著者
橋本 修 松本 哲也
出版者
筑波大学大学院博士課程文芸・言語研究科日本語学研究室
雑誌
筑波日本語研究 (ISSN:13424793)
巻号頁・発行日
no.5, pp.1-17, 2000-08-31

現代日本語の「てしまう」が、否定形式(主として「ない」、加えて「ず」)と共起しにくいことを明らかにした。主節・従属節の区別においては、主節中の場合、特に「ない」が命題内否定として働く用例が極端に少ないことが目立つ。比較のため調査した「ている」と「ない」との共起に比べ、「てしまう」と「ない」との共起は、「てしまう」と「ている」との総用例数の違いを勘案しても、(主節においても従属節においても)かなり少ないと言える。一般に否定対極表現にくらべ肯定対極表現は数も少なく、それを対象にした研究も少ないが、本研究はある種の環境における補助動詞の一部が肯定対極表現に近い分布を持つことを示し、他の補助動詞にもこのような性格をもつもののある可能性を示した。
著者
川野 靖子
出版者
筑波大学大学院博士課程文芸・言語研究科日本語学研究室
雑誌
筑波日本語研究 (ISSN:13424793)
巻号頁・発行日
no.8, pp.39-48, 2003

状態変化動詞がサマの変化を表すのに対し、位置変化動詞は対象の位置の変化を表し、サマの変化は含意しない。そのため位置変化動詞は、状態変化動詞とは異なり、結果の副詞句をとりにくいという特徴をもつ。しかし実際には、位置変化動詞であっても、「壁に写真を大きく飾った」「山に雪が白く積もった」のように、結果の修飾関係を構成している例がみられる。本稿では、位置変化動詞が結果の修飾関係を構成するのはどのような場合か(現象の成立条件)、そしてなぜそうした現象が成立し得るのか(現象の背景)という点を中心に分析を行った。その結果、上記の現象は副詞句が存在のあり方を表す場合(ex.壁に写真を大きく飾った)と内的属性を表す場合(ex.山に雪が白く積もった)の2つに分かれること。そして、前者の場合は存在のあり方と位置変化の意味との馴染みやすさが、後者の場合は当該の文にみられる発生構文との類似性が、結果の修飾関係を可能にしていることが明らかになった。本稿の分析は、位置変化と状態変化の峻別という基本的な立場を保持したまま当該の現象が説明できることを示したものであり、変化動詞の包括的記述に寄与するものである。
著者
富樫 純一
出版者
筑波大学大学院博士課程文芸・言語研究科日本語学研究室
雑誌
筑波日本語研究 (ISSN:13424793)
巻号頁・発行日
no.5, pp.70-91, 2000-08-31

談話において、文中の要素に「ですね」という形が付加される場合がある。単なるつなぎ言葉、あるいはポライトネスの標識として位置付けられ、見過ごされがちな形式である。しかし、この非文末の「ですね」は、コーパス調査による傾向の分析では、心内の情報処理との密接な関わりが指摘できる。その観点から、非文末「ですね」の機能を次のように記述する。(a)検索処理をモニターする(b)自分のturnが非円滑に展開する(している)ことを示し、会話参与者に配慮する
著者
中沢 紀子
出版者
筑波大学大学院博士課程文芸・言語研究科日本語学研究室
雑誌
筑波日本語研究 (ISSN:13424793)
巻号頁・発行日
no.9, pp.55-68, 2004-11-30

本稿は、中世末期の日本語を反映していると言われるキリシタン資料を用いて、連体節述部のウ・ウズルがどのような条件下で現れやすいのか、その使用実態を調査したものである。調査から、連体節述部のウ・ウズルは「動詞+ウ」「動詞+ウズル」といった述部形式が多く、タリやテアルとウ・ウズルとの共起は殆どみられないことがわかる。また、この連体節の被修飾名詞には、形式名詞の出現傾向が高い。連体節述部と共起する副詞には、時間・時点を表す副詞の用例が多くみられる。これらの副詞が表す連体節の事態についてみると、時間的前後関係は主節の表す事態より後のものである。