著者
古村 孝志 竹内 宏之
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.116, no.3-4, pp.431-450, 2007-08-25 (Released:2009-11-12)
参考文献数
48
被引用文献数
5 6

The Tokyo metropolitan area is known to have been struck by large earthquakes due to the subduction of the Philippine Sea Plate and the Pacific Plate beneath the North American plate. Recent damaging earthquakes that occurred beneath Tokyo include the 1855 Ansei Edo earthquake, the 1894 Meiji Tokyo earthquake, and the 1923 Kanto earthquake. Whereas the Kanto earthquake is known to have occurred at the top of the subducting Philippine Sea Plate, the other events are considered to have occurred in Tokyo bay, but their source depths are unknown. Many researchers have attempted to determine the source mechanisms of these earthquakes through analyses of patterns of seismic intensity distribution in the Kanto area, but the intensity pattern at the center of Tokyo would be considerably affected by the site amplification effect of the shallow, localized structure rather than be related directly to the source itself. In the present paper, we summarize the characteristics of strong ground motions and damage caused by the earthquakes. We then compare the pattern of intensities on local and regional scales with those of recent earthquakes occurring in Tokyo and corresponding computer simulations using heterogeneous crust and upper-mantle structure models below Tokyo to find referable source models for the Ansei Edo and Meiji Tokyo earthquakes.
著者
古村 孝志
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.123, no.4, pp.434-450, 2014-08-25 (Released:2014-09-01)
参考文献数
28
被引用文献数
2 9

In the Kanto basin, long-period (T = 6-8s) ground motions develop during large (M > 7) earthquakes due to the resonance of surface waves with thick (> 3000m) sedimentary layers covering rigid bedrock. Such long-period ground motions can cause significant damage to modern large-scale, long natural-period structures such as skyscrapers, oil storage tanks, and long bridges. Therefore, it is important that residents of modern Tokyo metropolitan area cities be forewarned about the potential for such disasters. In the present paper, the development of large and long-duration, long-period ground motions in central Tokyo is investigated by analyzing waveform data from recent large earthquakes obtained from dense seismic networks extending over the Kanto basin. It is demonstrated that the interaction of surface waves with the three-dimensional sedimentary structure beneath the Kanto region causes peculiar and directional dependencies related to the amplification strength of the long-period ground motions. For example, the long-period ground motions resulting from earthquakes occurring in northern Japan cannot develop efficiently in central Tokyo. This might be one reason for the relatively weak long-period ground motions observed in central Tokyo during the 2011 Off Tohoku M 9.0 earthquake compared to those of other M 7-8 class events, such as the 1944 Tonankai (M 7.9) and the 2003 Off Tokachi (M 8.0) earthquakes. The results of computer simulations using detailed subsurface structures and source-slip models for an anticipated Nankai Trough M 8.7 earthquake indicates that the strength of long-period ground motions in central Tokyo can be expected to be at least double than those observed during the 2011 Off Tohoku earthquake.
著者
原田 智也 西山 昭仁 佐竹 健治 古村 孝志
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

