著者
野家 啓一
出版者
聖路加看護大学
雑誌
聖路加看護学会誌 (ISSN:13441922)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.50-51, 2004-06-23
著者
倉爪 真一郎
出版者
聖路加看護大学
雑誌
聖路加看護大学紀要 (ISSN:02892863)
巻号頁・発行日
no.33, pp.26-30, 2007-03

ミシェル・フーコー晩年の倫理思想が,終末期医療における患者-家族-医療従事者関係の構築という課題にどう答え得るか,これが本稿の主題である。そして2つの可能性が導き出された。第一に,自己決定権(自律)と死(固有性)の関係は,死(真理)に到達するために主体をどう変化させるか,という倫理の問題として議論され得るということである。第二に,医療従事者への信頼と患者の死(固有性)を尊重するという贈与-感謝関係は,言葉を通しての倫理的関係として議論され得るということである。
著者
堀内 成子 有森 直子 三橋 恭子 森 明子 桃井 雅子 片桐 麻州美 片岡 弥恵子
出版者
聖路加看護大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

1.健康な初産婦10例に対して、一夜の終夜脳波を測定した結果、産褥5、6週までは、夜間の途中覚醒率が20%前後を示したが、産褥9週・12週においては夜間に中断された睡眠と、中断されない睡眠とが混在した。夜間において母親の途中覚醒は、こどもの足の動きと同期していた。こどもの慨日リズムは12週までに形成していた。産褥期の母親の睡眠リズムと子育てに焦点を当てて研究活動を行った。2.18組の母子を対象に行った24時間の睡眠日誌の分析からは、生後5週から12週までのこどもの睡眠・覚醒に関するパラメータの変化は、母親の同一時期のパラメータと同様の変化を示した。就床時刻は平均0時53分であり、生活が夜型にシフトしていた。夜間の覚醒時間について生後5および6週は、9週から12週に比べ、有意に長く、覚醒回数も多かった。産褥3ヵ月における母子の睡眠覚醒の推移は、同調した動きを示していた。3.7組の母子を対象に行ったアクチグラフの結果から、産褥3週から12週までの母親の夜間途中覚醒は、こどもの睡眠・覚醒の慨日リズム形成と関係していた。4.入眠前のリラクセーションを図る意味での、腰痛のある妊婦を対象に足浴の効果を見た。その結果、足浴行った実験群においては、就寝前に対する起床時の痛みの強さが軽減していた。5.子育てにともなう情緒については21人の初産婦の面接から、産褥4週以内の子育てに対しては<閉塞感のある生きにくさ>を特徴とし、育児生活そのものは<既成概念と現実のズレ>が多く、時には<暗い迷路>へとつながることもあった。育児の適切さについて<確信がもてない>毎日であり、<焦燥感や不全感>を持ちやすいことも語られた。睡眠リズムの変化に適応できないと同時に、子育てに強く困難感を抱いている事例の分析が今後の課題として残されている。
著者
菱沼 典子 川越 博美 松本 直子 新幡 智子 石川 道子
出版者
聖路加看護大学
雑誌
聖路加看護大学紀要 (ISSN:02892863)
巻号頁・発行日
no.31, pp.46-50, 2005-03
被引用文献数
1

聖路加看護大学看護実践開発研究センターでは,2004年5月に,市民に健康情報を提供する場として,聖路加健康ナビスポット「るかなび」を開設した。本論文は,「るかなび」開設までの経過,開設から5ヵ月間の来場者の現状の報告である。医療の主体は病んでいる患者にあり,医療者はその回復を手助けするパートナーであるという関係を構築していくには,まず,市民と医療者の間の圧倒的な情報量の差を埋めることが必要である。主体的に健康生活を創り,自分の健康を自分で守る市民社会をめざして,必要な健康情報を得る方法ならびに,健康情報の使い方に関して情報を提供することを目的に,「るかなび」を開設した。「るかなび」は,月曜日から金曜日までの10時から16時までをサービス時間とし,スタッフとしてヘルスコーディネーターまたはヘルス・ボランティア1〜2名が常在,書籍,パンフレット,血圧計,身長・体重計,コンピュータを備えている。開設から9月までの来場者は428名で,利用目的は健康相談が26%,立ち寄りが22%であった。来場者のうち,アンケートに回答を得られた90名では,40〜60歳代が7割,女性が7割であった。市民が欲していることに合わせ,教育,研究にも活用できる場になるよう工夫を重ねたい。
著者
菱沼 典子 石川 道子 高橋 恵子 松本 直子 鈴木 久美 内田 千佳子 金澤 淳子 吉川 菜穂子 川越 博美
出版者
聖路加看護大学
雑誌
聖路加看護学会誌 (ISSN:13441922)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.76-82, 2007-06
被引用文献数
1 1

