著者
中村 好則
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 = The journal of Clinical Research Center for Child Development and Educational Practices (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.79-88, 2016-03-31

近年,知識基盤社会や少子高齢化,高度情報化,国際化の進展など,変化の激しい時代を迎え,日本も多くの課題を抱えている。そのような変化の激しい時代に主体的に生きる子供たちを育てる教育の実現が喫緊の課題とされている。そうしたなか,平成26年12月に中央教育審議会が「子供の発達や学習者の意欲・能力等に応じた柔軟かつ効果的な教育システムの構築について(答申)」を公表した。答申では「そうした教育の実現に資するよう,学校制度を子供の発達や学習者の意欲・能力等に応じた柔軟かつ効果的なものとすることで,制度の選択肢を広げること(p.1)」を提言している。具体的には,小中一貫教育の制度化である。さらにその答申では,小中一貫教育の取組は全国的に広がり,今後さらなる増加が見込まれること(p.7)が述べられている。しかし,小中一貫教育を推進するに当たり,算数数学の指導ではどうあればいいのかは具体的には述べられていない。算数数学は,学習内容の系統性が強い教科であるとともに,小学校算数から中学校数学への変化が大きく「中1ギャップ」を起こしやすい教科とも言われ(川上2010),小中一貫教育においては最も検討が必要な教科と考えられる。小中一貫教育等についての実態調査(文部科学省2015)では,小中連携教育を「小・中学校が互いに情報交換や交流を行うことを通じて,小学校教育から中学校教育への円滑な接続を目指す様々な教育」,小中一貫教育を「小中連携教育のうち,小・中学校が子供像を共有し,9年間を通じた教育課程を編成し,系統的な教育を目指す教育」と定義している。つまり,小中一貫教育は,小中連携教育に含まれると考えられる。そこで,本論では,小中連携教育という大きな枠組みの中で,算数数学の指導はどうあればよいかを検討することとする。特に,小中連携における学習系統を捉えた算数数学指導とその留意点について考察することを目的とする。そのために,まず,全国学力・状況調査の結果から学習系統を捉えた指導について考える際に考慮すべき点を考察する第2章)。次に,先行研究をもとに学習系統を捉えた指導とはどのような指導であるかを明らかにする(第3章)。さらに,前節までの考察結果と教科書や学習指導要領の記述内容から,学習系統を捉えた指導において概念や意味などが拡張される場面等を具体的に検討する(第4章)。最後に,小中連携における学習系統を捉えた指導とその留意点をまとめ,今後の課題を述べる(第5章)。
著者
中村 好則 黒木 伸明
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会年会論文集 28 (ISSN:21863628)
巻号頁・発行日
pp.281-284, 2004-07-30 (Released:2018-05-16)
参考文献数
3

本研究では,聾学校における数学的モデル化を取り入れた指導の可能性について,高等部生徒に対する「お湯の冷め方」の授業実践を通して考察した。その結果,現実の事象を日常的経験や既習の数学的事項と関連づけながら学習できること,数学の有用性や現実事象と数学との関わりを感得できることの効果が示唆され,聾学校生徒の数学学習を質的に改善する手だてとして有効であるという知見が得られた。今後は,さらに実践を重ねることと,数学的モデル化を取り入れた指導を行う時期や内容を検討することが課題である。
著者
中村 好則
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 = The journal of Clinical Research Center for Child Development and Educational Practices (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.15, pp.69-78, 2016-03-31

