著者
上杉 龍士 西廣 淳 鷲谷 いづみ
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.13-24, 2009-05-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
79
被引用文献数
2

日本において絶滅が危惧されている多年生の浮葉植物であるアサザの生態的・集団遺伝学的現状を明らかにするため、レッドデータブックや地方植物誌などから存在の可能性が示唆された国内の局所個体群について2001年から2003年の開花期にあたる8月から9月に踏査調査を行い、局所個体群の存否、各局所個体群における展葉面積、異型花柱性の花型構成(長花柱型・短花柱型・等花柱型)を調査した。また、それぞれの局所個体群から葉を採取し、マイクロサテライト10座を用いて遺伝的特性を評価した。確認された局所個体群数は64であり、27水系に存在していた。本種は異型花柱性植物であり適法な受粉を行うためには長花柱型と短花柱型の両方が必要であるが、開花を確認した33局所個体群のうちで、それら3つの花型が確認されたのは霞ヶ浦内の2局所個体群のみであった。各局所個体群から2〜57シュートの葉を採集して遺伝解析を行なった結果、同定された遺伝子型は全国で61であった(うち7は自生地では絶滅し系外で系統保存)。また多くの局所個体群は、単一もしくは少数のジェネットから構成されていた。しかし、例外的に長花柱型と短花柱型の両花型を含む霞ヶ浦内の1局所個体群では、遺伝的に近縁な10もの遺伝子型が確認された。有性生殖の存在がジェネットの多様性を生み出したものと考えられる。有性生殖が行われていない局所個体群では、突発的な環境変動によって消滅した場合に、土壌シードバンクから個体群が回復する可能性は低い。またジェネット数が極端に少ないことは、次世代に近交弱勢を引き起こす可能性を高める。これらの要因が、日本におけるアサザの絶滅リスクを高める可能性がある。維管束植物レッドリストの2007年見直し案では、アサザは絶滅危惧II類から準絶滅危惧種に格下げされている。しかし、今後も絶滅危惧種とみなして保全を進める必要があると考えられる。
著者
藤井 伸二 上杉 龍士 山室 真澄
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.71-85, 2015-05-30 (Released:2017-11-01)
参考文献数
37

アサザの生育環境、開花に関する形質、逸出に関する情報について、現地調査、栽培観察、標本調査、聞き取り調査、文献調査を行った。また、遺伝的多様性についてマイクロサテライト多型を用いた再検討を行った。遺伝的多型については、波形ピークの読み取りが困難な遺伝子座が多くて十分な成果を得ることができなかったが、猪苗代湖と琵琶湖において多型が検出された。また、非開花個体群は広範囲に散在して分布し、遺伝的な多型を有することが明らかになった。生育環境の情報について整理した結果、琵琶湖においてはおもに周辺の内湖や接続水路および河川から記録されていることが明らかになった。逸出については、その疑いのある個体群が各地に存在することが明らかになった。
著者
上杉 龍士 西廣 淳 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.13-24, 2009-05-30
被引用文献数
1

日本において絶滅が危惧されている多年生の浮葉植物であるアサザの生態的・集団遺伝学的現状を明らかにするため、レッドデータブックや地方植物誌などから存在の可能性が示唆された国内の局所個体群について2001年から2003年の開花期にあたる8月から9月に踏査調査を行い、局所個体群の存否、各局所個体群における展葉面積、異型花柱性の花型構成(長花柱型・短花柱型・等花柱型)を調査した。また、それぞれの局所個体群から葉を採取し、マイクロサテライト10座を用いて遺伝的特性を評価した。確認された局所個体群数は64であり、27水系に存在していた。本種は異型花柱性植物であり適法な受粉を行うためには長花柱型と短花柱型の両方が必要であるが、開花を確認した33局所個体群のうちで、それら3つの花型が確認されたのは霞ヶ浦内の2局所個体群のみであった。各局所個体群から2〜57シュートの葉を採集して遺伝解析を行なった結果、同定された遺伝子型は全国で61であった(うち7は自生地では絶滅し系外で系統保存)。また多くの局所個体群は、単一もしくは少数のジェネットから構成されていた。しかし、例外的に長花柱型と短花柱型の両花型を含む霞ヶ浦内の1局所個体群では、遺伝的に近縁な10もの遺伝子型が確認された。有性生殖の存在がジェネットの多様性を生み出したものと考えられる。有性生殖が行われていない局所個体群では、突発的な環境変動によって消滅した場合に、土壌シードバンクから個体群が回復する可能性は低い。またジェネット数が極端に少ないことは、次世代に近交弱勢を引き起こす可能性を高める。これらの要因が、日本におけるアサザの絶滅リスクを高める可能性がある。維管束植物レッドリストの2007年見直し案では、アサザは絶滅危惧II類から準絶滅危惧種に格下げされている。しかし、今後も絶滅危惧種とみなして保全を進める必要があると考えられる。
著者
上杉 龍士 田渕 研 小西(降幡) 令子 吉村 英翔
出版者
北日本病害虫研究会
雑誌
北日本病害虫研究会報 (ISSN:0368623X)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.71, pp.131-137, 2020-12-15 (Released:2021-12-15)
参考文献数
14

