著者
菅野 敦 正宗 淳 花田 敬士 真口 宏介 清水 泰博 植木 敏晴 長谷部 修 大塚 隆生 中村 雅史 竹中 完 北野 雅之 菊山 正隆 蒲田 敏文 吉田 浩司 佐々木 民人 芹川 正浩 古川 徹 柳澤 昭夫 下瀬川 徹
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.16-22, 2017-02-25 (Released:2017-03-17)
参考文献数
16
被引用文献数
5 3

膵癌早期診断研究会が主導して行った,早期診断された膵癌の実態調査について報告する.40例のStage 0膵癌と119例のStage I膵癌が集積された.膵癌全体に占めるStage 0膵癌とStage I膵癌の割合は約2%であり,Stage 0膵癌は0.6%であった.症状を認めたために医療機関を受診した症例は38例(23.9%)と少なかったのに対して,検診にて異常を指摘され受診した症例は27例(17.0%),他疾患の経過観察中に異常を指摘された症例は85例(53.5%)と無症状で医療機関を受診した症例が多かった.検診にて異常を指摘された27例中,膵管拡張を指摘された症例が19例と画像における副所見の指摘から精査を行った症例が多かった.術前の病理診断では,超音波内視鏡下穿刺吸引法を用いた症例(30.8%)と比較して,内視鏡的逆行性胆管膵管造影下にて病理検体を採取した症例(77.8%)が多かった.予後は良好であったが,14.5%の症例で術後の残膵に膵癌が新たに発生した.今回の調査が,膵癌の早期発見ならびに予後改善に寄与をすることが期待される.
著者
佐藤 典宏
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.128-134, 2016-04-25 (Released:2016-04-29)
参考文献数
50

細胞外マトリックスの中心的コンポーネントであるヒアルロン酸は多くの癌で重要な役割を果たしている.大部分の膵癌はデスモプラジアと呼ばれる豊富な線維性間質を有し,ヒアルロン酸の著明な蓄積を伴っている.したがって,ヒアルロン酸は膵癌の治療標的として注目されている.これまでにヒアルロン酸を標的にした膵癌の治療戦略として,①ヒアルロン酸産生の阻害,②ヒアルロン酸シグナル伝達経路の阻害,および③間質のヒアルロン酸除去といったアプローチ法が報告されている.中でも,ヒアルロン酸を分解する酵素製剤であるPEGPH20は,ゲムシタビンをはじめとした化学療法の効果を高めることが証明され,米国での臨床試験においても有望な結果が報告されつつある.本論文では膵癌の進展におけるヒアルロン酸の役割に関する最新の知見およびヒアルロン酸をターゲットにした治療戦略について概説する.
著者
高橋 賢治 北野 陽平 牧野 雄一 羽田 勝計
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.32-40, 2016-02-25 (Released:2016-03-15)
参考文献数
52
被引用文献数
1

近年,長鎖の機能性RNAであるlong non-coding RNA(lncRNA)が,癌を含めた疾患の病態成立に寄与する事が明らかとなっている.また,lncRNAの中には細胞外小胞(extracellular vesicle;EV)によって細胞間輸送されるものがあり,伝達先の細胞においてシグナルや機能に影響を与える事が分かっている.これらlncRNAとEVの膵発癌,進展における機能解析はほとんどなされていないのが現状であるが,いくつかのlncRNAが膵癌浸潤,転移に重要なプロセスであるepithelial-mesenchymal transition(EMT)を制御する事が示唆されている.膵癌におけるlncRNAの核酸本体としてのエピジェネティックな制御機構及び,EVを介した情報伝達機構を解明する事が,新たな膵癌診断,治療法の開発につながる可能性がある.
著者
佐藤 晃彦 小泉 勝
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.736-741, 2014

