著者
相川 博 榎日 出夫 友田 靖子 高田 弘幸 山内 俊雄
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.195-203, 2000-10-31 (Released:2012-07-17)
参考文献数
12

TVアニメ「ポケットモンスター」視聴時に発作性症状を呈して医療機関を受診した175名 (平成9年度厚生科学特別研究対象症例) のうち、98名について、その後の経過について追跡調査を行い、発作性症状の出現と脳波所見との関連について検討することができた。脳波所見をもとに一般脳波で突発性異常波を示し、かっ光突発反応がみられたI型、一般脳波で突発性異常波がなく光突発反応がみられたII型、脳波異常のみられなかったIII型に分類した。その結果、I型に分類された35名のうち4名に光感受性発作、7名に自発発作の出現がみられた。自発発作のみられたもののうち3名は「ボケモン視聴時」以前にはてんかんの既往はなかった。II型に分類された18名のうち自発発作は1名のみで、4名に光感受性発作の出現がみられた。III型に分類された23名では、てんかんの既往のある1例のみに自発発作がみられた。追跡調査期間中に光感受性発作のみられたものは、すべて未服薬者か、たまたま怠薬していた者であった。
著者
大沼 悌一
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.153-172, 1999-10-31 (Released:2012-07-17)
参考文献数
29

ミオクローヌスてんかん (PME) は顔面、四肢にミオクロニーを示し、かつてんかん発作 (ミオクロニー発作、GTC) や小脳性失調症などを合併する進行性の神経疾患である。ミオクロニーは不規則で、非律動的で急速に起こる瞬間的・電撃的筋収縮で動作開始や肢位保持時などで悪化する。多くは光過敏である。分子遺伝学の進歩はPMEの診断、病因、分類に著しい進歩をもたらした。Lafora病、Neuronal Ceroid Lipofuscinosis (CLN) 、Sialidosis、Mitochondria病、Unverricht-Lundborg病 (UL病) および、特に日本に多いDRPLAとPME関連疾患であるBenign Adult Familial Myoclonus Epilepsy (BAFME) について特に分子遺伝学的、電気生理学的所見を中心に述べた。最近BAFMEの病的遺伝子の座は染色体8q23.3-24.1にあることがわかった。DRPLAは他のPMEとは異なり、誘発電位 (SEP、ABP) の振幅低下があり、ミオクローヌスは皮質下起源が疑われた。
著者
神田 隆
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.47-50, 2014 (Released:2014-07-11)
参考文献数
10

BBBは脳微小血管内皮細胞、ペリサイト、アストロサイトの3種類の細胞と2枚の基底膜から構成されている。BBB機能の主役は最内層を構成する内皮細胞であり、病的状態でのBBBの破壊は、(1)液性因子の漏出と(2)炎症性単核細胞の神経実質内侵入、のそれぞれ分子的に全く独立した2種類のメカニズムからなっている。このBBB破綻・修復メカニズムの制御は、中枢神経疾患新規治療のkeyである。たとえば、多発性硬化症をはじめとする自己免疫性中枢神経疾患や神経感染症では、破綻したBBBを経て単核球や炎症性サイトカインが炎症部位へ大量に動員される。したがって、BBBの破綻防止やその修復は炎症性神経疾患の治療に向けての重要な戦略になり得るが、本稿では脳梗塞、ALSなど非炎症性中枢神経疾患に重点を置いてBBBの重要性を概説する。BBBを越える脳内へのdrug deliveryシステムの開発は、各種神経変性疾患の新規治療法の確立に道を開くものである。
著者
辻 富基美 高橋 隼 篠崎 和弘
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.59-63, 2011 (Released:2011-06-30)
参考文献数
7

てんかん患者がもつ発作後精神病の予防にlamotrigineが有効であった3例を報告する。3症例は全て側頭葉てんかんと診断され、てんかんの発症から17~27年時に発作後精神病が出現した。発作型はいずれも複雑部分発作であり、十分な抗てんかん薬を投与したにもかかわらず、月1回以上の発作があった。精神病エピソードはこれまでに2~5回以上であったが、ラモトリギンの投与後10~12カ月の期間では精神病エピソードの再発がなかった。発作頻度はラモトリギンにより1症例は群発発作が消失し、2症例は発作頻度が減少した。この群発発作の消失、発作頻度の減少が発作後精神病の再発を予防した可能性がある。一般的にラモトリギンは精神病症状を引き起こす副作用の頻度が小さい。これらのことより、発作後精神病の予防ための抗てんかん薬として有用な可能性がある。
著者
鈴木 健之 西田 拓司 井上 有史
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.23-30, 2016-06-30 (Released:2016-06-29)
参考文献数
19
被引用文献数
1

