著者
香山 浩二 伊熊 健一郎 窪田 耕三 鎌田 敏雄 礒島 晋三
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.31, no.11, pp.p1906-1912, 1979-11

血中抗精子抗体の検出法として多数の方法が考案され臨床的にも応用されているが, 従来の方法は大部分が定性又は半定量の域を出るものではなかった. 我々が最初に報告した不妊症婦人血中に特異的に検出される補体依存性精子不動化抗体の検出法すなわち精子不動化試験法は抗体を保有しない対照血清中の精子運動率(C%)を被検血清中の精子運動率(T%)で除した値, すなわちC/Tを精子不動化値(SIV値)とし, これが2以上を示すものを陽性としたが, 大きい値を示す程精子不動化作用が強いと判定する半定量的測定法であり, 精子不動化作用の強い血清においては, SIV値の差は不正確になり, 又無限大(∞)も出現して抗体価の正確な測定ができなかった. そこで精子不動化試験の定量化を試みたが, 方法としては被検血清を倍数希釈し, 各希釈段階における精子不動化率 (C-T/C×100) を従来の精子不動化試験法によつて算定しこの精子不動化率を血清希釈倍数を横軸とした半対数表に図示し, ちょうど50%精子不動化率を示す血清希釈倍数値 (SI_<50>値) を求める方法である. 本法によると従来の精子不動化試験による不正確なSIV高値及至は∞を示す血清においてもSI_<50>値を求めることによつて定量が可能であり, 又標準精子不動化抗体含有血清を設定してこれを定量的測定には必ず標準血清として加え, そのSI_<50>値を求めることにより, 各測定毎の反応系の違いによる測定値変動を補正することが出来る. この定量的精子不動化試験を用いて血中精子不動化抗体保有不妊婦人の血中抗体価を長期間に亘り, 経過観察してみると従来考えられていたように血中精子不動化抗体の値はけつして一定ではなく, かなり強い波状曲線を示して動揺している新事実が観察された.
著者
伊熊 健一郎 須野 成夫 長谷川 昭子 香山 浩二 礒島 晋三
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.167-172, 1989

頚管粘液のヒト精子受精能に及ぼす影響について, 透明帯除去ハムスター卵を用いたin vitro受精系で精子の頚管粘液内通過の意義を検討した。方法は, 精液滴と培養液滴との間に頚管粘液を充填した毛細管を連結し, 移行精子が目的濃度に達すると毛細管をはずし, 培養液滴内に透明帯除去ハムスター卵を加えて培養を行った。対照としては, 培養液で3回洗浄した精子を頚管粘液内通過精子と同濃度に調整して, 同条件下で比較検討をした。1. 頚管粘液内を通過し培養液滴に移行する精子の数は2~3時間でピークに達し, 運動率は100%であった。2. 頚管粘液内通過精子は対照群と同程度の受精率を示し, 精子濃度は対照と同様に0.6×10^6/ml以上必要であった。3. 頚管粘液内通過精子はすでに4~6時間で17~42%の受精率を示したが, 対照では6時間後までは0%で8時間後に受精を開始した。4. 培養液中に精漿成分が加わると受精率は低下した。5. 鶏卵白内通過精子は, 頚管粘液内通過精子とほぼ同率の55%の受精率を示したが, 培養液内通過精子は0%であった。これらの結果より, 精子の頚管粘液内通過の意義としては, 受精能をマスクしている精漿成分から精子を隔離し, 精子の受精能獲得時間を短縮すると共に, 運動精子の選択と精子輸送の調節にも関与しているものと考えられる
著者
黄 清煕 伊熊 健一郎 戸田 一司 竹村 正 礒島 晋三
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.235-237, 1978

28才の経産婦で, 子宮外妊娠の診断のもとに開腹したところ, かつて右卵管峡部の外妊であったのが破裂ではなく完全に峡部より断裂し, 卵管采を含んだ末梢部が, そのまま腹腔内を遊走し, 胃下部の大網膜に移植して発育を続け, 他方断裂した子宮側卵管の断端は瘢痕化して索状となり, あたかも細い卵管と見誤る程きれいに修復きれていた非常に興味ある症例を経験した. 大網膜上に移植された卵管内部および移植部位より, 病理組織学的に明らかな絨毛が見られた.
著者
庭本 博文 大橋 秀一 柏谷 充克 柴原 浩章 大門 美智子 伊熊 健一郎
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.1457-1461, 1988-08-25 (Released:2009-09-30)
参考文献数
15

症例は18歳未婚女性.無月経を主訴に婦人科受診し,処女膜閉鎖を認めた.腟開口術と腹腟鏡検査にて,腟欠損,卵巣卵管正常形態,双角痕跡子宮を確認し,さらに内分泌細胞遺伝的には正常で, Rokitansky-Küster-Hauser症候群と確定診断を得た.本症例にS状結腸を用い人工造腟術を施行し成功した.先天性腟欠損症に対して種々の人工造腔術が行われているが,それぞれ長所短所がある.最も重要なことは,永久性があり,できるだけ自然に近い腟を形成することであり,この点からS状結腸を用いた造腟術が理想的であると思われる.
著者
伊熊 健一郎 塩谷 朋弘 柴原 浩章
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.45, no.11, pp.1305-1312, 1993-11-01
被引用文献数
7

我々は, 良性の嚢胞性の卵巣嚢腫に対して腹腔鏡下で嚢腫内容液を吸引した後, 腹腔外で嚢腫壁を摘出する方法を考案して報告してきた. 今回は, 今までの経験からの注意点と改良点並びにmini-laparotomyの概念の導入などについて報告する. 1. 術前に単純嚢胞と診断した17例, 皮様嚢胞腫と診断した15例, チョコレート嚢胞と診断した9例の計41例に対して施行し, 本法が可能であったのは34例(83%)である. 2. チョコレート嚢胞として施行した1例に類内膜腺癌を経験した. 3. 開腹手術移行例は, 強度な癒着の4例, 内容液吸引不可能の1例, 膀胱壁損傷の1例, 悪性の1例の計7例である. 4. 卵巣嚢腫の大きさをI群:臍恥中央(500ml程度)まで, II群:臍高(1,000ml程度)まで, III群:臍高以上(約1,000ml以上)の3群に分類した. 5. Mini-laparotomyは, 巨大な卵巣嚢腫の2例と妊娠合併卵巣嚢腫の5例に施行した. 本法は, 少ない侵襲で開腹手術と同じ内容の手術が, 容易に安全かつ確実にできることを目的とした手術方法であると考える.