著者
佐藤 哲彦
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、我が国における犯人特定技術、すなわち捜査技術の近代化過程において、どのような技術が適用されてきたのか、それによってどのようなことが行われてきたのかということを、実際の資料に即して、批判的アプローチの観点から検討することにある。昨年度に引き続き本年度も、主として明治・大正・昭和初期の捜査技術資料、捜査関係者の手記などを収集、またこれらに加えて特に捜査技術の基礎を構成した医学的・心理学的文献を収集、これらをディスコースの観点から分析した。それによると、まず当初の予測通り、捜査技術の近代化-それは一面では捜査技術の西洋化あるいはその輸入ともいえるものであるが-において、医学的・心理学的知識が重要な役割を果たしているということが挙げられる。それはたとえば、「性」という考え方の周辺に捜査対象者を位置づけようという努力に結実する。しかしながら昨年度の研究で示唆されたように、それは単なる技術の輸入あるいは翻訳ではない。それはむしろ、近代化(西洋化)に伴う社会変動と同調し、その表出として位置づけられる一方で(輸入・翻訳の側面)、過度な社会変動を抑制すべく配置された統治技術の一端として位置づけられるものである(統治性の側面)。この場合、過度な社会変動とは、常識カテゴリーの混乱を含意する。たとえば、放火や殺人において、犯罪者の語りは、いずれにしても、捜査員の語りの間接話法として位置づけられるべく捜査上の仮説が提起される。このような仮説は、捜査上合理的とされる価値に基づいて編成される。すなわち、「認知上の平常な価値」(H・ガーフィンケル)による合理性である。したがって、近代的捜査技術は、その「価値」に見合う形で西洋の科学的知識を目的論的に摂取したものと位置づけられる。すなわち、近代的捜査技術は従来の秩序の輪郭を自己言及的に再生産するための技術として位置づけられるのである。
著者
佐藤 哲彦
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

薬物政策は国によって異なっているが、本研究は日本、イギリス、アメリカ、オランダの政策の違いが何に根ざすのかを分析した。その結果、かつてのイギリスや現在のオランダの政策が薬物使用者を社会の成員として認める近代的な秩序を構想し、医療やリハビリテーションなどを中心として使用者を処遇する一方、日本やアメリカは成員の同質化を基にした社会秩序を志向し、使用者を秩序外に隔離排除する処遇をしていることが明らかになった。