キャベツ圃場でのオオムギ混植とネット障壁設置による害虫の発生抑制効果とその要因を検証した.対照区(無処理区),ネット障壁区(物理的障壁区),オオムギ混植区を比較したところ,コナガ,キンウワバ類,モンシロチョウ,およびアブラムシ2種いずれについても,オオムギ混植区で発生量が最も低く抑えられ,特にモンシロチョウとアブラムシ2種に対する効果が顕著であった.ネット障壁でも害虫の発生が抑制されたが,その効果はオオムギ混植に劣った.このことから,オオムギには害虫に対する物理的障壁機能に加えて,害虫の定位行動を視覚的・化学的に攪乱する機能の存在が推察された.また本研究では,オオムギ混植によるゴミムシ類,クモ類,アリ類,コメツキムシ類の発生量の増加はなく,これらの天敵類は害虫の発生抑制の要因ではないと考えられた.一方で,キャベツ葉上のヒラタアブ類幼虫・蛹がオオムギ混植区で速やかに増加したことから,これがアブラムシ類の発生抑制の一要因であると考えられた.
著者
高川 晋一 西廣 淳 上杉 龍士 後藤 章 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.109-117, 2009-05-30

絶滅のおそれのある水生植物アサザ(Nymphoides peltata)の個体群を土壌シードバンクから再生させるための事業が、霞ヶ浦(茨城県)において、国土交通省により行われた。本論文では、この事業の概要と、連動して実施した研究の成果について報告する。事業では、アサザの発芽・定着適地の条件を、生理生態学的特性と過去の湖岸環境に関する知見に基づき「春先の季節的水位低下で湖岸に露出する裸地的条件」と予測した上で、そのような条件を含む場の整備が行われた。その結果として、工事を実施した2002年に267個体の実生を定着させることに成功した。しかし、定着した実生は陸生型にとどまり、2002・2003年の生育期を通して浮葉型としての栄養成長は認められなかった。そこで、一部の実生を採取し、栽培条件下で過去の霞ヶ浦に存在した水位変動の条件を再現して育成し、2004年に湖に再導入した。その結果、少なくとも10ジェネットが定着し、導入から3年後にはその浮葉は合計488m^2の範囲に広がり、開花、種子生産、およびそれに由来すると推測される湖岸での発芽も確認された。これらの取り組みを通じて、「春先に水位が低下し、その後に上昇する」という、かつての季節的水位変動パターンを回復することが、自立的に存続可能な個体群の再生にとって重要であることが検証された。
著者
長坂 幸吉 日本 典秀 上杉 龍士 勾坂 晶 光永 貴之
出版者
関東東山病害虫研究会
雑誌
関東東山病害虫研究会報 (ISSN:13471899)
巻号頁・発行日
vol.2016, no.63, pp.81-86, 2016-12-01 (Released:2017-12-26)
参考文献数
11

コレマンアブラバチ (以下コレマンとする) とナケルクロアブラバチ (以下ナケルとする) の併用によるアブラムシ防除効果を施設イチゴにおいて検証した。2014年作では発生初期のワタアブラムシ (以下ワタとする) に対して,両アブラバチを各1頭/m2で放飼した放飼区と無放飼区とでワタの個体数を比較したところ,放飼区では有意に個体数増加が抑制された。2015年作では,各アブラバチを0.5頭/m2で放飼した放飼区と無放飼区との間で接種したチューリップヒゲナガアブラムシ (以下チューリップとする) の個体数を比較したところ,放飼区での個体数は無放飼区に比べて有意に少なかった。また,同時に発生したワタに対しても,有意に個体数増加を抑制した。コレマンはワタのみにマミーを形成したが,ナケルはワタとチューリップの両方にマミーを形成した。これら2事例の結果から,コレマンとナケルの併用により両アブラムシが同時発生しても密度を抑制できる可能性が示唆された。