目的:大学内に市民が立ち寄り活用できる健康情報サービススポットが開設されて3年目になる。この健康情報サービススポットの広報活動が,利用者の増加に有用であったかどうかを検討し,今後の広報活動への示唆を得ることを目的に本研究を行った。方法:調査対象期間は2004年4月〜2006年12月であり,健康情報サービススポットの記録と,研究者間での振り返りからデータを収集した。広報活動を時間軸に沿って整理し,来訪者数,リピーター,健康相談者数,ならびに当該地域住民,当該自治体,看護職・司書等からの協力や連携等の問い合わせ件数の推移を調べた。結果:3年間の広報活動の内容は<知ってもらう宣伝>と<来てもらう催事>に大別され,<近所付き合い>から始め<町のキーパーソンとの連携>によって推進されていた。<知ってもらう宣伝>は,ポスターやチラシ,案内板や看板,地域の行事への参加,ホームページの活用で,イメージキャラクターを用い,サービス内容を選択して宣伝内容としていた。<来てもらう催事>はハーブティや抹茶のサービス,ランチタイムミニ健康講座・ミニコンサートの定期的催しであった。健康情報サービススポットの最も重要な活動である健康相談の月平均利用者は,2004年31.7名から2006年88.4名と増加し,2005年の相談者の12%がリピーターであった。宣伝媒体を受け入れている店舗数は2006年現在,ポスター掲示が31件,カードの設置が10件で,自治体や自治体内の諸機関からの連携依頼や専門職の見学もあった。考察:これらの結果から,健康情報サービススポットの利用者が増え,その存在が広く知られてきていることが確認でき,広報活動は有用であったと考える。大学と地域との連携や,広報活動の中での健康情報サービスの実施について考察した。
著者
今村 朋子
出版者
聖路加看護大学
雑誌
聖路加看護学会誌 (ISSN:13441922)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.68-75, 2007-06

目的助産所から病院への搬送事例について,助産師と女性双方の立場から,そのプロセスを明らかにすることにより,搬送事例における助産ケアのあり方を考える。対象と方法分娩期に助産所から病院へ搬送となった3事例について,女性3名と担当した開業助産師3名を対象に,参加観察法と半構成的面接法によりデータを収集し,アウトカムモデルに沿って各事例を質的に分析した。結果事例A:37週の前期破水時に低体重児が指摘され,搬送となった。助産師は,Aさんが搬送に納得し,自己決定していくための,時間や環境の提供などのケアをおこなった。Aさんは,『病院での出産は,児の安全のためにも,自分の人生にとっても必要だった』と意味づけ,自分のお産を受け入れる気持ちに至った。事例B:遷延分娩で搬送となった。助産師は早い段階から分娩遷延を予測し,Bさんの反応を確認しながら,「安全と納得が両立できる搬送時期を模索」していた。分娩経過の中で,助産師とともに模索の時間を過ごしたことで,Bさんは『一つ一つ納得しながら進むことができ,いいお産だったと思える』と評価した。事例C:回旋異常による分娩停止で搬送となった。情報理解について助産師とのズレが存在し,Cさんの意思が尊重されないままの状況の中で搬送が決定された。この出産体験についてCさんは,満足いく出産体験であったと語ることはできなかった。結論女性たちは,搬送という状況の中にあっても,安全以上の結果を望み,満足いく出産俐験に向けて取り組んでいた。開業助産師は,「早めの搬送により母子の安全・安心を守るケア」に加えて,出産体験の満足度を高められるよう,「女性が搬送に納得する過程を支えるケア」「搬送で生じる変化を最小限にとどめるケア」「出産への主体性を保ち続けることを支えるケア」「助産所とのつながりを保障するケア」などの助産ケアをおこなうことが重要である。
著者
小澤 道子 香春 知永 横山 美樹 岩田 多加子 大久保 暢子
出版者
聖路加看護大学
雑誌
聖路加看護大学紀要 (ISSN:02892863)
巻号頁・発行日
no.27, pp.80-86, 2001