平成26年6月24日に閣議決定した世界最先端IT国家創造宣言において「学校の高速ブロードバンド接続,1人1台の情報端末配備,電子黒板や無線LAN環境の整備,デジタル教科書・教材の活用等,初等教育段階から教育環境自体のIT化を進め,児童生徒等の学力の向上と情報の利活用の向上を図る」ことが,さらに「これらの取組により,2010年代中には,全ての小学校,中学校,高等学校,特別支援学校で教育環境のIT化を実現するとともに,学校と家庭がシームレスでつながる教育・学習環境を構築し,家庭での事前学習と連携した授業など指導方法の充実を図る」ことが述べられ,政府主導で教育の情報化が進められている。また,文部科学省では,平成26年度にICTを効果的に活用した教育の推進を図ることを目的に,教育効果の明確化,効果的な指導方法の開発,教員のICT活用指導力の向上方法の確立を図るためにICTを活用した教育の推進に資する実証事業を行い,成果報告書や手引き書を公表している(ICTを活用した教育の推進に資する検証事業,2015)。さらに,総務省でも,平成26年6月から「ICTドリームスクール懇談会」を開催し,教育分野におけるICT活用の推進に取り組み,平成27年4月に中間取りまとめを公表している。これらのことからも,教育の情報化は着実に進展している。しかし,学校現場ではどうだろうか。文部科学省や総務省,県や市などの研究指定校や先進的に研究に取り組んでいる学校だけがICTを活用した実践に取り組み,それ以外は従来からの指導とあまり変わらない現状があるのではないだろうか。特に,数学指導においては,ICT活用よりも,紙と鉛筆による指導こそが重要だという教師の思い込み(固定観念あるいは素朴な考え方)がある(例えば,中村2015a)。中学校においても,電子黒板やパソコン,タブレット等のICT 環境が徐々に整備され(平成26年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果,文部科学省2015),それらを数学指導においても有効に活用することが求められている。しかし,数学指導において「なぜICTを活用するのか(ICT活用の目的)」,そのために「どのようにICTを活用するのか(ICT活用の方法)」が,学校現場において十分に理解されていない。そこで,本研究では,中学校学習指導要領とその解説及び教科書を基に,数学指導におけるICT活用について検討し,中学校の数学指導におけるICT活用の方向性(目的と方法)を明らかにすることを目的とする。そのために,平成20年版の中学校学習指導要領とその解説におけるICT活用に関する記述内容を調査する(第2章)とともに,中学校数学の平成27年検定済みの教科書におけるICT活用の取り扱いを分析(第3章)し,それらを基に中学校の数学指導におけるICT活用の方向性を考察する(第4章)。最後に,本研究のまとめと課題を述べる(第5章)。
著者
中村 好則
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3-4, pp.109-118, 2014 (Released:2020-04-21)

小中学校の通常学級に発達障害等の児童生徒が約6.5%在籍している。しかし,実際には6.5% には入らないが学習面等に困難をもつ児童生徒がその周辺にも存在し,算数学習においても彼らへの指導の在り方は喫緊の検討課題である。そこで,本研究では,算数学習におけるつまずきに関する先行研究をもとにつまずきとその支援を分析・整理し,算数学習につまずきのある児童への指導の在り方を検討するための基礎的な資料を得る。分析の結果,算数学習におけるつまずきを,①学習活動に関するつまずきと②学習内容に関するつまずき,③その他のつまずきに整理した。また,数学教育研究でのつまずきは学習内容に関するものが多く,学習活動に関するものが採り上げられていない。一方,特別支援教育研究でのつまずきは学習活動に関するものを含んでおり,学習内容に関するつまずきも数学教育研究のものとは異なるものが少なくない。これらのつまずきの関連を考慮して算数学習におけるつまずきを捉え直して,算数学習につまずきのある児童に対する指導を検討してくことが必要であることが示唆された。
著者
中村 好則
出版者
岩手大学教育学部
雑誌
岩手大学教育学部研究年報 (ISSN:03677370)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.71-83, 2013-03-10