症例は99歳,女性.2010年11月中旬,心窩部痛,吐気・嘔吐のため当科を受診した.血清アミラーゼ1,553IU/<i>l</i>と高値.CT所見と併せ,急性膵炎と診断した.膵体尾部実質造影不良と腎下極以遠までの広範な炎症波及を認め,厚労省重症度判定基準 造影CT Grade 3の重症膵炎と判定した.日本酒2~3合,毎日,35年間の飲酒歴があり,成因はアルコール性と考えられた.心不全が増悪して一時重篤な状態に陥ったが,徐々に病態が改善し,最終的には,膵炎に伴う重篤な後遺症を残すことなく第137病日に退院した(退院時年齢100歳).我が国において飲酒習慣を有する高齢女性は少なく,高齢女性のアルコール性膵炎は稀である.本例は,超高齢女性に発症したアルコールが成因と考えられる重症急性膵炎であり,極めて稀な症例と考えられた.高齢者の急性膵炎では,重症化,既往合併症の増悪や廃用症候群の続発に特に留意が必要である.<br>
著者
亀井 敬子 竹山 宜典
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.189-195, 2014 (Released:2014-05-21)
参考文献数
25

重症急性膵炎は,死亡率が20%に達する重篤な疾患で,感染合併の有無がその生死に大きく関わる.軽症膵炎では予防的抗菌薬は必要なく,重症急性膵炎での予防的抗菌薬投与はImipenemなどのカルバペネム系抗菌薬が推奨されているが,その開始時期,投与期間などは各施設で統一されておらず,抗菌薬の過剰投与により新たに多剤耐性菌や真菌感染を惹起し,治療に難渋するケースもでてきている.現在検討されている抗菌薬使用指針案では,予防的使用において,その投与は最小限とすることを前提とし,最大でも5日間で投与終了,全身投与よりも動注による局所投与を推奨している.予防的使用と治療的使用を使い分け,適正な抗菌薬を使用することにより膵炎の感染合併による重症化の阻止が期待できる.また,経腸栄養などを併用した,至適プロトコールの確立が重要であるが,この課題における今後の進展が切望される.
著者
北川 裕久 田島 秀浩 中川原 寿俊 牧野 勇 中沼 伸一 林 泰寛 高村 博之 二宮 致 伏田 幸夫 萱原 正都 太田 哲生
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 = The Journal of Japan Pancreas Society (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.178-184, 2013-04-25
参考文献数
13
被引用文献数
3

膵頭部癌の膵頭十二指腸切除術後消化吸収障害に対する,腸溶性高力価膵消化酵素剤パンクレリパーゼの有効性を,従来の膵消化酵素剤から本剤に切り替えた7症例で評価した.消化吸収障害は下痢の程度,体重の増減,日常生活の活動性,消化不良の症状を織り交ぜWong-Bakerのフェイススケールにあわせて,0から5までのGrade分類を新たに作成して評価した.1例で重度の下痢がみられ投与中止した.他の6例では腸溶性パンクレリパーゼへの変更によって,5例で体重増加がみられ,4例で止痢剤減量を要した.消化吸収障害Gradeは,体重増加のなかった症例,止痢剤減量ができなかった症例も含め6例全例で0または1にまで改善していた.膵頭部癌術後の消化吸収障害の改善に,腸溶性パンクレリパーゼの投与は,有用であることが示唆された.また,今回考案した臨床に即したGrade分類は,消化吸収障害の評価に有用であった.<br>
著者
真口 宏介 小山内 学 高橋 邦幸 潟沼 朗生
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.522-531, 2005 (Released:2006-11-17)
参考文献数
24
被引用文献数
6 2

Intraductal papillary-mucinous neoplasm (IPMN) の分枝型は, 組織学的には腺癌, 腺腫のほか過形成病変が加わり, 臨床的には主膵管型に比べ浸潤癌の頻度が低く, 長期間進展しない例が多い. このため, 手術適応例と経過観察例が存在することになる.手術適応の判定因子としては, 画像診断による結節状隆起・壁在結節 (mural nodule) の評価, 主膵管径・拡張分枝径の測定がある. 国際的には, 拡張分枝径が重要視され, 次に隆起の存在, 主膵管の拡張が悪性を示唆する所見となっている. 一方, 本邦では隆起の高さを最も重要とし, 次に主膵管の拡張が重要との意見が多い. いずれにしても, 治療方針の決定ならびに経過観察には, 膵管の評価と拡張分枝内の隆起の評価の両者が求められ, 前者にはUS, CT, MRCPの組み合わせ, 後者にはEUSが必要である. また最近では, IPMNと通常型膵管癌の併存が注目されており, 経過観察に際し膵全体の評価を怠ってはならない. さらに, IPMN症例には他臓器癌の合併頻度が高く, 定期的な全身検索も重要である.
著者
諏訪 裕文 馬場 信雄 畦地 英全 雑賀 興慶 崎久保 守人 上村 良 大江 秀明 岩崎 稔 吉川 明 石上 俊一 田村 淳 小川 博暉 坂梨 四郎
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 = The Journal of Japan Pancreas Society (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.547-553, 2005-12-29
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

