著者
新海 寛
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3-4, pp.29-35, 1994 (Released:2020-07-06)

今日の算数教育学の理論に照らして見たとき,算数の概念についての認識で,意外と思える実態が学生にはある。それを,乗法の意味分数の概念,重さの加法性,溶解について明らかにした。これらは全て旧い時代の認識に止まっている。学生はそのように学んできたのだ。という事は,教育現場が旧い考え方の再生産をしている証拠といえる。この再生産のサイクルを止めるための一つの方策は,再生産をになう可能性のある彼ら学生の認識を根底から改めることである。そこに,算数教育学の教授学上のエ夫が必要となる。この工夫について述べる。
著者
眞渕 綾希 秋田 美代
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3-4, pp.117-126, 2013 (Released:2020-04-21)

本研究の目的は,数学の授業の中で生徒の創造的な問題解決力を育成することである。そこでは,生徒に問題解決の背景にある数量,図形の関係や構造を意識させて既習事項を高める方法を提案した。「連立方程式の解き方」を題材として,共通な関係の表象のための方略を導入し,「複数の表現の提示」,「複数の表現の比較」,「共通性の把握」という3つのステップで,既習の知識を新しい問題解決に活用を生徒に意識させた。実践の結果,生徒は関係を表象し,なぜそのような解き方をするのかについての理解を深めることで,既習の知識の活用について実感することができたことが分かった。
著者
河崎 雅人 松井 愛生 小池 守
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3-4, pp.65-73, 2017 (Released:2020-04-21)

小学校学習指導要領解説算数編には人口密度や速さの単位は組立単位と例示されてはいる が,面積や体積以外の組立単位について,授業で指導されることはない.そこで,単位に着 目した「単位量当たりの大きさ」や「速さ」の指導方法について示唆を得るために,児童を 実際に指導する小学校教員の組立単位に関する理解状況を調査することにした.現職の小学 校教員に対して,(一つ分の数)×(いくつ分)=(ぜんぶの数)に関する問題の解答例を3 種類用意し,それぞれの解答例に記された数値に単位を記述させた.同時に,調査参加者の プロファイルを調査した.その結果,「km/時」等の速さに関する組立単位は,経験年数,算 数や理科の得意・不得意,算数の指導のしやすさには関係なく理解されていたが,速さ以外 の2種の量に対して乗法や除法の演算を行った結果が表わす量の単位についての理解は不足 していることがわかった.
著者
丹 洋一
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1-2, pp.29-37, 2017 (Released:2020-04-21)

中学生に対しての数学指導の経験と中学生へのアンケート調査を踏まえて,小学校算数教育における課題と中学校での学習の基本となる必要な経験についても検討する。その上で今後の小学校段階での算数指導において,論理的思考力の育成・Excel 等を用いた代数概念の養成・製作活動を通じた図形概念の育成・学習ツールとしてのICT利用を進めることの重要性を論じる。
著者
松宮 哲夫
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1-2, pp.1-16, 2008 (Released:2020-04-21)

「尋常小学算術」(第1~6学年,全12冊)は1935年(昭和10)4月から1943年(昭和18)3月まで使用された国定教科書である。表紙が緑色だったので「緑表紙」とも呼ばれた。緑表紙を使う以前は「尋常小学算術書」と言い,表紙が黒色だったので「黒表紙」とも言われた。緑表紙は塩野直道文部省図書監修官が主任となり数人で編纂した。1933年9月から1940年10月まで会議を毎週1回持ち7年1か月を要した。数学教育改造運動を背景に塩野直道の数学教育思想を以て少人数で長い年月を掛けたのである。算術教育を根源に戻って考え,人間の理想の境地から目的の「数理思想の開発」を考えたのである。黒表紙を一新した程度の高い教科書であった。 本稿では以下の点について述べ, 30年間低迷を続けた算数教育の立ち直りに資したい。 第一 塩野直道が黒表紙改訂を志して以来,単なる改訂ではなく新しく編纂する教科書(緑表紙) の主任になるまでの経緯および編纂過程について 第二 緑表紙の目的・内容・方法・程度の特徴について 第三 緑表紙編纂の反響と意義について 第四 現代の算数・数学教育への緑表紙そして塩野直道からのメッセージについて。たとえば,目的を自覚せよ, 「潤い」のある教育をせよ,程度を下げるな,など。 なお本年(2008年)は塩野直道(1898~1969)生誕110周年にあたる。
著者
小田 翔吾 渡邉 伸樹
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1-2, pp.39-50, 2012 (Released:2020-04-21)