慶長十六年十月二十八日(1611年12月2日)の三陸地震(以下,「慶長三陸地震」)は,地震動による被害の記録は未発見だが,東北地方・北海道の太平洋岸で津波による犠牲者が多数出たと記録されている.この特徴が,1896年明治三陸地震(M8.1)や1933年昭和三陸地震(M8.1)の特徴と似ていることから,慶長地震は,これらと同タイプの地震であったと考えられてきた(羽鳥,1975;相田,1977;渡辺,1998).ところが,2011年東北地方太平洋沖地震(M9.0;以下,「東北地震」)の発生後,慶長三陸地震による津波が,東北地震による津波と同様に広域的に高かったと判断し(例えば,蝦名,2014;岩本,2013),この津波を再現するためには,東北地震と同規模の断層面を持つプレート間地震(Mw8.4〜8.7)(今井・他,2015),あるいは,Mw9.0の津波地震(福原・谷岡,2017)を考える必要があることを,津波シミュレーションに基づき議論している.この判断は,三陸地方や仙台平野に伝わる津波の伝説や伝承を含む歴史記録に基づく津波高や浸水範囲(例えば,羽鳥,1975;都司・他,2011;蝦名・今井,2014)の推定が,東北地震と同等以上であることを主な根拠としている.しかし,津波高や浸水域の推定方法,推定に使われた歴史記録の信頼性について十分な検討が行われたとは言い難く,歴史研究者からも疑問が呈されている(例えば,菅野,2014;佐々木,2014;斎野,2017). そこで本研究では,同時代史料による慶長地震の特徴と東北地震を比較することにより,慶長三陸地震の震源像を考察した. 東北地震の発生時,東京は震度5弱〜5強の強い揺れに長時間見舞われ,本震後24時間以内の有感地震は200回を越えた(気象庁震度データベースによる).さらに,長野県北部でMw6.7,静岡県東部でMw6.4の誘発地震が発生し,被害も出た.よって,慶長三陸地震が東北地震と同規模のプレート間地震であれば,江戸では長時間の強い揺れとそれに伴う大被害,さらに,数日以上にわたる余震・誘発地震による揺れが記録されている可能性がある.実際に,寛政五年一月七日(1793年2月17日)の宮城県沖の地震(M8.0〜8.4)では,江戸で小被害と地震後2日間で約50回の有感地震が記録されている(宇佐美・他,2013). 慶長三陸地震発生時の江戸には,京都の公家の山科言緒と舟橋秀賢が滞在しており,それぞれ,『言緒卿記』に「(廿八日)辰刻大地振,(廿九日)至夜地動」,『慶長日件録』に「(廿八日)午刻地震,(廿九日)丑刻地動」と記している.本震の震度は3程度と推定され,長時間揺れたという記述はない.また,余震によると思われる揺れは,本震翌日の“地動”が1回記録されているのみである.さらに,両日記には,地震翌日に武蔵野見物に行った様子が記されており,有感地震が続発した状況はみられない.『駿府記』によれば,徳川家康は十月廿六日以降に現埼玉県内で何事もなく鷹狩りを挙行している.また,東北地震後のような誘発被害地震の記録もない.したがって,関東において,本震の揺れが弱く,活発な余震活動や誘発地震の記録がない慶長三陸地震が,東北地震と同規模の断層面を持つプレート間地震であったとは考え難い. 斎野(2017)によれば,仙台平野の考古遺跡からは,岩沼市の高大瀬遺跡を除いてこの地震によると考えられる津波堆積物は確認されていない.また,岩手県宮古市の沼の浜,福島県南相馬市の井田川低地においても確認されておらず(Goto et al. 2019; Kusumoto et al. 2018),慶長三陸地震の津波の規模は東北地震より小さかった可能性が高い. 以上より,この地震は,三陸海岸で10m以上の高い津波を発生させたが,東京において本震の揺れが弱く,余震もほぼ感じられなかった明治三陸地震か昭和三陸地震と同タイプの地震であった可能性が高い. なお,後世に成立した史料や成立年不明の史料の中には,慶長三陸地震の5年後の元和二年(1616年)十月廿八日に地震と津波があったことを示す史料が含まれる.例えば,『大槌古館由来記』では「元和二年丙辰年大津波,其日十月廿八日八日市日ニて,朝よりゆり出度々地震仕候,」の記述がある. 元和二年には,七月廿八日に仙台城の石垣・櫓に大被害を与えた大地震が記録されており,(『伊達治家記録』),時刻は異なるが江戸における長時間の地震の揺れの記述もある(『イギリス商館長日記』).商館長日記には,翌日にも江戸で2,3回の地震があったと記述されている.したがって,『大槌古館由来記』のような史料では,慶長三陸地震と元和二年の大地震とが混同されている可能性がある.今後,慶長三陸地震の地震像を考えるに当たり,元和二年の大地震を含めた検討が必要である.
著者
原田 智也 西山 昭仁 佐竹 健治 古村 孝志
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

