著者
福島 慶太郎 井上 みずき 山崎 理正 阪口 翔太 高柳 敦 境 優 中川 光 平岡 真合乃 吉岡 憲成 池川 凛太郎 石原 正恵
出版者
Pro Natura Foundation Japan
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.1-13, 2020 (Released:2020-09-29)
参考文献数
21

西日本でも有数の生物多様性を誇る京都大学芦生研究林内のブナ・ミズナラ天然林では,2000年代に入りシカによる過剰採食が原因で急速に下層植生が衰退した.2006年に防鹿柵で囲んだ集水域,2017年に囲んだ集水域,防鹿柵を設置していない対照集水域の3集水域を対象に,植生・渓流水質・細粒土砂の調査を行い,集水域単位の防鹿柵設置の効果と実用性を検証した.スポット的な植物保全用の防鹿柵に比べ,集水域単位の大面積防鹿柵の設置は,植物保全だけでなく植物-土壌-渓流水一連の生態系全体を保全する上で非常に有効であることが示された.また,2017年柵設置集水域では,2006年柵設置集水域に比べて設置後の植生回復が遅く,生態系機能への影響が長期間継続する可能性が考えられた.2017年柵集水域で回復が遅かった理由として,採食圧の継続によりシードバンクが劣化していたことの他に,シカの侵入を一時的に許してしまったことが挙げられる.柵の経年劣化や,クマの侵入・台風による倒木等で柵が破損することでシカが侵入することを防ぐため,ネットの交換,定期的な柵の見回りや補修を複数の人員が交代して行う体制を整備することができ,集水域スケールの防鹿柵の長期的な維持管理方法を見出すことができた.
著者
種子田 春彦 鈴木 牧 井上 みずき 森 英樹
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.63-70, 2019 (Released:2019-08-08)
参考文献数
31

つる植物は、直立した植物に寄りかかって伸長成長を行う生活形を持つ。力学的支持のために茎や根への投資するエネルギーが少ないために、速い茎の伸長と旺盛な成長が可能となる。そして、マント群落として知られるように直立した植物に覆いかぶさるような勢いで繁茂する。このようなつる植物を、次の二つの理由から特集で取り上げた。一つ目の理由は、森林動態への重要性である。熱帯を中心とした研究から、つる植物の存在が森林の遷移や種組成にあきらかに負の影響があることが分かってきた。しかし、日本を含む温帯域での研究は少ない。もう一つの理由は、つる植物の生態の多様性にある。旺盛な成長を可能にした「つる性」は、一方で植物の生態にさまざまな制約を課す。これを克服するために発達させた生態学的または生理学的な性質が、つる植物にみられる多様な生態を作り出したと言えるだろう。本稿では、つる植物について簡単に説明した後、特集に掲載された4報の論文について概説する。
著者
阪口 翔太 藤木 大介 井上 みずき 山崎 理正 福島 慶太郎 高柳 敦
出版者
京都大学大学院農学研究科附属演習林
雑誌
森林研究 = Forest research, Kyoto (ISSN:13444174)
巻号頁・発行日
no.78, pp.71-80, 2012-09 (Released:2013-10-08)

ニホンジカ(シカ)の森林植生への影響が懸念されている京都大学芦生研究林において,主要植物種に対するシカの嗜好性を調査した。嗜好性を把握できた90種の植物のうち,嗜好性が高いと判断された種は74種に上った。この結果は,本地域の植物群集の種のプールの大部分が,シカに嗜好されやすい種によって担われていることを示唆している。よって,シカの採食圧が本地域で持続する限り,多くの種で個体群が衰退し,地域のフロラが貧弱化する可能性がある。残りの16種については,シカの食痕をほとんど確認できず,かつ個体の矮小化現象が見られなかったことから,シカの嗜好性が低い種であると判断された。これらの種は,シカの採食によって嗜好性種が消失した後に分布を拡大し,種多様性・機能的多様性の低い群集を再構築する可能性が高い。しかし,シカの嗜好性が状況依存的に変化しうるという側面を考慮すれば,本論文で挙げた低嗜好性種も将来的にはシカに嗜好される可能性もある。今後,芦生地域の豊かなフロラを保全するためには,シカの生息密度と植物群集の変化をモニタリングしながら,シカの生息密度を適切なレベルで管理する努力が必要になるだろう。