著者
近藤 孝晴 成瀬 達
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

身体運動が消化吸収に及ぼす影響について検討した。1)イヌを用いた実験では、イヌに慢性胃・大腸瘻を造設し、運動が食物の消化管通過時間,胃、小腸、大腸運動機能などに与える影響を検討した。牛乳は運動の有無に関係なく小腸ですべて吸収され、消化管通過時間の測定が不能であった。固型食(肉)の消化吸収は血中脂質を測定して検討した。固型食の消化吸収は運動により遅延した。運動によって固型食の胃排出が遅延するためと推定された。胃、小腸、大腸運動は身体運動により亢進した。これは空腹時でも食後でも同様であった。2)ヒトを対象とした実験は、運動によって食物の通過時間が変化するか否かを、消化管機能が低下していると考えられる高齢者9名(平均年齢71歳)を被験者として行った。一日平均3700歩の安静と、12800歩の運動をそれぞれ2週間続け、小腸、大腸、全消化管通過時間を測定した。小腸通過時間はラクツロ-スによる呼気中水素の測定(クイントロン社マイクロライザ-,新規購入)によった。大腸通過時間はX線非透過性のマ-カ-を服用させ,一定時間後に腹部のX線写真を撮影して、残存するマ-カ-の数から推定した。全消化管通過時間はカルミン服用後、便が着色するまでの時間とした。小腸通過時間は安静時、運動時とも差がなかった。大腸通過時間は、安静時19.5時間であったが運動により11時間と短縮した。全消化管通過時間は安静時26時間に対し、運動時22時間と短縮した。 3)運動が微量元素の吸収に与える影響を、血中亜鉛を測定して検討した。血中亜鉛は身体運動によって変動しなかったが、断眠下の身体運動という強いストレスでは低下した。以上、身体運動は消化管機能を変化させるとともに、種々の食物の消化吸収に影響を与えることがわかった。