著者
井口 正人
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.145-154, 2007 (Released:2010-06-25)
参考文献数
36
被引用文献数
2

桜島火山は姶良カルデラの南端に位置する後カルデラ火山である。これまで,火山爆発を予測するために多くの観測がなされており,それに伴い火山の構造,特にマグマ供給システムの構造が明らかになってきた。1914年の大正噴火に伴う顕著な地盤の沈降,1955年以降の山頂噴火に伴う地盤の隆起と沈降,1993年以降の再隆起を引き起こした圧力源は,姶良カルデラの下深さ10km付近に求められており,桜島の主マグマ溜りは姶良カルデラの下にあると考えられる。桜島における地盤の上下変動の詳細な測定から現在活動中の南岳の直下にも圧力源が推定されることから南岳直下にも小さいマグマ溜りがあると考えられる。爆発の数分から数時間前に捉えられる桜島の地盤の隆起・膨張を示す傾斜ベクトルの方向は南岳の火口方向を示すこと,南岳の直下を通過する地震波は,異常のない部分にくらべて 1/10以下と著しく減衰し,その減衰域は南岳直下の半径1km程度の領域に限られることからも桜島南岳直下のマグマ溜りの存在を確認できる。また,ガスの膨張・収縮によって発生するB型地震・爆発地震の震源が火口直下において鉛直方向に分布することはマグマ溜りと火口をつなぐ火道の存在を示す。2003年には南南西部においてA型地震が多発したが,地盤変動の特徴から見ると南南西側からマグマが直接上昇したと考えるよりも,姶良カルデラ下のマグマ溜りの膨張に伴うその周辺での歪の開放あるいは,桜島直下および南南西へのダイク状のマグマの貫入過程でA型地震が発生したと考えるほうがよい。このことを確かめるためには人工地震探査を行い,地震波速度,減衰,散乱・反射の状態から姶良カルデラ下のマグマ溜りと南岳直下のマグマ溜りをつなぐマグマの通路を調べる必要がある。
著者
本荘 千枝 浦 環 玉木 賢策 永橋 賢司 柴崎 洋志 細井 義孝
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.427-435, 2010 (Released:2016-04-15)
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

2008年3月および10月に,伊豆・小笠原弧の背弧リフト東縁部に位置するベヨネーズ海丘カルデラにおいて東京大学生産技術研究所が開発したAUV(Autonomous Underwater Vehicle: 自律型海中ロボット)r2D4 による潜航調査が行われた。本研究では,カルデラ北部と南東部における2潜航で得られた地磁気データを用い,磁気インバージョンにより海底の磁化強度分布を明らかにした。その結果,カルデラ底北縁部とカルデラ壁南東部にそれぞれ磁化の強い箇所があることが判った。これらの高磁化域は,ベヨネーズ海丘の南北に延びる玄武岩質の海丘列とほぼ同じ線上にあることから,この海丘列の火山活動による玄武岩質の貫入岩であり,ベヨネーズ海丘の厚い地殻に阻まれて海底噴出には至らなかったものであることが推察される。また,この高磁化域のひとつはカルデラ床南東縁辺部にある白嶺鉱床に隣接しており,白嶺鉱床を形成した熱水活動の原動力がこの玄武岩質マグマの貫入であった可能性を示唆する。磁化強度分布と熱水鉱床との関係については,熱水循環に伴う変成作用で岩石が磁化を失い,鉱床周辺が低磁化域となることが指摘されているが,本研究域内にある白嶺鉱床は特に明らかな低磁化域を伴っているようには見えない。これは,ベヨネーズ海丘がそもそも強い磁化を持たないデイサイト質の溶岩と砕屑物から成るため,磁化を失った玄武岩などが存在しても周囲の岩石と見分けがつきにくいためであろう。熱水活動による消磁という効果を考慮すると,高磁化域として見えているのは,鉱床からある程度距離があり変成作用を受けなかった部分だけで,実際の貫入岩体の広がりは白嶺鉱床下まで及んでいることも考えられる。本研究で得られた磁化強度分布の解像度は,データ自体の解像度ではなく,解析過程で施される短波長成分を除くフィルターに規定されている。海上観測から深海観測へと重点が移りつつある海洋地磁気研究において,高解像度のデータを最大限に生かせる解析方法の確立こそが緊急の課題である。
著者
堀内 茂木 上村 彩 中村 洋光 山本 俊六 呉 長江
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.399-406, 2007

