著者
広間 達夫 伊藤 菊一 原 道宏 鳥巣 諒
出版者
日本生物環境工学会
雑誌
植物環境工学 (ISSN:18802028)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.52-58, 2011-06-01 (Released:2011-06-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1

発熱期のハスの体温調節機構を解析するために, ハスを鉢栽培し, 屋外で開花開始から種子結実終了までのハスの花托体温と気温の関係を調べる屋外実験を実施した. 同時に, 発熱期および無発熱期のハスを恒温槽に入れ槽内温度を階段関数的に変化させそのときの花托体温のステップ応答を測定する屋内実験を実施した. (i)これら屋外と屋内の2実験において, 周囲気温を入力, そのときの花托体温を出力とする入出力関係を伝達関数で表現した. (ii)他方, 屋外実験(太陽光による一種の周波数応答実験)の解析を行い, 自然環境下の発熱期のハスが気温の変動を組み込んで自己の花托体温を決定するというハスの体温調節モデルを導出した. (iii)最後に, iとiiの結果に制御理論を適用して, ハスの体温制御機構を総合的に検討した. 得られた主な結果は以下の通りである.(1)発熱期のハスは, ある種の体内温度計を内臓し, これと時々刻々変動する気温の影響の和を目標値とする, 可変目標値モデル提案した.(2)発熱の活性化の程度は活性化係数で表すことができ, 発熱はステージ2の場合が, 最も活性化係数が大きくて発熱活動が最も盛んであることを確認した.(3)ハスの花托体温と気温依存温度の差は発熱相当温度であり, 花托は発熱相当温度分の熱産生を行って体温を気温より高温に保っていると考えられる.(4)ハスの体温制御系は, 発熱期の花托体温をフィードバックし可変目標値との偏差を制御器に導くという制御機構で表すことができる.(5)気温からハス花托に至る伝達関数は一次遅れ系で, 発熱期の制御器は積分動作で表現することができる.
著者
仲摩 崇 石橋 政三 今村 藍介 尾島 大樹 桜井 智広 伊藤 菊一 長田 洋
出版者
自動制御連合講演会
雑誌
自動制御連合講演会講演論文集 第57回自動制御連合講演会
巻号頁・発行日
pp.890-893, 2014 (Released:2016-03-02)

自ら体温を制御できる植物である「ザゼンソウ」.「ザゼンソウ」の体温制御を数式化し,研究成果が認められ,現在は,調節計へ応用し実用化まで行き届いている.本論文では,難解と言われている長むだ時間系の温度不安定性問題について述べ,具体的にどういう事例があって,どのように解決したかについて述べる.
著者
伊藤 菊一
出版者
岩手大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

植物は哺乳動物とは異なり、自らの体温を調節することなく、外界の気温と共にその体温が変動するものと考えられてきた。ところが驚くべきことに、ある種の植物には、自ら発熱し、体温を調節するものが存在する。本研究においては早春に花を咲かせる発熱植物である「ザゼンソウ」に着目し、本植物の熱産生に関わるシステムを明らかにするための研究を行った。はじめに群落地および人工気象室におけるザゼンソウの発熱変動データーを収集し、肉穂花序の恒温維持に関わる特性を検討した。その結果、ザゼンソウの肉穂花序は約60分を1周期とする体温振動を示すことが明らかになった。興味深いことにこの体温振動は、外気温の変動を原因とする体温の変化により引き起こされ、しかも、この体温振動が誘導されるための体温変化の閾値は0.3℃であると見積もられた。植物界でこのような微少温度変化を認識し、恒温性を維持できる生体応答システムはザゼンソウ以外には報告がない。この研究成果は、2001年夏に米国で開催されたアメリカ植物生理学会年次総会で招待講演を行った。次に、このザゼンソウに特徴的な体温振動過程における発熱関連遺伝子のmRNA発現量について検討した。発熱関連遺伝子としては、哺乳動物で非ふるえ熱産生の原因遺伝子であることが明らかになっている脱共役タンパク質(uncoupling Protein : ucp)のザゼンソウホモログ、および、植物の発熱原因遺伝子であるとされているシアン耐性呼吸酵素(alternative oxidase : aox)遺伝子をターゲットとした。特にaox遺伝子は従来ザゼンソウ肉穂花序より単離されておらず、本研究においてその単離を行った。ノーザン解析により、肉穂花序の体温振動過程におけるucpおよびaox遺伝子の発現を調べたところ、それぞれのmRNAの蓄積量には大きな変動がなく、体温の変動は発熱関連遺伝子の転写レベルでは調節されていないことが推察された。
著者
鳥巣 諒 伊藤 菊一
出版者
岩手大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