本研究は、てんかん患者の認知機能障害に対するリハビリテーションの有用性、およびその他の認知機能改善に関連する要因を明らかにすることを目的とした。症候性部分てんかん患者51名に対して、浜松方式高次脳機能検査(HHBFS)を用いて、初期評価と再評価との比較、作業療法介入の有無による認知機能の変化の比較を行った。また重回帰分析によりHHBFSの得点の向上に関与する変数を検定した。その結果、初期評価と再評価で認知機能障害の改善がみられ、作業療法介入により有意な認知機能の改善を示すHHBFSの下位項目が認められた。また、認知機能障害の改善に関連する要因として、薬剤の影響と作業療法介入が認められ、てんかん患者の認知機能障害に対して抗てんかん薬の調整と作業療法によるリハビリテーションが有効である可能性が示唆された。
著者
藤間 詩央里 原 恵子 田端 梓 笹野 哲郎 稲次 基希 赤座 実穂 前原 健寿 松浦 雅人 角 勇樹
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.10-22, 2016-06-30 (Released:2016-06-29)
参考文献数
27

てんかんへの偏見は、患者の社会参加やQOLに大きな影響を与え、重要な検討課題である。無意識的な態度の測定方法に潜在的連合テスト(Implicit Association Test:IAT)がある。本研究は、一般健常者と医療系学生を対象にIATを行い、潜在的偏見とその要因を明らかにすることを目的とした。一般健常者21名、医療系学生42名を対象とした。IATでは「てんかん」と「糖尿病」について、「良い」と「悪い」に関係する言葉との結びつきを調べた。加えて質問紙で、各疾患のイメージ(偏見の要因となり得る未知度、外集団、脅威度)と経験、知識度を調査した。一般健常者は医療系学生に比べ、IATで「てんかん」と「悪い」との結びつきが強く潜在的偏見が強かった。またてんかんに対する未知度、外集団、脅威度も高く、てんかんの知識度は低かった。知識度が高いほど脅威度は低下し、脅威度が高いほどIATで「てんかん」と「悪い」の結びつきが強かった。正しい知識を享受することがてんかんに対する潜在的偏見の改善につながると考えられた。
著者
矢野 大仁 中山 則之 大江 直行 三輪 和弘 篠田 淳 吉村 紳一 岩間 亨
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.2-7, 2013 (Released:2013-07-16)
参考文献数
41

脳腫瘍関連てんかんについて、疫学、機序、治療などの観点で文献レビューを行った。低悪性度グリオーマ患者の70~90%がけいれんで発症するが、術後の発作消失率は約75%と報告されている。脳腫瘍関連てんかんの制御予測因子は、内科的制御、てんかん罹患期間1年未満、腫瘍の全摘出などで、側頭葉腫瘍では全摘出に海馬切除や皮質切除を追加すると発作消失率が高まり、手術時期に関しては発症3年未満で制御率が高まる。薬物治療では旧来薬にレベチラセタム(LEV)やガバペンチンの追加が推奨され、LEVは単独治療よりもバルプロ酸に追加すると効果が高い他、術後にはフェニトインの代替薬となる。LEV単独治療でも制御率は高く、社会生活の質改善にも奏功することが報告されている。Synaptic vesicle 2 A(SV 2 A)はLEVの結合蛋白であり、腫瘍や周辺脳においてSV 2 A蛋白の発現が高ければ奏功率が高いとされる。
著者
峯 清一郎 沼田 理 内野 福生 山浦 晶 岩佐 博人
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.132-138, 1998-06-30 (Released:2012-07-17)
参考文献数
11