京都・奈良の日記には,明応七年六月十一日(ユリウス暦1498年6月30日)の申の刻(午後3〜5時)に“大地震”と記録されている.また,江戸時代に編纂された史料では,鹿児島県から山梨県にかけて大地震が記録されている.特に,江戸時代初期に書かれた『九州軍記』という軍記物語には(以下,“軍記”と呼ぶ),九州地方における,この地震による大被害が記述されている(ただし,地震の発生時刻は,巳の刻(午前10〜12時)と書かれている).軍記は,明応七年六月十一日の地震から100年以上後に書かれた文学作品であるにもかかわらず,九州における地震被害の記述は,多くの地震学者に無批判で受け入れられ,この地震の震源を推定するための情報として重要視されてきた.宇佐美(1987)は,軍記における記述の信頼性は低いとしながらも,京都およびその以東で申の刻に記録された地震と,軍記に記述された巳の刻の地震とを別々の地震と考え,巳の刻の地震の震央を日向灘に推定した(M7.0〜7.5).ただし,震央の精度は100km程度としている.都司・上田(1997),都司(1999)は,軍記の被害記述の一部を津波の描写であるとし,また,中国上海における同日の水面動揺(宇津,1988)も同じく津波であると考え,六月十一日の地震を,同年八月廿五日(9月11日)に発生した明応東海地震に先行した南海地震であると主張した.石橋(1998,2002,2014)は,軍記の記述と上海の水面動揺を津波とする解釈には無理があることを指摘し,さらに他の史料の精査により,六月十一日の地震は南海地震でありえないとした.なお,石橋(1998,2002,2014)は,この地震が,1909年宮崎県西部の地震(M7.6)のような,九州下のスラブ内大地震である可能性もあるとしている.また,「[古代・中世]地震・噴火史料データベース(β版)」では,「14~16時頃に京都で強い地震の揺れを感じた。被害は記録されていない。三河の堀切や熊野地方の新宮も強く揺れた模様。この日午前10時頃に日向灘で大地震が起きて九州で大災害とする説があるが、根拠とする『九州軍記』の記事は疑問である。」という綱文が立てられている.以上のように,この地震の震源について議論が続いているが,この議論を解決するには,九州における地震被害の有無を検討する必要がある.そのためには,軍記における被害記述の信頼性を確かめる必要があるので,本研究では,軍記の成立過程と被害記述の検討とを行った.その結果,以下の理由により,軍記における被害記述の信頼性は非常に低いと考えられ,明応七年六月十一日の地震による九州での大被害の有無は不明,あるいは,無被害である可能性も高いことが分かった.したがって,六月十一日巳の刻の地震が日向灘の大地震であるという説は再考が必要である.(1)地震被害の記述には,具体的な地名が無く,大地震による一般的な被害の描写である印象を受ける.(2)被害記述後に,過去の大地震が列挙されているが,このことから作者が過去の大地震を調べることができたことが分かる.よって,明応七年六月十一日の地震も,年代記等から調べられた可能性がある.(3)誇張された地震発生時刻に関する記述から,この地震が巳の刻に発生したと読めるが,この時刻は,明応東海地震の発生時刻である辰の刻に近い.実際,同時代史料である『親長卿記』や『塔寺八幡宮長帳』では,明応東海地震の発生時刻を巳の刻としている.したがって,軍記の作者が,明応東海地震と六月十一日の地震を混同していた,あるいは,混同して記された史料に基づいて,六月十一日の地震を描写した可能性がある.(4)地震の記述がある章は,明応七年に終わる章と永正二年(1505年)から始まる章との間にあり,文亀三年(1503年)の大飢饉と,度重なる災害による人々の苦しみも記されている.したがって,この章は後に続く物語の舞台設定の性格が強く,地震被害も物語を盛り上げるための創作である可能性も考えられる.(5)軍記には,僧了圓による慶長十二年(1607年)四月と記された序がある.序によると,軍記は,肥前国松浦郡草野村(現福岡県久留米市)において,烏笑軒常念(文禄四年(1595年)没),草野入道玄厚によって書き継がれ,慶長六年(1601年)に完成した.また,軍記完成から約250年後の史料であるが『橘山遺事』によると,了圓も軍記の修正と補筆を行っていたようだ.よって,玄厚(と了圓)は,文禄五年(1596年)の慶長豊後地震を近くで体験していると考えられ,その体験や情報が軍記の記述に影響した可能性も考えられる.本研究は,文部科学省委託研究「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」の一環として行われた.
著者
⼤⽯ 裕介 広上 新 新出 孝政 ⽥上 直樹 古村 孝志 今村 ⽂彦
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.24, pp.23-24001, 2023 (Released:2023-12-04)
参考文献数
11

