著者
三浦 玲一 川端 有子 戸田山 みどり 渡辺 美樹
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

戸田山の日本における『ちびくろサンボ』の受容史研究から、児童文学の評価においては、「優れた」作品であることが、(児童文学として)「教えるに値する」という価値観/イデオロギーと密接に繋がっていることが示された。渡辺の考察は、このことと関連して、児童文学においては、先行する作品から断絶することで成立する独創性(オリジナリティ)の重視が比較的希薄なこと、同時に、ある種の作品においては、児童文学のコンヴェンション/規範に積極的に依拠しようとする姿勢が見られ、それが評価されていることを調査した。非政治的な「美学的価値」や作者の「オリジナリティ」の虚構性は、いわゆる文学研究においても(多くの論争を巻き起こしながら)既に指摘されている点である。本研究は、そのような性質が、より明示的、あからさまに承認されている場としての「児童文学」を対象とした。個々の作品がその固有性としてもつ、オリジナルな美学的価値とは、20世紀初頭のいわゆるハイ・モダニズムの時代に、芸術としての文学という体制が確立すると共に、自明視されることになる。エレイン・ショウォールターの著作に代表されるような、歴史的なジェンダー研究は、このハイ・モダニズム体制の成立を、文学が(性的な含意を伴った)「表現」として認知される過程と同時進行し、それゆえ、このような美学の成立は、世紀転換期のジェンダー配置の転換と、密接に結び付いていることを示唆している。三浦および川端の研究は、クィア理論以降の拡張されたセクシュアリティの理解から見るとき、児童文学のテクストとみなされるものも亦、セクシュアリティ、ジェンダーの力学から構成されており、そこでは、「児童文学」であることからむしろ積極的に、伝統、規範に依拠しようとしつつ、そのことでむしろ逆説的に、転覆的なジェンダーを描くこととなった諸作品のありようを考察した。
著者
三浦 玲一 越智 博美
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

平成24年度は、三浦と越智の共同の成果公開の機会が多くあった。本プロジェクトの目標通り、リベラリズムのイデオロギーと現代のアメリカ文学研究の深い関係を分析しようとする試みは、三浦、越智が執筆し、三浦が編者をつとめた『文学研究のマニフェスト』(研究社)として刊行された。越智は、第二次世界大戦期の南部文学と新批評がリベラリズムをどのように制度化したのか、三浦は、J・D・サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』とコーマク・マッカッシーの『ザ・ロード』がどのようにリベラリズムの文学として成立しているかを論じた。また、平成23年急逝されたお茶の水女子大学の竹村和子教授を偲ぶ、アメリカ文学会東京支部におけるシンポジウム(6月於慶応大学三田キャンパス)に、三浦、越智の双方が招かれ、発表を行った。この成果は、アメリカ文学会東京支部の紀要『アメリカ文学』の6月発行の次号において、公開される予定である。越智は、竹村さんの仕事を貫くリベラリズムへの複雑な想いを、三浦は、竹村さんの後期の仕事における生政治批判がどのようなリベラリズム批判であるかを論じた。さらに、一橋大学において隔年で慣行されている人文学とジェンダーの関係についての論集が2013年3月に慣行されたが、その編者を三浦がつとめ、そこに越智も執筆した。『ジェンダーと「自由」』(彩流社)と題されたこの論集も、本プロジェクトの延長上で、リベラリズムと人文学的な想像力との関係を、批判的に考察しようとするものである。越智は、冷戦期の男性性が当時のどのようなリベラリズムの言説によって正当化されたかを、三浦は、新自由主義期の男らしさ、女らしさがどのような新しい定義を与えられているかを論じた。
著者
中井 亜佐子 中山 徹 三浦 玲一 越智 博美 鵜飼 哲 河野 真太郎
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、モダニズム研究を地域および時代横断的に展開することによって、越境性と地域性の相互関係を分析し、従来的なモダニズムの時代区分を再検討しつつ、近代の時空間にかんする理論構築を行った。より具体的には、(1)英米の正典的なテクストを、精神分析的および歴史的観点から批判的に精読することによって、モダニズム・モダニティの理論構築を行う、(2)マイノリティや(旧)植民地地域の複数化されたモダニズムを研究し、近代の時空間を理論的、実証的に再検討する、(3)イギリス、北米のモダニズム研究者と研究交流を行い、新しいモダニズム研究のネットワークを構築する、という3点の成果を挙げることができた。
著者
越智 博美 井上 間従文 吉原 ゆかり 齋藤 一 三浦 玲一
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、近代以降の日本が海外との交渉のなかで自己形成してきた事実に着目し、おもに日本と合衆国のあいだのトランスパシフィックな文化の相互交渉が、日本の文化および英米文学研究というアカデミズムに与えた影響の分析である。具体的には英米モダニズムの(特に合衆国を介した)文化・文学の受容、および研究体制が日本の文化や日本の文学研究に与えた影響を、太平洋戦争前後の断絶と継続性を踏まえて考察し、文化や想像力の相互干渉という視点を入れつつ理論化を目指し、またアジア太平洋研究でリードするカリフォルニアの複数大学の研究者・研究所とのあいだで研究の連携体制の構築を目指すものである。