- 著者
-
片桐 秀樹
- 出版者
- The Japanese Society of Internal Medicine
- 雑誌
- 日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
- 巻号頁・発行日
- vol.98, no.5, pp.1127-1133, 2009-05-10
- 参考文献数
- 12
個体全身の代謝を調節するには,臓器間の代謝情報のやり取りが必須であり,肥満や糖尿病は,この臓器間連絡が破綻した状態とも言える.最近我々は,自律神経系,特に求心路がこの臓器間の代謝情報連絡に重要な役割を果たしていることを見出した.まず,脂肪組織からの求心性神経シグナルが,食欲を調節していること,次に,肝からの神経ネットワークが,過栄養時に基礎代謝を亢進させ,肥満を予防する機能を果たしていること,さらに,肝からの別の神経ネットワークが,膵β細胞増殖を惹起することを明らかにした.これらは食欲,エネルギー消費,インスリン分泌といった,エネルギー代謝・糖代謝の中心を制御するものであり,この機構に介入することにより,体重調節や膵β細胞再生といった肥満や糖尿病の治療につながる成果を得ている.またこのことは,末梢組織での代謝状況を,脳が随時把握し,全身の代謝を統御しているという新しい概念を示すものである.<br>