著者
村井 淳
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.91, pp.117-135, 2010-03

ロシア革命後、ソヴェト当局は反革命勢力などを弾圧するために、収容所を設けた。その後、ソ連邦が成立すると、白海に浮かぶソロヴェツキー島に本格的な強制労働収容所が建設された。1930年代のスターリン時代には、インフラ整備などで労働力が必要なことから、強制労働収容所とそれを管理運営するグラーグ(収容所管理総局)システムが必要に応じて構築されていった。その切っ掛けを提案したのは、自らも最初は囚人であったフレンケリであった。30年代の大粛清などにより無実の人が逮捕され、新しく建設された強制労働収容所で過酷な無賃労働を強いられた。また、第二次世界大戦期には、ドイツ軍や日本軍などの捕虜も同様の労働を強いられた。その結果、スターリン時代に、数百万もの人々が死亡した。1953年スターリンの死とともに、この強制労働システムは急速に崩壊し、囚人や捕虜は釈放されていった。しかし、これらの強制労働はソ連の産業に貢献したが、長い目で見るとソ連崩壊の一因になった。
著者
堀 素子
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.84, pp.57-74, 2006-09

英語の法助動詞(modals)は日本では文法事項として指導されているが、語用論的機能については英会話の中で触れられる程度で終わることが多く、真にそれらがどのような使われ方をしているかにまでは及んでいないと思われる。 本論文ではブラウンとレビンソンのポライトネス理論に基づき、ネガティブ・ポライトネスの代表とされる「慣用的間接表現」に使われる法助動詞をコーパスのデータによって分析する。特に「依頼表現」に焦点を当てて、それらの表現がもつ意味と機能を日本語の敬語と比較しながら議論する。英語母語話者は「依頼」を「フェイス侵害行為」(FTA)と捉えているために、相手の「領土への侵害」を緩和することを第一の目標として、modalsを含む慣用的間接表現を使用している。日本語の敬語にも類似の表現があるが、それは対話者間の上下関係を明示するためで、行為自体を問題としない点で、英語の敬意表現とは鋭く対立する。
著者
吉川 雅也 Masaya Yoshikawa
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.107, pp.75-93, 2018-03

本稿はキャリア理論を計画重視と適応重視に分類し、このうち後者の適応重視のキャリア理論のプロセスについて、ソフトウェア開発におけるアジャイル開発モデルをアナロジーとして用いながら論じるものである。キャリアに関する理論は計画重視のキャリア理論が主流であったが、近年、適応重視のキャリア理論も広く知られるようになった。社会の変化のスピードが早く個人のキャリアも将来の見通しが付きづらい昨今、環境に合わせて適応していくタイプのキャリアが注目されているのは妥当なことである。しかし適応重視のキャリア理論は計画重視のキャリア理論に比べると具体的な実践方法の議論が十分ではなかった。そこで本稿ではソフトウェア開発の分野においてもウォーターフォールモデルからアジャイル開発モデルという計画重視から適応重視の流れがあることに着目し、アジャイル開発モデルの実践からキャリアにおける適応重視理論への示唆を得ることを試みた。
著者
福池 秋水 Akimi Fukuike
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.107, pp.123-138, 2018-03

本研究は、共通語と首都圏方言のスタイルシフトについて、漫画を題材として観察したものである。首都圏方言とは、首都圏に住む人が使用する方言を指す。本研究では、漫画『海街diary』から一組の男女の会話場面を抜き出し、共通語と首都圏方言とのスタイルシフトを観察した。その結果、首都圏方言のくだけた文体は、話者の心内文や「相手に聞かせるための独り言」に見られ、人間関係の距離が縮まると使用されるようになる一方、意識的に距離を縮める場合にも用いられることが観察された。また、一まとまりの談話でも、話題によって共通語と首都圏方言を行き来するスタイルシフトが見られた。このような言語使用は、作者がその登場人物の状況や人物設定、ストーリー展開にふさわしいと考えて創作したものであり、現実の話し言葉と完全に一致するものではないが、首都圏方言の実態をある程度反映したものであると考えられる。
著者
仲川 浩世 Hiroyo Nakagawa
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.104, pp.117-128, 2016-09

