著者
梶原 毅 綿谷 安男 佐々木 徹
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究期間中に明らかにしたことは概略次のとおりである。1.左右内積をもつ可算生成ヒルベルトC^*双加群が有限指数をもつことと、conjugationを持つことが同値であることを証明し、また有限指数をもつ可算生成ヒルベルトC^*双加群の例を多数構成した。また、一般に直交しない可算生成基底の性質についても明らかにした。これらの結果は、"Jones index theory for Hilbert C^*-bimodules and its equivalence with conjugation theory"において刊行した。2.有理関数によってリーマン球面上に与えられる複素力学系からヒルベルトC^*双加群を構成し、それからPimsner構成によって作られるC^*-環について、単純性と純無限性を証明した。また、いくつかの例において、K-群の計算を行った。これらの結果は、"C*-algebras associated with complex dynamical system"において刊行した。3.縮小写像の組から作られる自己相似集合に対しても、ヒルベルトC^*-双加群を構成し、Pimsner構成によってC^*-環を構成した。適当な条件のもとで、構成されたC^*-環が単純かつ純無限になることを示した。代表的な自己相似集合の例であるシルピンスキギャスケットに対して二通りの構成法で作られたC^*-環が同型でないことをK-群によって示した。またコッホ曲線から作られたC^*-環のK-群も計算した。これらの結果は、"C^*-algebras associated with self-similar sets"において刊行した。4.複素力学系、また自己相似写像から作られるヒルベルトC^*双加群に対して、可算基底の具体的な構成を行った。これはもともとテント写像の場合にウエーブレット基底にヒントを得て構成したものを一般化したものであり、具体的な可算生成ヒルベルトC^*双加群に対して初めて構成されたものである。これはまだ刊行された論文には含まれていないが、複素力学系から作られるC^*-環上のKMS stateの分類を考える際に大きな助けになった。5.超越関数からも同様なやりかたでC^*-環を構成して研究した。特に指数関数から作られる場合に単純になることを示し、日本数学会等で公表した。ただし、この場合ピカールの定理により無限遠点が真性特異点になり、これをどのようにうまく扱うかが未解決な問題である。
著者
佐々木 徹 若島 正
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

佐々木はアムステルダムで行われた国際ディケンズ学会で、アメリカの批評家エドマンド・ウィルソンによる画期的なディケンズ論を再考する学術講演を行った。この中では英国の学者たちによるウィルソンに対する反論を考察した。また、チェスタトンの著したディケンズに関する古典的研究書の解題・序論を英国の出版社から世に問うた。特に、この論の中では、ディケンズのトランスアトランティック的体験、すなわち彼のアメリカ旅行をチェスタトンがそのディケンズ論の中心においていることの意味を考察した。若島は、トランスアトランティックという概念をさらに広く異文化間交流の問題につなげて研究を進め、ウラジーミル・ナボコフの『ロリータ』をテキストとして、その諸言語における翻訳がいかにさまざまな文化間を越境する場を生み出すかを考察した論文を発表し、日本英文学会関西支部の年次大会において、「コスモポリタニズムと英米文学」と題されたシンポジアムで司会兼講師を務め、「亡命文学の変容」というテーマで発表を行った。このコスモポリタニズムという概念が、あらゆる側面におけるグローバル化とも関連して、トランスアトランティックという英米交流の主題と近接するのは言を俟たない。「亡命文学の変容」で取り上げたのは、ドイツのロシア人、およびアメリカのロシア人である現代作家2人で、異郷に同化したこの2人のロシア人が描く物語が、いかにナボコフが描いたような過去の亡命文学から隔たっているかを論じた。また、「英語青年」誌に掲載された論文「ジョン・ホークスと飛田茂雄」は、ある意味で文学を通じた日米交流の一記録をたどり直した論考でもある。