著者
高川 晋一 植田 睦之 天野 達也 岡久 雄二 上沖 正欣 高木 憲太郎 高橋 雅雄 葉山 政治 平野 敏明 葉山 政治 三上 修 森 さやか 森本 元 山浦 悠一
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.R9-R12, 2011 (Released:2011-12-09)
参考文献数
7
被引用文献数
8

全国的な鳥類の分布情報データを用いて,各種の分布を決める要因や生息数の増減に影響する要因等を探る上で,どのような生活史・生態・形態的な特性をもった鳥において変化が見られるのかを検討することは,効果的な解析手法の1つである.こうした解析を行なうためには日本産鳥類の形態や生態に関する情報が必要である.そこで,今回,海鳥類を除いた日本でみられる鳥類493種について,生活史や生態,形態の情報についてとりまとめ,データベース化した.このデータベース「JAVIAN Database(Japanese Avian Trait Database)」は,さまざまな研究を行なう上でも有用な情報と考えられるため,ここに公開した.
著者
生態系管理専門委員会 調査提言部会 西田 貴明 岩崎 雄一 大澤 隆文 小笠原 奨悟 鎌田 磨人 佐々木 章晴 高川 晋一 高村 典子 中村 太士 中静 透 西廣 淳 古田 尚也 松田 裕之 吉田 丈人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2211, (Released:2023-04-30)
参考文献数
93

近年、日本では、急速な人口減少が進む中、自然災害の頻発化、地域経済の停滞、新型コロナウィルス感染症の流行等、様々な社会課題が顕在化している。一方で、SDGs や生物多様性保全に対する社会的関心が高まり、企業経営や事業活動と自然資本の関わりに注目が集まっている。このような状況を受けて、グリーンインフラ、NbS(自然を活用した解決策)、Eco-DRR(生態系を活用した防災減災)、EbA(生態系を活用した気候変動適応)、地域循環共生圏等、自然の資源や機能を活用した社会課題解決に関する概念が幅広い行政計画において取り上げられている。本稿では、日本生態学会の生態系管理専門委員会の委員によりグリーンインフラ・NbS に関する国内外の動向や、これらの考え方を整理するとともに、自然の資源や機能を持続的・効果的に活用するためのポイントを生態学的な観点から議論した。さらに、地域計画や事業の立案・実施に関わる実務家や研究者に向けた「グリーンインフラ・NbS の推進において留意すべき 12 箇条」を提案した。基本原則:1)多様性と冗長性を重視しよう、2)地域性と歴史性を重視しよう。生態系の特性に関する留意点:3)生態系の空間スケールを踏まえよう、4)生態系の変化と動態を踏まえよう、5)生態系の連結性を踏まえよう、6)生態系の機能を踏まえよう、7)生態系サービスの連関を踏まえよう、8)生態系の不確実性を踏まえよう。管理や社会経済との関係に関する留意点:9)ガバナンスのあり方に留意しよう、10)地域経済・社会への波及に留意しよう、11)国際的な目標・関連計画との関係に留意しよう、12)教育・普及に留意しよう。
著者
高川 晋一 西廣 淳 上杉 龍士 後藤 章 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.109-117, 2009-05-30

絶滅のおそれのある水生植物アサザ(Nymphoides peltata)の個体群を土壌シードバンクから再生させるための事業が、霞ヶ浦(茨城県)において、国土交通省により行われた。本論文では、この事業の概要と、連動して実施した研究の成果について報告する。事業では、アサザの発芽・定着適地の条件を、生理生態学的特性と過去の湖岸環境に関する知見に基づき「春先の季節的水位低下で湖岸に露出する裸地的条件」と予測した上で、そのような条件を含む場の整備が行われた。その結果として、工事を実施した2002年に267個体の実生を定着させることに成功した。しかし、定着した実生は陸生型にとどまり、2002・2003年の生育期を通して浮葉型としての栄養成長は認められなかった。そこで、一部の実生を採取し、栽培条件下で過去の霞ヶ浦に存在した水位変動の条件を再現して育成し、2004年に湖に再導入した。その結果、少なくとも10ジェネットが定着し、導入から3年後にはその浮葉は合計488m^2の範囲に広がり、開花、種子生産、およびそれに由来すると推測される湖岸での発芽も確認された。これらの取り組みを通じて、「春先に水位が低下し、その後に上昇する」という、かつての季節的水位変動パターンを回復することが、自立的に存続可能な個体群の再生にとって重要であることが検証された。
著者
高川 晋一
出版者
University of Tokyo (東京大学)
巻号頁・発行日
2006-03-23

