著者
矢野 和美 山下 寿 財津 昭憲 瀧 健治 古賀 仁士
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.528-533, 2018-06-30 (Released:2018-06-30)
参考文献数
12

重症の高齢者肺炎患者に対し,どこまで積極的に治療を行うか,救急の現場で医療従事者が悩む症例が増えている。今回,当院救命救急センター搬送後,人工呼吸管理を行った75歳以上の高齢者肺炎患者を生存退院群と死亡退院群に分け患者背景,予後因子を検討した。ICU,HCU入室患者124例中,45名が人工呼吸管理され,転帰は生存退院が13例(28%),死亡退院が32例(72%)であった。また生存退院13例のうち,11例は退院時のADLが入院前と比較して低下しており,人工呼吸器離脱困難が4例,自宅に戻れた患者は2例のみであった。生存退院群と死亡退院群の比較では,アルブミン値,PH,PaCO2値,乳酸値で有意差を認め,アルブミン値とPaCO2値が独立した予後因子であった。今回の結果より人工呼吸管理を行った高齢者肺炎患者の予後は厳しいうえ,生存転帰が社会復帰となることは難しく,患者の栄養状態,社会的背景,退院後転帰を考慮した治療指針が必要ではないかと考えられた。
著者
板垣 有亮 瀧 健治 山下 寿 三池 徹 古賀 仁士 為廣 一仁 林 魅里
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.57-62, 2014-02-15 (Released:2014-06-10)
参考文献数
14

症例は33歳の初産婦。妊娠41週0日に1児を正常分娩した。出産後1時間で子宮より2,800mL の出血を認め,ショック状態となり当院へ転院となった。救急搬入時にショック状態が継続していて,搬入後7分でpulseless electrical activity(PEA)となった。9分間のcardiopulmonary resuscitation(CPR)にて心拍再開し,出血性ショックに対してtranscatheter arterial embolization(TAE)後にintensive care unit(ICU)へ入室となった。ICU入室後に羊水塞栓症によるdisseminated intravascular coagulation(DIC)と診断し,人工呼吸器管理下でDICの治療を行い,3日間のmethylprednisoloneの投与と第1病日,第2病日に血漿交換を行った。第9病日に抜管に至り,抜管後意識レベルはGlasgow coma scale(GCS)15であったが,第19病日に脳静脈洞血栓症を合併し,ヘパリンによる抗凝固療法を開始した。第23病日に再度子宮内出血を認め,超音波検査と血管造影検査にてuterus arteriovenous malformation(子宮AVM)または胎盤遺残と診断し,同日子宮全摘術を施行した。病理結果は第1群付着胎盤遺残であり,子宮筋層血管内にムチン成分と上皮成分を認め,第1群付着胎盤遺残,羊水塞栓症と診断した。術後状態は安定し,第134病日にmodified Rankin Scale Grade 1で独歩退院した。羊水塞栓症は稀な疾患であるが,予後不良な疾患である。羊水塞栓症の診断治療には複数科に渡る早急な判断と集中治療協力体制が肝要である。
著者
山下 寿 古賀 仁士 矢野 和美 瀧 健治 島 弘志
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-6, 2016-02-29 (Released:2016-02-29)
参考文献数
22

現在,わが国は世界最高の超高齢社会を迎えており,厚生労働省も高齢化により増加する医療費を補うために高齢者・現役世代に広く負担増を分かち合う方針を示した。2004〜2013年の高齢者救急搬送の現状を調査し,救急車の適正利用と有料化問題について検討した。65歳以上の高齢者搬送件数は,2004年には2,885件(全体の33.1%)で,2013年は3,754件(全体の41.7%)と増加しており,そのうち外来帰宅は2004年828件(28.7%)で2013年は1,523件(40.6%)と増加していた。不適正利用者は,2011年6.7%,2012年6.3%,2013年5.4%であった。外来帰宅=(イコール)軽症例=(イコール)不適正利用との見方もある。実際に外来帰宅件数(軽症例)は10年間で約1,200人増加していた。しかし過去3年間の結果では,不適正利用は高齢者搬送例の5〜6%に過ぎなかった。搬送手段では,救急車以外の代替手段を確保し,福祉制度を充実していくことが救急搬送における軽症例の減少に繋がるものと考えた。また増大する救急需要の抑制と医療費を補填する意味で,有料化は必要である。
著者
金子 朋子 山田 良吉 山下 寿生 小豆 畑茂
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌
巻号頁・発行日
vol.1996, no.6, pp.572-576, 1996

