著者
長谷部 理佐 坂本 壮 中村 聡志 藤森 大輔 吉田 隆平 糟谷 美有紀 伊藤 史生 高橋 功
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.246-249, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
10

除草剤の一種であるパラコートは, 致死率が高い製剤であることから本邦では1999年に生産が中止された。しかしパラコートを5%に希釈した低濃度製剤であるパラコート・ジクワット製剤 (以下, PGL) は現在も販売されており, PGL飲用による死亡例は現在も散見される。2015~2021年に当院で経験したパラコート中毒の5例を検討した。1例は誤飲が原因で, 4例は自殺企図で飲用された。1例はパラコートで, 4例はPGLであった。患者背景としては精神疾患が多いとされているが, 当院の症例も精神疾患やうつ状態の背景疾患があった。また, 農村地域・農家での報告が多く, 当院も農村地域に位置することから, パラコート・PGLが容易に入手できたと考えられる。中毒発生防止のためには行政的対応以外に保管者への啓発が重要と考える。
著者
杉井 将崇 柄澤 智史 大戸 弘人 福田 伸樹 藤森 大輔 伊藤 史生 小山 知秀 高橋 功
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
pp.38.1_04, (Released:2023-12-15)
参考文献数
10

甲状腺腫瘍の既往がある85歳男性が高所墜落後に救急搬送された. 来院時吸気性喘鳴と頚部腫脹を認め呼吸困難を訴えたため, 気道確保目的に緊急気管挿管を行った. CT所見と病歴から甲状腺腫瘍破裂と診断した. 気道狭窄を伴う血腫拡大のため手術適応と判断し, 血腫除去後に甲状腺左葉摘出術・気管切開術を施行した. 第2病日に人工呼吸管理を離脱, 第28病日に独歩退院した. 鈍的外傷による甲状腺損傷は稀だが, 気道閉塞の場合に致死的となる. 手術は止血だけでなく血腫除去も行えるが, 腫瘍出血に対しては甲状腺摘出を要する場合がある. 手術後も気道狭窄が残存する場合, 気管切開を行うことで早期人工呼吸離脱やリハビリテーションが可能となる.
著者
熊澤 淳史 方山 真朱 大江 恭司 湯澤 紘子 伊藤 史生 糟谷 美有紀 伊良部 徳次
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.611-615, 2011-10-01 (Released:2012-03-20)
参考文献数
11

ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia, HIT)が疑われた患者に対して経皮的心肺補助(percutaneous cardiopulmonary support, PCPS)維持のためアルガトロバンを長期間投与した症例を経験した。本症例ではヘパリン依存性自己抗体(HIT抗体)は陰性であったが,HITが疑われる症例ではHIT抗体の結果を待たず,ヘパリン投与を中止し代替抗凝固療法を開始するべきとされている。HITに対してアルガトロバンは有効とされるが,体外循環維持のためのアルガトロバンの有効性,使用法は確立されていない。今回,ヘパリン使用時と同程度のactivated clotting time(ACT)を目標としてアルガトロバン投与量を調節し,15日間PCPSを施行したが,血栓形成や出血を認めず,安全に使用できた。HIT症例において体外循環を必要とする場合,ACTの目標値にはさらなる検討が必要であるが,抗凝固薬としてアルガトロバンが有効と考える。
著者
織田 成人 平澤 博之 北村 伸哉 上野 幸廣 島崎 淳也 中西 加寿也 福家 伸夫 伊藤 史生
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.6, pp.219-228, 2007-06-15 (Released:2009-02-27)
参考文献数
21
被引用文献数
4 1

