著者
秋山 辰穂 水島 希 標葉 隆馬
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.187-198, 2018 (Released:2018-12-27)
参考文献数
55

近年、生物多様性は急速に失われつつあり、その保全と持続可能な利用は人類社会の重要な課題である。「生物多様性」は、生物学者たちによって1986年に創られ保全活動の普及宣伝に使われてきた言葉であり、1992年に採択された生物多様性条約において異なる3つの階層(生態系、種、遺伝的多様性)を包括する概念であると定義される。日本は条約締約国として生物多様性国家戦略を過去5回にわたって策定してきた。しかし、日本で国家戦略がどのように生物多様性の科学的側面と関わり、その内容を変化させてきたかは明らかでない。本研究では、全5回の国家戦略を対象に定量テキスト分析ならびに内容分析を行い、内容の変遷を特に多様性の3つの階層の扱われ方の違いに注目して記述した。さらに、最新の第5次国家戦略において基本戦略や世界目標である愛知目標に対してどのように施策が設定されているかを定量的に調査した。その結果、国家戦略において中心となる話題が、「野生生物」から「自然環境」、そして「人間社会」へと2度の大きな変遷をしてきたことが示された。生物多様性の3つの階層に関連する各コンセプトに言及している段落の出現頻度も変化し、「生態系」に関してはどの時期の国家戦略でも27%程度で最も頻繁に言及されていたが、「種」に関する言及は23.4%から11.2%に、「遺伝子」に関する言及は15.9%から6.2%まで、第1次から第5次国家戦略までの間に減少したことが明らかになった。現行の国家戦略では施策数においても、種や遺伝的多様性に関する施策は特に少なく、遺伝的多様性に関する数値目標数はわずか1つのみにとどまった。そして科学的基盤の強化に関する基本戦略に対応する施策が他の基本戦略と比較して少ない一方で、「生態系サービス」への言及頻度は急激に増加し、「生態系サービス」が生物多様性を宣伝する新たな用語として使われ始めていることが示唆された。

言及状況

外部データベース (DOI)

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生物多様性国家戦略の定量分析:内容の変遷と施策の偏り https://t.co/Eeg5OF9UJ7
J-STAGE Articles - 生物多様性国家戦略の定量分析:内容の変遷と施策の偏り https://t.co/Gvw7AfOfNg
地域戦略じゃなくて国家戦略についてだけど、こういう研究もある。これおもしろい。どっち向いて進んでるのかよくわかる。 J-STAGE Articles - 生物多様性国家戦略の定量分析:内容の変遷と施策の偏り https://t.co/die1CruB4p
#研究事例リストに追加しました:秋山辰穂・水島希・標葉隆馬 2018 「生物多様性国家戦略の定量分析 ―内容の変遷と施策の偏り―」 『保全生態学研究』 23(2): 187-198 https://t.co/DksZab4X3H ※お知らせ感謝申し上げます。
前任校の総研大時代に副論文指導を担当していた秋山さんの成果が論文として公開されました。非常に嬉しい限り。/ 秋山辰穂, 水島希, 標葉隆馬. (2018) 生物多様性国家戦略の定量分析:内容の変遷と施策の偏り. 保全生態学研究 23(2):187-198.  https://t.co/18rVePJNnq

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