著者
泉 裕子 平松 直樹 糸瀬 一陽 井上 隆弘 柄川 悟志 西田 勉 垣内 佳美 外山 隆 中西 文彦 井倉 技 田村 信司 辻井 正彦 辻 晋吾 考藤 達哉 竹原 徹郎 笠原 彰紀 佐々木 裕 福田 和人 今井 康陽 林 紀夫
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.109-115, 2004-02-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
15
被引用文献数
1

症例は58歳女性. 全身倦怠感, 発熱にて近医受診したところ, 総ビリルビン6.4mg/dl, AST 8327U/l, ALT 10879U/l, プロトロンビン時間7.5%と著明な肝機能低下を認めたため, 当院入院となった. 発症3日後の入院時には脳症II°となり, 劇症肝炎急性型と診断し, 直ちに血漿交換などの集中治療を開始したが, 肝炎劇症化から15時間後には脳圧の上昇とともに, 深昏睡となった. 2日後, 生体肝移植術を施行. 術後, 肝機能の増悪はなかったが, 意識レベル低下, 脳圧亢進は改善せず, 感染症を併発して入院8日目に死亡した. 剖検にて, 脳に出血や梗塞による組織変化は認めず, 脳圧亢進は肝性脳症によるものと考えられた. また, 本症例の劇症肝炎の原因はB型肝炎ウイルス (HBV) 感染であった. HBV genotype Bで, precore 領域, corepromoter 領域の遺伝子配列はともに変異型であった. 劇症肝炎発症の極めて早期に, HBs抗原陰性, HBs抗体強陽性となり, その後のIgM HBc抗体価3.2 (cut off index), IgG HBc抗体57.6% (200倍希釈) の結果から, HBV初感染による劇症肝炎と診断しえた. 比較的予後良好とされる急性型劇症肝炎において, HBV初感染による電撃型ともいえる劇症肝炎を経験した. HBV初感染による劇症肝炎例では, 本症例のように急速な転帰をとる症例があり, 肝移植を念頭に入れたより迅速な対応が必要であるものと考えられた.
著者
井上 隆弘
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.142, pp.257-291, 2008-03-31

近年、神楽祭儀の根底にある死霊祭儀としての側面に光があてられている。筆者も前著『霜月神楽の祝祭学』において、静岡県水窪町の霜月祭と呼ばれる湯立神楽の深層にある死霊祭儀としての性格について明らかにした。そうした知見をふまえるなら、同じく死霊祭儀としての性格をもつ念仏踊と神楽の比較研究は必須のものといわなければならない。本稿は、こうした立場から、水窪における霜月祭と念仏踊の祭儀の構造比較をとおして、両者に共通する死霊祭儀の特徴的な性格を明らかにし、三信遠における神楽や念仏踊の研究に資することを意図したものである。まず霜月祭についてみると、そこには特有な二重性が見られる。神名帳には一般の神々と区別される形で、ともすれば崇りやすい山や川などのさまざまなマイナーな神霊の名が挙げられ、また死霊の名が公然と記されているのが水窪の特徴である。また、この二重性は湯立や神送りの祭儀にも見られる。死霊を祀る湯立や死霊を送る神送り祭儀が、一般の神々のそれとは明確な区別をもって執行されているのである。念仏踊について見ると、霜月祭と同様の神名帳を読誦する大念仏などと称される踊りが行われるのが水窪の特徴である。新盆踊においては新霊供養の和讃が重視されるが、それ以外の施餓鬼踊、送り盆などでは神名帳を読誦する念仏のウエイトが高い。このように念仏踊は、神々を祀り鎮めるものでもあるのである。その神々のなかには、在地のマイナーな崇り霊とともに、さまざまな死霊も挙げられている。このように霜月祭と念仏踊でともに祀り鎮められる死霊のなかでもとくに重視されたのは禰宜死霊である。禰宜死霊は神名帳のなかでも特別の存在であり、念仏踊の送り盆においては、一般の死霊と区別される形で、まず最初に禰宜死霊が送られるのである。このような禰宜死霊の存在は、村社会における呪的カリスマとしての禰宜の存在の反映であった。禰宜はそのような存在として、さまざまな崇り霊を鎮めたり憑き物を落したりする祈祷を行い、村人の日常生活に欠かせない存在であったのである。このように禰宜死霊が特出した位置をもっているのが、水窪に代表される三信遠における死霊祭儀の特徴といえるであろう。
著者
井上 隆弘
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
仏教大学総合研究所紀要 (ISSN:13405942)
巻号頁・発行日
no.23, pp.1-14, 2016-03