目的 : 千葉県の救急・集中治療施設における急性肺傷害 (acute lung injury; ALI) /急性呼吸急迫症候群 (acute respiratory distress syndrome; ARDS) の発症率, 治療, 転帰等について調査し, population-basedのALI/ARDS発症率を推計する。研究デザイン : 多施設共同前向きコホート研究。セッティング : 千葉県内の3次救急医療施設および大学附属病院を中心とする12施設のICU。方法 : 2004年10月1日~12月31日までの3ヵ月間の全ICU入室患者を対象に, SIRS (systemic inflammatory response syndrome), ALI/ARDSをスクリーニングした。ALI/ARDSの診断基準は, 1994年のAmerican-European Consensus Conferenceの定義を用いた。調査票を用いてALI/ARDS患者の背景病態, 原因, 重症度, 合併臓器障害, P/F比, 人工呼吸器装着の有無, 各種治療, ICU在室期間, ICU退室時および28日後の転帰等を調査し検討した。結果 : 調査期間内に1,632例が登録され, このうちSIRS症例は770例 (47.2%), ALI/ARDS症例は79例, 発症率は全症例の4.8%, SIRS患者の10.3%であった。ALI/ARDS症例の平均年齢は64.0±17.1歳, P/F比は平均150.7±70.6で, P/F比300-201の症例が19例 (24.1%), 200以下のARDS症例は60例 (75.9%) であった。入室時APACHE IIスコアは24.7±8.9, SOFAスコアは8.8±4.3, 肺以外の臓器障害数は2.2±1.4臓器であった。ALI/ARDS79例中71例が人工呼吸管理を要し, これら症例のventilator free days (VFD) は平均12.1±10.6日であった。ALI/ARDS症例の平均ICU滞在日数は18.8±9.6日, 28日生存率は68.4%であった。結論 : これらのデータから推計すると, 千葉県におけるALI/ARDSの発症率は人口10万人当たり年間6.1人であった。
著者
織田 成人 平澤 博之 北村 伸哉 上野 幸廣 島崎 淳也 中西 加寿也 福家 伸夫 伊藤 史生
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 = Journal of Japanese Association for Acute Medicine (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.6, pp.219-228, 2007-06-15
参考文献数
21
被引用文献数
4 1

<b>目的</b> : 千葉県の救急・集中治療施設における急性肺傷害 (acute lung injury; ALI) /急性呼吸急迫症候群 (acute respiratory distress syndrome; ARDS) の発症率, 治療, 転帰等について調査し, population-basedのALI/ARDS発症率を推計する。<b>研究デザイン</b> : 多施設共同前向きコホート研究。<b>セッティング</b> : 千葉県内の3次救急医療施設および大学附属病院を中心とする12施設のICU。<b>方法</b> : 2004年10月1日~12月31日までの3ヵ月間の全ICU入室患者を対象に, SIRS (systemic inflammatory response syndrome), ALI/ARDSをスクリーニングした。ALI/ARDSの診断基準は, 1994年のAmerican-European Consensus Conferenceの定義を用いた。調査票を用いてALI/ARDS患者の背景病態, 原因, 重症度, 合併臓器障害, P/F比, 人工呼吸器装着の有無, 各種治療, ICU在室期間, ICU退室時および28日後の転帰等を調査し検討した。<b>結果</b> : 調査期間内に1,632例が登録され, このうちSIRS症例は770例 (47.2%), ALI/ARDS症例は79例, 発症率は全症例の4.8%, SIRS患者の10.3%であった。ALI/ARDS症例の平均年齢は64.0&plusmn;17.1歳, P/F比は平均150.7&plusmn;70.6で, P/F比300-201の症例が19例 (24.1%), 200以下のARDS症例は60例 (75.9%) であった。入室時APACHE IIスコアは24.7&plusmn;8.9, SOFAスコアは8.8&plusmn;4.3, 肺以外の臓器障害数は2.2&plusmn;1.4臓器であった。ALI/ARDS79例中71例が人工呼吸管理を要し, これら症例のventilator free days (VFD) は平均12.1&plusmn;10.6日であった。ALI/ARDS症例の平均ICU滞在日数は18.8&plusmn;9.6日, 28日生存率は68.4%であった。<b>結論</b> : これらのデータから推計すると, 千葉県におけるALI/ARDSの発症率は人口10万人当たり年間6.1人であった。
著者
方山 真朱 熊澤 淳史 大江 恭司 田澤 直樹 李 夏暎 伊藤 史生 糟谷 美有紀 伊良部 徳次
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.227-231, 2011-04-01 (Released:2011-10-05)
参考文献数
7
被引用文献数
3 2

ジスチグミン臭化物10 mg/dayを1年間にわたり内服し,3ヶ月以上続く難治性の下痢や嘔吐など消化器症状のため入院したが,ジスチグミン臭化物中毒によるコリン作動性クリーゼを発症し,救命し得なかった一症例を経験した。背景に肝硬変があり,慢性的にコリンエステラーゼ値が低値であったため,ジスチグミン臭化物中毒の診断に時間がかかった。コリンエステラーゼ残存率は約7ヶ月前から異常低値であり,難治性の消化器症状が出現した時期と合わせて慢性中毒と考えた。難治性の消化器症状およびコリンエステラーゼ値が異常低値を示す高齢者では,ジスチグミン臭化物の中毒を疑い,早期から集中治療の対象とするのが望ましい。