著者
鑑 慎司
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.13-19, 2011-02-28
被引用文献数
8

IL-23は樹状細胞などの抗原提示細胞が産生する.そしてIL-23はTh17細胞への分化を誘導し,Th17細胞の増殖,維持に必要である.Th17細胞は好中球を遊走するケモカイン,抗菌ペプチド,および他の炎症性サイトカインの発現を増強する.IL-23とTh17細胞が正常に機能する状態では宿主はカンジダ,黄色ブドウ球菌,溶連菌等の微生物を駆除できるが,Th17細胞が欠損した状態では易感染性となる.その一方で乾癬等の自己免疫疾患ではTh17細胞が過剰な状態になっていることが報告されている.また,様々な検体を用いた解析で,乾癬患者は健常人よりもこれらの微生物感染が多いことも報告されており,乾癬発病におけるスーパー抗原の関与も示唆されている.IL-23やTh17細胞の機能を理解することは,宿主の微生物に対する防御反応と乾癬などの自己免疫疾患をみるうえで重要な洞察をもたらし,感染症や自己免疫疾患の効果的な治療法の開発へとつながることが期待される.<br>
著者
山本 元久 高橋 裕樹 苗代 康可 一色 裕之 小原 美琴子 鈴木 知佐子 山本 博幸 小海 康夫 氷見 徹夫 今井 浩三 篠村 恭久
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1-8, 2008-02-28
被引用文献数
27 39 12

ミクリッツ病は涙腺・唾液腺腫脹を,自己免疫性膵炎は膵のびまん性腫脹を呈し,ともに腺組織中へのIgG4陽性形質細胞浸潤を特徴とする疾患である.私たちは,当科における全身性IgG4関連疾患(systemic IgG4-related plasmacytic syndrome ; SIPS)40例の臨床的特徴(腺分泌機能,血清学的評価,合併症,治療および予後)を解析した.男性は11例,女性は29例で,診断時の平均年齢は58.9歳であった.疾患の内訳は,ミクリッツ病33例,キュッツナー腫瘍3例,IgG4関連涙腺炎4例であった.涙腺・唾液腺分泌低下は,約6割の症例にみられたが,軽度であった.抗核抗体陽性率は15%,抗SS-A抗体陽性は1例のみ,低補体血症は30%に認められた.また自己免疫性膵炎,間質性腎炎,後腹膜線維症,前立腺炎などの合併を認めた.治療は,臓器障害を有する症例で治療開始時のステロイド量が多く,観察期間は最長16年のうち,臓器障害の有無に関わらず3例で再燃を認めた.ミクリッツ病をはじめとするSIPSの現時点における問題点と今後の展望について述べてみたい.<br>
著者
久保 亮治
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.76-84, 2011-04-28
被引用文献数
4

生命にとって自己と外界を区切るバリア構造を持つことは,生体内部のホメオスターシスを保ち,生命活動を維持するために必須である.我々の身体の表面,すなわち皮膚の最外層では重層扁平上皮のシート(表皮)とその表面を覆う角質層がバリアとして働いている.上皮細胞シートにおいては,細胞自体を物質が通過しようとする場合(transcellular pathway)は細胞膜がバリアとして働き,細胞と細胞の隙間を物質が通過しようとする場合(paracellular pathway)は細胞間を密に接着するタイトジャンクション(TJ)がバリアとして働く.角質層とTJによるバリアの内側には様々な免疫系の細胞が存在し,外来物質の侵入に備えている.表皮内にはランゲルハンス細胞と呼ばれる樹状細胞が存在し,表皮細胞間に網目のように樹状突起を張り巡らせている.ランゲルハンス細胞は通常,TJバリアの内側に留まるが,活性化すると表皮TJバリアの外側に樹状突起を伸ばし,樹状突起の先端部分より抗原取得を行う性質を持つことを,我々は見出した.外敵との闘いの最前線における索敵活動のように見える本現象について詳しく解説する.<br>
著者
宮川 周士
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.174-184, 2007-06-28
参考文献数
40

