著者
中園 明信
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1984

本研究では、水産上重要魚種であるにもかかわらず、その雌雄同体性についてまったく研究の行われていない、マダイ,チダイ,キダイの3種について、性転換が行われるか否かを検討した。【I】マダイマダイは1才前後は卵巣様の生殖腺を持ち、明瞭な精巣組織は認められない。しかしながら、2才になるころに1部の個体で精巣組織が卵巣の腹側で顕著になり両性生殖腺となる。両性生殖腺が見られるのは主として2才魚で3才以上の個体ではほとんど見られなかった。しかし、3才以上の個体でも精巣には元の卵巣腔に相当する空所が認められ、精巣は両性生殖腺をへて分化してくると判断された。以上の結果から、マダイは幼時雌雄同体性で、機能的雌雄同体ではないと判断した。【II】チダイチダイの生殖腺の転換過程もマダイと良く類似していた。すなわち、卵巣から精巣への転換は、未成魚においてのみ観察され、満1才以上の成魚の生殖腺には両性のものは出現せず、精巣には卵巣腔に相当する空所のみが見られた。以上の結果より、チダイも幼時雌雄同体で、機能的な雌雄同体ではないと判断した。【III】キダイキダイは機能的な雌雄同体で、雌から雄への性転換を行うことが知られている。しかし、性成熟に達する満3才で、約20%の雌が存在することが知られている。そこで、本研究では性成熟時に出現する精巣の由来について調べた。その結果、これらの精巣は未熟な卵巣が精巣へと転換することによって生じることが分かった。すなわち、機能的な雌雄同体とされるキダイにおいても幼時雌雄同体性が見られる。
著者
近藤 卓哉 阪田 和弘 竹下 直彦 中園 明信 木村 清朗
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.121-125, 1999-11-30 (Released:2010-06-28)
参考文献数
16

Iwana-charr, Salvelinus leucomaenis is not indigenous to Kyushu Island western Japan. In 1971, this species was transplanted to a commercial hatchery by the Haki River (32°32'N, 130°57'E), a tributary of the upper reaches of the Kuma River System. Some of the charr individuals escaped from the hatchery's holding pond and came into the stream. Fifty-one were collected in the lower reaches near the hatchery but none in the upper reaches during 1994-1996. The collected sample consisted of individuals belonging to plural age classes. In addition, we observed some spawning activities of the charr in November every year during 1994-1997 and found some eggs in the redd. Our findings suggest that reproduction of the charr occurs in some tributaries of the upper reaches of the Kuma River and their distribution is expanding downstream. They also suggest that dams without fishways prevent the charr from migrating upstream.
著者
西田 高志 中園 明信 鬼倉 徳雄 及川 信 松井 誠一
出版者
日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.65-78, 2007-05-25 (Released:2011-06-08)
参考文献数
63
被引用文献数
2

Between July 2002 and June 2005, the fish fauna on the reef in the Tsushima Current, northern Kyushu, was surveyed on a monthly basis by SCUBA diving. A total of 138 species and 42, 769 individuals occurred in the investigated area (1, 200 m2). Five fish species (Halichoeres tenuispinnis, Chromis notata notata, Sebastes inermis, Siganus fuscescens and Girella punctata) comprised approximately 53% of the observed individuals. The number of species and individuals strongly affected the fishes. Based on cluster analysis of the appearance patterns, the observed fishes were grouped into five types: (1) perennial type (Type P) comprising 36 species and 18, 346 individuals, (2) spring type (Type S) comprising 17 species and 2, 655 individuals, (3) summer-autumn type (Type SA) comprising 33 species and 17, 613 individuals, (4) autumn type (Type A) comprising 47 species and 4, 144 individuals, and (5) the others. In addition, differences in the species composition were observed during each season. Thus, fish fauna drastically changed according to the season, which is similar to reefs in temperate waters of Pacific coast of southern Japan.
著者
一丸 俊雄 水田 浩二 中園 明信 TOSHIO ICHIMARU KOJI MIZUTA AKINOBU NAKAZONO 長崎県総合水産試験場 長崎県総合水産試験場:(現)長崎県五島支庁水産課 九州大学大学院農学研究院 Nagasaki Prefectural Institute of Fisheries Nagasaki Prefectural Institute of Fisheries:Fisheries Division of Goto Branch Office of Nagasaki Prefectural Government Faculty of Agriculture Kyushu University
出版者
日本水産學會
雑誌
日本水産学会誌 = Bulletin of the Japanese Society of Scientific Fisheries (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.21-26, 2006-01-15
参考文献数
11
被引用文献数
7

