著者
佐倉 統 平石 界 池田 功毅 中西 大輔 横田 晋大 三浦 麻子 小森 政嗣 松村 真宏 林 香里 武田 徹 水島 希
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-10-21

放射線リスクの認知特性と社会内拡散動態を明らかにし、風評被害や差別の抑制に貢献することが目的である。個人の認知的特性を対象とする行動免疫班の実験は、放射線リスクに対する忌避感情が当初の予想より強固で制御困難であることを明らかにした。放射線リスク関連情報のツイッターでの動態を解明するソーシャルメディア班は、放射線についての否定的感情が強力であり、他の災害リスクと異なる拡散パターンを確認した。抑圧的でないリスク管理の方途を考察する社会実装班は、感染症などの過去の風評被害や差別の事例との比較分析やメディア論的考察をおこなった。研究遂行および成果発表は福島の研究者や生活者と共有することを心がけた。
著者
秋山 辰穂 水島 希 標葉 隆馬
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.187-198, 2018 (Released:2018-12-27)
参考文献数
55

近年、生物多様性は急速に失われつつあり、その保全と持続可能な利用は人類社会の重要な課題である。「生物多様性」は、生物学者たちによって1986年に創られ保全活動の普及宣伝に使われてきた言葉であり、1992年に採択された生物多様性条約において異なる3つの階層(生態系、種、遺伝的多様性)を包括する概念であると定義される。日本は条約締約国として生物多様性国家戦略を過去5回にわたって策定してきた。しかし、日本で国家戦略がどのように生物多様性の科学的側面と関わり、その内容を変化させてきたかは明らかでない。本研究では、全5回の国家戦略を対象に定量テキスト分析ならびに内容分析を行い、内容の変遷を特に多様性の3つの階層の扱われ方の違いに注目して記述した。さらに、最新の第5次国家戦略において基本戦略や世界目標である愛知目標に対してどのように施策が設定されているかを定量的に調査した。その結果、国家戦略において中心となる話題が、「野生生物」から「自然環境」、そして「人間社会」へと2度の大きな変遷をしてきたことが示された。生物多様性の3つの階層に関連する各コンセプトに言及している段落の出現頻度も変化し、「生態系」に関してはどの時期の国家戦略でも27%程度で最も頻繁に言及されていたが、「種」に関する言及は23.4%から11.2%に、「遺伝子」に関する言及は15.9%から6.2%まで、第1次から第5次国家戦略までの間に減少したことが明らかになった。現行の国家戦略では施策数においても、種や遺伝的多様性に関する施策は特に少なく、遺伝的多様性に関する数値目標数はわずか1つのみにとどまった。そして科学的基盤の強化に関する基本戦略に対応する施策が他の基本戦略と比較して少ない一方で、「生態系サービス」への言及頻度は急激に増加し、「生態系サービス」が生物多様性を宣伝する新たな用語として使われ始めていることが示唆された。
著者
ヴァン・アウドヒュースデン ミヒェル ケネンス ヨーク 吉澤 剛 水島 希 ヴァン・ホーイヴィーヒェン イネ
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.58-73, 2020-04-30 (Released:2021-04-30)
参考文献数
68

本稿では,福島原子力発電所事故後の市民科学に関する日本―ベルギー共同研究プロジェクト(2017-2019)の経験を振り返る.この社会科学研究プロジェクトでは,市民主導のデータ駆動型放射線モニタリングに対し,公的機関や科学研究コミュニティがどのように反応したかを探究した.質的な(自己)民族誌手法を用い,関係者,特に市民科学者と,放射線防護に関する職業科学者との実りある協力関係を探り,その中で浮かび上がってきた可能性と課題に光を当てる.我々自身を含めた関係者間の関係性は,放射能汚染や環境問題のガバナンスの進退を左右する.このことから,関係者間の相互作用をどのように展開し,交渉し,実行するかについて,あらゆる関係者間での,より再帰的な対話を支持する.