著者
馬場 慎介 澤村 大地 村串 まどか 柳瀬 和也 井上 暁子 竜子 正彦 山本 雅和 中井 泉
出版者
公益社団法人 日本分析化学会 X線分析研究懇談会
雑誌
X線分析の進歩 (ISSN:09117806)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.284-307, 2017-03-31 (Released:2023-08-18)
参考文献数
40

日本で出土する古代ガラスの化学組成の違いは,ガラスの製造地や原料の違いを反映することが知られている.日本では古代ガラスの研究が盛んに行われてきたが,平安時代以降の中世のガラスに着目して研究をした例は少ない.本研究では中世以降の京都府出土のガラスについてポータブル蛍光X線分析を用いて非破壊化学組成分析を行った.分析結果を他地域の中世のガラスと比較することで,ガラスの流通について考察することなどを目的として研究を進めた.まず,全資料を主成分組成により分類したところ,カリ鉛ガラス(K2O-PbO-SiO2),カリ石灰ガラス(K2O-CaO-SiO2),アルミナソーダ石灰ガラス(Na2O-Al2O3-CaO-SiO2)の3種類が確認された.カリ鉛ガラス,カリ石灰ガラスは中世を代表するガラスであり,化学組成に差が見られるものもあり,異なる起源を有することがわかった.アルミナソーダ石灰ガラスについては古代日本で広く流通したガラスタイプであるが,微量重元素組成においても古代のアルミナソーダ石灰ガラスと類似した組成を持つため,古代からの伝世品である可能性が示された.
著者
井上 暁子
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

旧ドイツ領にあたるポーランド北部/西部国境地帯が、1980年代以降に書かれたドイツ語・ポーランド語文学においてどのように表象されるかという問題を、とくにその独特な「わたし語り」による記憶の描かれ方に注目して分析した。当該国境地帯は、この地域在住のポーランド語作家の文学においては多層的な記憶のテクストとして表象されているが、社会主義末期西ドイツへ移住し、体制転換後両国を行き来する作家の文学においては、国境地帯をめぐる様々なディスクールが移動者の視点から脱構築される。さらに、体制転換に伴う創作環境・流通形態の変化と、題材・テーマ・手法への影響に関して、10名の作家にインタビューを行った。
著者
阿部 賢一 小椋 彩 井上 暁子 加藤 有子 野町 素己 越野 剛
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

国民文学の枠組みでの研究、あるいは同様な枠組み同士の比較検討がこれまで主流であったが、本研究はそのような国民文学の枠組みから逸脱する3つの視点(「移動の文学」、「文学史の書き換え」、「ミクロ・ネーションの文学」)に着目し、個別の現地調査の他、国内外の研究者とともに研究会、シンポジウムを開催した。その結果、3つの視点の有効性を確認できたほか、シェンゲン以降の移動の問題(政治学)、国民文学史の位相(歴史学)、マイノリティの記述の問題(文化研究)といったそのほかの問題系およびほかの研究分野と隣接している問題点や研究の可能性を国内外の研究者と共有し、一定の成果をあげた。
著者
井上 暁子
出版者
現代文芸論研究室
雑誌
れにくさ
巻号頁・発行日
no.2, pp.40-61, 2010