津波避難時の車使用は原則禁止されているが,東日本大震災では車避難により助かった事例もあり検討課題となっている.本研究では車避難があった場合の被災状況予測と,減災に向けた交通制御の検討を,リアルタイムの交通状況を起点に行う手法を検討した.本手法では,商用車プローブデータと道路監視カメラからの断面交通量データにより交通状況をリアルタイムにシミュレーションする.再現された交通状況を初期値とした避難車両の動きの予測を,津波浸水予測と組合せることで,車両の被災地点と台数を算出する.名古屋市臨海部への想定南海トラフ巨大地震による津波に本手法を適用し,車避難台数の増加に対する被災台数の加速度的な増加傾向を確認し,湾岸部からの交通流を優先させる信号制御や津波浸水域外からの車避難抑制による減災効果を確認した.
著者
長谷部 雅伸 大竹 健司 古村 孝志 木全 宏之 征矢 雅宏 石井 やよい 佐藤 俊明
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B2(海岸工学) (ISSN:18842399)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.I_166-I_170, 2012 (Released:2012-11-15)
参考文献数
6

To understand the characteristics of tsunami propagation in the Seto Inland Sea, tsunami simulations for the largest earthquake on the Nankai trough were conducted. In this paper, we assumed three fault models with taking into account the latest findings after the 2011 earthquake off the Pacific coast of Tohoku. For the case of large fault slip along the plate boundary region, the tsunami height around the Seto Inland Sea was about the same as the value of the conventional assumption, because the tsunami components generated by the plate boundary regions were attenuated when passing through the straits. But we confirmed that the tsunami height around the Seto Inland Sea became higher in the case of delayed rupture with appropriate time lag, or in the another case that the fault region was expanded to north.
著者
古村 孝志 武村 俊介 早川 俊彦
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地學雜誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.116, no.3, pp.576-587, 2007-08-25
参考文献数
15
被引用文献数
5 9

Large and prolonged shaking with long-period ground motions having periods of about 7 sec were observed in central Tokyo during the Off Niigata-ken Chuetsu, Japan, M6.8 earthquake on 16 July, 2007. The observed ground motions from a dense nationwide strong motion network (KNET and KiK-net) demonstrate clearly that the long-period ground motions consist of Rayleigh waves, which developed at the northern edge of the Kanto Basin and were induced by conversion from the S waves radiating from the earthquake source. The amplitude and the duration of the long-period surface waves were enhanced dramatically as they propagated in the Kanto Basin, which has a thick cover of sedimentary rocks overlaying rigid bedrock. Observed ground motions of long-period signals at the center of Tokyo from the 2007 Off Niigata-ken Chuetsu event correlated well with observations from the Chuetsu earthquake on 23 Oct. 2004 (<I>M</I> 6.8). By analyzing waveform data from the main shock and aftershocks of the 2007 Off Niigata-ken Chuetsu earthquake and the Chuetsu earthquake in 2004, it is found that the long-period surface wave having a dominant period of about 7 sec at the center of Tokyo is developed efficiently by a large earthquake with a magnitude greater than about M6.5-7, but it is not developed by small earthquakes of less than about <I>M</I>6.5.
著者
大峡 充己 古村 孝志 前田 拓人
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