近年、世界中で多くの植物種が絶滅の危機に瀕しており、その個体群再生の実践に寄与する保全生態学的知見の蓄積および具体的な技術や管理手法の確立が求められている。本研究は、霞ヶ浦において市民・行政・研究者の協働によって実施されている絶滅危惧植物アサザの個体群再生のとりくみと連携し、土壌シードバンクからの個体群および遺伝的多様性の再生の可能性やその手法を実践的、順応的に検討したものである。第1章では、研究の背景となる絶滅危惧種の個体群の保全と再生に関わる保全生態・遺伝学的知見を整理した。絶滅危惧植物の多くが個体群サイズの縮小した状態で残存しており、それらはさまざまな決定論的・確率論的要因が互いに絶滅を加速しあう「絶滅の渦」に巻き込まれている。個体群を再生して絶滅を回避するためには、個体群の存続に影響を及ぼす個体群統計学的要因と遺伝的要因の双方を理解することが欠かせない。絶滅危惧種の保全・再生は緊急性が高い一方で不確実性が高いため、現段階での最良の知見にもとづき実践を進め、それを通じて知見を蓄積していく順応的管理が有効であると思われる。また、絶滅危惧植物の個体群とその遺伝的多様性の再生の材料としては、地上個体群の消滅後も残存している可能性のある土壌シードバンクが有用であると期待される。第2章では研究対象種のアサザの生態と、保全上の観点から日本における現状を整理した。アサザは、かつては日本各地の湖沼やため池に広く分布していた多年性浮葉植物である。しかし、近年急速に衰退し、2003年の時点で確認された個体群数は全国でわずか67、その個体数は56ジェネットにすぎない。霞ヶ浦の個体群は、比較的多くのジェネットが残存し、有性繁殖に必要な長花柱花・短花柱花の両花型が全国で唯一確認される個体群である。しかし、この個体群も湖の水位操作が強化された1996年から急激な衰退が進行し、2000年までに局所個体群数は34から14に、残存クローン数は19にまで減少した。霞ヶ浦南西岸の江戸崎町「鳩崎地区」の湖岸には、かつて複数花型からなるアサザ個体群が存在していたが、1998年に消滅した。その後も土壌シードバンク(土壌中の休眠種子)から実生が出現しているが、これらはすべて定着に失敗している。個体群の絶滅を回避し、その遺伝的多様性を維持するには、有性繁殖に関わる各生活史段階の環境要求性を明らかにし、その条件を保障することで個体数の回復を促す必要がある。その際、遺伝的な現状を把握し、遺伝的側面も配慮した再生計画を立案することがのぞまれる。第3章では、土壌シードバンクからの個体群の再生の前提となる、アサザのセーフサイトの環境条件を小規模な再生実験によって検討した。アサザの発芽と実生定着に必要な「セーフサイト」は、その発芽特性と過去の霞ヶ浦の水位変動パターンから、「春先の季節的水位低下で湖岸に露出する裸地的環境」であると推測されている。2002年に鳩崎地区の湖岸において、この仮説を検証しつつ実際に実生更新を促す目的で小規模な再生実験を実施した。現在の湖岸では利水を目的とした水位操作により春先の水位低下が生じないため、仮説上のセーフサイトの条件を含むように波浪条件や冠水頻度、光条件の変異幅を人為的に拡張し、導入した実生の生存と成長を比較することで仮説を検証した。その結果、実生の生存には冠水期間と光条件の両方が強く影響し、調査期間中の冠水期間が30%以下、相対光量子密度が50%以上の環境でのみ、75%以上の実生が定着した。このことは、アサザのセーフサイトは春先の水位低下で出現する裸地的環境であるという仮説を支持するものであり、自然の実生更新のためには過去の季節的水位変動パターンの回復が重要であることが示唆された。また実験を通じて計136個体を定着させることに成功し、個体群再生の材料としての土壌シードバンクの有効性が強く示唆された。第4章では、土壌シードバンクから再生される実生集団における近交弱勢を、遺伝解析と栽培実験によって検討した。再生実験により実生定着を促すことができたが、個体群の消滅直前に生産された種子がシードバンクに大きく寄与している場合には、最後まで残存していた等花柱花ジェネットの自殖子孫の比率が大きいはずである。そこで、2003年に土壌シードバンクから出現した実生(n=190)を湖岸3ヶ所(鳩崎・古渡・稲荷鼻)から採取し、(1)受粉実験により作成した自殖および他殖由来の子孫を対照として、それらの実生の生活史初期段階における適応度成分を定量的に評価し、(2)遺伝マーカーを用いた解析によりシードバンクを生産した親個体の数や交配時の自殖・近親交配の程度を推定することで、再生される個体群における近交弱勢の影響を評価した。遺伝解析の結果からは、実生集団はわずか2から8個体の親に由来し、2つの集団において等花柱花ジェネットの自殖に由来する実生が圧倒的に優占(古渡86.8%、稲荷鼻94.7%)していることが判明した。