論文After the collapse of communism and the end of the Cold War, a new generation of young writers born after 1960 emerged in Polish literature. Natasza Goerke (1962-), a Polish writer living in Hamburg since 1985, is regarded as one of the representative writers of this generation. Today, her literary works are considered a part of Polish postmodern literature. Her first work, a collection of short stories entitled Fractale (1994), has been referred to in various discussions on literary tendencies in the post-communist era. This paper aims to discuss this work from a historical perspective and demonstrate that it not only stimulated culture criticisms in the 1990s but also challenged such discourses. The following features of this work have been highlighted so far: absurdity, expanding images, emptiness, grotesque humor, non-epic language, allegory, the apparent luck of a point, parody of stereotypes, etc. These features playfully shake the structure of a linear narrative and create confusion in the readers'minds. The first important aspect in this regard is non-epic language, which characterizes Goerke's narrative. It expands images, interrupts a logical connection, and confuses the readers. Examining two stories written in an allegorical style, I highlighted the literary behavior of the language and clarified that the misleading suggestion of metaphysical themes like 'happiness'and 'dreams'plays a vital role in her work. Next, exploring a story in which two individuals with different cultural backgrounds sometimes openly exhibits stereotypical images of others. The language and behavior of these two individuals seem to be manifestations of their social and cultural norms, underscoring the differences between them. However, this is merely a mistaken interpretation. In this manner, Goerke engages in a parodic play through the recognition of differences. It is important to emphasize that Goerke's narrative technique has critical character regarding the trends of Polish literature in the 1990s. Against the background of iconoclastic tendency, the high popularity of meta-fictional literature and glorification of postmodern aesthetics such as difference, Goerke testified the overwhelming charm of allegory and established a new form of representing radical change in Polish literature after the end of communism.
著者
井上 暁子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度は、博士論文の執筆に費やした。私の博士論文(題目『私の神話、私たちの神話』)は、1980年代にドイツ連邦共和国へ移住した3人のポーランド人作家の文学を、「神話とくわたし語り」」という観点から論じるものである。彼らは皆、1960年代にドイツ=ポーランド国境地帯に生まれた人々で、体制転換以後もドイツで暮らしている。ポーランド語作家ヤヌシュ・ルドニツキや、ドイツ語とポーランド語のバイリンガル作家ダリウシュ・ムッシャーは、国家、地域、歴史、民族的文化的アイデンティティをめぐる様々なディスクールを、移動する一人称語り手の視点から、鋭く脱神話化しつつ、個人とそれらのディスクールとの不安定な関係を描き出している。他方、ポーランド語作家のナタシャ・ゲルケは、ドイツやポーランドといった具体性を一切持ち込まない、寓話的なポストモダン小説を書くことによって、1990年代のポーランド国内で流行する脱神話化傾向と一線を画している(ゲルケの文学については、東京大学現代文芸論紀要『れにくさ』へ寄稿)。さらに、前年度末、ドイツのパッサウ大学で開かれた国際学会での報告内容を、報告集用に書き直した(20枚程度の論文)。国際的なイベントと言えば、2009年11月、名古屋市立大学で2日間にわたり、ドイツ語を執筆言語とする(ないし執筆言語の一つとする)作家5人を招いて、国際シンポジウム「アィデンティティ、移住、越境」(主催は土屋勝彦教授を代表者とする科研費研究グループ)が開催された。パネリストの中には、旧ソ連出身のユダヤ系作家が二人(ヴラディーミル・カミーナー氏、ヴラディーミル・ヴェルトリープ氏)が含まれており、私の研究対象であるポーランド人作家ムッシャーと比較することができた。また、多和田葉子氏や、その他のトルコ系の作家による報告も、「今日のドイツ語文学」について考察する上で、大変参考になった。名古屋市立大学訪問の後、ヴェルトリープ氏の講演について報告を頼まれ、そのテキストは東京大学文学部スラヴ語スラヴ文学研究室のHPにアップされた。さらに、2009年6月、北海道大学スラブ研究センターを訪問し、博士論文の一部を報告した。2010年3月には、再びスラブ研究センターを訪問し、私が論じている移民作家の文学と、ドイツ=ポーランド国境地帯の「地域文学」との共通点と差異について考察し、資料収集にあたった。「ドイツ・ポーランドにまたがる越境的文学研究」という私の専門分野は、日本で先行研究者のいない、未踏の沃野であるが、私の研究は、理論的な応用可能性と普遍性をもち、異文化接触や越境文化論に大きな貢献をする可能性を秘めている。この研究を一日も早く、形にしたい。
著者
井上 暁子
出版者
現代文芸論研究室
雑誌
れにくさ
巻号頁・発行日
vol.2, pp.40-61, 2010-12-27

論文