著者
向山 毅 Takeshi Mukoyama
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.89, pp.151-164, 2009-03

カール・シュピッツヴェークはドイツで最も愛されている国民的画家であるが、日本ではほとんど知られていない。シュピッツヴェークはビーダーマイヤーの画家といわれており、19世紀前半のドイツの古きよき時代の情景をユーモアとペーソスを持って描いている。彼の生涯と主な作品およびその世界について述べる。
著者
内田 智大
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.85, pp.99-116, 2007-03

日本経済は1992年後半のバブル経済の崩壊に伴う長期のデフレ期を脱し、ようやく2002年から経済成長の軌道に乗り出した。景気の長さで見れば、今回の景気拡大は4年5ヶ月を過ぎ、1965年11月から4年9ヶ月続いた「いざなぎ景気」に迫る勢いである。この景気拡大の影響により、大学新卒を対象とする労働市場も、この2-3年は完全な売り手市場になっている。本稿の研究目的は、2007年度入社予定の本学国際言語学部の4回生を対象に質問票調査を行い、彼らの就職活動の実態や就業意識を明らかにすると共に、就職活動のやり方や学業成績や語学力を含めた彼らの属性が、就職予定の企業に対する満足度や企業規模の大きさとどのような関係にあるかを考察することである。
著者
長谷川 晋 Susumu Hasegawa
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of inquiry and research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.112, pp.181-191, 2020-09

本稿では、近年めざましい勢いで進んでいる軍事における「ロボット」の活用(戦争の無人化)が、国際人道法や武力紛争法など既存の制度の中で示されている戦争倫理にどのような影響を及ぼしているのかを考察する。人間のように考え振る舞うロボットは、従来は SF 映画やアニメの世界での架空の存在に過ぎなかった。しかしながら、近年その存在が現実になりつつある。単に人間が戦場に行くことなく軍事活動が行なえる兵器というだけでなく、自律的に判断を行い、敵への攻撃を開始することができる兵器(Lethal Autonomous Weapons Systems: LAWS=自律型致死性兵器システム)が登場しつつある。このような人間に近づいたロボットが兵器として戦場に現れた時、どのような新たな倫理上の問題(あるいは既存の問題の深刻化)が生じるのかを考え、論点を整理し分析する。
著者
谷本 由紀子 谷本 義高 Yukiko Tanimoto Yoshitaka Tanimoto
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.113, pp.285-303, 2021-03

本稿は、2019年 3 月に行ったイタリア・ヴェネツィアにおける現地調査と取材をもとに、オーバーツーリズムの現状と対応、政策について考察を加え、訪日外国人旅行者の急増により同問題が顕在化しつつある日本と京都における示唆を得ることを目的とする。本稿(2)は、本研究論集112号に掲載した本稿(1)の後編である。まず、ヴェネツィア市のオーバーツーリズム問題への具体的対応を考察するとともに、近年新たに導入が決定された入島税等について検討を行う。また、SAVEグループ社によるヴェネツィア 2 空港の一体運営と、近接する 2 空港をさらに加えた 4 空港の機能別一体運営に言及した上で、更なる乗降客数増を目指す同社の新構想について検討する。次に、本調査の結果得られたオーバーツーリズム問題への示唆を明らかにした上で、訪日外国人旅行者のさらなる増加を目指す日本と、外国人観光客が急増し続けている京都において既に顕在化している同問題について考察を行う。
著者
谷本 由紀子 谷本 義高 Yukiko Tanimoto Yoshitaka Tanimoto
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.112, pp.233-252, 2020-09

本稿は、2019年 3 月に行ったヴェネツィアにおける現地調査と取材をもとに、オーバーツーリズムの現状と対応、政策について考察を加え、訪日外国人旅行者の急増により同問題が顕在化しつつある日本と京都における示唆を得ることを目的とする。112号における本稿の主要なテーマは次の 2 点である。まず、オーバーツーリズムとは、近年になって用いられはじめた呼称であり論者により理解が錯綜していることから、先行研究の検討にもとづき当該呼称の由来と概念について私見の展開を試みることである。次に、京都市とヴェネツィア本島・歴史的地区それぞれの観光に関する現状を俯瞰した上で、ヴェネツィア本島における年間観光客数と日帰り観光客数について統計資料を用いて分析を行い、オーバーツーリズム問題の実態とヴェネツィア市の具体的対応を考察する。特に、日帰り観光客とクルーズ船乗降客に関わるヴェネツィア特有の問題を詳述する。
著者
谷本 由紀子 谷本 義高 Yukiko Tanimoto Yoshitaka Tanimoto
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of inquiry and research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.112, pp.233-252, 2020-09