症例は62歳の男性. 膵頭部癌にて膵頭十二指腸切除術を施行した13カ月後, 胸部CTにて多発肺転移を指摘された. 塩酸ゲムシタビン1,000mg/m<sup>2</sup>の点滴静注を週1回行い, 3週投薬後1週休薬のスケジュールを1クールとして化学療法を開始した. 消化器症状や血液毒性がほとんど認められず, 第2クールからは外来通院で行うこととした. 第2クール後のCTで抗腫瘍効果はNCであり, 第3クールからはQOLの維持と長期投与を目的として塩酸ゲムシタビンの1回投与量を700mg/m<sup>2</sup>に減量した. 以後, 副作用なく癌性胸水の出現まで長期間NCを維持し, 外来にて14カ月間の継続治療が可能であった. 膵癌術後の肺転移再発の予後は極めて不良であるが, 本症例のように, ゲムシタビン治療により, 外来でQOLを維持しながら長期生存が可能な場合もある.
著者
植木 敏晴 松村 圭一郎 丸尾 達 畑山 勝子 土居 雅宗 永山 林太郎 伊原 諒 野間 栄次郎 光安 智子 松井 敏幸
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.116-122, 2015-02-25 (Released:2015-03-24)
参考文献数
18
被引用文献数
2

自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis:AIP)の国際分類における2型(type 2)の頻度は,北アメリカ(14%)やヨーロッパ(13%)に比し,アジア(4%)では低値である.本邦における炎症性腸疾患に合併するtype 2 AIPは,国際調査によるtype 2 AIPと異なり,黄疸がなく,腹痛の頻度が高かった.膵頭部腫大例は約半数で,下部胆管狭窄例は10%程度であった.膵管狭細化は多くが全膵管の2/3以上の長さで,膵石の合併はなかった.炎症性腸疾患以外の膵外病変の頻度は低かった.ステロイド投与例は約半数で,約1/3が保存的に経過観察されていた.切除例は少なかった.本邦のtype 2 AIPは,膵のコア生検による十分な膵組織と,臨床医と病理医との緊密な連携によりさらに解明されるであろう.
著者
高野 幸路
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.710-715, 2008 (Released:2009-01-23)
参考文献数
1
被引用文献数
1 1

機能性の神経内分泌腫瘍では,腫瘍としての問題(腫瘍増大·浸潤,遠隔転移)に加えてホルモン過剰分泌によるさまざまな症状が出現し,患者を苦しめる.機能性神経内分泌腫瘍には進行が緩徐で経過が長いものが多い.この間,腫瘍よりもホルモン過剰症状が患者を日々煩わし,生活の質を著しく損ね,生命予後も悪化させる.一方,非機能性腫瘍は遠隔転移後にみつかることも多く手術で根治できないことも多い.ホルモンの過剰分泌の抑制,転移性神経内分泌腫瘍の治療にソマトスタチンアナログが有効でありその導入により患者のQOLの改善,stable diseaseの維持が可能になっている.本稿では,ソマトスタチンアナログの特徴,適応,有用性について述べる.
著者
佐藤 晃彦 小泉 勝
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.736-741, 2014 (Released:2014-09-04)
参考文献数
12

症例は99歳,女性.2010年11月中旬,心窩部痛,吐気・嘔吐のため当科を受診した.血清アミラーゼ1,553IU/lと高値.CT所見と併せ,急性膵炎と診断した.膵体尾部実質造影不良と腎下極以遠までの広範な炎症波及を認め,厚労省重症度判定基準 造影CT Grade 3の重症膵炎と判定した.日本酒2~3合,毎日,35年間の飲酒歴があり,成因はアルコール性と考えられた.心不全が増悪して一時重篤な状態に陥ったが,徐々に病態が改善し,最終的には,膵炎に伴う重篤な後遺症を残すことなく第137病日に退院した(退院時年齢100歳).我が国において飲酒習慣を有する高齢女性は少なく,高齢女性のアルコール性膵炎は稀である.本例は,超高齢女性に発症したアルコールが成因と考えられる重症急性膵炎であり,極めて稀な症例と考えられた.高齢者の急性膵炎では,重症化,既往合併症の増悪や廃用症候群の続発に特に留意が必要である.
著者
山口 裕也 山縣 元 平瀬 伸尚 塩崎 宏 桑野 晴夫 渡辺 次郎
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.70-75, 2006 (Released:2006-12-08)
参考文献数
12
被引用文献数
3 3