本調査は,「看護学」の出発点において学部生群と学士編入生群がどのように看護の「対象」と「方法」を考えているのかを知ることを目的とした。対象は,S看護大学に1997年度と1999年度の入学生169名(学部生132人・学士編入生37人)であり,4月の初回講義時に質問紙法を用いて現在の健康状態・生活の満足・元気観・健康観,そして看護観は「今,あなたが考える看護とは何でしょう」の設問で自由記述を求めその内容を分析した。その結果,(1)看護の「対象」は病気をもった人や病気や怪我をもって苦しんでいる人に代表される病気を中心とする者が7割以上を占めていること,(2)看護の「方法」は,記述の中の動詞に着目すると81種類に分けられ,使用頻度の高い動詞は「ケアする」「サポートする」「(必要なことを)〜する」「援助する」「〜してあげる」「手助けする」などであったこと,そして,これらの動詞の目的語を検討するとさまざまであり,同じ動詞の表現であっても意味する内容は多様であることも示唆された。また,学部生群と学士編入生群は,看護の「対象」に関しては類似していたが,看護の「方法」については学士編入生群の方が1人当たりの動詞の数が多く,動詞の意味するものに技術的なことや知識への期待がこめられているとも解釈できる結果であった。今後,看護教育を受ける中で看護の対象と方法がどのように変化していくかが次への追究課題である。
著者
大久保 暢子 雨宮 聡子 菱沼 典子
出版者
聖路加看護大学
雑誌
聖路加看護学会誌 (ISSN:13441922)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.58-63, 2001-06-30
被引用文献数
3

意識障害患者に対する意識レベルの改善をめざした看護ケアの一つに、背面開放端座位ケアがある。背面開放端座位は背面を支持せず、背筋を伸ばし脊柱の自然なカーブを損なわないで、足底を接地した姿勢であり、補助具が開発されている。くも膜下出血および脳内出血後の遷延性意識障害患者1例に、入院中および在宅での訪問看護で補助具を用いた背面開放端座位ケアを行い、意識レベルの改善に背面開放端座位が関与している示唆を得たので報告する。意識レベルの測定には、東北療護センター遷延性意識障害度スコア(以下広南スコアと称す)を用いた。事例は78歳の女性で、入退院と訪問看護による在宅での療養生活を送ることで背面開放端座位ケアが提供される時期、されない時期を繰り返すことになった。初回の背面開放端座位ケアは、入院中で遷延性意識障害と診断されて4ヶ月後から退院までの5週間であり、2回目は退院後10日を経た後からの7週間であった。初回導入前の広南スコアは61〜64点(重症例)で、毎日、1日2回の背面開放端座位ケアを導入して広南スコアは徐々に低下し、5週目に54点(中等例)まで回復した。退院後10日間の寝たきり状態で、スコアは背面開放端座位ケア導入前と同程度の64点(重症例)に戻っていた。再度、背面開放端座位ケアを週3回1日1回ずつ開始したところ、2週目で51点(中等例)に改善を示し、ケア継続中はその点数を維持していた。ケアを施行した期間は長期にわたり、他の要因に変化があった可能性はあるが、医学的治療には変化がなく、在宅への移行は大きな環境の変化であったが、スコアが上がる結果となり、環境変化よりも寝たきりになったことが、意識障害度に変化を与えたものと考える。背面開放端座位ケアの施行に関し、その開始時期や継続性、1日の回数等、検討課題が残されたが、今後さらに事例検討を重ねて、背面開放端座位ケアの意識回復への効果を検証していきたい。
著者
岩井 郁子 佐藤 紀子 豊増 佳子
出版者
聖路加看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