本稿は、2019年 3 月に行ったヴェネツィアにおける現地調査と取材をもとに、オーバーツーリズムの現状と対応、政策について考察を加え、訪日外国人旅行者の急増により同問題が顕在化しつつある日本と京都における示唆を得ることを目的とする。112号における本稿の主要なテーマは次の 2 点である。まず、オーバーツーリズムとは、近年になって用いられはじめた呼称であり論者により理解が錯綜していることから、先行研究の検討にもとづき当該呼称の由来と概念について私見の展開を試みることである。次に、京都市とヴェネツィア本島・歴史的地区それぞれの観光に関する現状を俯瞰した上で、ヴェネツィア本島における年間観光客数と日帰り観光客数について統計資料を用いて分析を行い、オーバーツーリズム問題の実態とヴェネツィア市の具体的対応を考察する。特に、日帰り観光客とクルーズ船乗降客に関わるヴェネツィア特有の問題を詳述する。
著者
藤田 弘之 Hiroyuki Fujita
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.106, pp.149-167, 2017-09

本稿はイギリス教育省に設置されている全国教師及び学校管理者支援機関(National College for Teaching and Leadership、以下NCTL)による不適格教師に対する規制措置とその運用状況を明らかにすることを目的とする。イングランドでは2000年に総合教職評議会(General Teaching Council for England)が設置され、これが不適格教師を規制する役割を遂行してきた。しかし、2011年教育法によってこの機関が廃止され、不適格教師の規制権限は教育大臣に移った。NCTLは2013年よりこの大臣の権限を実施しており、不法行為を行った教師を審査し、不適格者と判定したものには教職従事禁止命令を出している。本稿はこうした審査の組織、手続き、基準について述べ決定事案を分析するとともに実際の運用状況を明らかにした。そして、こうした措置が教育活動の公益性を担保し、教師の信頼性確保を最重要課題として行われていることを明らかにした。
著者
大庭 幸男 Yukio Oba
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.111, pp.39-57, 2020-03

英語の動詞は他動詞と自動詞に分類され、さらに自動詞は非能格動詞と非対格動詞に分類される。自動詞にはこれらの非能格動詞と非対格動詞の他に、中間動詞がある。本論文は中間動詞を伴う文(中間構文)の意味的な特徴と統語的な特徴を明らかにし、それに基づいてその構文の統語構造を提案することを目的とする。まず、自動詞の種類と特性を考察し、中間動詞の特徴を明らかにする。その後、中間構文と非対格動詞を伴う文(非対格動詞文)を比較しながら、中間構文の意味的な特徴と統語的な特徴を明らかにする。その結果、中間構文は他動詞文と同様に動作主が意味的にも統語的にも存在する、と主張する。そして、その主張に基づいて、生成文法理論のミニマリスト・プログラムの枠組みで中間構文の構造を提案する。
著者
池田 遊魚 Yugyo Ikeda
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.151-167, 2014-03

小説『マルテの手記』は、20世紀初頭のパリで不安と苦悩の日々を過ごしたリルケが、後の『ドゥイノの悲歌』の詩人へと自己形成を遂げていく転機にあって、手記という散文形式において自己省察を試みた特異な書物である。大都市の匿名性のなかで語り手は自己解体の危機に瀕しながら、自分を悩ませるさまざまな不安の形象を描き出し、記憶の断片をたどって生の再構築を試みる。そこに仄かに浮かび上がってくるのが、個人のアイデンティティを超える生の予感である。そして、それまで異郷を彷徨うように生きてきたマルテ=リルケは、詩人としての全的な生を手に入れるため、改めて自己の幼年時代との直面を要求されることになる。--本稿では以上のようなプログラムによって『マルテの手記』読解の可能性を探る。
著者
豊田 順子 村上 明子 Junko Toyoda Akiko Murakami
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.107, pp.95-104, 2018-03

本研究では、大学生を調査対象とし、「日本学」の授業において、オンラインデジタル予習教材を基に ICT(Information and Communication Technology) 型反転授業を行い、学習効果(知識習熟度)を検証した。結果から、3種の授業形態:ICT 活用型反転授業、認知プロセスタスクを取り入れた ICT 活用型反転授業、教員主体の通常講義授業のうち、通常講義授業より反転授業の方が、学習効果が有意に高いことが明らかとなった。
著者
吉川 雅也 Masaya Yoshikawa
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of inquiry and research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.111, pp.193-211, 2020-03

