著者
名武 なつ紀
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:3873307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3/4, pp.81-99, 2007-03-09

本稿の課題は, 不動産業の基礎的条件である土地所有構造を, 高度成長期の大阪都心部を事例に明らかにすることである.この点の解明については, その重要性が認識されつつも, 資料的制約から研究蓄積が乏しかった.本稿では1955年と1975年の土地台帳と土地登記簿の悉皆調査を試みることで, 分析をすすめる.その結果, 高度成長期の前半においては, 大企業による土地集中が進行したが, 後半に至って, 大阪都心部の土地取引が沈静化したことが明らかとなる.この土地所有構造固定化の要因を, 都市の高層化に伴う土地の需要者と供給者の条件変化から浮き彫りにする.
著者
高橋 正樹
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社会科学研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.59-74, 2003
被引用文献数
2

人の意識や行動様式を規定するのは,属性や置かれた環境だけではなく,個々人の出来事の経験とその積み重ねとしての人生経験である.しかし,量的な調査において,ライフヒストリーに代表される質的調査が主導してきたこうした視点を欠きがちであった.本論文では,量的な手法を活かしつつ,この人生経験をとらえる手法としてライフイベント研究をとりあげた.個々の出来事経験はモノのように記憶の中で出し入れされたりするような固定されたものではなく,記憶化される中で変容していく動的な特徴をもつ.自伝的記憶のこうした特徴を,その形成過程にまで視野を広げて実際の調査データを基に考察した.分析において,より影響力の強い出来事経験と出来事経験への感度という視点を提起し,自伝的記憶形成モデルとして,職業・仕事を軸としたモデルと(男性に多い),家族の出来事への配慮を軸としたモデル(女性に多い)をとらえた.
著者
井上 彰
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社会科学研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.7-28, 2013

本稿は、1971年に公刊されたロールズ『正義論』のなかであまり注目されてこなかった第3部の議論が、『正義論』全体でいかに重要な役割を果たしているかについて、その批判的検討を通じて明らかにするものである。第3部でロールズは、善の理論と正義感覚についての議論を、経済学と心理学という20世紀後半に著しい発展をみせた経験科学的知見に基づいて展開した。その点に注目して本稿では、ロールズの契約論が『正義論』全体で反照的均衡の方法が展開されているとする解釈に基づいて、その方法論的特徴と第3部の記述的説明に軸足を置いた議論が切り離せないことを確認する。そしてその観点から、第3部で展開される善の理論と正義感覚についての道徳心理学に基づく議論をそれぞれ批判的に吟味し、両者ともに反照的均衡の方法から逸脱していることを明らかにする。結論的には『正義論』の目論見は失敗に終わっていると言わざるを得ないのだが、最近の経験的道徳心理学の進展は、『正義論』で展開された契約論的正義論の再検討・再構築に対し示唆的な一面をもっている。特集 社会科学における「善」と「正義」
著者
塙 武郎
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社会科学研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.163-184, 2008

本稿は,ニューヨーク市(以下,市教育局)を事例としてアメリカの初等中等教育の財政構造と特質について「州・地方財政」の視点から検討する.初等中等教育行政に専門特化する学校区は,財政面で州から独立性をもつ地方政府であり,地方財産税の自主管理により教育費を賄っている.市教育局の場合,市の行政組織の一部であるため,教員給与や学校施設費等の経常的経費(一般基金)だけを主に管理し,その一般基金には市の自主財源と州運営費交付金(Flex Aid)が投入されている.州運営費交付金は,学校区の「財政力指数」(CWR)を用いて算定・配分され学校区間の所得再分配を担っている.教育財政の特質を象徴する同補助金は,第1に財源格差の「平準化」ではなく,「縮小」を目的とし,第2に貧困学校区には手厚いが,富裕学校区にも少額ながら配分することによって州・地方政府間の公平なパートナーシップを図り,第3に富裕学校区から余剰財源を削ぎ取って貧困学校区に分配するものではないと論じる.
著者
玄田 有史
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社会科学研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.1-19, 2008

希望を有する個人や世帯の特徴は,その実現見通しや内容などの類型により異なっている.プロビットモデルの推定結果によれば,実現見通しのある希望及び仕事に関する希望を有する確率が高いのは,20代から30代の若年層,高校から高等教育機関への進学経験者,健康状態が良好な場合であった.また本人年収が300万円未満の場合,実現見通しのある希望を持ちにくく,無収入者は仕事の希望を有しない傾向が強くなっていた.さらに年収1,000万円以上の高所得世帯に属する個人ほど実現見通しのある希望を有する確率は高く,年収300万円未満の世帯では,見通しのない希望を持っていたり,希望について否定的な考えを有することも多かった.以上の分析を通じて,日本社会において近年,希望の喪失感が広がってきていたとすれば,その社会的背景として,人口分布の高齢シフト,無業者・低所得者の増加,高所得世帯の減少,健康状況の悪化,進学率の停滞等が影響していた可能性があることを示した.
著者
塩川 伸明
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社会科学研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.25-49, 2016