廃プラスチックの油化技術の開発を目的とし,熱硬化性樹脂の熱分解残分の低減化を検討した。熱分解過程における残分化反応がラジカルの再結合による橋かけ,環化であることに着目し,ラジカル受容体の添加による再結合の抑制を試みた。受容体として,実用性を考慮し,またラジカル化および低分子量化しやすいという点から熱可塑性樹脂を用いた。熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂(EP)を 500℃ で 1 時間熱分解したときの残分生成率は 23wt% であった。 EP に熱可塑性樹脂であるポリエチレン(PE)を, PEIEP=4 (重量比)となるように混合し熱分解すると残分生成率は 5wt% に低減した。しかし,すでに残分となった EP に PE を添加し熱分解しても,さらなる残分の分解は認めちれなかった。熱分解ガスの発生挙動を TG-MS 分析で調べた結果 PE と EP の分子間反応の可能性が示唆され, EP から PE ヘラジカルが転移し EP の残分化が掬制される一方で, PE は EP からラジカルを受容することにより分解が促進されガス化が低温化したと考えられた。
著者
吉松 弘喜 海江田 康光 吉田 健治 神保 幸太郎 田中 憲治 坂井 健介 後藤 琢也 瀧 健治 山下 寿 佐藤 公昭 永田 見生
出版者
西日本整形・災害外科学会
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.667-670, 2011-09-25 (Released:2011-12-09)
参考文献数
10

16例のMRSA化膿性脊椎炎について調査を行った.MRSA化膿性脊椎炎の特徴はcompromised hostが多い,先行感染を有する割合が高い,膿瘍合併が多い,麻痺を生じやすい,死亡率が高いとされている.今回の調査では診断時に31%の症例が重症敗血症を合併しており,それらの症例は外科的治療困難で死亡に至っていた.一方,診断時に重症敗血症合併のない症例では再発率,麻痺発生率は高いものの,死亡に至った症例はなかった.従来の報告通り,診断時に重症敗血症を合併している症例では治療に限界があったが,重症敗血症合併のない症例では比較的良好な成績であり,全身麻酔困難例での経皮的病巣掻爬ドレナージの有効な症例を認めた.保存的治療に抵抗性があれば,全身状態をみて早期に低侵襲治療を検討すべきと考えられた.
著者
山下 寿 矢野 和美 古賀 仁士 爲廣 一仁
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.471-477, 2018-06-30 (Released:2018-06-30)
参考文献数
34

総務省の発表では,2015年の国勢調査で日本は世界最高の高齢化率である26.7%を示し,さらに進行することが予測されている。当院の2010〜2014年の高齢者救急の実態調査を行い,これからの方向性を検討した。高齢者の搬入時重症度は,調査期間を通じて外来帰宅・ICU入院・一般病棟入院・外来死亡の順であった。特徴は,ICU入院が高率であったことであり(28.6〜32.7%),その平均年齢は80±8歳であった。また病院到着時心肺停止例に関しては,救命率・社会復帰率・神経学的予後は非高齢者に比して有意に劣っており,一方では医療費には有意差は認めなかった。今後はフレイルに関する臨床データが蓄積され,高齢者各自に応じた適正医療の指針が示されれば,すべての高齢者に一律に最新の高度な救急集中治療を行う医療から,過剰医療・過少医療など不適切な医療が減少し,結果的に医療費削減につながる。