著者
砂原 由美 Yumi Sunahara
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.101, pp.53-67, 2015-03

メキシコ人作家フアン・ルルフォ Juan Rulfo によって書かれた『ペドロ・パラモ』PedroPáramo(1955)は多様な解釈を可能にする文学テクストであり、現在までに多くの研究がおこなわれてきた。本稿ではノースロップ・フライが『批評の解剖』で提示した、主人公の行動能力やプロットに基づいた分類方法に依拠しながら、『ペドロ・パラモ』がどのような物語であるということができるのか、ジャンル論的考察を行った。『ペドロ・パラモ』を「ペドロ・パラモの物語」、「フアン・プレシアドの物語」、「スサナ・サン・フアンの物語」の三つの主要エピソードに絞り考察した結果、行動能力の高いペドロ・パラモは物語の中心から「疎外」され、行動能力の低いフアン・プレシアドやスサナ・サン・フアンは物語の中心に「受容」される、という結論に至り、権力の疎外とコマラの再生の物語を『ペドロ・パラモ』に見出すことができることを示した。
著者
阿部 奈南 Nana Abe
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.107, pp.139-154, 2018-03

椋鳩十は、お国に命を捧げることを賛美する時代に、動物の生き抜く姿を通して人間の愛やいのちを描こうとした。昭和16(1941)年に発表された「嵐を越えて」は、燕の過酷な渡りをテーマとする作品であるが、椋が戦時下で『少年倶樂部』に発表した動物文学十五作品の中で唯一、軍艦や水兵、出征軍人の旗が登場する。しかし、戦意高揚とは程遠い作品になっている。椋は、小説家としてデビューしたもののその作品が問題視され、出版物が伏せ字だらけになるという挫折を味わった。その彼が、戦時下の言論統制のもと、自分自身が書きたいことを模索した結果たどりついたのが子ども向けの動物文学であった。本稿では、この作品の構成や表現、特に母の「靜かな聲」について分析し、ほかの書き手の表現とも比較しながら、椋鳩十が作家として「動物の生き抜く姿を通して人間の愛やいのちを描く」姿勢をどのように貫いたのかを論じ、作品を再評価する。
著者
村井 淳 Jun Murai
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.117-135, 2010-03

ロシア革命後、ソヴェト当局は反革命勢力などを弾圧するために、収容所を設けた。その後、ソ連邦が成立すると、白海に浮かぶソロヴェツキー島に本格的な強制労働収容所が建設された。1930年代のスターリン時代には、インフラ整備などで労働力が必要なことから、強制労働収容所とそれを管理運営するグラーグ(収容所管理総局)システムが必要に応じて構築されていった。その切っ掛けを提案したのは、自らも最初は囚人であったフレンケリであった。30年代の大粛清などにより無実の人が逮捕され、新しく建設された強制労働収容所で過酷な無賃労働を強いられた。また、第二次世界大戦期には、ドイツ軍や日本軍などの捕虜も同様の労働を強いられた。その結果、スターリン時代に、数百万もの人々が死亡した。1953年スターリンの死とともに、この強制労働システムは急速に崩壊し、囚人や捕虜は釈放されていった。しかし、これらの強制労働はソ連の産業に貢献したが、長い目で見るとソ連崩壊の一因になった。
著者
松宮 新吾 Shingo Matsumiya
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.225-245, 2010-03

中学校での英語教育を修了し、高校へ入学した直後の生徒を調査対象とした「早期英語教育が中等学校英語教育に及ぼす影響についての調査研究(第一次調査)」(2009)では、早期英語教育経験者と未経験者の二群間においては、言語スキルに係わる統計的な有意差が確認できなかった。 本調査研究(第二次調査)では、高校英語教育を一定期間経験したことにより、早期英語教育の経験の有無が二群間において質的に有意な変容を生じさせ得るかを検証し、早期英語教育の中期的な教育効果について論じる。 第二次調査で学習者要因と言語スキルに係わる比較分析を行った結果、早期英語教育経験者の表現活動に係わるスキルが有意に高くなっていること、また、言語能力肯定因子が英語学習成績に対しマイナスの要因として作用していることが確認できた。 これらの結果から、早期英語教育により培われた能力と中等学校英語教育との交互作用を高めるための方策を提言する。
著者
傳田 久仁子 Kuniko Denda
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.107, pp.155-174, 2018-03

