著者
辻 恵子 小黒 道子 土江田 奈留美 中川 有加 堀内 成子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.1_7-1_15, 2006 (Released:2008-04-25)
参考文献数
37

目 的エビデンスレベルの高い論文を探索し,批判的に吟味する過程を通じて会陰切開の適用を再考することである。方 法臨床上の疑問を明確化するためのEBNの方法論を用いて,「会陰切開・術」,「会陰裂傷」,「会陰部痛」,「新生児」のキーワードを設定し,エビデンスレベルの高い論文およびガイドラインを探索した。RCTのシステマティック・レビューである2つの論文に着目し,批判的吟味を行った。同時に,会陰裂傷を最小限にする助産ケアの知見について検討した。結 果批判的吟味を行った結果,2つのシステマティック・レビューにおける研究の問いは明確に定義されており,妥当性を確保するための必要項目を満たすものであった。これらのシステマティック・レビューから「慣例的な会陰切開の実施は,制限的な会陰切開に比べ,“会陰(後方)の損傷”のリスクを増大させる。また,“創部治癒過程”における合併症のリスクおよび退院時の“会陰疼痛”のリスクを増大させる。“尿失禁”および“性交疼痛”のリスクを軽減させるというエビデンスはなく,“新生児の健康上の問題”が生じるリスクを減少させるというエビデンスは存在しない」との結果が導かれた。また,これまでの助産ケアの知見を検討した結果,会陰マッサージ,会陰保護,分娩体位の工夫などで会陰裂傷を最小限にする可能性が確認された。結 論女性に優しい助産ケアとして,助産師は,会陰裂傷を最小限に防ぐケアの可能性を追求すると共に,エビデンスに基づいた情報を適切な方法で伝え,女性自身が必要なケアを選択できるよう,女性とのパートナーシップを構築していくことが求められる。
著者
中川 有 中鉢 誠司
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.76, no.7, pp.1577-1581, 2015 (Released:2016-01-30)
参考文献数
9

症例は55歳,女性.皮膚の浮腫と胸壁固定を伴う6cmの左乳房腫瘤を自覚し当院を受診した.浸潤性乳管癌(triple negative)と腋窩および傍胸骨リンパ節転移T4c N3bM0 Stage IIIcと診断し,FEC100×5,ドセタキセル×4を施行後,左乳房切除術および腋窩リンパ節郭清を施行した.病理組織学的には腫瘍径24mm,pN0であったが,化学療法前に傍胸骨リンパ節腫大を認めたことから,胸壁と鎖骨上窩に術後放射線照射(50Gy)を行った.照射6カ月後,発熱と呼吸苦あり,胸部レントゲンで左肺野に浸潤影を,胸部CTで多発する浸潤影とスリガラス様陰影意を認め,放射線療法後器質化肺炎と診断した.ステロイド投与を開始したが,ステロイド減量中に3回の再燃を繰り返したため,シクロスポリンを追加投与した.乳癌術後放射線照射後器質化肺炎にて免疫抑制剤の投与を必要とした症例を経験したので報告する.
著者
中川 有夏 田嶋 佐妃 浅井 純 竹中 秀也 加藤 則人 山田 稔
出版者
日本皮膚科学会大阪地方会・日本皮膚科学会京滋地方会
雑誌
皮膚の科学 (ISSN:13471813)
巻号頁・発行日
vol.13, no.6, pp.415-420, 2014 (Released:2015-05-02)
参考文献数
36

47歳,女性。ウガンダに渡航して7日目に右前腕屈側にそう痒を伴う紅色丘疹が出現した。帰国後,紅色丘疹が増加したため渡航20日目に近医皮膚科を受診した。副腎皮質ステロイド含有軟膏の外用を開始したが,右肩と腰部の紅色結節が増大し疼痛を伴うようになったため,渡航24日目に当院を受診した。数日後紅色結節の中心に虫体を認め,局所麻酔下に4匹の虫体を摘出した。虫体はクロバエ科のヒトクイバエの3齢幼虫と同定した。摘出1ヶ月後,潰瘍は上皮化し,その後症状の再燃は認めていない。ヒトクイバエは衣服や布団などに付着した虫卵を介して寄生する。寄生を予防するためにはヒトクイバエの生息地域への渡航後は衣服にアイロンをかけることが重要であり,ハエ症を疑った際には,身近な人の渡航歴も聴取する必要があると考えた。(皮膚の科学,13: 415-420, 2014)
著者
中川 有加
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.49-64, 2008-06-30
参考文献数
10
被引用文献数
2

