著者
澤村 淳 早川 峰司 下嶋 秀和 久保田 信彦 上垣 慎二 丸藤 哲 黒田 敏
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.7, pp.358-364, 2010-07-15 (Released:2010-09-20)
参考文献数
13

クモ膜下出血は突然死の主要原因の一つである。我々は院外心肺機能停止で発症したクモ膜下出血症例で神経学的予後良好例を報告する。症例は52歳男性。交通事故が発生し,心肺停止が目撃された。すぐにbystandar心肺蘇生法が施行された。ドクターカーを含めた救急隊が要請され,救急医は当院到着まで気管挿管を含めたadvanced cardiopulmonary life supportを施行した。心肺停止発症から23分後に心拍再開し,直後に初療室へ搬入となった。意識レベルはE1VTM5であった。心電図はV1からV5誘導でST上昇を認め,心筋虚血が示唆された。頭部CTの結果,右半球に優位な瀰漫性のくも膜下出血を認めた。脳血管撮影では右中大脳動脈分岐部に嚢状動脈瘤を認めた。World Federation of Neurosurgical Societies分類ではGrade IV,Fisher CT分類ではIII群と診断した。しかし,眼球偏視が消失,対光反射が出現し,上肢の運動も活発に認められたことから,脳動脈瘤頸部クリッピング術を目的に開頭手術を施行した。患者は第18病日に神経脱落症状なく独歩で退院した。Bystandarによる発症直後からの心肺蘇生法や集中治療は院外心肺停止で発症したクモ膜下出血症例の生存率や機能的予後を改善する可能性がある。
著者
澤村 淳 菅野 正寛 久保田 信彦 上垣 慎二 早川 峰司 渡邉 昌也 丸藤 哲
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.219-223, 2011-05-15 (Released:2011-07-23)
参考文献数
9

QT延長症候群には様々な原因があるが,水泳中に心室細動を発症したRomano-Ward症候群の1症例を経験したので,若干の文献的考察を含めて報告する。症例は12歳女児で学校のプール学習で遊泳中に仰向けに浮いているのを発見され,引き上げたところ心肺停止状態であった。直ちに担任教師により心肺脳蘇生法が開始され,自動体外式除細動器(automated external defibrillator; AED) を装着し除細動を実施した(後の解析で心室細動と判明した)。除細動後,間もなく自己心拍が再開した。気管挿管後,ドクターヘリで当科へ搬送された。意識はJapan coma scale(JCS) 200,Glasgow coma scale(GCS) E1VTM3,瞳孔径左右とも3mm,対光反射は両側とも迅速。血圧136/74mmHg,脈拍84/min,呼吸回数 19/min, SpO2 100%(FIO2 1.0,気管挿管下)。12誘導心電図:完全右脚ブロック,QTc 0.49secとQT時間の延長を認めた。24時間の脳低温療法を行い,神経学的後遺症は残さず回復した。日本循環器学会のガイドラインに準拠して植え込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator; ICD)の適応(class I)となり,第7病日にICDを挿入した。その後,問題なく経過し,第14病日に独歩退院した。若年発症のQT延長症候群の場合,先天性のRomano-Ward症候群をまず疑うことが重要である。またRomano-Ward症候群は常染色体優性遺伝であり,遺伝子診断まで検索が必要である。心室細動で発症するハイリスク例に対してはICDの挿入は必須の治療であると考えられた。
著者
山本 浩 澤村 淳 向井 信貴 菅野 正寛 久保田 信彦 上垣 慎二 早川 峰司 丸藤 哲
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.401-404, 2013-07-01 (Released:2013-08-09)
参考文献数
9
被引用文献数
2 1

