- 著者
-
上野 徳美
- 出版者
- The Japanese Group Dynamics Association
- 雑誌
- 実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
- 巻号頁・発行日
- vol.34, no.2, pp.195-201, 1994-11-30 (Released:2010-06-04)
- 参考文献数
- 15
本研究は, 被影響性の性差, すなわち説得の受容や抵抗を規定する受け手の男女差の問題を説得の圧力 (自由への脅威) の強さとの関連において検証することを目的とした。とりわけ, 説得の圧力の大小によって性差の生じ方に違いが認められるか否か, また, 性差が見られる場合, そこにどのような心理的メカニズムが働くかを中心に検討した。実験は, 2 (説得メッセージの圧力: 大, 小) ×2 (受け手の性別: 男, 女) の要因計画に基づいて実施され, 説得メッセージの提示直後に, メッセージに対する反応が多面的に測定された。実験の結果, 説得に対する認知反応 (好意的思考) に関して受け手の性の主効果が見られ, 女性は説得に肯定的な反応を示したのに対して, 男性は否定的な反応を示した。話題に関する意見においては十分に有意ではなかったが, 性の主効果の傾向が認められた。また, 認知反応 (好意的思考と反論の両者) や送り手の評価に関して, 圧力の大きさと受け手の性との交互作用効果があり, 話題に関する意見についても類似の傾向が見られた。すなわち, 説得の圧力が小さい時には性差が認められないのに対して, 圧力が大きい時には女性被験者では説得を受容する反応が見られ, 男性被験者では説得への抵抗が生じた。これらの結果は, 説得による同意への圧力が大きい場合に被影響性の男女差が明瞭になりやすいことを示したものであり, 受け手の性の効果は説得の圧力の強さと相互作用することを強く示唆している。さらに, メッセージ接触中に生じる受け手の認知反応 (好意的, 非好意的思考) や送り手に対する評価が, 被影響性の性差を生み出す媒介過程として関与していることが示唆された。