看護記録は、保健師助産師看護師法の規定や概念がない。診療報酬の算定要件として看護計画と経過記録が求められ、施設毎に記載内容と様式を決め標準化がなされていない。診療記録開示において看護記録は診療記録に含まれ、また、個人情報として位置づけられた。このような中で、診療記録開示の目的にかなう標準化された看護記録が求められている。本研究では、診療記録開示の目的を踏まえ、アメリカ、イギリスの看護記録の実際と記録指針から、カルテ開示の目的にかなう看護記録モデルの本質を検討し、また、74病院の看護記録の分析と109名の看護記録記載を指導する看護師の指摘から、現状の看護記録をめぐる課題を明らかにした。これらの結果を踏まえて、厚生労働省、関連団体である日本看護協会、日本医療機能評価機構の指針や保健師助産師看護師法、医療法等の法的な記述から看護記録の概念を抽出し、概念モデルを作成した。概念は、看護記録記載の目的と内容を示し、看護記録は、看護者としての倫理・業務上の責務の遂行、質を証明するものと位置づけた。さらに電子カルテ時代、患者を中心に、医療チームメンバーが共同で記載できる標準化された記録として、日本において一般化可能な記録枠組みを選択し、関連団体の指針を活かした構成要素およびその概念から看護記録モデルおよび記載基準を作成した。この基準は全国52の社会保険病院の看護記録記載基準に活かした。基準だけでは、記載内容の標準化は困難である現状から、基準に基づく具体的な記載例を含む看護記録モデルを提示した。このモデルは診療記録開示の目的にかなうしかも記録時間の削減に貢献できる内容をめざした。
著者
長江 弘子
出版者
聖路加看護大学
雑誌
聖路加看護大学紀要 (ISSN:02892863)
巻号頁・発行日
no.33, pp.17-25, 2007

本研究は質的記述的研究であり,その目的は在宅移行期にある家族介護者が生活を立て直すプロセスについて明らかにすること,および家族介護者にとって安定した生活とは何かについて記述することである。家族介護者は初めて介護をする人で退院する病院と提携している訪問看護ステーションの利用者である。また,要介護者は退院後1年未満の65歳以上の高齢者で,家族介護者は同居家族とした。研究参加者は8名得られ,半構成的面接調査を実施した。分析の結果,家族介護者が生活を立て直すプロセスには4つのカテゴリーが見出された。それは【多重生活の調整と配分】【専門職との付き合い方の模索】【一人で格闘することから生まれる視野の拡大】【病人と向き合う】である。これら4つのカテゴリーは時間的経過を伴って変化し相互作用していた。その結果,家族介護者は【新しい自分の生活が回りだす】という感覚を得ていた。家族介護者はこのプロセスを通して,自分と他者との関わりを,時間や自分の気持ちを切り替えることによって,自分を取り戻し,自分のやり方を見出していた。これまで在宅移行期における家族介護者の生活を支援することは,生活の安定を取りもどすことであると理解されてきたが,それは専門家の見方であった。本研究の結果,彼らの生活認識は安定,不安定という状況ではなく,主体的に新しい生活の感覚を得ることであった。今後,家族介護者への適切な支援をするためには,家族介護者の生活の立て直しのプロセスを理解し,新しい生活で何をつくり出しているのかを明らかにする必要性が示唆された。
著者
鶴若 麻理
出版者
聖路加看護大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、医療における事前指示についての専門家へのヒアリング調査、および各地域の高齢者へのインタビュー調査を通して、アジア地域の高齢者が終末期医療の希望の表明方法や意思決定に関する意識を明らかにすることを目的とした。台湾では2000年5月23日に『安寧緩和医療條例』が制定され、一方、シンガポールでは、1996年にアドバンス・メディカル・ディレクティブが法制化されているが、どちらの地域ともに、普及率が極めて低い現状であった。二つの地域の専門家へのヒアリング調査から、死をタブー視する傾向、医師と家族が最も良い決定をしてくれるという考えや、最後まで最善の治療を望んでいるという傾向が、普及率のきわめて低い要因となっていることが明らかになった。今後の課題としては、市民や医療者への教育プログラム、医療従事者の中立的立場での適切で十分な情報提供が求められていた。三つの地域の高齢者へのインタビュー調査からは、終末期医療への希望を話すことへの心理的抵抗とともに、語りたいという葛藤が交錯していた。また文章化することへの抵抗感、相談できる医師の不在、終末期の想像の困難さが共通してあげられた。作成した文書が医療現場で適切に扱われるかという点と、作成したことで適切な治療を受けられなくなるという不安をあわせもっていた。さらに作成する意味として、患者の権利であるという捉え方よりはむしろ、家族の負担の軽減という考えを有していた。専門家による的確な情報提供や相談システムの構築や教育プログラムが求められる。
著者
佐居 由美 松谷 美和子 山崎 好美 中山 久子 大久保 暢子 石本 亜希子 三森 寧子 多田 敦子 印東 桂子 瀬戸山 陽子 村松 純子 小山 敦子 岩辺 京子 森 明子 有森 直子 今井 敏子 原 瑞恵 菱沼 典子
出版者
聖路加看護大学
雑誌
聖路加看護学会誌 (ISSN:13441922)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.116-124, 2007-06