移植を待つ患者の数と実際のドナーの数の差から,今また異種移植が注目されつつある.この総説は実際の臨床を主体としてまたそれを目指した遺伝子改変したブタ作りを焦点としている.<br>   ブタの臓器にDAF(CD55)を中心としたヒト補体制御因子を発現させ,また糖転移酵素,α1,3 galactosyltransferase (α1,3GT)が作り出すα-Galエピトープ(Galα1-3Galβ1-4GlcNAc-R)をノックアウトする試みは,既にハーバード大学,ピッツバーグ大学,メイヨークリニック,ブレザジェンなどでおこなわれている.我々も,DAF (CD55)と糖転移酵素GnT-IIIを発現しこのα-Galエピトープをホモでノックアウトしたブタ,を昨年開発している.<br>   一方,臨床のブタ膵島移植は多くの国(ロシア,スエーデン,メキシコ,中国)で2005年まで行われており,アメリカでもここ3年以内に臨床治験が始まる予定である.<br>   加えて,異種移植領域の最近の研究,たとえば糖鎖抗原や補体の活性化やNK細胞やその他の免疫反応を押さえる研究を紹介する.また,ブタ内在性レトロウイルス(PERV)の感染性に関する研究も報告する.<br>
著者
山本 元久 小原 美琴子 鈴木 知佐子 岡 俊州 苗代 康可 山本 博幸 高橋 裕樹 篠村 恭久 今井 浩三
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.349-356, 2005-10-31
参考文献数
44
被引用文献数
9 14

症例は,73歳女性.1998年頃より口渇,両側上眼瞼腫脹が出現,2003年10月には両側顎下部腫脹を認めた.同時期に近医で糖尿病と診断され,経口血糖降下薬の投与が開始された.2004年夏頃より上眼瞼腫脹が増強したため,当科受診,精査加療目的にて10月に入院となった.頭部CT・MRIでは,両側涙腺・顎下腺腫脹を認めた.血清学的に高γグロブリン血症を認めたが,抗核抗体・抗SS-A抗体は陰性であり,乾燥性角結膜炎も認めなかった.さらなる精査で,高IgG4血症及び小唾液腺生検にて著明なIgG4陽性形質細胞浸潤を認めたため,Mikulicz病と診断した.腹部CTではびまん性膵腫大を認め,ERCPで総胆管・主膵管に狭窄を認めた.自己免疫性膵炎の合併と診断し,プレドニゾロン40 mg/日より治療を開始した.その結果,涙腺・顎下腺腫脹は消失,唾液分泌能も回復した.また膵腫大,総胆管・膵管狭窄も改善した.耐糖能障害も回復傾向にある.Mikulicz病と自己免疫性膵炎は共に高IgG4血症を呈し,組織中にIgG4陽性形質細胞浸潤を認めることから,両疾患の関連を考える上で非常に興味深い症例であると思われた.<br>
著者
徳永 美貴子 齋藤 和義 中塚 敬輔 中山田 真吾 中野 和久 辻村 静代 大田 俊行 田中 良哉
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.304-309, 2003-10-31
被引用文献数
2

症例1;14歳女性,平成13年5月多関節痛,蝶形紅斑を認め当院受診.抗核抗体陽性,腎障害,溶血性貧血(Hb 63g/dl, D-クームス(3+)), 抗ds-DNA抗体高値より全身性エリテマトーデス(SLE)と診断. PSL 60mg/日に免疫吸着・ステロイドパルス療法,シクロスポリン併用したが溶血性貧血は持続. 7月シクロホスファミドパルス療法(IV-CY) 500mg/回を開始し, 6回終了後Hb 11.4g/dlと改善.症例2;53歳女性,昭和53年SLEと診断, PSL 5mg/日で維持療法中の平成13年6月発熱と貧血(Hb 5.9g/dl)の為7月当科入院. Hb 3.4g/dl, D-クームス(3+)と進行性溶血性貧血に対しPSL 50mg/日とステロイドパルス療法施行するも改善なく8月IV-CY (500mg/回)開始. 3回終了後Hb 13.2g/dlと改善した. SLEに併発する治療抵抗性溶血性貧血に対し, IV-CYの著効例の既報は乏しく,今後の治療選択に於いて貴重な症例と考え報告する.