著者
熊谷 麻紀 五十嵐 久人
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.12, pp.850-859, 2020-12-15 (Released:2020-12-31)
参考文献数
48

目的 本研究は,国内の中小企業雇用者のWFCは生活習慣や就労状況とどのような関係があるのか明らかにすることとした。方法 研究協力の得られた中小企業4社294人の従業員を対象に,自記式質問紙調査を実施した。調査項目は基本属性,就労状況,生活習慣,多次元的ワーク・ファミリー・コンフリクト尺度日本語版(WFCS),主観的健康感,主観的ストレス度とした。WFCの下位尺度であるWork Interference with Family(仕事から家庭への葛藤:WIF)とFamily Interference with Work(家庭から仕事への葛藤:FIW)スコアを高低で2群化し,これらを従属変数にロジスティック回帰分析を行い,関連する要因を検討した。結果 227人から回答を得て,欠損のない185人を分析対象とした。男性146人(78.9%),女性39人(21.1%),平均年齢43.6±11.2歳,配偶者および子がいる者の割合は6割弱で,WIF・FIWそれぞれの中央値は3.0,2.3であった。 WIFの2群間では平均労働時間(h/日),休暇取得のしやすさ,欠食の有無等に有意差があり,FIWの2群間では休暇取得のしやすさ,主観的健康感,主観的ストレス度に有意差が認められた。 ロジスティック回帰分析の結果,WIFには「欠食の有無」,「主観的ストレス度」,「平均労働時間(h/日)」,「年齢」,「主観的健康感」,「休暇取得のしやすさ」との関連が認められ,FIWには「主観的健康感」のみ関連がみられ,異なる要因が抽出された。結論 中小企業雇用者のWFCに関連する要因を検討した結果,仕事から家庭への葛藤(WIF)を低下させるためには,適切な生活習慣を送ること,長時間労働の短縮や雇用者が休暇を取得しやすい職場環境の改善を要し,家庭から仕事への葛藤(FIW)を低下させるためには,ストレスとうまく向き合い,精神的安定を図り,主観的健康感を高めていくことが必要となる可能性が示された。