本稿は,聖路加看護大学21世紀COEプログラムの一環である『第7回COE国際駅伝シンポジウム『子どもと学ぼう,からだのしくみ』の概要を記述し,その運営実施過程を分析評価することにより,People-centered Careの構成要素について考察することを目的とする。第7回駅伝シンポジウムは,5歳児がからだを学べる方法を提示し一般市民と有意義な意見交換を行うことを目的とし,5歳児と両親,保育士や幼稚園教諭,看護師・養護教諭など5歳児にかかわる専門家を対象として開催された。シンポジウムの企画運営は市民との協働で行われた。シンポジウムは,(1)子どもが「からだを学ぶ」ための教材としてのテーマソング「からだフ・シ・ギ」の歌と踊り,(2)人間の消化機能を解説した紙芝居「リンゴがウンチになるまで」の上演,(3)子どもとからだのしくみを学ぶことについてのシンポジウム「子どもと学ぼう,からだのしくみ」から構成された。プログラムは,1プログラム20分以内とし,紙芝居・歌・踊りなどを取り入れ,子どもが飽きない工夫を行った。シンポジウムの運営実施における市民との協働過程においては,これまでのCOE活動から得られたPeople-centered Careの要素〔役立つ健康情報の生成〕〔異なる視線でのつながり〕等が確認され,「コミュニティに潜伏しているニードを湧きあがらせ(互いに確認し)顕在化させ,活動を専門家との協働へと移行し発展させる」過程を経験し,新たに〔互いに確認する過程〕という要素を見いだした。また,駅伝シンポジウムにおいて,当初,模索されていた市民との協働(2004年)が,湧きあがったコミュニティとの協働(2005年)へと視点を移し,さらに,協働が進行しているコミュニティと専門家が活動のさらなる展開を共に模索するシンポジウム(2006年)へと,市民との協働のプロセスが発展していることが確認された。コミュニティとのさらなる協働のあり様,「5歳児がからだを学べる方法」の具体的評価方法,などが,今後の課題として再確認された。
著者
那須 実千代
出版者
聖路加看護大学
雑誌
聖路加看護学会誌 (ISSN:13441922)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-10, 2005-06-20

本研究は,看護職が音楽療法の要素をふまえたケアを生活の場の日常的な状況のなかで行いたいと考え,とれを「音楽体験を話題にしたケア」として入院患者を対象に試み,その看護ケアとしての可能性を探ることが目的である。音楽体験を話題にしたケアは,「患者と看護者の間で相互作用が築かれ,音楽体験を話題とした会話でのやりとりをする働きかけで,患者にイメージが想起されて気持ちが動き,喜びや満足感,安心感を伴う経験となり,個人のよりよく生きる活力と連関するもの」とした。具体的には,患者にとって「嬉しい」「楽しい」「好きである」音楽は何であるか,また「落ち着く」「穏やかになる」「安らぐ」音楽は何であるかを話題に自由なやりとりを行った。研究方法は,入院患者10名を対象に音楽体験を話題にしたケアを試み,その状況記述から横軸に経過時間,縦軸には会話のやりとりの関係性,気持ちを表す言葉,音楽行動,Visual Analogue Scaleを示すケア経過図を作成し,ケアの実際を検討した。音楽体験を話題にしたケアは,実施する場所や時間帯を選ばず,音楽を話題とした会話から,患者はイメージを想起している。話題となる音楽は,演歌,童謡,クラシックなどさまざまで,歌う,聴くなどの音楽行動が伴う。患者の話すエピソードは,幼少時から最近までのあらゆる体験からなり,患者にとっては人生の一時期や日常生活の振り返りの場となる。現在の身体状況よりも音楽の話題に関心が向き,快のほうへ気持ちが変化して,生きる活力を強める可能性をもつ。また,看護者は,患者の話すエピソードに共感し,心に寄り添えることから,このケアは看護実践の可能性をもつと示唆された。