特集 ケインズとその時代を読むⅡ
著者
クレーマ ハンス・マーティン 楠 綾子
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.150-170, 2007-12-17

本稿は,1948年から1950年にかけて行われた「共産主義的」大学教員の追放(レッド・パージ)を,いわゆる占領政策の「逆コース」の一例として検討する.本稿は,レッド・パージは,米国の対日政策の変化によるものではなく,むしろ日本主導で行われたと考える.反共主義は1946年以降,教育行政の思想においては不可欠の要素であった.しかしながら,反共主義が処罰的行動へと直結したわけではない.政治色よりも大学での地位の低さといった要素が個人の追放の決定要因になったことは,追放が単に上からの命令によるものではなかったことを示唆している.本稿は,旧制弘前高校の哲学講師と京都府立医科大学の解剖学教授のふたつの追放の事例からこれを証明するものである.「逆コース」を従来の研究のようにとらえれば,日米それぞれの担当者が占領政策にいかなる貢献をしたのかが見落とされることになる.占領政策の形成に日本がいかなる役割を果たしたのかを明らかにするためには,中堅,下層レベルの行動を考慮に入れて占領期の正確な実像を描く必要がある.
著者
宇野 重規
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:21894256)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.89-108, 2013-03-26

本稿は、「リベラル・コミュニタリアン論争」の歴史的再評価を行うものである。サンデルをはじめとするコミュニタリアンは、ロールズに対し「負荷なき自我」の概念をもって批判を加え、これに対しロールズも一定の譲歩を行ったとされる。しかしながら、その後もサンデルは、選択の自由を自己目的化することは、有徳な市民の涵養に対して否定的な効果をもつだけでなく、さらにリベラリズムの精神的基盤そのものを掘り崩すとして、ロールズへの批判を続けた。本稿はこのようなサンデルの批判を分析する一方で、はたしてそのような批判がロールズの『正義論』の本質を捉えたものであるかを再検討する。デモクラシーを自己制御するための原理を、超越的な理念に頼ることなく、あくまで多様な個人を抱えるデモクラシー社会の内的な「均衡」によって導こうとするロールズの理論的意義は、サンデルらの批判によっても否定しえないというのが本稿の結論である。特集 社会科学における「善」と「正義」
著者
田中 亘
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.3-31, 2011

本稿は, 契約違反の際に適用される法のルールについて, 強制履行を認めるルール(強制履行ルール)と, 履行利益の賠償しか認めないルール(履行利益の賠償ルール)との比較を中心に検討する. とりわけ, 裁判所による損害の算定が容易でない一方, 契約の当事者間の再交渉が容易であるときは, 強制履行ルールが利点を持ちうることを明らかにする. また, 当事者がリスク回避的なときは, 契約違反がどういう原因で行われるか(損失を避けるために契約違反をするのか, 利益を得るために契約違反をするのか)も, ルールの評価にとって重要であることを指摘する. 以上の検討を踏まえ, 本稿は, 契約違反に関する日本法の分析・評価も行う. 日本法は, 強制履行を原則として認める法体系であるが, 本稿は, これが一定の状況下では合理性を持ちうることを明らかにするとともに, 強制履行ルールの欠点であると通常考えられている問題についても, 日本法は一定の対処を行っていることを指摘する.
著者
森 大輔
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.110-130, 2020-06-11

本稿では,(1)一般人は民事裁判にどれくらいの時間がかかると予想しているのか,(2)民事裁判では実際にはどれくらいの時間がかかるのか,(3)民事裁判の時間の長さに影響を与える要因としてどのようなものがあるかについて,一般人に対するインターネット調査と訴訟記録調査のデータを用いて考える.次のことがわかった.(1)人々は,裁判に平均して1年2ヶ月前後はかかると思っている.(2)平均値で見た場合,一審の長さは2004年で約7.7ヶ月(控訴審や上告審も含めると約8.3ヶ月),2014年で約8.1ヶ月である.(3)民事裁判の時間が長くなる要因として,原告人数が多いこと,原被の双方に弁護士がついていること,口頭弁論の併合があること,訴額が多いこと,裁判の結果が請求一部認容や和解であること,事件の種類が請負,債務不存在確認,契約損害賠償や交通事故損害賠償以外のその他の損害賠償であることなどが挙げられる.民事裁判にかかる時間自体を短くすることは重要だが,一般人の裁判のイメージを変えることも重要であると思われる.特集 民事訴訟の実証分析 ―全国訴訟記録調査から―
著者
米澤 旦
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.117-134, 2014-05-08