本研究では、強震観測データと地震波伝播シミュレーションの同化に基づく長周期地震動の即時予測の実現に向け、データ同化手法の高速化に向けた検討を行った。これまでFurumura et al. (2019)は、K-NETとKiK-net強震観測と3次元差分法による地震波伝播シミュレーションのデータ同化に基づき、2007年新潟県中越沖地震と2011年東北地方太平洋地震における、都心の長周期地震動の即時予測実験を行った。データ同化には、震度の即時予測(Hoshiba and Aoki, 2015)や津波の即時予測(Maeda et al., 2015; Gusman et al., 2016)などで広く用いられている最適内挿法が用いられ、長周期地震動の計算は3次元地下構造モデルを用いた差分法計算により行われている。近年の高速計算機により、日本列島規模の長周期地震動のシミュレーションは、地震波(表面波の基本モード)の伝播速度の数倍以上の速度で行うことは十分可能になった。しかし、長周期地震動の予測から揺れが実際に始まるまでの十分な時間的猶予を確保するためには、コストの高い地震波伝播計算を、より高速に行うための研究開発が必要である。そこで、本研究は従来のデータ同化・予測に表面波伝播のGreen関数を活用して高速化する手法の有効性を検討した。この手法はWang et al. (2017)でGreen’s Function-Based Tsunami Data Assimilation (GFTDA)として、沖合津波計を用いた津波の高速データ同化・予測手法として提案されている。GFTDAでは、予めデータ同化地点と最終予測地点の間の津波伝播のGreen関数を計算しておき、これをデータ同化地点での観測データとシミュレーション結果との残差に畳み込み積分することで、予測地点の波形を計算する。差分法によって残差を時間発展させていく計算過程を予め計算されたGreen関数で代用するため、最終予測地点の津波波形を瞬時に求めることができる。通常のデータ同化に基づく予測手順と数学的に等価であることはWang et al. (2017)により証明されている。 本研究では、まずこの手法の長周期地震動への適用性を確かめるために、2004年紀伊半島南東沖地震(M7.4)のK-NET, KiK-net強震観測データを用いたデータ同化の数値実験を行い、K-NET新宿地点(TKY007)の長周期地震動の予測を行った。同化・予測計算はJ-SHIS地下構造モデルに対して行った。Green関数の計算を効率的に進めるために、相反定理を用いた震源と観測点を入れ替えた計算を行った。実験より、従来のデータ同化手法による予測とGreen関数を併用した本手法による予測が同一となることを確認した。本手法の活用により、震源域近傍の和歌山県〜三重県の観測データの同化後、直ちに遠地の最終予測地点の長周期地震動が得られることから、猶予時間を大幅に拡大することができる。さらに、熊野灘沖のDONET観測網を利用することで、より即時予測の精度の向上と猶予時間の確保が期待できることも確認した。 続いて、Green関数を併用した手法を用いた南海トラフ地震の長周期地震動の即時予測実験を行った。最終予測地点はKiK-net此花(OSKH02)、K-NET津島(AIC003)、新宿(TKY007)の3点である。震源モデルに内閣府(2016)の1944年東南海地震と1946年南海地震、そして想定最大級(M9)のものを用いた。それぞれの地震の長周期地震動は3次元差分法計算により求め、これを想定観測データとみなして実験に用いた。本実験ではK-NET, KiK-netに加え、DONET、気象庁海底ケーブル地震計、及び高知県沖〜日向灘に展開が計画されている海底津波地震観測網N-netの予想地点での想定観測データも用いた。最終予測地点の長周期地震動の強さは、水平動の速度応答スペクトルのGMRotD50 (水平2成分の波形記録を0~90°回転させたときのそれぞれの速度応答スペクトルの幾何平均のメディアンの値; Boore et al., 2006)により評価した。また、長周期地震動の継続時間の影響を評価するために、地動の累積変動量も計算した。これらの長周期地震動の予測精度は同化の経過とともに一様に高まる。例えば昭和南海地震の震源断層モデルと破壊が東側(熊野灘沖)から進行する地震シナリオでは、地震発生から70秒後の新宿地点の速度応答スペクトル(固有周期10秒)と累積変動量の予測は、大きな揺れが始まる約80秒前に実際の7割のレベルまで達成することを確認した。一方、破壊が西(足摺岬沖)から始まるシナリオでは、最終予測地点が遠い分、同等の予測精度を得る時点でより長い猶予時間(約120秒)が確保できることがわかった。しかしながら、断層破壊が都心に近づくにつれ、長周期地震動レベルが増大するため、より長時間(100秒間)の同化時間が必要であった。いずれにせよ、精度の高い予測と猶予時間の両方を確保するためには、震源域近傍での強震観測とともに、巨大地震の断層破壊の拡大に合わせてデータ同化を一定時間続け、予測を更新し続けることが必要である。
著者
古村 孝志 纐纈 一起 坂上 実 山中 佳子 高橋 正義
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.299-308, 2001-09-20 (Released:2010-03-11)
参考文献数
12

