著者
能川 元一 河野 哲也 中村 雅之 信原 幸弘
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

1.J.J.ギブソンの生態学的知覚論、F.J.ヴァレラのEnaction理論はいずれも伝統的な実在論/観念論という存在論的な二項対立を超えた存在論、客観主義/主観主義という認識論的な二項対立を越えた認識論を要求しており、これらはメルロ=ポンティが自らに課した哲学的な問いと同型である。2.それゆえ、メルロ=ポンティに依拠しつつギブソン、ヴァレラらの認知科学に哲学的な基礎を与えることができる一方で、メルロ=ポンティの存在論、認識論を解釈しなおす可能性も生じる。研究分担者河野はメルロ=ポンティとギブソンの存在論を「性向の実在論」として再定式化することを提案している。3.また、研究分担者信原は心脳同一説への批判として、認知は脳、身体、環境からなるシステムによって担われていることを、コネクショニズムの立場から明らかにした。また研究代表者能川が分担して研究したEnaction理論の見地からすると、コネクショニズムを身体-環境というシステムの中に位置づけることにより、ギブソンやヴァレラらが主張する反表象主義の立場とコネクショニズムとを整合的に理解する可能性が開ける。後者については、今後さらに研究を継続する予定である。4.研究分担者中村は「心の理論」論争がもたらした知見を認知意味論の解釈にとりいれることにより、認知意味論に欠けていた意味の間主観的生成という側面を記述することが可能になることを示した。また研究代表者能川は関連性理論をある種の「心の理諭」として捉えなおし、コミュニケーションを「表象」ではなく「行動」の観点から理解しなおす可能性を検討したが、これについては今後さらに研究を進める必要がある。
著者
中村 雅之
出版者
富山大学
雑誌
富山大学人文学部紀要 (ISSN:03865975)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.109-118, 2001-03-21
著者
上村 佳代 入江 香 小山 徹平 春日井 基文 中村 雅之 赤崎 安昭
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.101-110, 2021

<p>バウムテスト(樹木画テスト)とは投映法に分類される人格検査の一種である。本研究では,刑事精神鑑定において行われたバウムテストの結果の特徴について分析を行なった。殺人(未遂)被疑事件16例と放火(未遂)被疑事件14例の計30例において,バウムの各種サイン(筆圧,位置,枝先,樹冠の豊かさ,樹冠輪郭線の有無)について性別,知的水準,診断名,被疑事件内容の観点から検討を行なった。その結果,男性の方が女性より有意に筆圧が強かった。知的に健常な群は知的障害群と比べて有意に左寄りの位置に描く傾向があった。これらの結果から刑事精神鑑定において,女性は男性ほど自己主張や攻撃性を表現せず,知的に保たれている事例では未来志向にならないことが示唆された。被疑事件内容別に比べると,放火群は樹冠輪郭線が殺人群よりも少なく,放火事例は殺人事例と比べると外界の刺激に敏感な可能性が示唆された。また,殺人既遂群は左寄り,殺人未遂群は右寄りの位置に描く傾向があり,殺人既遂事例は過去を志向する傾向がある一方,殺人未遂事例は未来を志向する傾向が示唆された。</p>
著者
杉本 岩雄 小川 茂樹 中村 雅之 瀬山 倫子 加藤 忠
出版者
一般社団法人 日本環境化学会
雑誌
環境化学 (ISSN:09172408)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.831-840, 1998-12-15 (Released:2010-05-31)
参考文献数
17