研究目的:恒温植物ハスの発熱現象の解明を次の2つの視点から行なった。(1)ハスの発熱する体温の時系列データをカオス時系列解析手法を用いて、体温変動の中にカオスが発現することを確かめること、(2)発熱時・非発熱時の花托部分の熱収支方程式を構築して、熱伝達・熱放射に関与する熱定数を同定し、ハスが発生する熱量を推定すること。実験方法と実験場所佐賀市内のハス田(佐賀市本庄町北緯33.3:東経130.3)で、ハスの開花時期(平成17年6月24日から7月14日)、ハスの花托部分の体温と気温を測定した。測定個体は40体で、温度測定には温度サーミスタ方式のデジタル温度記録計を利用し、サンプリング時間は1分とした。ハスが恒温植物であることの再確認ハスの花托部分が3〜4日間発熱し、30〜35℃を保ち、外気温より10〜15℃程度高い温度となった。また、太陽放射の無い日没から日の出までの間、温度制御を活発に行なっていた。ハス体温(花托部分)のカオス時系列解析ハス体温のパワースペクトル解析から遅延時間τを160分と決定し、3次元相図を用いてアトラクタを作図した。次に、相関次元解析を行い、埋め込み次元(16〜17)と相関次元(2.2)を求めた。さらに、リアプノフスペクトル解析を実施し、最大リヤプノフ指数とKSエントロピーがともに正の数となり、軌道不安定性・長期予測不能性が確認された。このことから、実験開始前の予想通りハス体温の変動にカオスが発現することが確認された。ハスの発熱基礎方程式の構築と発熱量の推定ハス花托部分の発熱時期の熱収支には、ハス自身の発生する発熱量のほかに、太陽からの熱放射、気温からの熱伝達、周囲環境からの熱放射・熱伝達が影響する。ここでは、太陽放射のない夜間部の熱収支に着目し、測定した温度データを入力として未知の発熱や各熱定数を求めるという逆問題(inverse problem)を解いた。これにより、パラメータの同定と発熱量の推定が可能になった。求められた熱特性パラメータは、空気から花托への熱伝達率が1.2kJ/10min m^2Kであり、発生した発熱量は、150〜300J/10minであった。
著者
稲葉 繁樹 広間 達夫 伊藤 菊一 原 道宏 鳥巣 諒
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.81-89, 2015 (Released:2015-10-01)
参考文献数
7

ザゼンソウの発熱器官である肉穂花序の温度制御機構について,周囲と肉穂花序の温度測定結果を元に,PID(Proportional Integral Differential)動作によるフィードバック制御の適用について検討した.まず容器をかぶせ,周囲を雪で覆ってザゼンソウの周囲を冷却した.翌日,それらを取り除いて急激な温度変化を発生させ,その後通常の外気温下に数日間置いた.その全ての過程で,肉穂花序温度と周囲温度を計測した.その結果,発熱最盛期の雄期の肉穂花序温度の目標温度は一定ではなく,直線的に変化する可変目標値で表せることが判明した.発熱の状態は活性化係数で表すことができ,同じ発熱植物であるハスより高いことが確認された.また,制御系において,肉穂花序温度をフィードバック要素として可変目標値との偏差を制御器に導く制御機構について検討したところ,外気温や発熱部から肉穂花序中心に至る伝達関数は一次遅れ系で,制御器は積分動作で表すことができた.肉穂花序温度における本制御系は,急激な温度変化に対してやや遅れて追従しつつ目標温度に戻るのに対し,穏やかな変化に対してはともに少しずつ変化する応答を示し,肉穂花序温度が自身の可変目標値に従って変化していると考えられた.