本研究の目的は、本学短期大学部四技能統合型の必修クラスにおいて実施したパラグラフ・ライティング指導の効果について報告することである。1 年生を対象に日本人教員とネイティブ教員が同じクラスを担当し、共通の題材を用いて、総合的な英語力の底上げを試みている。本学の学生は、留学希望者も多く、オーラル・コミュニケーションを中心とした授業内活動に関しては、学習意欲も高い傾向にある。しかし、ライティング学習に対しては、苦手意識を持つ者も少なくはない。本実践では、社会問題を扱ったリーディング教材の内容把握を実施し、語彙、構文を習得後、自分の考えをパラグラフ内に英語で述べるよう指導した。さらに、対象学生にはパラグラフ・ライティングの学習経験が不足しているため、明示的に書き方についても指導した。本稿では、具体的な実践概要と指導前後のライティングの伸び、さらに自由記述アンケートの結果に関しても考察する。
著者
柏原 和子
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.85, pp.55-65, 2007-03

John Updikeの代表作である「ウサギ4部作」の主人公ウサギ(Harry Angstrom)の母子関係を基に彼を取り巻く女性たちとの関係を分析し、女性たちがウサギの人生の中で果たす役割を考察する。ウサギは抑圧的な母と強い絆で結ばれており精神的にかなりの影響も受けてはいるが依存関係はない。彼には、社会の抑圧からの自由を求めて優越感を得るために、支配できる愚かな女性を求め、知的な女性を好まないという傾向は見られるが、彼の女性関係を分析すると、長期間にわたって関係を続ける女性は、彼の自己探索を理解してくれる女性であり、具体的にはRuthとThelmaがこれに当たる。彼女たちはウサギの生き方を理解し、存在を肯定することで、彼の自己探索の旅に加担している。これがウサギの人生の中で女性たちが果たす役割である。
著者
平井 知香子
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.93, pp.197-214, 2011-03

サンドは旅行好きで、イタリア、スペインなど外国のほか、オーヴェルニュ、ノルマンディなどのフランス国内を旅し、またパリと故郷のノアン(ベリー地方)は幾度となく往復している。しかしどんなに他の土地の風景がよくとも、ベリーに勝るものはなかった。「よその国の槲(かしわ)の木より、自分の村の蕁麻(イラクサ)の方がいいんだ」と『笛師のむれ』の主人公エチエンヌは語る。ジョルジュ・リュバンによればこの言葉はサンド自身を代弁している。 農民の平穏な生活と森の住民の奔放な生活との対立と融合という、作者独自のテーマを展開しつつ、少年少女の微妙な恋愛心理を描きだす『笛師のむれ』。作品の背景となったベリー地方とブルボネ地方に着目し、シャンソン・ポピュレール「三人のきこり」(ショパンとポーリーヌ・ヴィアルドが愛したという)を分析しながらサンド文学の秘密に迫ってみたい。
著者
内田 智大
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.85, pp.99-116, 2007-03

日本経済は1992年後半のバブル経済の崩壊に伴う長期のデフレ期を脱し、ようやく2002年から経済成長の軌道に乗り出した。景気の長さで見れば、今回の景気拡大は4年5ヶ月を過ぎ、1965年11月から4年9ヶ月続いた「いざなぎ景気」に迫る勢いである。この景気拡大の影響により、大学新卒を対象とする労働市場も、この2-3年は完全な売り手市場になっている。本稿の研究目的は、2007年度入社予定の本学国際言語学部の4回生を対象に質問票調査を行い、彼らの就職活動の実態や就業意識を明らかにすると共に、就職活動のやり方や学業成績や語学力を含めた彼らの属性が、就職予定の企業に対する満足度や企業規模の大きさとどのような関係にあるかを考察することである。
著者
豊田 順子 村上 明子 Junko Toyoda Akiko Murakami
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.107, pp.95-104, 2018-03

本研究では、大学生を調査対象とし、「日本学」の授業において、オンラインデジタル予習教材を基に ICT(Information and Communication Technology) 型反転授業を行い、学習効果(知識習熟度)を検証した。結果から、3種の授業形態:ICT 活用型反転授業、認知プロセスタスクを取り入れた ICT 活用型反転授業、教員主体の通常講義授業のうち、通常講義授業より反転授業の方が、学習効果が有意に高いことが明らかとなった。
著者
山森 靖人 Yasuhito Yamamori
出版者
関西外国語大学・関西外国大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.105, pp.127-141, 2017-03