過去10年間において男性2名,女性4名の計6例の急性リチウム中毒を経験した。炭酸リチウムの服薬量は,全症例において中毒域に達するとされる40 mg/kg以上であった。血清リチウム濃度が判明した症例は2例であり,ともに致死濃度である4 mmol/lを超えていたが,1症例に持続的血液濾過透析を施行した。輸液療法主体の症例では血清リチウム濃度の減少勾配は比較的緩やかであり36時間後でも有効治療域を超えていたが,continuous hemodiafiltration(CHDF)症例では速やかに血清リチウム濃度は治療域に減少し,CHDF離脱後の再上昇も認められなかった。血清リチウム濃度の測定ができない施設があり,臨床症状では中毒症状の判断ができないことが指摘されている。血清リチウム濃度が中毒域を超えている場合,あるいは中毒域に達するとされる40 mg/kg以上の服用例では急性血液浄化法導入を考慮すべきと考えられた。
著者
丸藤 哲 亀上 隆 澤村 淳 早川 峰司 星野 弘勝 大城 あき子 久保田 信彦
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.9, pp.629-644, 2006-09-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
47
被引用文献数
7 7

外傷後にみられる血液凝固線溶系の変化とその制御方法に関する新知見を概説した。外傷後の凝固線溶系の変化は,止血・創傷治癒のための生理的凝固線溶反応と多臓器不全(multiple organ dysfunction syndrome; MODS)を惹起して症例を死に導く病的凝固線溶反応である播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation; DIC)に分類される。最近外傷後DICの病型に新しい概念が導入され(controlled overt DIC and uncontrolled overt DIC),その凝固線溶系反応の経時的推移も線溶亢進期と線溶抑制期に分類して論じられるようになった。外傷後凝固線溶系反応は低体温,重症代謝性アシドーシス,希釈等の影響を受けて重篤化し出血傾向が出現するために,これらの修飾因子発現予防が症例の予後改善のために必要である。もう一つの重要な予後規定因子であるDICでは炎症性サイトカインが高値となり全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome; SIRS)が持続するが,このDICと遷延性SIRSが相乗的に作用して虚血性微小循環障害と炎症性微小循環障害からMODSを引き起こす。外傷後凝固線溶系の制御は,MODS発症予防と大量出血の止血を目的として行われる。前者は凝固炎症反応連関の考え方に基づいたDIC/遷延性SIRSの予防と治療が主体となり,後者においては最近の外傷後凝固線溶系反応の病態生理解明の新知見に基づいた大規模ランダム化比較試験の実施や遺伝子組み換え活性化第VII因子製剤の臨床応用等が話題となっている。
著者
丸藤 哲 澤村 淳 早川 峰司 菅野 正寛 久保田 信彦 上垣 慎二 平安山 直美
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.9, pp.765-778, 2010-09-15 (Released:2010-11-09)
参考文献数
43
被引用文献数
1

外傷急性期の凝固線溶系の変化に関してEducational Initiative on Critical Bleeding in Trauma(EICBT)から新しい病態概念である「Coagulopathy of Trauma」と「Acute Coagulopathy of Trauma-Shock(ACoTS)」が提唱された。しかし,これらの診断基準は存在せず,両者の本態は従来から独立した病態として存在する線溶亢進型DIC(disseminated intra vascular coagulation)に一致する。診断基準がないことが同概念と線溶亢進型DICおよび類似病態との鑑別を不可能としている。これらの理由により「Coagulopathy of Trauma and ACoTS」は,独立した疾患・病態概念ではなく定義不能な臨床状態として位置づけることが可能である。このような曖昧な概念を外傷急性期の凝固線溶系変化の病態生理解明のために使用すべきではない。外傷急性期の凝固線溶系異常は線溶亢進型DICで説明可能であり,線溶亢進型DICは従来どおり正しく線溶亢進型DICと呼称されるべきである。
著者
和田 剛志 澤村 淳 菅野 正寛 平安山 直美 久保田 信彦 星野 弘勝 早川 峰司 丸藤 哲
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.191-195, 2010-04-01 (Released:2010-10-30)
参考文献数
13

甲状腺クリーゼと診断した4例を経験した。1例は来院前に心肺停止となり,蘇生後低酸素脳症により不幸な転帰となったが,他3例は迅速な診断と治療により良好な経過をたどった。4例すべてに心不全徴候を認めたが,甲状腺治療薬が心不全や全身状態を悪化させる可能性があるため,治療に際しては十分な循環動態の監視が必要と考えられた。また,外傷後の異常な頻脈と発熱持続を認める場合,甲状腺機能評価を視野に入れた治療が必要と考えられた。