1998~2004年の4~8月に長崎県五島列島沖および鹿児島県屋久島沖で採集したホソアオトビHirundichthys oxycephalusの卵を顕微鏡下で観察した。本種の卵は片側に直径20μmの纏絡糸が1本と10μmの纏絡糸が5~7本,その反対側に6μmの纏絡糸を9~14本有しており,H. coromandelensisの卵に似た形状をしている。纏絡糸の径はH. coromandelensisよりホソアオトビの方が細く,これによって2種を区別することが可能と考えられた。卵の出現は鹿児島県では5~7月,長崎県では7~8月であり,水温により産卵期は異なるものと考えられた。Eggs of the mirror-finned flying fish Hirundichthys oxycephalus were collected from the drifts near Goto Islands and Yaku Island, from April to August within the years of 1998 to 2004. To identify species, the eggs were reared and the hatched larvae were observed. The eggs were 1.6-2.0mm in diameter. Three types of filaments were recognized. One was a single filament of 20μm, the others were 5-7 filaments of 10μm, and 9-14 filaments of 6μm. The number of filaments observed in H. oxycephalus was similar to that formerly reported in H. coromandelensis, however, the thinner diameter of H. oxycephalus filaments than that of H. coromandelensis makes it possible to distinguish between the two species. The eggs were collected in Kagoshima from May to July, and in Nagasaki from July to August, and this difference seems to be due to the difference of water temperature between the two localities.
著者
一丸 俊雄 中園 明信 Toshio Ichimaru Akinobu Nakazono 長崎県総合水産試験場 九州大学農学部水産学科 Nagasaki Prefectural Institute of Fisheries Faculty of Agriculture Kyusyu University
出版者
The Japanese Society of Fisheries Science
雑誌
日本水産学会誌 = Bulletin of the Japanese Society of Scientific Fisheries (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.680-688, 1999-07-15
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

ツクシトビウオの成熟と産卵の実態を明らかにする目的で, 定置網, まき網, 船曳網の漁獲物について性比, GSI, 卵径の測定, 卵巣の組織観察等を行った。岸側の漁獲物では漁期初めに雌の割合が低く, その割合は徐々に高まった。沖側では漁期を通じて約80%が雌であった。GSIは岸側で低く, 沖側で高かった。卵巣内には今後排卵されると思われる卵群の他に発達するであろうと考えられる卵群の分離が見られた。また, 最大の卵径は岸で小さく, 沖で大きい傾向を示し, 岸側の卵巣では97%の高い比率で排卵後濾胞が認められた。ツクシトビウオは産卵期に雌雄別群として来遊し, 最初雄が接岸し, 後から成熟した雌が接岸して産卵が行わると考えられ, 1産卵期中に複数回産卵を行っていると推察された。Investigations were carried out by using the samples caught with set nets, seine nets, and boat seines from 1992 to 1996. Most of the catches with set nets, operated in the near shore, were male in the early fishing season, and according with passage of fishing season the female ratio increased gradually. Eighty percent of the catches with seine nets, operated in the offshore, were female. GSI of females was higher in the catches of the offshore than the near shore. The frequencies of the oocyte diameter showed that ovaries have a small and middle sized oocyte group, and large sized maturing oocyte groups. Ovaries of the offshore catches have large sized oocytes, and ovaries of the near shore catches have small and middle sized oocytes or the transparent oocytes remaining unspwned at the latest spawning. Ninty seven percent of the female catches in the near shore have postovulatory folicles in the ovaries. These results show that the male and female come to the north west coastal waters of Kyusyu in spawning season as separate groups : the male is in the near shore, the female is in the offshore. When ripened, the female go to the near shore for spawning, and immediately after spawning come back to the offshore. The spawning times of C. heterurus doederleini are thought to be at least twice during a spawning season.
著者
中園 明信
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

