著者
山本 紳一郎 増田 卓 松山 斉久 佐藤 清貴 盛 虹明 北原 孝雄 大和 田隆
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.5, pp.189-200, 1997-05-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
30
被引用文献数
2 1

クモ膜下出血(SAH)急性期に認められる心電図異常を中枢性・末梢性交感神経系の活動および心筋障害の程度と対比し,心電図異常の成因について検討した。発症24時間以内の破裂脳動脈瘤によるSAH677例に対して,来院時より24時間の心電図モニターを行い,不整脈を認めなかった281例をA群,心室性期外収縮,心室性頻拍,心室細動の3種類以外の不整脈を認めた274例をB群,心室性不整脈として心室性期外収縮,心室性頻拍,心室細動のいずれかを認めた122例をC群とした。来院時に血圧,脈拍,意識状態,頭部CT検査を行い,心筋逸脱酵素,心筋収縮蛋白,カテコラミン,ノルアドレナリン代謝産物のMHPGを測定した後,脳動脈造影を施行した。3群間では年齢に有意差はなく,不整脈はSAH急性期の58%に出現し,不整脈として洞性頻脈,心室性期外収縮,上室性期外収縮などが多く認められた。来院時の血圧,心拍数はA群に比べB群あるいはC群で有意に上昇し,QTc間隔はA群に比べC群で有意に延長していた。また来院時の電解質濃度あるいは脳動脈瘤の部位には3群間で有意な差は認めなかった。不整脈はWFNS分類によるgrade 1V, Vの重症例に多く出現し,Fisher分類によるSAHの程度ではA群およびC群に比べB群でgroup 4の割合が高かった。血漿ノルアドレナリン,アドレナリン,MHPG濃度はA群と比較してB群およびC群でいずれも有意に上昇していた。血清CK-MB,ミオシン軽鎖およびトロポニンTの最高値は,A群およびB群に比較してC群で有意に高値を示した。SAH急性期の心電図異常は,交感神経系活動の亢進による機能的な変化から出現する場合と,カテコラミンによる心筋障害のために出現する場合があると考えられる。また,心室性不整脈を認める例ほど心筋障害を合併している可能性が高く,SAH急性期に認められる心肺機能停止との関連が示唆された。
著者
佐藤 清貴 加藤 正人
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.352-357, 2009-07-15 (Released:2009-08-10)
参考文献数
48
被引用文献数
1

脳保護を目的とした全身低体温療法は1955年から行われている. 体温30℃以下での脳外科手術が多くの症例で行われたが, 循環合併症が多く, 1970年頃から行われなくなった. 1987年, 軽度低体温の脳保護効果が実験的に示され, 1990年頃から臨床応用された. 脳動脈瘤手術, 頭部外傷, 脳梗塞, 蘇生後脳症などで軽度低体温管理が行われ, 2001年以降大規模臨床試験の結果が発表された. 心停止後の蘇生後脳症, 新生児低酸素脳症では有効性が確認されたが, 脳動脈瘤手術, 頭部外傷ではnegativeの結果であった. 脳温の低下は脳保護的に作用することは明確であるが, 全身の体温低下は感染, 出血など合併症の原因となり, 最終的な予後を必ずしも改善しない. 現在のところ, 短期間の軽度低体温は蘇生後脳症などで適応となる. 脳局所の温度下降が可能となれば, さらに有効な治療手段となる可能性がある.
著者
増田 卓 佐藤 清貴 和泉 徹
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.21-34, 1998-01-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
45

破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血では,急死例を含むさまざまな心肺合併症が出現する.我々は,くも膜下出血の715例を対象に,その臨床像から心肺合併症の成因について検討した.くも膜下出血急性期の9.4%(67例/715例)に一過性の左室壁運動異常が出現し,同時に機械的心筋不全と心筋壊死を認めた.このような症例では,左室壁運動異常のない症例と比較して血漿カテコールアミン濃度が高値であることから,この一過性の心筋収縮異常,カテコールアミンのバースト状過剰放出によってパニックに陥った心筋の状態と考え,"驚愕心筋(panicmyocardium)"と名づけて理解しようと試みた.次に,くも膜下出血の不整脈を,心室性不整脈とその他の不整脈に分けて比較すると,心室頻拍や心室細動などの重症不整脈を有する症例では,血漿カテコールアミン濃度が高値を示し,血清CK-MB,ミオシン軽鎖,トロポニンT濃度も上昇していた.これは,くも膜下出血に合併する致死的不整脈がカテコールアミンの心筋障害によって生じることを示している.さらに,くも膜下出血発症直後の交感神経系活動と心筋障害との関係を明確にするため,新しいくも膜下出血の実験動物モデルを考案した.この実験モデルでは,くも膜下出血発症直後に交感神経系活動と心機能は一時的に亢進した後,心機能低下が出現した.また,血清CK-MBは,くも膜下出血発症後から上昇を続け,実験期間を通じて高値であった.以上から,くも膜下出血急性期には,交感神経系活動の一過性過剰亢進から心筋障害が出現し,心筋がパニックに陥った状態と思われる.