- 著者
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伊奈 正人
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.49, no.1, pp.77-96, 1998-06-30
この小論は, 「サブカルチャーとしての地域文化」を論じた井上俊 1984, 「地域文化と若者文化」を論じた中野収1990ほか先行する「地域文化論」, および筆者自身が行った映画上映運動についての岡山調査などを手がかりとして, 「地域文化としてのサブカルチャー」について論じようとするものである。まず第一に, 「東京文化」としてのサブカルチャー, それを育む, -村社会や, 地方都市にはない-東京という街の持つ特徴について論じる。第二に, 日本の近代化が行った地域の再編が, 地域ごとの「生のフォルム」を形成しえない中心盲信の「上京文化」「洋行文化」を生み出したことを確認する。 そして, 安直に「地方の時代」を賞揚せず, 根底にある「中心一周縁」の問題を隠蔽することなく視野におさめ, かつ「周縁」の可能性を開示する視点, スタイルの可能性を確認する。そして, 第三に, H・アーヴィン1970, B・シャンクス1988, W・ストロー1991などによりながら, それを可能にする視点として「文化シーン」という概念を導入する。それは, ヴァナキュラーで固定的で伝統的な「地方文化」の「コミュニティ」とは区別されるグローバルで可変的な「もう一つの地域文化」 (伊奈1995) の実体を表現するものである。そして, この視点により「地域文化」の可能性を仮説的論点として提起する。第四に, 一つの例解として, 岡山調査の結果を紹介する。 そして, 地域文化がかかえる困難と, そしてそれがゆえの洗練を明らかにする。