シャルル・ペローの「長靴をはいた猫」における挿絵の歴史は、1697年のクロード・バルバン書店版から始まり300年を越える。しかし物語冒頭部分、末息子が父親の遺産として猫を手にする場面に挿絵が添えられるようになるのは19世紀になってからのことである。本論はこの冒頭部分の挿絵に着目し、末息子と猫の表象について分析することで、「長靴をはいた猫」の受容史の一端を跡付けることを目的とする。今回はまず、19世紀前半のフランスにおける「長靴をはいた猫」での冒頭部挿絵を対象とし、そこでの末息子の描かれ方の差異を確認する。この変化は一見わずかなものにもみえるが、テキストでは理由づけのなされない援助者としての猫像へと、挿絵によってあらかじめ読者をいざなうものとなっていることを明らかにする。
著者
福池 秋水 Akimi Fukuike
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.107, pp.123-138, 2018-03

本研究は、共通語と首都圏方言のスタイルシフトについて、漫画を題材として観察したものである。首都圏方言とは、首都圏に住む人が使用する方言を指す。本研究では、漫画『海街diary』から一組の男女の会話場面を抜き出し、共通語と首都圏方言とのスタイルシフトを観察した。その結果、首都圏方言のくだけた文体は、話者の心内文や「相手に聞かせるための独り言」に見られ、人間関係の距離が縮まると使用されるようになる一方、意識的に距離を縮める場合にも用いられることが観察された。また、一まとまりの談話でも、話題によって共通語と首都圏方言を行き来するスタイルシフトが見られた。このような言語使用は、作者がその登場人物の状況や人物設定、ストーリー展開にふさわしいと考えて創作したものであり、現実の話し言葉と完全に一致するものではないが、首都圏方言の実態をある程度反映したものであると考えられる。
著者
田村 直樹 Naoki Tamura
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research
巻号頁・発行日
vol.96, pp.63-80, 2012-09

商業論の中心的課題として、伝統的には「なぜ商業者が必要なのか」という商業者の存立根拠をめぐる議論がなされ、その中から品揃え形成による流通費用と情報検索の効率化としての商業者の必要性が主張されてきた。いうなれば、商業者が介在することで社会的な貢献を果たすという点で、その存立根拠が保証されるという論理である。確かに商業者は必要ではあるが、どの商業者が必要とされるのかは別の問題である。特定の商業者が他より選好される場合、単に品揃えの量と質だけの理由ではない。つまり、差別化される商業者の条件を理解しなければ、非価格要因による競争に展開できない。もし、量と質だけの品揃えであれば、誰もが模倣しうることになり価格競争に陥ってしまう。そこで本稿では価格競争を回避するための条件として、⑴スピード、⑵プロモーション、⑶季節感を事例から取り上げて議論する。
著者
D'Hautcourt Alexis
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.100, pp.339-347, 2014-09

Dans cet article, nous présentons une série d'exercices accomplis dans une classe universitaire de Français Langue Etrangère au Japon qui ont mené à l'écriture en français d'un article original pour l'encyclopédie électronique Wikipédia. Outre l'écriture, ces exercices ont exigé des efforts de lecture de documents originaux, de recherche, de synthèse, de paraphrase. La facilité d'utilisation de l'encyclopédie permet aux professeurs, si les exercices sont adaptés, de cibler les tâches en fonction du niveau des étudiants et de leurs conditions de classe. Wikipédia offre aux enseignants un outil malléable qui renforce la motivation des étudiants pour leurs travaux d'écriture individuelle et collaborative.