- 著者
-
東泉 裕子
水島 諒子
小板谷 典子
黒谷 佳代
西平 順
山本(前田) 万里
瀧本 秀美
- 出版者
- 日本公衆衛生学会
- 雑誌
- 日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
- 巻号頁・発行日
- vol.69, no.5, pp.368-382, 2022-05-15 (Released:2022-05-24)
- 参考文献数
- 56
目的 ストレス,メンタルヘルス,睡眠,疲労に関わる軽度な不調(軽度不調)は,それぞれが密接な関係にあるとともに,それらの悪化が生活習慣病等を惹起することが報告されている。客観的な健康指標との関係性が明らかな軽度不調を明らかにすることで,質問票による健康状態の予測が可能になると考えられる。とくに,日常的にストレスを感じる者の割合の高い日本人を対象とした疫学文献を用い,軽度不調に関する質問票と健康指標との関連についてシステマティックレビューを行い,軽度不調の尺度開発に必要な調査票の項目の検討を行うこととした。方法 軽度不調に関する先行研究のキーワードを基に「自律神経系」,「睡眠障害」,「精神およびストレス」,「疲労」についてPubMedを用いて研究論文を検索した。抽出された研究論文は,以下の包含基準(日本人健常者集団を対象に含んでいる,対象集団の特徴について記載がある,研究デザインが分析疫学研究,介入研究およびシステマティックレビューである,軽度不調を質問票で評価している,軽度不調と健康指標との関連を検証している,日本語または英語で書かれている)に沿ってスクリーニングし,10件を採択した。結果 採択論文10件中1件がコホート研究,3件が症例対照研究,6件が横断研究であり,研究対象者は成人期の労働者が5件と多かった。ストレスに関する質問票を用いた報告6件のうち3件で,睡眠に関する報告7件のうち4件で,包括的な健康状態に関する報告2件のうち2件で,それぞれの軽度不調と健康指標との間に統計学的に有意な関連が報告されていた。調査票による仕事に関連するストレス反応の増加は,健康指標の「うつ病発症リスク(オッズ比2.96(信頼区間:1.04-8.42))」の増加と関連していた。また,睡眠の質の低下は「自律神経指標の変化」,「併存疾患の数およびうつ病の比率」および「労働時の傷害のリスク」の増加と関連していた。加えて,健康度スコアは「自律神経指標」との関連が認められた。結論 これらの結果から,軽度不調の評価に必要な質問票には「ストレス」,「睡眠の質」,「包括的な健康状態」に関する質問が必要であることが示唆された。一方,バイアスリスクに適切に対処した研究が限られていることから,今後,コホート研究や介入研究において,本研究で整理した質問票と健康指標との関連について,前向きに検討する必要がある。