著者
上野 徳美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.31-37, 1991-07-20 (Released:2010-02-26)
参考文献数
14
被引用文献数
1

本研究は, 説得メッセージの反復提示と圧力 (自由への脅威) が説得の受容と抵抗の両側面にどのような影響を及ぼすかについて検討することを目的とした。本研究で用いられた要因は, メッセージの提示回数 (1, 3, 5回) と圧力 (大小) の2要因であり, 2×3の要因計画のもとに実験が実施された。実験では順態度的メッセージが用いられ, 被験者にはテープ・レコーダーを通してメッセージが提示された。メッセージの効果は質問紙によって多面的に測定された。本研究では, 説得メッセージの圧力の主効果が生じるとともに, メッセージの反復提示と圧力との交互作用効果 (反復提示の効果はメッセージの圧力の大きさによってかなり異なった様相を呈する) が得られるであろう, と予測した。実験の結果, まずメッセージの圧力の主効果が認められた。圧力の小さいメッセージにおいては説得の肯定的な効果が生じたのに対して, 圧力の大きいメッセージにおいては反対に説得への抵抗や否定的効果が生じた。また, メッセージ評価や意見といった測度において, メッセージの反復提示と圧力の要因の交互作用効果が得られた。すなわち, 圧力小のメッセージでは, 提示回数と説得効果の間に逆U字型 (3回提示の時に肯定的効果が最大) の傾向が生じ, 過度な反復 (5回提示) は否定的効果を引き起こした。他方, 圧力大のメッセージでは反対にU字型の傾向が認められ, 3回提示の時に否定的効果が最大であった。後者のU字型のパターンに関しては予測と一部異なったものの, それ自体注目すべき結果を示した。以上の結果は, メッセージの反復という要因が説得の受容や抵抗を規定する重要な要因になりうることを示した。また, メッセージ反復による説得の受容や抵抗の生起過程は, リアクタンス理論とELM (Elaboration Likelihood Model: 精緻化可能性モデル) をもとに考察された。
著者
横川 和章 上野 徳美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.61-67, 1982-08-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
18

本研究の目的は, 集団極化現象の生起するメカニズムについて, 社会的比較説の立場から検討することであった。特に, 能力比較を基礎とした意見の比較が, 同質的集団内で生起する極化現象のメカニズムとして意味があるか否かを検討した。被験者は83名で, 彼らは, 比較の対象となる他者が高い能力をもつ条件 (H条件), 平均的な能力をもつ条件 (M条件) の実験条件, および統制条件にそれぞれ無作為に割り当てられた。実験条件の被験者は, 他者の意見 (アドバイスの平均値) に接触した。比較の対象となる他者は同じクラスの学生であった。材料としてはCDQ (Choice Dilemma Questionnaire) 4事例が用いられた。主な結果は以下の通りであった。事例1では, H条件においてriskyな方向への意見変化がみられた。すなわち高能力の他者との比較を通して極化現象が生起した。事例3でも同様にH条件においてriskyな方向への意見変化がみられた。また, アドバイスの初期態度の位置によって極化の程度が異なる傾向にあった。以上の結果は, 能力比較を基礎とした意見の比較が起こり得ることを示しており, 自分よりある程度能力の高い他者との比較を通して集団極化現象が生起することを示唆するものであった。また, 筆者らの前研究との考察において, 比較他者の属する集団の性質, すなわち, 被験者にとって同質的であるか, 異質的であるかによって集団極化現象の生起の様相の異なることが示唆された。
著者
上野 徳美
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.195-201, 1994-11-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
15

本研究は, 被影響性の性差, すなわち説得の受容や抵抗を規定する受け手の男女差の問題を説得の圧力 (自由への脅威) の強さとの関連において検証することを目的とした。とりわけ, 説得の圧力の大小によって性差の生じ方に違いが認められるか否か, また, 性差が見られる場合, そこにどのような心理的メカニズムが働くかを中心に検討した。実験は, 2 (説得メッセージの圧力: 大, 小) ×2 (受け手の性別: 男, 女) の要因計画に基づいて実施され, 説得メッセージの提示直後に, メッセージに対する反応が多面的に測定された。実験の結果, 説得に対する認知反応 (好意的思考) に関して受け手の性の主効果が見られ, 女性は説得に肯定的な反応を示したのに対して, 男性は否定的な反応を示した。話題に関する意見においては十分に有意ではなかったが, 性の主効果の傾向が認められた。また, 認知反応 (好意的思考と反論の両者) や送り手の評価に関して, 圧力の大きさと受け手の性との交互作用効果があり, 話題に関する意見についても類似の傾向が見られた。すなわち, 説得の圧力が小さい時には性差が認められないのに対して, 圧力が大きい時には女性被験者では説得を受容する反応が見られ, 男性被験者では説得への抵抗が生じた。これらの結果は, 説得による同意への圧力が大きい場合に被影響性の男女差が明瞭になりやすいことを示したものであり, 受け手の性の効果は説得の圧力の強さと相互作用することを強く示唆している。さらに, メッセージ接触中に生じる受け手の認知反応 (好意的, 非好意的思考) や送り手に対する評価が, 被影響性の性差を生み出す媒介過程として関与していることが示唆された。
著者
菅沼 崇 古城 和敬 松崎 学 上野 徳美 山本 義史 田中 宏二
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.32-41, 1996
被引用文献数
1