症例は83歳男性.心窩部のつっぱり感を自覚し当科受診.血中膵酵素の増加とCTにて膵全体のソーセージ様腫大を認め,自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis:AIP)が疑われ入院となった.ERCPでも膵体部を中心に主膵管の狭細化を認めAIPが強く疑われたが自己抗体,IgG,IgG4の増加を認めず確診にいたらなかった.一旦退院となるも退院2日後より排便困難が出現し再入院.大腸内視鏡で直腸の狭窄と粘膜の浮腫を認め,CTでは膵腫大に加え新たに腹水を認めた.直腸生検にて異型リンパ球の粘膜内浸潤を,また腹水中にも異型リンパ球を認めたため可溶性IL-2レセプター(sIL-2R)を測定し3,183U/mlと高値を確認,悪性リンパ腫と診断した.化学療法(THP-COP)にて膵腫大,膵管狭窄は改善し腹水は一旦消失したが,その後短期間のうちに治療抵抗性となり呼吸不全にて死亡した.
著者
辻 喜久 渡邉 翼 塩川 雅広 栗田 亮 澤井 勇悟 上野 憲司 塩 せいじ 宇座 徳光 児玉 裕三 小泉 幸司 磯田 裕義 渡邊 祐司 山本 博 千葉 勉
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.59-65, 2011 (Released:2011-03-07)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

[背景と目的]脳虚血性疾患では,虚血領域は2種類に分けられ,壊死に至る不可逆性の領域と,虚血であるものの治療によって壊死することなく治癒する可逆性虚血領域である.今回,重症急性膵炎にPerfusion CTを用いれば,可逆性虚血領域が診断できるか検討した. [方法]発症3日以内に,Perfusion CTを撮像した71人の重症急性膵炎患者を対象とした.全ての膵実質を,頭部,体部,尾部に分け,膵血流速度(FV),膵血流量(VD)をPerfusion CT(Single compartment kinetic model)にて測定した.3週間後に造影CTを行い,頭部,体部,尾部がそれぞれ壊死したか診断した. [結果]発症早期に,FV,VDどちらも低下している場合,高率に壊死した.発症早期に,FV,VD片方だけ低下している場合,壊死する場合もあれば,回復する場合もあった.発症早期に,FV,VDどちらも低下していなければ壊死しなかった. [考察]発症早期にFV,VDどちらも低下した実質は高率に壊死し,このような実質は不可逆性膵虚血/早期壊死であると考えられた.単一のParameterのみ低下した実質は,必ずしも壊死しない場合があり,こうした実質は可逆性膵虚血である場合があると考えられた.以上から,複数のPerfusion Parameterを用いることで,可逆性-非可逆性膵虚血を診断しうる可能性があると考えられたが,こうしたPerfusion CTの所見と病理との比較や,用語の定義など,今後の課題であると考えられた.
著者
川畑 康成 石川 典由 森山 一郎 福庭 暢彦 田島 義証
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.620-625, 2015-08-25 (Released:2015-09-08)
参考文献数
15
被引用文献数
1

症例は71歳の女性.心窩部痛を契機に上部消化管内視鏡検査で十二指腸第II部に変形・狭窄および易出血病変を認めた.腹部造影CTでは膵頭部に径50mm大の充実性腫瘤を認め,門脈・脾動脈および十二指腸への浸潤が疑われた.ERPで主膵管は膵頭部で途絶していた.膵液細胞診はadenocarcinomaであり,門脈および脾動脈浸潤を伴う切除可能境界膵頭部癌(cT4, N1, M0, cStage IVa)と診断.門脈および脾動脈切除・再建を伴う膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織所見では,腺管構造の不整を伴う高分化型腺癌が主体で,腫瘍間質の線維化が強く,門脈浸潤を認めた.術後補助療法として放射線化学療法(GEM+RT)およびS-1による6ヶ月間の維持療法を施行した.術後の栄養状態とQOLは良好で,7年7ヶ月経過した現在,無再発生存中である.
著者
伊地知 秀明
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.28-34, 2010 (Released:2010-03-03)
参考文献数
19

