- 著者
-
下野 裕之
- 出版者
- 日本作物学会
- 雑誌
- 日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
- 巻号頁・発行日
- vol.83, no.4, pp.341-351, 2014 (Released:2014-11-04)
- 参考文献数
- 16
わが国の食料の生産基盤である耕地は減少を続け,食料安全保障に多大な影響を及ぼしうる.本研究では,わが国の食料の生産力の現状を世界の各地域と比較評価するとともに,潜在的な生産力を現在ならびに将来について推定した.解析は,FAOSTATの主要作物14品目のデータを用い熱量に換算した.わが国で自給している主要作物からの一人あたり一日当たりの供給熱量は1961年の2497 kcalから低下を続け,2010年には795 kcalとなった.この水準は世界平均の26%かつアフリカ地域の37%である.供給熱量を最大化するため,すべての耕地にイネとイモ類を植え付けた場合でも1626 kcalと,アフリカ地域の76%にとどまった.同様に,将来について,人口の減少傾向に加えて,耕地と単収の変化を考慮して4シナリオを比較した.シナリオ1では耕地が減少を続け,単収が増加しない場合,シナリオ2では耕地が減少せず,単収が増加しない場合,シナリオ3は耕地が減少せず,単収が増加する場合,シナリオ4では人口減少がない場合とした.なおシナリオ1~3は人口が減少するとした.2030年において,シナリオ1では1608 kcalと現状と同程度に対し,耕地面積が減少しないシナリオ2では1826 kcalに,それに加えて現在の単収の増加傾向が続くシナリオ3では1976 kcalまで増加が推定された.一方,シナリオ4として人口の減少がないとした場合では1464 kcalまでの減少を予測した.本研究により,わが国の食料安全保障を考えた場合,現在からの耕地面積の減少を回避するとともに,単収の持続的な増加は欠かすことができないことを示した.