著者
根来,龍之
出版者
経営情報学会誌編集事務局
雑誌
経営情報学会誌
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, 2007-03

本稿は、「仕組の過剰自己強化」による「成功が失敗に転じる」メカニズムについて論じる。仕組の自己強化とは、「ある経営資源」+「ある自社活動」と定義される「仕組」が事業活動の中で循環的に強化されることをいう。本稿の成果は、二つある。一つ目は、この仕組の自己強化がライバルに有利な状況特性を結果として整備してしまい、その結果、それまで順調に成長してきた企業(成功企業)がライバルにそのシェアを奪われていく場合のメカニズムを、事例分析を通じてモデル化したことである。この現象は、自己の強みとなっている仕組の強化がライバルに有利な条件(状況特性)を生みそうになっても、自社の仕組の強化ループをすぐには止めることができないことから起きてしまうものであり、「過剰」な自己強化の結果だといえる。第二の成果は、「一太郎に対するWordのシェア逆転のメカニズム」についての、新しい解釈の提示である。本稿は事例分析の対象として、日本語ワープロソフト市場における「一太郎とWordの攻防の歴史」をとりあげ、この2社間における攻防の相互関係(シェア逆転のメカニズム)を分析する。この分析を通じて、「シェアの逆転はマイクロソフト社のOSの独占力による」と広く信じられている事例が「MSの製品力とマーケティング力」によって説明できることを示した。
著者
高田,朝子
出版者
経営情報学会誌編集事務局
雑誌
経営情報学会誌
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, 2005-12

本研究は、危機対応時の現場に情報を収集し発信する機能を持つ人物が存在すると、問題解決に資することを、地下鉄サリン事件に対応した聖路加国際病院の事例研究を通じて考察していくことが目的である。サリン事件対応時に院内に3つの情報のハブが発生し機能したことによって、状況情報を院内に提供したのと同時に、手順情報として具体的な対応策を組織内に示した。このことが同病院が成功裏に事件に対応できた鍵要因となった。危機対応の際には、現場にハブが発生すること、そしてそれを有用することを念頭において対応行動を組み立てる事が必要である。ハブが発生するために重要な3つの要素とは、「多くの情報を得る場」と「情報を発信しようという意志をもった人間」、「発信された情報を受容する組織」であった。「情報を得る場」については、物理的に多くの状況情報を得る組織環境をつくることであった。