てんかん原性焦点が器質性病変から独立して形成されたと思われる難治性てんかんの1手術例を報告した。症例は26歳女性、8年間におよぶ難治性てんかん発作を認めた。発作は睡眠中の突然の発声、発語停止と無意味な発声、左上肢の間代性けいれんより向反発作を経る2次性全般化発作の3種類であった。MRIで右前頭葉補足運動野前方に器質性病変を認め、頭皮脳波で発作時突発波が右頭頂誘導から発生した。慢性硬膜下電極により、てんかん原性焦点は病変に隣接しない右運動野手の領域に同定された。腫瘍は肉眼的に全摘出された。てんかん原性焦点が病変から独立していると思われたので、腫瘍摘出の後、焦点へのmultiple subpial transectionを施行した。病理診断は星状細胞腫であった。術後9カ月を経るが発作は抑制されている。器質性病変を合併する難治性てんかんの手術方法について考察した。
著者
古関 啓二郎 岩佐 博人 伊藤 寿彦 柴田 忠彦 佐藤 甫夫
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.107-117, 1994-06-30 (Released:2011-01-25)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

てんかん性笑い発作の発現機序を検討する目的で, 笑い発作のみを発作症状とする1例に, 双極子追跡法 (Dipole Tracing: DT) および123I-IMP SPECTを施行した。この症例の発作間欠期脳波は, 発作の初発から間もない時期では, 右前側頭部優位の棘徐波結合であったが, 後期においては多棘徐波結合が頻発するようになった。これらの突発波のDT分析を行った結果, 早期の棘波では右側頭葉内側部に等価電流双極子 (equivalent current dipole: ECD) が推定され, 後期の多棘波の先行棘波成分は早期の棘波と同様に右側頭葉内側部に, 後発棘波成分は前頭葉内側部にそれぞれECDが推定された。また, 同時期の123I-IMP SPECTでは, 右前側頭葉および前頭葉内側部に血流増加が認められた。これらの結果は, 笑い発作の発現には側頭葉内側部のみならず隣接の大脳辺縁系が関与していることを示唆している。
著者
小林 瑛美子 中川 栄二 宮武 千晴 竹下 絵里 石山 昭彦 齋藤 貴志 小牧 宏文 須貝 研司 佐々木 征行
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.76-82, 2015-06-30 (Released:2015-08-06)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

症例は10歳女児。新生児期脳出血後遺症による非定型欠神発作を認めていたが抗てんかん薬(クロナゼパム、カルバマゼピン、ラモトリギン)の内服により疲労時に短い発作症状を認めるのみに落ち着いていた。9歳時に乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン第1期1回目及び2回目を接種した。2回目接種後から1カ月経過した頃より非定型欠神発作が群発するようになった。頭部MRIでは右側大脳・脳幹部の萎縮を認めていたが進行はしていなかった。脳波では2.5~3 Hzの全般性棘徐波を睡眠ステージに関係なく連続的に認め、電気的なてんかん重積状態を示した。髄液中の抗グルタミン酸受容体抗体の上昇を認め、てんかん発作の急激な悪化に自己免疫異常が関与していると考え、免疫グロブリン静注投与を行ったところ発作頻度が減少し脳波上の改善も得られた。臨床経過からてんかん発作の急性増悪因子として日本脳炎ワクチン接種が考えられた。
著者
兼本 浩祐 川崎 淳 河合 逸雄
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.9-14, 1995-02-28 (Released:2011-01-25)
参考文献数
19

てんかんを疑われて来院した進行性ミオクローヌスてんかんの症例 (以下PME群) を, 若年性ミオクローヌスてんかんの症例 (以下JME群) と比較し, 問診と初診時の脳波所見について, 両群で有意差を示す項目を見いだすことを試みた。その結果, (1) 基礎律動の徐波化, (2) 棘徐波の出現の頻繁さ (最初に棘徐波が出現した時点から30秒以内に棘徐波の群発が3回以上) が, PMEに, (3) 覚醒後数時間にほぼ限定された大発作がJMEに, 有意に多い特徴として取り出された。初期の段階におけるPMEは, JMEと様々の点で誤診される危険のある病態であることを強調し, JMEの診断の際に留意すべきであることを指摘した。
著者
伊藤 進 黒岩 ルビー 浅川 奈緒子 本田 香織 森 祐子 林 優子
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.42-51, 2018-06-30 (Released:2018-06-29)
参考文献数
7