まず本研究ではシロアマダイとキアマダイの天然標本について、雌雄の別、体長、年齢、成長を比較した。その結果、これらの2種のアマダイ科においても雄が大型であること、雌と雄の中間の体長の雄個体で精巣卵が高頻度で出現することが判明した。これらのことから雌から雄への性転換が示唆されたが、周年にわたり比較的多数の生殖腺を調べたにも関わらず、機能的な卵巣から精巣へと転換中の組織像を示すものや、もと卵巣であったことを示す二次精巣は認められなかった。すなわち、これらの2種のアマダイ科魚類が性転換している可能性は低いと考えられる。次に雌雄による体長差であるが、耳石による年齢査定と成長についての検討を行った。アマダイ科魚類の耳石は年齢形質が読みとりにくく、正確にはさらに検討が必要であるが、現在までのところ雄の方が明らかに成長が早いことが明らかになった。すなわち、この両種で雄の方が大型であるという結果が得られたのは、雌雄の成長差によるものと思われる。さらに、精巣卵の出現であるが、日本栽培漁業協会若狭湾宮津事業場で種苗生産されたアカアマダイ稚魚の生殖腺を追跡調査した結果、アカアマダイは幼時にはすべて卵巣様生殖腺持つことが明らかになった(奥村・中園、未発表)。その後、一部の個体で卵巣組織にかわって精巣組織が発達し、残りの個体ではそのまま卵巣組織が成熟するものと考えられる。すなわち、アカアマダイでは雌雄同体性は見られるが、それは幼時のみである。比較的小型の雄で精巣卵が高頻度で認められるのは、恐らく幼時の卵巣の卵母細胞が発達しつつある精巣内に取り残されたものではないだろうか。事実、精巣卵は退化的傾向が強く分裂像や成熟している像は認められなかった。本研究の重要な成果は、アカアマダイの産卵行動を観察できたことである。アカアマダイは夜明け前に雌雄がペアになり産卵した。さらに、従来分離浮性卵とされていた本種の卵は、産卵直後には粘液に包まれていることが判明した。申請者らは研究発表の欄に記載したように、多くの魚の産卵行動を調べているが、アカアマダイのように粘液に包まれた浮性卵は極めて稀である。この粘液は2、30分の内に消失したが、この粘液が受精にどの様に関与するか詳細に検討することにより、受精率向上につながるものと思われる。
著者
中園 明信
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

15年度年度も昨年度に引き続き、北部九州における磯魚幼稚魚の出現をモニタリングした。15年度も夏から秋にかけて従来見ることの出来なかった多くの暖海性稚魚の出現が見られた。主なものを上げるとコスジイシモチ、ホンソメワケベラ、ナガサキスズメダイ、ニザダイ等である。14年度との大きな違いは14年度に多数出現したイトフエフキが極端に少なかったことである。それに反して、ホンソメワケベラやナガサキスズメダイの数は比較的多かった。イトフエフキは14年度同様の出現を期待していたが、期待に反して少なかったのは14年から15年にかけての冬季が例年になく水温が低かったために産卵親魚群が死滅または分布域が後退したのが原因ではないかと推察された。すなわち、14年から15年にかけての冬季には、例年12℃までしか下がらない沿岸の水温が寒波の襲来で約1週間9℃まで低下した。しかし、寒海性の稚魚の出現は見られなかった。15年度の観察では、水温13℃まで下がった12月中旬まではソラスズメダイはじめ多くの磯魚幼魚が生息していたが、その御数回寒波が来ており、荒天のため観察が出来ていない。しかし、データ・ロガーで水温を記録中であり、本報告書を提出後であっても、調査を行う予定である。また、沖合い60Kmにあり対馬暖流の影響下にある沖ノ島においては、14年の寒波襲来時も水温は13℃以上で、多くの暖海性魚類が生息しており、それらが越冬していることを確認している。以上の3年に亘る観察研究の結果から考えて、水温13℃が暖海性魚類幼稚後が越冬できるかどうかの限界水温になっていると考えられるので、長期的気候変動と磯魚の分布変動との関係を調べるには、水温13℃に注目する必要があるであろう。