ポリマー及びアミノ酸の高周波スパッタ膜を感応膜とした水晶振動子式センサ素子のppbレベルにおける石油留分ガスやガソリン, 重油の揮発ガスの検出機能を調べた。ポリエチレン (PE) 多孔質焼結体のスパッタ膜は成膜方法により大きくセンサ機能が影響を受けた。炭化が進んだPE膜センサや残留水分が多い状態で作成したPE膜センサは感度が不十分であった。これに対して, 排気を十分して作成したPE膜や紫外光励起を行って作成したPE膜センサはppbレベルの石油成分ガスに対し十分な感度を有する。この, 紫外光励起効果によりPE膜センサの検出感度は向上し, 炭素数12以上の直鎖状炭化水素ではppt領域の極低濃度なガス検知が十分可能であることが示唆された。しかし, 感応膜中への拡散による吸収・保持過程が検出機構を支配するため, 飽和するまでの時間の長い, 時定数の大きなセンサ応答を示す。アミノ酸のスパッタ膜を感応膜としたアミノ酸膜センサはppb領域の濃度域では極めて低い応答しか示さず, フロロポリマー膜センサでは検出能力が認められなかった。また, PE膜センサは水蒸気の影響を受けにくく選択的に有機ガスを高感度に検出できことも確認でき, 環境センシングに有力なセンサ素子と言える。
著者
若松 美貴代 中村 雅之 春日井 基文 肝付 洋 小林 裕明
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学医学部保健学科紀要 = Bulletin of the School of Health Sciences, Faculty of Medicine, Kagoshima University (ISSN:13462180)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.21-30, 2018-03-31

近年,妊産褥婦の自殺,子どもの虐待の問題から周産期メンタルヘルスの重要性が注目されるようになった。より細やかな支援のためには妊娠早期から関わることが必要である。そのため2017年に母子保健法改正が行われた。妊娠早期から産後うつ病を予測できる質問紙が求められ開発が行われているが,日本で使用できるものは少ない。諸外国で広く用いられているPostpartum Depression Predictors Inventory-Revised(PDPI-R)が有効と考えられる。日本語へ翻訳し,信頼性,妥当性と産前産後のカットオフ値の検討も行われている。PDPI-Rは妊娠期から産後うつ病を予測できるだけでなく,妊産褥婦の背景を多角的に把握でき,支援する際のアプローチの手がかりにもなりうる。今後,本調査票が広く用いられ,産後うつ病,虐待,ボンディング障害の関係性についても明らかになることが期待される。In recent years, the issues of suicide and child abuse committed by pregnant and postpartum woman have focused attention on perinatal mental health. Three questionnaires for use after childbirth have been found to identify mothers at risk for postpartum depression and child abuse. However, for detailed assistance it is necessary to provide support early in the pregnancy. Therefore, the Maternal and Child Health Law was revised in 2017.A questionnaire that can predict postpartum depression from early pregnancy is required and some candidates have been developed. However, no such questionnaire has been validated for use in Japan. The Postpartum Depression Predictors Inventory-Revised (PDPI-R), which is widely used in other countries, is considered to be effective for predicting postpartum depression. Therefore, we translated the PDPI-R into Japanese and examined its reliability, validity, and cut-off values during pregnancy and postpartum.The PDPI-R could not only predict postpartum depression during pregnancy, but also provided a multifaceted understanding of the backgrounds of perinatal woman. We hope that this questionnaire will be widely used in the future. It is expected that the use of the PDPI-R will help clarify the relationships among postpartum depression, child abuse, and bonding disorder.
著者
中村 雅之
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

免疫沈降法や免疫細胞化学法などの研究の結果、コレインは細胞骨格系タンパク質やオートファジー関連タンパク質と相互作用することが示唆された。ミトコンドリア膜電位を消失させマイトファジーを誘発する脱共役剤で細胞を処理すると、コレインと細胞骨格系タンパク質との相互作用が増強した。また、コレイン強発現細胞ではコントロール細胞と比べてオートファジーを誘発する飢餓刺激やマイトファジーを誘発する脱共役剤刺激後の細胞生存率が有意に高かった。これらの結果から、コレインはオートファジーやマイトファジーに関わる細胞死抑制機構に関与しており、それらの機構の破綻が有棘赤血球舞踏病の分子病態である可能性が示唆された。