乳児期発症難治性てんかんにおける保育所就園及び保護者就業についての実態を明確とするため、ドラベ(Dravet)症候群及びウエスト(West)症候群の患者家族会は共同で実態調査を実施した。ドラベ症候群患者120名中70名(58.3%)及びウエスト症候群患者244名中136名(55.7%)よりウェブアンケートを回収した。保育所就園率は5歳以下児各25.0%及び36.8%(医療的ケア児0%、本邦乳幼児42.4%)であり、入通園制限は各66.7%及び19.6%にあった。抗てんかん薬の定時内服は各10.5%及び19.6%、発作時坐剤頓用は各36.8%及び16.7%で対応不可であった。通園中のてんかん発作は各85.0%及び44.0%、重積発作は各20.0%及び4.5%にあった。保護者就業率は、母親が各20.8%及び26.4%(本邦母親47.3~61.2%)、父親が各98.0%及び95.2%であった。難治性てんかんのある乳幼児においては、保育所の就園は低率、入通園制限は高率であり、その保護者、特に母親の就業率は低率であった。
著者
足立 直人 大沼 悌一 久野 武 村松 玲美 鈴木 一郎
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.260-267, 1992
被引用文献数
1

側頭葉てんかん (TLE) 患者27例と特発性全般てんかん (IGE) 患者25例, 健康正常者 (健常者) 18例に対しDot counting testを行い, その注意認知機能を測定した。てんかん群において, Dot counting testの成績 (DC score) と年齢, 性, てんかん罹病期間, 発作頻度との相関はなく, わずかに知能との相関を認めた。<BR>てんかん類型ごとに健常者群と比較したところ, TLE群は有意な低成績 (p=0.006) を示したがIGE群は有意な差はなく, TLE群に注意の障害が多く認められた。<BR>服用抗てんかん薬についてみると, 多剤服用群は健常者群に比して有意に低成績であり, 単剤服用群は有意な差を認めなかった。服用抗てんかん薬の種類による成績の差を認めなかった。ただしPHT服用患者の血中PHT濃度は, DC scoreとの間に有意な負の相関を認めた。
著者
岩橋 和彦 洲脇 寛 大西 純一 細川 清
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.271-274, 1993-10-30 (Released:2011-01-25)
参考文献数
7

骨萎縮性病変発生機序解明の一助としてカルシウム代謝に重要な役割を果たすビタミンD3活性化酵素シトクロムP-450D25の酵素活性における抗てんかん薬の影響について調べた。in vitroの実験においてフェニトインはラット肝臓のミクロソーム系およびミトコンドリア系のP-450D25の酵素活性を阻害することが判明し, しかもミクロソーム系のP-450D25については競合阻害であった。一方バルプロ酸はどちらの系においても阻害作用はほとんど見られなかった。また両薬物をWistarラットに2ヵ月間大量に皮下注射したところ, フェニトインによるミクロソーム系P-450D25の著明な誘導がみられた。以上よりフェニトインはシトクロムP-450D25を介してビタミンD3, さらにはカルシウム代謝に影響を与える可能性があることが判明した。
著者
奥田 志保 上野 正夫 苅田 典生 高野 真
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 = Journal of the Japan Epilepsy Society (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.455-459, 2012-01-31
参考文献数
14

脳卒中後患者における抗てんかん薬の選択について検討した。脳卒中患者690例中、抗てんかん薬内服は63例(9.1%)であった。抗てんかん薬の第一選択薬で最も使用されていたのはバルプロ酸で39例(61.9%)、次にカルバマゼピンで10例(15.9%)であった。63例中39例(61.9%)はけいれん発作後に投与が開始されており、残り24例(38.1%)は予防的投与であった。バルプロ酸投与の35.9%(14例)、カルバマゼピン投与の50%(5例)でけいれん発作が起こっていた。てんかん治療ガイドラインでは、部分てんかんに対してカルバマゼピンの使用が推奨されているが、今回の研究では脳卒中後の抗てんかん薬としてバルプロ酸がより高い頻度で使用されている実態が明らかになった。<br>
著者
堀田 秀樹 浜野 晋一郎 福島 清美
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.176-178, 1990-10-31 (Released:2011-01-25)
参考文献数
7

