著者
今井 藍子 柳瀬 和也 馬場 慎介 中井 泉 中村 和之 小川 康和 越田 賢一郎
出版者
公益社団法人 日本分析化学会 X線分析研究懇談会
雑誌
X線分析の進歩 (ISSN:09117806)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.235-248, 2017-03-31 (Released:2023-08-18)
参考文献数
18

日本国内で紀元前3世紀から紀元後7世紀後半ごろに流通した古代ガラスは,全て海外からの搬入品であり,その化学組成は多様である.本研究では北海道道央地方から出土した続縄文時代のガラスビーズ計98点について,化学組成よりガラスの原料採取地や製作地の推定を試みた.分析資料は文化財であり,所蔵施設外部への持ち出しや破壊分析が困難であるため,ポータブル蛍光X線分析装置を用いて非破壊オンサイト分析を行った.その結果,資料は分析組成に基づきアルミナソーダ石灰ガラス(Na2O-Al2O3-CaO-SiO2系),ソーダ石灰ガラス(Na2O-CaO-SiO2系),カリガラス(K2O-SiO2系)の3タイプに分類された.また,東京理科大学中井研究室がこれまで分析した本州以南の古代ガラスとの微量重元素組成の比較より,同時期の北海道道央地方と本州以南では同様の起源を持つガラスが流通していたことが明らかになった.
著者
岩田 明彦 河合 潤
出版者
公益社団法人 日本分析化学会 X線分析研究懇談会
雑誌
X線分析の進歩 (ISSN:09117806)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.125-139, 2011-03-31 (Released:2023-11-29)
参考文献数
5

2種類の異なった色合いの合金からできた硬貨(バイカラー硬貨,Bi-colour coin)は,その色調や質感に似通ったものが多く,多くの硬貨が類似の合金を使用していると思われる.代表的なバイカラー硬貨であるユーロ硬貨は異なった国々で製造されているが,EUの統一された規格のもとに製造され当然その元素組成も規定されている.近年,ハンドヘルド型のエネルギー分散型蛍光X線装置(ED-XRF)の普及により,金属種や合金種の判別は容易に行えるようになったが,同じ種類の合金の産地判別などの試みは行われていない.今回,波長分散型蛍光X線分析法(WD-XRD)を用い,これらの類似したバイカラー硬貨と,統一された規格に従い異なった国で製造されたユーロ硬貨について,製造国の判別が可能であるかの検証を行った.
著者
馬場 慎介 澤村 大地 村串 まどか 柳瀬 和也 井上 暁子 竜子 正彦 山本 雅和 中井 泉
出版者
公益社団法人 日本分析化学会 X線分析研究懇談会
雑誌
X線分析の進歩 (ISSN:09117806)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.284-307, 2017-03-31 (Released:2023-08-18)
参考文献数
40

日本で出土する古代ガラスの化学組成の違いは,ガラスの製造地や原料の違いを反映することが知られている.日本では古代ガラスの研究が盛んに行われてきたが,平安時代以降の中世のガラスに着目して研究をした例は少ない.本研究では中世以降の京都府出土のガラスについてポータブル蛍光X線分析を用いて非破壊化学組成分析を行った.分析結果を他地域の中世のガラスと比較することで,ガラスの流通について考察することなどを目的として研究を進めた.まず,全資料を主成分組成により分類したところ,カリ鉛ガラス(K2O-PbO-SiO2),カリ石灰ガラス(K2O-CaO-SiO2),アルミナソーダ石灰ガラス(Na2O-Al2O3-CaO-SiO2)の3種類が確認された.カリ鉛ガラス,カリ石灰ガラスは中世を代表するガラスであり,化学組成に差が見られるものもあり,異なる起源を有することがわかった.アルミナソーダ石灰ガラスについては古代日本で広く流通したガラスタイプであるが,微量重元素組成においても古代のアルミナソーダ石灰ガラスと類似した組成を持つため,古代からの伝世品である可能性が示された.