しかし、地上部個体群から既に失われている対立遺伝子をもつ実生も59個体(全体の31%)確認された。主に自殖由来と考えられるそれらの実生の乾重量や相対成長率などの適応度成分は、自殖子孫と同程度であった。このことから、縮小した個体群の再生にあたってはボトルネックに起因する遺伝的悪影響を十分に考慮することの重要性が示された。第5章では、アサザの個体群再生の実践に先だって必要な各生活史段階における基礎的な生態学的知見を得るための研究について記した。残存する土壌シードバンクは、個体群サイズ(第3章)や遺伝的多様性(第4章)の回復の材料として有効であることが示された。局所個体群が近年消滅した湖内の他の湖岸においてもシードバンクを活用した再生の可能性を、各地点の湖岸における実生発生密度とその経年変化を調査することで検討した。湖岸での実生発生密度は2ヶ所(鳩崎・古渡)を除いて極めて低かった。また、鳩崎での実生発生密度は個体群消滅直後の1999年の43.4個体/m2から2005年には1.1個体/m2まで指数関数的に減少した。古渡では第3章と同様の手法でシードバンクの活用が可能であり早急に再生を実施する必要があること、他の場所では遺伝的多様性を保存するために実生を採取して系統保存する必要があること示された。現在の水位条件でも実生定着を促すことができるものの(第3章)、定着後には季節的な水位上昇が生じない。水位条件が定着後の成長に及ぼす影響を評価するため、野外実験池における異なる水位条件での定着個体の成長を比較した。その結果、非冠水条件では走出枝伸長や成長が強く抑制された。定着後のクローン成長には冠水条件での生育が必須であることが示された。霞ヶ浦における残存シードバンクは等花柱花の自殖子孫が優占的であり(第4章)、次世代以降における等花柱花の優占が懸念される。栽培実験により各花型の自殖子孫とシードバンク由来の個体の花型比を調査した。シードバンク由来の個体での等花柱花個体の優占が認められた。このことから再生される個体群における異型花柱性の崩壊が懸念される。第6章では、霞ヶ浦の湖岸植生帯緊急保全対策事業の一環として2000年から鳩崎地区の湖岸で実施されているアサザ個体群の再生事業において、仮説検証のための科学的実験と位置付けて事業を実施する「順応的管理」を適用することで、アサザ個体群の再生・維持に必要な科学的知見を蓄積しつつ個体群の再生をすすめた研究の成果をまとめた。実生定着セーフサイトとして推測される「波浪や冠水の影響の少ない裸地的環境」が、湖岸200mの範囲に土木工学的に整備された。一方で、事業の不確実性に備えて実生の系統保存がおこなわれた。2002年には267個体の定着個体が確認されたが、定着後の水位上昇が生じないことや抽水植物の優占による裸地的環境の消失により、2年後には生存数は65個体まで減少した。第5章で得られた知見にもとづいて、(1)適度な波浪により定着個体が生育する場の比高の低下を促す処理および、(2)系統保存株の湖への移植という手法により、冠水条件での定着後の定着を実現する新たな管理を2004年から実施した。その結果、(1)の手法では地形変化は限定的であり浮葉型での生育を実現できなかったが、(2)の手法では、全ての個体が生残して開花に十分なサイズまで成長し、種子生産とともに近隣の湖岸での実生の出現が確認された。生活補完アプローチを順応的管理の下で実施したことで、アサザの各生活史段階の環境要求性に関する知見が得られ、一部ではあるが実生更新を実現させることができた。しかし、自立的に有性繁殖が可能な個体群の再生には、霞ヶ浦本来の水位変動パターンの回復をまたなくてはならない。第7章では本研究から得られた絶滅危惧植物の個体群再生に寄与する知見を総合的に整理した。本研究では、アサザの生活史の各段階における制限要因と生活史全体の環境要求性を解明するとともに、有性繁殖のプロセスを人為的補助手段により補完することで、部分的に個体群を再生することに成功した。また、本研究を通じて、絶滅危惧植物の個体群サイズと遺伝的多様性の回復の材料としての土壌シードバンクの有効性や、このような再生の実践における順応的なとりくみの有効性、個体群の再生における遺伝的要因の重要性が明らかにされた。
著者
高川 晋一
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科生圏システム学専攻
巻号頁・発行日
2006-03-23

報告番号: 甲21314 ; 学位授与年月日: 2006-03-23 ; 学位の種別: 課程博士 ; 学位の種類: 博士(農学) ; 学位記番号: 博農第3027号 ; 研究科・専攻: 農学生命科学研究科生圏システム学専攻