広島県の比婆荒神神楽は、中世神楽の特徴である神がかり託宣の古儀を現代に伝える神楽である。その理解において今日でも大きな影響力をもっているのが牛尾三千夫の所説、すなわち荒神神楽は、死者の霊が「祖霊」たる本山荒神へ加入する儀礼であるとするものである。本稿では、そこで等閑視されている「小さき神」に焦点をあて神名帖や地域の小祭である地祭の検討を行い、牛尾の「祖霊神学」批判をとおして、牛尾に影響を与えている柳田民俗学の問題性にも言及した。荒神神楽祖霊加入説小さき神地祭祖霊神学
著者
井上 隆弘
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所共同研究成果報告論文集 (ISSN:21896607)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.17-34, 2018-03-25

山口県山代地方で執行される神楽は,分布する地域から山代神楽とも,祭儀形態から山鎮神楽ともいわれるが,「天大将軍」の神がかりおよび「山鎮」という特異な祭儀によって特徴づけられる。この神楽は中国地方に分布する荒神神楽の系譜を引くものであるが,ミサキと呼ばれる祟る死霊が強く結びついている。こうした死霊祭祀は「山鎮」などと呼ばれ,藁蛇と鎮め物を入れた俵を神木に巻き付けて鎮める祭儀として古くから行われてきた。それが天大将軍の舞と結びついたのが今日の山鎮神楽である。先行研究によれば,この地方の神楽は幕末以降に安芸十二神祇の舞がもたらされ天大将軍の舞が大きな変化をとげたとされるが,本稿では,この天大将軍の性格の変化の諸相について明らかにした。こうした死霊祭祀としての性格は,この地方の過酷な歴史を反映したものであった。天大将軍山鎮年祭ミサキ荒神神楽
著者
井上 隆弘
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所紀要 (ISSN:13405942)
巻号頁・発行日
no.24, pp.1-14, 2017-03-25

比婆荒神神楽は中世に開郷された名を単位とする中世神楽の色彩を色濃く残した神楽であるが、近世的な再編を経ていることは見逃せない。このなかで重要な位置を占めるのが土公神祭祀である。土公神は中世的な地霊から世界の王へと転形をとげた。また土公神との習合によって、不定形で無数の集合霊であった荒神は組織を与えられた。かくて比婆荒神神楽は、世界の秩序を更新・再生する祭となったのである。こうした再編は吉田神道の影響のもとで行われたと考えられる。土公神荒神九魔王神吉田神道陰陽道
著者
井上 隆弘
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
仏教大学総合研究所紀要 (ISSN:13405942)
巻号頁・発行日
no.24, pp.1-14, 2017-03

比婆荒神神楽は中世に開郷された名を単位とする中世神楽の色彩を色濃く残した神楽であるが、近世的な再編を経ていることは見逃せない。このなかで重要な位置を占めるのが土公神祭祀である。土公神は中世的な地霊から世界の王へと転形をとげた。また土公神との習合によって、不定形で無数の集合霊であった荒神は組織を与えられた。かくて比婆荒神神楽は、世界の秩序を更新・再生する祭となったのである。こうした再編は吉田神道の影響のもとで行われたと考えられる。土公神荒神九魔王神吉田神道陰陽道