過去4年半に, 抗てんかん薬服用中副作用がみられた48例を調査母体とした。調査時年齢は1歳7ヵ月~29歳2ヵ月であった。体重増加 (肥満) は7例に認め, すべてバルプロ酸ナトリウム (VPA) によるものであった。3ヵ月から24ヵ月の間に肥満度の上昇をきたし, 全例肥満度30%以上となった。投薬前から既に肥満度20%以上を示したものが4例いた。肥満のため投薬を中止したのは4例で, うち3例で体重の減少を認めた。夜尿は7例に認め, 5例がVPAによるもので, フェニトイン, クロナゼパムによるものがそれぞれ1例ずついた。夜尿の出現時期は服薬1日目が4例と多かった。4例で投薬を中止し, 全例その直後から夜尿の消失をみた。VPAによる体重増加, 夜尿は, VPAが視床下部に存在する食欲および排尿調節中枢へ影響を及ぼすためと推測された。
著者
前田 規秀 伊藤 健吾 田所 匡典 加藤 隆司 渡辺 一功 根来 民子 麻生 幸三郎 羽賀 淑子 鬼頭 正夫 Shylaja Nuguri 大木 隆史 佐久間 貞行
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.224-232, 1992

小児期発症の局在関連性難治てんかん患者24例 (側頭葉てんかん12例, 後頭葉てんかん6例, 前頭葉てんかん6例) にMRI, SPECT, PETを施行し, その病態について検討した。全体では, MRIでは14例, SPECTでは15例, PETでは20例で大脳皮質に局在する異常を認めた。側頭葉てんかん12例では, MRIで10例に側頭葉に異常を認め, 5例は側頭葉内側硬化が, 他の5例では側頭葉内側硬化以外の病変が疑われた。SPECTでは9例で, PETでは11例で側頭葉に異常を認めた。後頭葉てんかん6例では, MRIでは4例で, SPECTでは5例で後頭葉に異常を認めた。PETでは6例全例で後頭葉に異常を認め, 視覚発作を伴う4例で1次視覚中枢の異常を認めた。前頭葉てんかん6例では, MRI, SPECTでは全例異常を認めなかったが, PETでは3例で局在する異常を認め発作焦点と考えられた。PETは焦点部位の検出に極めて有用であった。
著者
仲地 律雄
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.172-180, 1988
被引用文献数
1

部分てんかん患者にみられる二次てんかん原性焦点の形成機序を研究するために16匹のネコを用いて, 原焦点側 (一次側) 腹側海馬破壊 (5匹), 正中離断 (6匹), 一次側脳弓破壊 (5匹) が扁桃核キンドリング形成に伴う反対側扁桃核への転移現象に及ぼす影響を検討した。<BR>1) 腹側海馬破壊では, 歯状回から海馬錐体細胞に向かう苔状線維がほぼ完全に破壊されていたネコ4匹で転移形成が阻止されたが, 部分破壊に留まった1匹では転移がみられた。<BR>2) 正中離断では6匹中3匹で転移形成が阻止されたが, 脳梁・海馬交連の離断範囲とは一定の関係がなく, この3匹ではいずれも一次側脳弓が完全に破壊されていた。<BR>3) 脳弓破壊では, 一次側脳弓がほぼ完全に破壊されていた4匹で転移形成が阻止されたが, 部分破壊に留まった1匹では転移がみられた。<BR>以上の成績から, 一側扁桃核キンドリングの反対側同部への転移現象に海馬が重要な役割を果たしていると考えられ, 海馬遠心路のうちでは海馬交連を介する経路よりも脳弓を介する経路が重要と考えられた。
著者
井上 有史 鈴木 節夫 渡辺 裕貴 八木 和一 清野 昌一
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1-9, 1992-03-31 (Released:2011-01-25)
参考文献数
44
被引用文献数
5 4

非言語性高次大脳機能を主誘発因とする反射てんかんの自験10例と文献に報告された64例を臨床・脳波学的に検討し, 次の諸特徴を抽出した. 1) 若年発症. 2) 誘発される発作型は全般発作で, 腕や手を中心とするミオクローヌスと大発作が主体であり, 欠神発作を合併することがある. 3) 脳波には中心部を中心とする全般性てんかん放電がみられ, これは特殊な神経心理学的賦活により誘発される. 4) 誘因は複雑な連続的空間的思考から随意運動へといたるプロセスにあると考えられ, 具体的には計算, 描画, 構成, 書字, チェスやカードなどのゲーム, 複雑な手指運動などであり, 随意運動の表象だけでも誘発される. 5) 精神緊張や注意集中は助長因子である.高次大脳機能により誘発される特発性反射てんかんは, 非言語性機能によって誘発される上記の一群と, 言語誘発てんかん (読書てんかんを含む) とに大別される. 本邦における非言語性高次大脳機能誘発てんかんの多さは言語誘発てんかんの少なさと対照的であり, 言語的・文化的背景が存在する可能性を指摘した.