市場調査No.18『京浜工業地帯』(1951/9)の労働者の「生家の職業」(農業46%)により, 大河内教授は「出稼型論」を展開した. しかし同調査『第二次集計表』では, 「親兄弟との経済的援助関係」「無」い労働者(52%)が, 「有」る者(25%)の約2倍で, 調査資料は「出稼型論」と逆の事実を示していた. C賃金問題の基本資料は『賃金台帳』であり, 社会科学研究所は電器・造船・化学・印刷・炭鉱・土建業等の台帳を保存している. D産業構造調査No.50『京浜工業地帯企業連関調査』(1959/9)は, 高度成長期に中小企業は大企業からの「独立性」を強化したとする. しかし各中小企業売上高中の特定親企業への納入比率を計算すれば異なる結論となろう.
著者
角松 生史
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3/4, pp.139-159, 2010-03-10

都市空間は, 「多数の人々の諸活動と居住と生活の『場』」であるにもかかわらず, その法的理解にあっては, 被規制者の財産権と「公益」的規制という二面的な関係が視野の中心に置かれている. これに対して都市計画を「当該地域の空間形成に関する権限と利害についての, 地権者相互, あるいは地権者と非地権者住民との間における, 調整・分配ルール」とみなす立場からは, 被規制地権者以外の当該空間に対するステークホルダーの利害をどのように法的に構成し, 実体法的・訴訟法的にどのような位置づけを与えるかが, 理論的課題となってくる. 本稿は, 上のような問題意識を念頭に置きつつ, 行政事件訴訟法10条1項の主張制限「自己の法律上の利益に関係のない違法」に関する解釈論を分析したものである. 同条については, 行政処分の名宛人と第三者とを区別し, 前者は公益に関わる要件も主張できるが, 後者は個別的利益を保護し原告適格の基礎となる根拠規定違反に限り主張できるとする立場が裁判例上有力である. 他方, 近時の学説は, 名宛人-第三者のかかる二元論を相対化し, 第三者に対しても, 「公益上の理由による受忍」という構成をとることが可能な場合があることを指摘する. 都市空間に関わるステークホルダーの立場を法的に構成していく上で, この発想は有益である.