Seismic intensity at Shikine-jima during the earthquake swarm of Izu-Islands in 2000 is usually one or two ranks higher than that at neighbor island, though epicentral distances to these islands are almost similar. In order to investigate the cause of anomalous large seismic intensity, three portable strong motion instruments have been installed at the island.The spectral ratios of observed S waveforms at sedimentary stations at Shikine-jima demonstrate severe site amplification of 2 to 10 within a wide frequency range between 1 to 10Hz relative to rock site. The experiments based on a GA inversion indicate unusual subsurface structure with very low (VS=31-427m/s) and high attenuation (QS=15-148) superficial layer overlying a bedrock (VS=1000m/s, QS=200) with large contrast at the interface is a main cause of high seismic intensities.The influence of nonlinearity was also found near a coast of Shikine-jima when the ground acceleration level exceeds 300cm/s2. The nonlinear ground response yielded a considerable reduction of the ground motions, so that the observed peak accelerations during the severe earthquakes were only about 50% of that predicted by linear ground response.
著者
纐纈 一起 古村 孝志
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.97-105, 2002-10-31 (Released:2010-11-17)
参考文献数
20

The significant attenuation of seismic motion in the west of the 2001 Geiyo earthquake is inferred from strong motion distributions, observed seismograms and their spectra. Since this attenuation is identified even in the distribution of borehole motions, that is assumed to arise in a deeper part like the mantle wedge. If we assume a low-Q zone in the mantle wedge, a strong motion simulation with Qs = 20-30 can reproduce the observations. This zone may be related to dehydration of the Philippine sea plate.
著者
中島 研吾 佐藤 正樹 古村 孝志 奥田 洋司 岩下 武史 阪口 秀
雑誌
研究報告ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)
巻号頁・発行日
vol.2011-HPC-130, no.44, pp.1-9, 2011-07-20

ヘテロジニアスなアーキテクチャによる計算ノードを有するポストペタスケールシステムの処理能力を充分に引き出す科学技術アプリケーションの効率的な開発,安定な実行に資する 「自動チューニング機構を有するアプリケーション開発・実行環境:ppOpen-HPC」 を開発する.対象離散化手法を有限要素法,差分法,有限体積法,境界要素法,個別要素法に限定し,各手法の特性に基づきハードウェアに依存しない共通インタフェースを有するアプリケーション開発用ライブラリ群,耐故障機能を含む実行環境を提供する.自動チューニング技術の導入により,様々な環境下における最適化ライブラリ,耐故障機能を持つ最適化アプリケーションの自動生成を目指す.本研究は 2014 年度に東京大学情報基盤センターに導入予定の数十ペタフロップス級システムをターゲットとし,同システム上で実アプリケーションによって検証,改良し,一般に公開する.
著者
古村 孝志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

日本海下で起きる深発地震の広帯域地震波形を調査し、深さ400 km以深の地震においてS波初動部の波形が変化し、低周波数の先駆波が見られることを明らかにした。これをスラブ内部に相転移遅れにより生じた薄い、くさび形状の低速度層(MOW)によるものと考え、2010年2月12日に発生したウラジオストックの深発地震(578 km, Mw6.8)の地震波形を差分法に基づき計算し、MOWの存在を確認するとともに、その物性(低速度異常)を明確化した。スラブ深部のMOWは、周波数2-4Hzの地震波をスラブ上部に向け強く放射することで、MOWが無い場合の3倍の導波効果を生み出していることを確認した。
著者
古村 孝志 中村 操
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.337-351, 2006 (Released:2008-08-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1 4

1944年東南海地震(Mw8.1)において,関東平野で強く生成した長周期地震動の特性を詳しく調査するために,東金,大手町,そして横浜地点に設置されていた今村式 2 倍強震計と中央気象台式 1 倍強震計の波形記録の解析を行った。煤書き記録を読み取り,地震計の計器特性を補正することにより,3 地点の強震波形を得た。確認のために,2004年紀伊半島南東沖の地震(Mw7.4)で観測された 3 地点の強震記録から経験的グリーン関数法を用いて合成した東南海地震のフーリエスペクトルとの比較を行い,周期 2 秒以上の長周期地震動の振幅レベルがよく一致することを確認した。  復元された東南海地震の強震波形から,関東平野では周期 7~12秒の長周期地震動が,最大 10 cm の大きさで10分間以上にわたって長く続いたことが明らかになった。速度応答スペクトル(減衰 5%)を求めると,東金と横浜では固有周期12秒においてそれぞれ最大 60 cm/s と 30 cm/s の応答が,そして大手町では固有周期 9 秒において 25 cm/s の強い応答が得られた。この応答レベルは2004年紀伊半島南東沖(Mw7.4)の 2-2.5倍の大きさになることがわかった。