本研究では,現在の小学校高学年において有効であると考えられる正負の数のカリキュラム開発を行うことを目的とする。そこで本稿では,正負の数の教育の歴史的変遷・先行研究・諸外国の教育(一部の州)・認識調査などの分析から,現在の子どもに有効であると考えられる正負の数のカリキュラム(試案)を開発し,カリキュラムの小学校高学年段階の内容(一部)について,実際に,小学校6 年生(正負の数を未習)を対象に教育実験を行うことからその妥当性を検証した。その結果,小学校6 年生で十分に理解可能であることから,開発したカリキュラムに一定の妥当性が示唆された。
著者
野口 潤次郎
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.75-85, 2017

"役に立つ"ことを判断する価値観は、どこから来るのかを言語の進展の観点から議論する。言語進展の過程に日本とヨーロッパにおいて類似性があることを見出す。言語には日常言語、社会言語、記述言語の3 種があり、これらが一致していることがイノべーションに必要不可欠であることを古代の神話の形成、言語の形成、文字の導入にさかのぼり諸文明の情況を観察しつつ解明する。それらを踏まえ、グローバリゼーションの中で、日本の数学教育の向かう所について考える。
著者
森 園子
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1-2, pp.1-13, 2017 (Released:2020-04-21)

現在,我が国の大学生の数学学力は低下傾向にあり,さまざまな問題を抱えている。この傾向 は,私立大学文系学部に特に著しい。このような問題の背景には,①入試における数学の取り扱 い,②高校の履修内容で,必修は数学Ⅰまたは数学基礎のみであり,数学Ⅱ以降の内容が不徹底 となりがちな傾向がある事などが,その要因として挙げられる。また,経済・社会系学部で必要 とされる数学の内容と,入試に課される数学の内容・範疇において齟齬が見られる事も,新に浮 かび上がってきている。本稿では,上記の観点からフランスの数学教育について訪問調査した結 果を述べ,振り返って我が国の数学教育を考えるものである。
著者
葛城 元 黒田 恭史
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3-4, pp.125-139, 2016 (Released:2020-04-21)

高等学校数学においては,科学的思考方法の習得を目指した数学教材の開発を行い,実践していくことが望ましい。オリガミクスは,日本古来の折り紙を発祥にしつつも,現在では様々な領域で発展する科学の一分野となりつつある。オリガミクスを数学教育に活用する利点は,学習者自らが様々な折り方を試行錯誤することができ,実験・検証が可能になることである。本稿では,科学的思考方法の習得を目指したオリガミクスによる数学教材の開発を目的とする。
著者
中村 滋
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1-2, pp.45-54, 2008 (Released:2020-04-21)

受験勉強の枠を超えて,数学教育上の意義を認められていた受験数学参考書がかつてあった。それが岩切晴二著の『代数学精義』である。旧制第六高等学校の数学教授であった岩切晴二は,分厚い演習型参考書の形式を確立した。教員のいない参考書上でも演習が成立するように,例題の配列と,例題と練習問題の密接な連携に工夫をこらした。また,割り算における0の吟味を厳密に行い,受験参考書の数学的厳密性のレベルアップを図った。岩切は,高等教育機関で行われていた数学演習と0の吟味を受験数学に対して適用させたのである。『代数学精義』の数学教育的意義について,先行して出版されていた藤森良蔵の受験数学参考書と比較して論じる。