本稿は『関西外国語大学研究論集』第101号に掲載された「ウィチョール族民芸品販売の現状と問題」の続編である。先の拙稿では、1 )ウィチョールの民芸品販売がメキシコ各地に拡散していること、2 )その拡散は非ウィチョールが主導していること、3 )ウィチョールによる民芸品販売は主に彼らの居住地に隣接する都市部や首都に展開する屋台や民芸品市場に限定されること、4 )民芸品販売がウィチョールの生業になり得ないことを考察した。ウィチョールの「伝統的」な生業はとうもろこしの農耕である。しかし、ナヤリ山地に定住する以前、彼らは農耕民ではなく、狩猟採集民であったと推測されている。この生業の変化を踏まえて、ウィチョールの民芸品販売に潜む狩猟採集民的な特質を解明し、貨幣経済に順応するための民芸品販売が、彼らの生業となり得ない理由を議論する。
著者
松田 健
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.97, pp.181-197, 2013-03

19世紀の終わりに発明された録音技術は、音楽聴取を演奏現場から解放した。しかしその後100年ほどは「自宅に設置した装置で」再生するのが基本形であり続けた。その後音楽聴取デバイスのポータブル化と個別化が進み、CDに代表される音源のデジタル化は高品位の音源を簡便に入手できる環境をもたらした。 音楽の個別聴取化とデジタル化が進行した後に生まれた「デジタル世代」の大学生たちはどのように音楽行為(Christopher Smallの言葉を借りると"musicking")をしているのだろうか。筆者は2011年に118人の大学生に探索的な質問票調査を行った。 その結果、彼らの音楽聴取は個別形態をとる傾向が強く、スピーカーよりもイヤホンで音楽聴取をする時間が長いことがわかった。音楽聴取時間のうち「ながら聴取」が占める時間がおよそ4分の3に達することもわかった。またおよそ6割の回答者がパソコンを音楽聴取デバイスとして使用している状況もわかった。
著者
菊川 丞
出版者
関西外国語大学
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.55, pp.p153-165, 1992-01
著者
阿部 奈南 Nana Abe
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.107, pp.139-154, 2018-03

椋鳩十は、お国に命を捧げることを賛美する時代に、動物の生き抜く姿を通して人間の愛やいのちを描こうとした。昭和16(1941)年に発表された「嵐を越えて」は、燕の過酷な渡りをテーマとする作品であるが、椋が戦時下で『少年倶樂部』に発表した動物文学十五作品の中で唯一、軍艦や水兵、出征軍人の旗が登場する。しかし、戦意高揚とは程遠い作品になっている。椋は、小説家としてデビューしたもののその作品が問題視され、出版物が伏せ字だらけになるという挫折を味わった。その彼が、戦時下の言論統制のもと、自分自身が書きたいことを模索した結果たどりついたのが子ども向けの動物文学であった。本稿では、この作品の構成や表現、特に母の「靜かな聲」について分析し、ほかの書き手の表現とも比較しながら、椋鳩十が作家として「動物の生き抜く姿を通して人間の愛やいのちを描く」姿勢をどのように貫いたのかを論じ、作品を再評価する。
著者
D'Hautcourt Alexis
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.100, pp.339-347, 2014-09

Dans cet article, nous présentons une série d'exercices accomplis dans une classe universitaire de Français Langue Etrangère au Japon qui ont mené à l'écriture en français d'un article original pour l'encyclopédie électronique Wikipédia. Outre l'écriture, ces exercices ont exigé des efforts de lecture de documents originaux, de recherche, de synthèse, de paraphrase. La facilité d'utilisation de l'encyclopédie permet aux professeurs, si les exercices sont adaptés, de cibler les tâches en fonction du niveau des étudiants et de leurs conditions de classe. Wikipédia offre aux enseignants un outil malléable qui renforce la motivation des étudiants pour leurs travaux d'écriture individuelle et collaborative.