本研究は有機的統合理論における自律-他律パラダイムの観点から主体性概念の構造的理解を試みるものである。主体性という言葉は教育や産業の現場でも頻繁に使用されるが自律や自発などの類語が存在するうえ、それらが何を意味するのか定義が一定しない。自ら考えて行動しても他者の期待に沿わなければ主体的との評価がなされないこともある。本研究は文部科学省「生徒指導提要」の分類を出発点とし、モチベーション研究における有機的統合理論の枠組みを用いて主体性および類語の整理を行った。その結果、自ら考え行動するだけでは自発・自主であり、計画性が認められると自律となり、自らの考えからではなく他者の期待や組織のルールに沿ったことを自らの意志で行うことが主体性であることがわかった。これは有機的統合理論では社会化された外発的動機づけに相当し、主体性が自律的ながら外部から動機づけられた手段性を有するものであることを意味している。
著者
白崎 護 Mamoru Shirasaki
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.111, pp.165-178, 2020-03

本稿は、公的な制度の内外を問わず選挙以外の場面で市民の意見を政治へ反映させようとする活動のうち、ロビ活動・陳情・献金など政治過程への個別の接触を除く活動であり、かつ政治エリートとの協力ではなく彼らを監視する活動をカウンターデモクラシーと呼ぶ。ロザンヴァロン(Rosanvallon) によると、現代の民主主義国家において社会集団の利益を代表できなくなった政党に基づく代議制を補完するカウンターデモクラシーが、政府への牽制手段として求められている。他方、デモなどの抗議活動を含むカウンターデモクラシーに関して、政治学では活動の分類を除き研究が進んでいなかった。そこで本稿は、カウンターデモクラシーの考察に要する社会運動論の分析枠組を概観した上で、カウンターデモクラシーを促進または阻害するメディアの機能、および市民によるメディアの利用を政治学の観点より論じる。
著者
鶴見 直人 岸野 浩一 小田桐 確 Masato Tsurumi Kouichi Kishino Tashika Odagiri
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.111, pp.179-192, 2020-03

国際関係への学生の興味関心を高めるとともに、時事問題に関する知識の定着を図る目的で作成したクイズを授業で活用し、その実践から得られたデータを分析した。その結果、学生たちはニュースに関心を持っていると表明しながらも、極めて基礎的な知識の確認さえ行わない傾向が浮かび上がってきた。これは「専門知の死」(トム・ニコルズ)として指摘される傾向と似たものと見られる。本稿によって明らかにされるのは、こうした指摘とはまた違った一面である。ここから、マスメディアの危機と「民主主義の死」が同時に指摘される現代において国際関係についての教育を行う際、メディア・リテラシーの重要性を説くだけでは不十分であり、「肯定的な懐疑心」を涵養してゆく必要性が示唆される。
著者
大庭 幸男 Yukio Oba
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.111, pp.39-57, 2020-03

英語の動詞は他動詞と自動詞に分類され、さらに自動詞は非能格動詞と非対格動詞に分類される。自動詞にはこれらの非能格動詞と非対格動詞の他に、中間動詞がある。本論文は中間動詞を伴う文(中間構文)の意味的な特徴と統語的な特徴を明らかにし、それに基づいてその構文の統語構造を提案することを目的とする。まず、自動詞の種類と特性を考察し、中間動詞の特徴を明らかにする。その後、中間構文と非対格動詞を伴う文(非対格動詞文)を比較しながら、中間構文の意味的な特徴と統語的な特徴を明らかにする。その結果、中間構文は他動詞文と同様に動作主が意味的にも統語的にも存在する、と主張する。そして、その主張に基づいて、生成文法理論のミニマリスト・プログラムの枠組みで中間構文の構造を提案する。
著者
松田 健
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.97, pp.181-197, 2013-03

19世紀の終わりに発明された録音技術は、音楽聴取を演奏現場から解放した。しかしその後100年ほどは「自宅に設置した装置で」再生するのが基本形であり続けた。その後音楽聴取デバイスのポータブル化と個別化が進み、CDに代表される音源のデジタル化は高品位の音源を簡便に入手できる環境をもたらした。 音楽の個別聴取化とデジタル化が進行した後に生まれた「デジタル世代」の大学生たちはどのように音楽行為(Christopher Smallの言葉を借りると"musicking")をしているのだろうか。筆者は2011年に118人の大学生に探索的な質問票調査を行った。 その結果、彼らの音楽聴取は個別形態をとる傾向が強く、スピーカーよりもイヤホンで音楽聴取をする時間が長いことがわかった。音楽聴取時間のうち「ながら聴取」が占める時間がおよそ4分の3に達することもわかった。またおよそ6割の回答者がパソコンを音楽聴取デバイスとして使用している状況もわかった。
著者
谷本 愼介 Shinsuke Tanimoto
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.104, pp.31-49, 2016-09