高校数学科において,今年度(平成24年度)より学年進行で先行実施されている新しい学習指導要領では,数学的活動を生かした指導を一層充実させるために,必履修科目や多くの生徒の選択が見込まれる科目(数学Iと数学A) に課題学習が位置付けられた(文部科学省2009)。そこでは,生徒の関心や意欲を高める課題を設け,生徒の主体的な学習を促し,数学のよさを認識できるようにすることが期待されている。しかし,高校における数学の指導は,教師から生徒に問題の解法を一方的に説明する知識伝達的な授業になりがちで,課題学習の趣旨を生かした授業を行うには課題も多い。課題学習は,平成元年の学習指導要領改訂で中学校に設けられた。当時は中学校の第2,3学年において実施されてきた。しかし,平成10年12月の学習指導要領改訂では,第1学年も含めた中学校全学年で実施することとなった(文部省1999)。このように先行して実施された中学校の課題学習では多くの実践事例がある(例えば,筑波大学附属中学校数学教育研究会1991など)。しかし,高校数学の指導内容は中学校よりも抽象的・論理的であり,中学校の課題学習の教材は参考にはなるがそのまま活用することは難しい。また,高校において対象となる生徒は,中学生のときにすでに課題学習を経験しており,そのことにも配慮する必要がある。高校の課題学習で活用できる教材の検討は喫緊の課題である。筆者は,今まで高校の課題学習で活用できる教材として,水ロケットやフィルムケースロケット等の飛行実験を行い,数学を活用してそれらの飛行特性等を探究する教材を開発しその効果を検討してきた(中村2011a,2011b)。その結果,それらを活用した課題学習では,具体的な事象と数学との関連付けができること,生徒の主体的な学習活動が構成できること,数学のよさを感得できることなどの効果が示唆された。しかし,それらの教材を活用した指導では,実験準備や実験に多くの時間がかかるなどの課題があった。また,課題学習の教材として,具体的な事象と関連のある教材だけでなく,具体的な事象と関連はなくとも,生徒の興味・関心を引き,数学のよさを感得できる教材を開発することが課題であった。そこで,本研究では,問題の意外性が生徒の興味や探究心を促進し,高校数学の内容とも関連が多くあると考えられる円分割問題を教材として取り上げ,高校数学科における課題学習での活用の可能性を考察する。そのために,2つの円分割問題とその発展開題(平面分割問題,空間分割問題)を取り上げ,それらの解決過程の検討を通して,円分割問題の課題学習での活用の可能性を検討する。
著者
中村 好則
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1-2, pp.39-50, 2016 (Released:2020-04-21)

約98%の生徒が高校へ進学し,高校の数学指導でも多くの課題を抱えている。その1つに,高校教育として生徒に共通に身に付ける学力を確保するために,数学学習における生徒のつまずきと支援を検討することがある。本研究では,特に,生徒に共通に身に付けさせる必履修科目である数学Ⅰの「二次関数」の学習内容の理解に焦点を当て,高校卒業後の学生の様相を明らかにし,①数学学習のつまずきと支援を考察するための基礎的な資料を得ることと,②「二次関数」の指導への示唆を得ることを目的とする。そのために,公立短期大学校の第1学年の学生を対象に質問紙調査と学力調査を実施し,それらの結果を分析した。
著者
中村 好則 NAKAMURA Yoshinori
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.15, pp.69-78, 2016-03