目 的<br> 本研究の目的は,正常に進行している仰臥位分娩において児頭娩出から躯幹娩出に至るまでの会陰保護術に伴う介助者の手指・手掌にかかる圧力値を実測し,会陰への負荷を最小限にする助産術を開発することである。特に熟練助産師(以下熟練とする)と新人助産師(以下新人とする)を比較し,熟練の会陰保護術を圧力という視点から説明する。<br>対象および方法<br> 研究条件を満たし,分娩予定日が2005年11月から2006年10月下旬までの初産婦,経産婦を対象とした。また分娩介助500例以上の熟練,分娩介助50例未満の新人を対象とした。研究に同意が得られ,実施できたのは初産婦17名,経産婦17名および熟練4名,新人11名であった。測定用具は,共和電業製超小型圧力変換器(PSM-1KAB),センサーインターフェースボード(PCD-300A)を用いた。予備研究で同定した助産師の右手4ヵ所および左手6ヵ所に超小型圧力変換器を貼付し,分娩介助を行った。排臨から児の躯幹娩出までをデータ収集時間とし,助産師の両手掌にかかる圧力値を左右別,手掌の区分別に基本統計を算出し比較検討を行った。今回の分析では,仰臥位分娩に限定して,熟練(4名)と新人(3名)を比較した。<br>結 果<br> 熟練と新人の圧力値を比較すると,右示指指間小球(2),右示指中間(3),左第一関節と第二関節中間内側(6),そして左小指先(9)の使い方が異なっていた。【児頭娩出30秒前から児頭娩出まで】新人は,産婦の努責によって下降してくる児を押し返すように圧力を付加していたため,右示指指間小球(2)に圧力をかけて会陰保護術を行っており,その最大値33kPaは,熟練の2倍であった。一方,熟練は,努責に左右されず一定の圧力付加が認められた。その中でも,下降してくる児を受け止める動きのため,右示指中間(3)に圧力をかけて会陰保護術をおこなっており,その最大値29kPaは,新人の4倍であった。<br> また,熟練は,児頭娩出をコントロールするために左示指第一関節と第二関節中間内側(6)に大きな圧力をかけて,児頭をつかむが如くに保持していた。その最大値18.8kPaは,新人の3倍であった。【発露から児頭娩出】にかけて熟練は,児頭を保持するが如くに小指先(9)に常に5kPa前後の圧力をかけて会陰保護術を行っているが,新人の圧力は0に等しかった。<br>結 論<br> 言葉では表せず,伝えにくい助産師の会陰保護時にかかる圧力を工学器機により測定が可能であった。また,熟練と新人を比較することで熟練の技を目に見える形で表現できることが明らかとなった。
著者
永森 久美子 土江田 奈留美 小林 紀子 中川 有加 堀内 成子 片岡 弥恵子 菱沼 由梨 清水 彩
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.17-27, 2010 (Released:2010-10-28)
参考文献数
23
被引用文献数
4

目 的 母乳育児中および母乳育児の経験がある母親の体験から,混乱や不安を招き,母親の自信を損なうなどといった効果的でなかった保健医療者のかかわりを探索する。対象と方法 研究協力者は都内の看護系大学の母乳育児相談室を利用した母親35人と,第2子以降の出産をひかえた家族ための出産準備クラスに参加した母親5人の計40人であった。データ収集は研究倫理審査委員会の承認を得て,2007年8月~11月に行った。データ収集方法は半構成インタビュー法で,内容は,「授乳や子どもの栄養に関して困ったこと,不安だったことは何か」,「それらの困ったこと・不安だったことにどのように対処したか」などであった。録音されたインタビュー内容を逐語録にしたものをデータとし,母親が受けた支援で,「混乱を招いた」,「不安になった」などというような医療者のかかわりを抽出した。抽出された内容をコード化しサブカテゴリー,カテゴリーに分類した。結 果 母乳育児をしている母親が混乱や不安を招くような保健医療者のかかわりとして,【意向を無視し押し付ける】,【自立するには中途半端なかかわり】,【気持ちに沿わない】,【期待はずれなアドバイス】,【一貫性に乏しい情報提供】の5つのカテゴリーが抽出された。母親は保健医療者から頻回授乳や人工乳の補足を強いられているように感じ,授乳の辛さや不安を受け止められていないと感じていた。その結果,母親は後悔の残る選択をし,授乳に対して劣等感や失敗感を抱いていることがあった。また,母親が自分で判断・対処できるようなかかわりでなかったために,自宅で授乳や搾乳の対応に困難を抱えたままでいることもあった。結 論 母親は母乳育児への希望を持っていたが,保健医療者のかかわりにより混乱や不安を感じていることがあった。保健医療者には,母親の意向を考慮した母親主体の支援,母親が自立していくための支援,母親の気持ちを支える支援,適切な観察とアセスメント能力,一貫性のある根拠に基づいた情報提供が求められていると考えられた。
著者
土江田 奈留美 中川 有加 土屋 円香 永森 久美子 小林 紀子 堀内 成子
出版者
聖路加看護大学
雑誌
聖路加看護大学紀要 (ISSN:02892863)
巻号頁・発行日
no.33, pp.85-92, 2007-03

本稿は,聖路加看護大学看護実践開発研究センター主催,日本助産学会東京支部中央区分会の後援により2004年9月に開設した,ルカ子母乳育児相談室の2年間の事業報告である。本事業の主な内容は,病院,助産院などで勤務経験がある助産師で,大学院生と教員による,地域での母乳育児支援である。毎週金曜日に来室相談および随時訪問相談を行っており,2年間での総相談者は母児54組,総相談件数は289件であった。そして,主な相談内容は,「母乳分泌量の不足」「乳房のトラブル」「断乳・卒乳」「吸わせ方や抱き方」「哺乳拒否」であった。また,利用者の感想は,「不安が解消された」「子育てに自信がついた」「また利用したい」などであった。そして今後のルカ子母乳相談室の役割として,以下の3点を継続,拡大していきたいと考えている。1.授乳期全期にわたり悩みが尽きない母親たちの支援を行う場2.資源が少ない地域への貢献の可能性3.病院だけでは補いきれない育児支援を継続していく場