本論文の目的は、福井県における社会的包摂の実践を事例から示すことにある。この課題に取り組むために、近年、社会政策領域で注目されている障害者就労支援領域での労働統合型社会的企業の活動に注目し、福井県の代表的事例の活動を分析する。障害者就労は社会的包摂と密接に関連するが、福井県は障害者就労について高い成果を示しており、その一因として、就労継続支援事業の充実がある。福井県において最大規模の知的障害者の就労支援継続支援事業を運営する「コミュニティネットワークふくい」を対象に、当該団体の社会的包摂の理念と活動について分析する。ヒアリングや文書資料をもとにした分析から、企業の論理を巧みに導入しながら、能力開発を中心に生産活動への包摂に取り組んでいること、しかし、同時に家族の論理との間で葛藤を抱えることが明らかにされた。そして本例の検討を通じて、労働統合型社会的企業の研究に対する含意を提示する。
著者
篠原 敏雄
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.45-80, 2009

本論文は, 我が国の基礎法学における重要な理論的潮流である「市民法学」の観点から, 「市民」像および「市民社会」像に関して, 従来の論点を一層理論的に考察することを目的とする.第一章においては, 「市民法学」における「市民」像を, 個人と共同体との関連に関する三つの類型に即して, 明らかにする. そして, 現代では, 第三番目の類型こそ, 「市民法学」における「市民」像に適合的であるということを論ずる. 第二章においては, 「市民法学」における「市民社会」像を, 第一に, 平田清明市民社会論, 第二に, へーゲル市民社会論, 第三に, 市民法学としての川村泰啓法学, に即して検討し, 市民社会論の持つ法律学的射程の広大な領野の在りようを考察する.Das Ziel dieses Aufsatzes ist die Erklärung der grundrechtswissenschaftliche Bedeutung über das Bild von "Bürger" und "die bürgerliche Gesellschaft" in der theoretischen Rechtswissenschaft. Im ersten Kapitel erklärt dieser Aufsatz die rechtsphilosophische Bedeutung über das Bild von "Bürger". Hier handelt es sich um die Beziehung zwischen das Individuum und Gemeinwesen. Diese Beziehung ist sehr wichtig für unsere theoretische Rechtswissenschaft. Im zweiten Kapitel erörtern wir erstens die Theorie über die bürgerliche Gesellschaft von HIRATA Kiyoaki, zweitens die Hegelsche bürgerliche Gesellschaft, und drittens die Rechtswissenschaft von KAWAMURA Yasuhiro.
著者
有田 伸
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3-4, pp.77-97, 2011-03-15

非正規雇用という概念の具体的な意味内容は, 社会によって大きく異なり得る. 本稿は, 韓国社会にこの概念がどのように適用され, 何が「非正規雇用」とされてきたのかを現実の雇用構造と照らし合わせながら検討することで, 韓国労働市場における「格差」の性格を明らかにしていく. 韓国においてこれまで非正規雇用として読み替えられることが多かった経済活動人口調査の臨時・日雇カテゴリーは, 確かに労働市場における雇用の安定性や報酬等の格差をすくいとっているが, 分類基準の「土着化」故に, これらの格差は韓国に根強く存在する企業規模間格差の反映ともなってしまっている. これらを考慮すれば, 韓国では正規/非正規雇用の区分が日本ほどには自明でなく, その影響もそこまで独立的なものではない可能性が高い. 以上の韓国の事例と比較すると, 日本の非正規雇用は自明性/標準性と独立性が強く, それが非正規雇用の認識・分析枠組にも影響を及ぼしているという点で特徴的といえる.
著者
橘川 武郎
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社会科学研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.3-12, 2007