本研究は友人によるサポート供与と評価懸念が生理的, 認知的, および行動的なストレス反応に及ぼす効果を実験的に検討することを目的とした。2 (友人サポートの有無) ×2 (評価懸念の有無) の要因計画で, 被験者は大学生79名。彼らはそれぞれ親しい友人と実験に参加した。サポート供与条件では, 友人は被験者がアナグラム課題を遂行している間, 自発的にそして被験者の要請に応じてサポートを供与した。他方, サポートなしの条件では, 友人はサポートを一切供与しなかった。評価懸念ありの条件では, 友人は被験者が課題を遂行する状況を観察することができた。従属変数としてのストレス反応は, 平均血圧 (MBP), 認知的干渉, および課題正答数で測定された。<BR>その結果, 評価懸念あり条件ではサポート供与の有無の条件間に差はなかったが, 評価懸念なし条件ではサポート供与あり条件の方がなし条件よりMBPが有意に低いことが認められた。したがって, 評価懸念をもたらさない友人のサポート供与はストレスを緩和する効果をもつことが指摘された。
著者
上野 徳美 林 智一
出版者
九州地区国立大学間の連携に係る企画委員会リポジトリ部会
雑誌
研究論文集-教育系・文系の九州地区国立大学間連携論文集- (ISSN:18828728)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, 2010-09

全人的医療実現のためには、人間の心理や行動、対人関係などを科学的・実証的 に探求する学問である心理学の知識や素養が医師・医学研究者には求められる。本論文では医学教育における心理学の役割を①教養教育、人間性教育、②専門基礎教育、③卒後教育、生涯学習という 3 つの観点から整理するとともに、一例として特色ある授業など、本医学部の心理学教育の実践を報告した。また、今後チャレンジすべき課題として、医学生のメンタルヘルス支援や教育研究環境整備などについて論じた。
著者
安達 圭一郎 上野 徳美
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.25-31, 2013 (Released:2014-07-03)
参考文献数
31

近年、うつ病などの気分障害患者は増加傾向にある。また、こうした気分障害と境界性パーソナリティ障害との併存率の高さを指摘する研究は数多くなされてきた。しかしながら、気分障害と境界性パーソナリティ障害との関連性について、診断学的に因果関係があるのかどうかについては十分なコンセンサスを得ていない。そこで、本研究は、探索的研究として、大学生を対象に、抑うつ傾向と境界例心性との関連性について、回避を媒介変数としたパスモデルを作成し、共分散構造分析で検討した。その結果、抑うつ傾向は回避を媒介として境界例心性に影響をもつということ、さらに、抑うつ傾向は直接的に境界例心性に影響することが確認された。一方、回避を媒介としないものの、境界例心性から抑うつ傾向への逆向きのパスモデルも適合度指標が高かった。以上の結果から、今後は、臨床群を対象にしたモデルの再検討の必要性が示唆された。
著者
林 智一 上野 徳美
出版者
大分大学高等教育開発センター
雑誌
大分大学高等教育開発センター紀要 (ISSN:18842682)
巻号頁・発行日
no.1, pp.1-11, 2009-03
被引用文献数
1

医療・臨床心理学教育における映画教材の有効性について検証するため、某大学医学部生に対して映画『フライド・グリーン・トマト』を用いた授業を実施し、質問紙調査を行った。その結果、映画視聴が授業テーマへの関心を高め、理解を促進するなどの効果が見られた。また因子分析の結果、本作品の「映画教材活用効果」として、授業テーマへの理解・関心の深まり、映画の多様な見方・学習、ドラマ性、洞察・共感、わかりやすさ、同一視の6因子が抽出された。さらに授業時間の配分や映画選定など、今後の課題についても検討した。