ヒト膵癌に高頻度な遺伝子やシグナル伝達系の異常をマウスの膵臓に導入することにより,通常型膵癌をよく近似する膵発癌モデルが得られるようになった.恒常活性型Krasが生理的なレベルで膵臓に発現すると前癌病変であるPanINが生じ,同時に癌抑制遺伝子(p16,p53,TGF-βシグナル等)の不活性化が加わると浸潤癌に進行し,著明な間質の増生・線維化を伴う管状腺癌というヒト膵癌の組織学的特徴をよく模倣する.これら膵発癌モデルは,従来のxenograftモデルに比べ,多段階発癌過程を模倣している点・腫瘍の微小環境が保たれている点において臨床の膵癌像に大きく近づいたモデルであり,その詳細な解析から,膵癌の発癌から進展までの病態をよりよく理解することができ,膵癌の新たな診断法・治療法の確立や膵癌の起源細胞の解明へとトランスレーショナルリサーチ発展への寄与が期待される.
著者
森安 史典 糸井 隆夫 永川 裕一 土田 明彦
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.210-218, 2015-04-20 (Released:2015-05-08)
参考文献数
22

IRE(Irreversible electroporation)は,2008年に米国で市販され,軟部組織の悪性腫瘍の治療に広く使われるようになった.中でも膵癌は放射線療法以外によい局所療法がないことから,IREの治療対象として注目されている.IREはnon-thermal ablationの局所治療法であり,胆管,膵管,血管,消化管などの構造を温存して,細胞のみに細胞死を惹起せしめることから,切除不能局所進行膵癌の治療法として期待されている.本稿では,IREの原理から臨床応用まで,膵癌の新治療法について概説する.
著者
水谷 泰之 大塚 裕之 森島 大雅 藤塚 宣功 片山 雅貴 石川 英樹
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.785-791, 2013 (Released:2014-01-18)
参考文献数
16
被引用文献数
1 8

患者は65歳,男性.検診で膵管拡張を指摘され当科受診となった.US,単純および造影CTで主膵管拡張を認め,膵実質内に明らかな腫瘤は指摘出来なかった.EUSで主膵管は体尾部で4mmと著明な拡張を認め,その頭側に境界不明瞭で辺縁不整な低エコー領域を認めた.膵上皮内癌を念頭におきERCPを施行した.主膵管は頭体部移行部で限局性狭窄を来たし,尾側膵管は数珠状拡張を呈していた.膵液細胞診の結果は陰性であった.画像診断で腫瘤の認識は困難であったが,膵管像からは膵癌を強く疑い膵頭十二指腸切除を行った.病理学的所見は,主膵管と分枝膵管に低乳頭状増殖を示し,PanIN1からPanIN3に相当する異型上皮の置換性増殖を認めた.検索の限り明らかな浸潤像は確認されなかった.
著者
鈴木 裕 中里 徹矢 横山 政明 阿部 展次 正木 忠彦 森 俊幸 杉山 政則 土岐 真朗 高橋 信一
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.102-105, 2012 (Released:2012-05-15)
参考文献数
12

急性膵炎の重症化と合併症発生に対する肥満の影響について概説した.肥満の影響を考えるに当たり,多くはBMI(Body mass index)を用いているが,近年はCTを用いて内臓脂肪や皮下脂肪をパラメーターとしている報告も散見される.各報告をみると重症化や合併症発生に肥満は何らかの影響があると予想される.BMIでは,欧米では多くの肥満例が重症化と全身合併症に相関し,全身合併症の多くは呼吸不全である.本邦ではBMIは有意な重症化の危険因子とはならず人種差の可能性はある.しかし,日本人でも内臓脂肪の増加は急性膵炎重症化や合併症の発生に影響する可能性があり,肥満のタイプが重要であると思われる.今後は内臓脂肪面積などを画像診断による肥満のタイプをパラメーターとして詳細な検討を行う必要があると思われた.その際は,可能な限り発症早期の画像を用いるべきであり,理想は膵炎発症直前の測定が望まれる.