平成26年6月24日に閣議決定した世界最先端IT国家創造宣言において「学校の高速ブロードバンド接続,1人1台の情報端末配備,電子黒板や無線LAN環境の整備,デジタル教科書・教材の活用等,初等教育段階から教育環境自体のIT化を進め,児童生徒等の学力の向上と情報の利活用の向上を図る」ことが,さらに「これらの取組により,2010年代中には,全ての小学校,中学校,高等学校,特別支援学校で教育環境のIT化を実現するとともに,学校と家庭がシームレスでつながる教育・学習環境を構築し,家庭での事前学習と連携した授業など指導方法の充実を図る」ことが述べられ,政府主導で教育の情報化が進められている。また,文部科学省では,平成26年度にICTを効果的に活用した教育の推進を図ることを目的に,教育効果の明確化,効果的な指導方法の開発,教員のICT活用指導力の向上方法の確立を図るためにICTを活用した教育の推進に資する実証事業を行い,成果報告書や手引き書を公表している(ICTを活用した教育の推進に資する検証事業,2015)。さらに,総務省でも,平成26年6月から「ICTドリームスクール懇談会」を開催し,教育分野におけるICT活用の推進に取り組み,平成27年4月に中間取りまとめを公表している。これらのことからも,教育の情報化は着実に進展している。しかし,学校現場ではどうだろうか。文部科学省や総務省,県や市などの研究指定校や先進的に研究に取り組んでいる学校だけがICTを活用した実践に取り組み,それ以外は従来からの指導とあまり変わらない現状があるのではないだろうか。特に,数学指導においては,ICT活用よりも,紙と鉛筆による指導こそが重要だという教師の思い込み(固定観念あるいは素朴な考え方)がある(例えば,中村2015a)。中学校においても,電子黒板やパソコン,タブレット等のICT 環境が徐々に整備され(平成26年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果,文部科学省2015),それらを数学指導においても有効に活用することが求められている。しかし,数学指導において「なぜICTを活用するのか(ICT活用の目的)」,そのために「どのようにICTを活用するのか(ICT活用の方法)」が,学校現場において十分に理解されていない。そこで,本研究では,中学校学習指導要領とその解説及び教科書を基に,数学指導におけるICT活用について検討し,中学校の数学指導におけるICT活用の方向性(目的と方法)を明らかにすることを目的とする。そのために,平成20年版の中学校学習指導要領とその解説におけるICT活用に関する記述内容を調査する(第2章)とともに,中学校数学の平成27年検定済みの教科書におけるICT活用の取り扱いを分析(第3章)し,それらを基に中学校の数学指導におけるICT活用の方向性を考察する(第4章)。最後に,本研究のまとめと課題を述べる(第5章)。
著者
中村 好則 NAKAMURA Yoshinori
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.15, pp.79-88, 2016-03

近年,知識基盤社会や少子高齢化,高度情報化,国際化の進展など,変化の激しい時代を迎え,日本も多くの課題を抱えている。そのような変化の激しい時代に主体的に生きる子供たちを育てる教育の実現が喫緊の課題とされている。そうしたなか,平成26年12月に中央教育審議会が「子供の発達や学習者の意欲・能力等に応じた柔軟かつ効果的な教育システムの構築について(答申)」を公表した。答申では「そうした教育の実現に資するよう,学校制度を子供の発達や学習者の意欲・能力等に応じた柔軟かつ効果的なものとすることで,制度の選択肢を広げること(p.1)」を提言している。具体的には,小中一貫教育の制度化である。さらにその答申では,小中一貫教育の取組は全国的に広がり,今後さらなる増加が見込まれること(p.7)が述べられている。しかし,小中一貫教育を推進するに当たり,算数数学の指導ではどうあればいいのかは具体的には述べられていない。算数数学は,学習内容の系統性が強い教科であるとともに,小学校算数から中学校数学への変化が大きく「中1ギャップ」を起こしやすい教科とも言われ(川上2010),小中一貫教育においては最も検討が必要な教科と考えられる。小中一貫教育等についての実態調査(文部科学省2015)では,小中連携教育を「小・中学校が互いに情報交換や交流を行うことを通じて,小学校教育から中学校教育への円滑な接続を目指す様々な教育」,小中一貫教育を「小中連携教育のうち,小・中学校が子供像を共有し,9年間を通じた教育課程を編成し,系統的な教育を目指す教育」と定義している。つまり,小中一貫教育は,小中連携教育に含まれると考えられる。そこで,本論では,小中連携教育という大きな枠組みの中で,算数数学の指導はどうあればよいかを検討することとする。特に,小中連携における学習系統を捉えた算数数学指導とその留意点について考察することを目的とする。そのために,まず,全国学力・状況調査の結果から学習系統を捉えた指導について考える際に考慮すべき点を考察する第2章)。次に,先行研究をもとに学習系統を捉えた指導とはどのような指導であるかを明らかにする(第3章)。さらに,前節までの考察結果と教科書や学習指導要領の記述内容から,学習系統を捉えた指導において概念や意味などが拡張される場面等を具体的に検討する(第4章)。最後に,小中連携における学習系統を捉えた指導とその留意点をまとめ,今後の課題を述べる(第5章)。