『悲劇の誕生』はニーチェの哲学者としての処女作とされているが、古代ギリシャ悲劇の誕生を論じているのは、全25節のうち第7 、8 節のみであり、古代ギリシャ悲劇の誕生を文献学的に実証しようとした書ではない。本書の正式タイトルは『音楽の精神からの悲劇の誕生』だが、「音楽の精神」という独特の用語はワーグナーが『ベートーヴェン』でくり返し用いたものを借用したものである。また本書で提起される「ディオニュソス的世界観」はバッハオーフェンの「バッカス的世界観」からの借用である。立論に当たってニーチェは先達の発明した概念や命題を借用、活用しながら、「悲劇は音楽の精神から生まれる」という個別命題を一挙に普遍化して、「文化は音楽の精神から生まれる」という前代未聞の画期的な命題を打ち立てた。
著者
Cakir Murat Murat Cakir
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.105, pp.143-154, 2017-03

本稿は、トルコ近代公教育の確立に尽力したムスタファ・ネジャーティの功績の一端について明らかにすることを目的としている。トルコの近代公教育制度の成立において彼は世俗主義という理念とアタテュルクが示した民主主義、人民主義等という6 つの理念を基礎にトルコ公教育が発展するよう多大な努力をした。例えば、トルコの近代公教育の発展のために国家教育省、教育委員会、学校組織の間で調和的な連携・協働体制を整えた。本人が教育実践者であった経験から特に教職の重要性をいち早く理解し、教師教育を再編すると共に教職に対する社会的地位の向上に取り組んだ。オスマントルコ語を廃止し、新しくローマ字を基本とする文字改革を行い、一般庶民の誰もが教育を受けることが可能となった。また、西欧から専門家を招いて職業教育と美術教育にも力を入れた。彼はデューイの教育思想に影響を受け、デューイが報告した提案を実施し、諸改革を成功に導いた。
著者
柿木 重宜 Shigetaka Kakigi
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.105, pp.1-19, 2017-03

言語学者藤岡勝二は、国語学の泰斗上田萬年から、1905(明治38)年に正式に東京帝国大学文科大学言語学科を託される。爾来、藤岡は、東京帝国大学の言語学科、否、日本の言語学界を、30年近くにわたり、唯一人で牽引して、教育と研究に尽力する。しかしながら、現代の言語学では、藤岡の名は、日本語系統論を唱えた人物として評価されているに過ぎない。このような状況に鑑み、拙著(2013)では、藤岡が実に多彩な研究テーマを有しており、近代「国語」の成立において、きわめて貴重な役割を果したことを論証した。この研究の途上において、彼が、近代の「言語学」の成立においても、深く関わっている事実が判明した。本稿では、藤岡を軸にして、当時の貴重な資料『言語學雑誌』、『新縣居雑記』等を主に利用しながら、「博言学」から「言語学」へと学問の波が転換するとき、どのように「言語学」という学問分野が築き上げられてきたのか考察した。
著者
鵜島 三壽 中村 真 Mitsuhisa Ushima Makoto Nakamura
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.131-151, 2015-09

シルクロードに関する無形文化遺産として、中央アジアから西アジアにかけての分布するムカーム(マカーム)をあげることができる。これは、多様な旋法による旋法音楽で、長大な組曲形式をとることが特徴である。ムカームに用いられる楽器は多種多様で、形態はもちろんのこと、多くの点で共通点がある。ムカームが広範囲に分布するだけに楽器にも共通点があるのだが、これまで詳しい楽器製作工程は報告されていない。 今後研究の深化をはかるには、技術的な視点を持ち、製作過程を通した楽器それ自体の検討が必要である。本稿では弦楽器の習得のみならず、弦楽器製作でも基本となるドゥタールを取り上げ、ウズベキスタン国立音楽院伝統楽器製作修復工房でのドゥタール製作を紹介する。ここで製作される楽器は、学生からプロの演奏家までが使用しているため、ウズベキスタンにおける楽器製作の全体像をつかむ上でも定点とすべき位置にある。
著者
仲川 浩世 Hiroyo Nakagawa
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.108, pp.257-267, 2018-09

本研究の目的は、英語ライティング・フィードバック研究の概観を振り返り、今後の日本の英語教育への導入を示唆することである。フィードバックとは、言語学習の発達を促進するため、発話に対する口頭訂正フィードバックと、L2(第二言語)ライティング・フィードバックに分けられる。本稿は、英語ライティング・フィードバックに焦点を当てる。L2ライティングにおける訂正フィードバックは、 内容や構成に関するものと文法に対するものがある。さらに、初期のL2ライティング研究とその後の第二言語習得(SLA)研究は観点が異なる。すなわち、L2ライティング研究のフィードバックは、形式面と内容に重点を置いていた。これに対して、SLA研究では、習得を目指すため、文法項目の訂正フィードバックに関するものが大半を占め、長期的に定着しないという批判もある。今後は、情意要因を考慮し、質的な調査に取り組むことが望ましいと考えられる。