これまで日本の不動産業に関する史的研究が十分な成果をあげてこなかったのは, (1)不動産は非常に差別化された財であるため, 不動産価格の動向を把握することが困難である, (2)不動産業の分析に当たっては, 多様な要因を考慮に入れなければならない, (3)不動産業の担い手の実態を総合的に把握することは難しい, などの理由による.本稿では, これらの難題に挑戦した最新の研究成果である『日本不動産業史 : 産業形成からポストバブル期まで』(仮題, 編者 : 粕谷誠・橘川武郎, 名古屋大学出版会から近刊予定)の内容を紹介し, 日本不動産業がこれまで歩んできた軌跡とこれから進むべき方向性を概観する.今日, 日本の不動産業は, 「資産効果経営」(地価上昇に依存した経営)から脱却し, 実需に立脚した本来の経営に回帰するという, 歴史的な転換点に立たされている.ここで言う本来の機能とは, 不動産に関する開発機能と取引費用削減機能という, 明治期以来不動産業が発揮してきた, 二つの固有機能のことである.このような本来の姿に立ち返ることなくして, 日本不動産業の未来は, 切りひらけないであろう.
著者
宇野 重規
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3-4, pp.153-172, 2011-03-15

本稿は「労働」と「格差」について, 政治哲学の立場からアプローチする. 現代社会において, 労働は生産力のみならず社会的なきずなをもたらし, さらに人々に自己実現の機会を与えている. 対するに格差は, 社会の構成員の間に不平等感や不公正感を生み出すことで, 社会の分断をもたらす危険性をもつ. このように労働と格差は, 正負の意味で政治哲学の重要なテーマであるが, これまでの政治哲学は必ずしも積極的に向き合ってこなかった. その理由を政治思想の歴史に探ると同時に, 現代において労働と格差の問題を積極的に論じている三人の政治哲学者の議論を比較する. この場合, メーダが, 政治哲学と経済学的思考を峻別するのに対し, ロールズは, ある程度, 経済学的思考も取り入れつつ, 独自の政治哲学を構想する. また, 現代社会が大きく労働に依存している現状に対しメーダが批判的であるのと比べ, ネグリのように, あくまで労働の場を通じて社会の変革を目指す政治哲学もある. 三者の比較の上に, 新たな労働と格差の政治哲学を展望する.
著者
Noble Gregory W.
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.51-76, 2011

Japan lacks political leadership and wallows in pork, critics charge, yet from the late 1990s Japanese leaders exercised surprising restraint over aggregate spending, and reoriented budgetary expenditures from distributive outlays such as public works toward social welfare and other forms of programmatic spending. The departure from particularism reflected not only commonly-cited electoral and bureaucratic reforms strengthening the hand of the prime minister, but also the efforts of senior LDP policy experts such as fiscal hawk Yosano Kaoru and rising tide advocate Nakagawa Hidenao to combine with sections of the bureaucracy, particularly officials seconded to the cabinet from the Ministry of Finance and METI. to overcome factional and backbench resistance and restrain expenditures. LDP leaders eventually reached a consensus on the need to increase taxes, but failure to convince the public contributed to the LDP's downfall
著者
木崎 翠
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 = The journal of social science : 東京大学社会科学研究所紀要 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.11-34, 2012

中国政府は現在、国内消費拡大による経済成長牽引を政策課題としており、とりわけ低所得層の所得水準底上げが重点課題とされている。そしてその主要な手段の一つが、賃金をはじめとする従業員報酬内容に対する政策的介入である。本稿では現段階の中国におけるそのような政策に関し、最低賃金制度を主な対象に制度内容と政策効果について考察を行う。報酬水準の底上げを狙う現在の政策は、指令経済期に淵源を持つ労働者保護的な政策傾向とともに雇用者の負担増を加速しつつあり、労働力供給・外需の急速な変化にも同時に直面している産業に厳しい課題を与える結果となっている。The Chinese government now considers raising the income level of low-income population as one of its top priority issues. And intervention to employee reward such as wage is used one of their main policy tools. In this paper, contents and effects of the minimum wage system and other policy instruments in China are considered. Those policies along with some kinds of labor protecting policy derived from command economy system in the past are expected to increase the burden of employers, and may give problems to the industry which at the same time is confronting worsening labor force supply and external demand.特集 東アジアの福祉システム : 所得保障と雇用保障
著者
中村 かれん
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3-4, pp.184-205, 2006-03-28 (Released:2017-06-08)

日本の聴覚障害者を代表する団体は,政府の利益を推進するよう設計された法的環境のなかで単に活動しているというだけでなく,さらに進んで,システムを自己の利益のために操作することにも成功している.この団体は,政治権力による統制を避けるために,団体をアメーバのように細分化し,団体構造の柔軟性を保ってきた.本論文は,日本の市民社会構造の中での政治権力とそれに対する抵抗の問題を取り上げる. The main organization of the deaf in japan has not only been able to work within a civil law environment designed largely to promote the interests of the state and quell social protest, but has been able to succeed in manipulating the system to its own benefit It has shown remarkable organizational flexibility by subdividing in an amoeba-like fashion to avoid political control. This paper engages questions of power and resistance in the civi society framework of japan.