緊急地震速報は,大きな揺れが到着する前に,震源とマグニチュードを配信し,地震災害の軽減を目指すものである。我々は,緊急地震速報を実用化させることを目的として,防災科学技術研究所のHi-net他約800点のリアルタイム地震観測データを利用して,P波が観測されてから数秒間で信頼性の高い震源を決定するシステムの開発を行った。このシステムは,P波到着時刻の他に,P波が到着してないという情報を不等式で表すことにより震源決定を行っている。この手法の利点は,到着時刻データの中にノイズや別の地震のデータが混入した場合,残差の小さい解が存在しなくなり,ノイズ等の混入を自動的に検出できる点である。本研究では,ノイズ等のデータが混入した場合,それを自動的に除去するアルゴリズムを開発した。また,2個の地震が同時に発生する場合の解析手法を開発した。その結果,99%の地震について,ほぼ正確な情報が即時的に決定できるようになった。このシステムは,気象庁にインストールされ,緊急地震速報配信の一部に利用されている。現在の緊急地震速報には,約30km以内の直下型地震に対応できない,震度推定の精度が低いという課題があるが,地震計を組み込んだ緊急地震速報受信装置(ホームサイスモメータ)が普及すると,これらの課題が一挙に解決されると思われる。<br>
著者
坂井 公俊 盛川 仁
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.331-338, 2005 (Released:2007-11-02)
参考文献数
25
被引用文献数
2 1

It is important to understand the detailed 3-D subsurface structure to estimate the strong ground motions. For this purpose, we will confirm the usability of the gravity survey and propose a process from modeling the ground structure to estimate of the strong ground motions.The gravity survey has been carried out to estimate the 3-D subsurface structure around the damaged area due to the 1909 Anegawa earthquake. Steep slopes of the bedrock are located around the severely damaged area. On the basis of the estimated 3-D subsurface structure, the strong motions are numerically simulated by using the finite-difference method (FDM). From the results of the simulations, it is shown that the peak ground velocity correspond to the collapse ratio of the wooden structures except for some cases.
著者
古村 孝志 中村 操
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.337-351, 2006 (Released:2008-08-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1 4

1944年東南海地震(Mw8.1)において,関東平野で強く生成した長周期地震動の特性を詳しく調査するために,東金,大手町,そして横浜地点に設置されていた今村式 2 倍強震計と中央気象台式 1 倍強震計の波形記録の解析を行った。煤書き記録を読み取り,地震計の計器特性を補正することにより,3 地点の強震波形を得た。確認のために,2004年紀伊半島南東沖の地震(Mw7.4)で観測された 3 地点の強震記録から経験的グリーン関数法を用いて合成した東南海地震のフーリエスペクトルとの比較を行い,周期 2 秒以上の長周期地震動の振幅レベルがよく一致することを確認した。  復元された東南海地震の強震波形から,関東平野では周期 7~12秒の長周期地震動が,最大 10 cm の大きさで10分間以上にわたって長く続いたことが明らかになった。速度応答スペクトル(減衰 5%)を求めると,東金と横浜では固有周期12秒においてそれぞれ最大 60 cm/s と 30 cm/s の応答が,そして大手町では固有周期 9 秒において 25 cm/s の強い応答が得られた。この応答レベルは2004年紀伊半島南東沖(Mw7.4)の 2-2.5倍の大きさになることがわかった。
著者
高野 忠 牧謙 一郎 相馬 央令子 千葉 茂生 前田 崇 藤原 顕 吉田 真吾
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.561-573, 2006 (Released:2010-06-18)
参考文献数
40

超高速な衝突や静的な圧力で物質を破壊する時,マイクロ波が発生することが見出された。本論文では,この現象を観測するための実験系,得られた内容・事実,そして物理探査に応用する可能性について述べる。この分野は多くの読者にこれまで余りなじみがないと思われ,かつ瞬発マイクロ波の受信・計測という特殊な技術を用いるので,全体的な記述に重きを置き詳細は省く。受信系では、まずマイクロ波信号を低雑音増幅器で増幅した後,観測する周波数にたいし十分高い標本化周波数でディジタル化して,データを取り込む。観測周波数としては,22GHz,2GHz,300MHz,1MHzを選んだ。データが多すぎて蓄積容量が足りない時は(22GHzと2GHz),ヘテロダイン受信で周波数を落としてからデータとする。 衝突実験における速度は最高約7km/secである。衝突標的の材料はアルミニウム,鉄などの金属,セラミック,煉瓦,ゴムなどを用いた。静的な圧力での破壊実験には,4種の岩石をコンプレッサで加圧した。得られたマイクロ波は,いずれの破壊モード・材料においても,断続的な極めて狭いパルス状である。岩石の静的圧力での破壊では,22GHzは硅石でのみ観測された。このようにして得られた波形は,パルス内でほぼ正弦波状なので,受信系を通して電力校正が可能である。その結果平均発生電力は2GHzにおいて,超高速衝突の実験で 2.7×10-5mW,静的圧力の実験で2.7×10-8mWであった。マイクロ波発生原因として原子あるいは分子間の結合が切れることが推定されるが,未だ確定するには至っていない。本現象は,次のような分野の物理探査に応用することを考えている。 (1)物質の性質探求:天体衝突現象,材料科学,宇宙デブリ問題 (2)地下構造の変動:岩石の破壊 (3)地震の探査