著者
内山 泰伸 田中 孝明 田島 宏康
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.72, no.9, pp.649-657, 2017-09-05 (Released:2018-07-25)
参考文献数
38
被引用文献数
1

宇宙線とは,宇宙の彼方から地球に飛来する高エネルギー粒子であり,発見以来100年以上経つ現在もその起源は未解決の問題である.数1,000テラ電子ボルト以下のエネルギーの宇宙線は銀河系内に起源を持つと考えられ「銀河宇宙線」と呼ばれている.銀河宇宙線は星間空間において恒星の形成に直接的な影響を与えるなど,銀河の構造とその進化にも重要な役割を果たしている.銀河宇宙線の大部分は高エネルギー陽子であり,宇宙線陽子1個の平均エネルギー約10ギガ電子ボルトは百兆度の温度に相当する.しかし,宇宙線は通常の意味での温度を持たない.宇宙線のエネルギー分布は,熱的なマクスウェル分布ではなく,ベキ関数分布に従っていて,とてつもなく高いエネルギーを持つ粒子が観測されている.銀河系外から飛来する宇宙線の最高エネルギーは100エクサ電子ボルト(1020 eV)にも達し,LHC(大型ハドロン衝突型加速器)よりも7桁も上である.銀河系外から到来する宇宙線の起源としては,活動銀河核すなわち銀河の中心部にある超巨大ブラックホールが候補天体としてあげられるが,今のところ,説得力のある証拠は得られていない.一方,銀河宇宙線については「超新星残骸起源説」が標準的な学説として広く受け入れられている.超新星残骸の衝撃波において銀河宇宙線が加速されているとする説である.恒星の壮絶な最期である超新星爆発の結果,恒星を構成していた物質は超音速で星間空間を膨張し,超新星残骸を形成する.超音速で膨張する爆発放出物によって駆動された無衝突衝撃波が,宇宙線加速の現場だと考えられている.実際,超新星残骸の衝撃波において,少なくとも10テラ電子ボルトまで高エネルギー電子が加速されていることが人工衛星によるX線観測からわかってきた.しかし,これまでは宇宙線の主成分である高エネルギー陽子が加速されている証拠を得ることができていなかった.2008年に打ち上げられたフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡のLarge Area Telescope(LAT)検出器によるガンマ線観測の結果,超新星残骸において宇宙線陽子が加速されている明確な証拠がついに得られた.特に分子雲と衝突している超新星残骸からは強いガンマ線放射が検出され,それが中性パイ中間子の崩壊ガンマ線であることが精確なスペクトル測定から確認された.超新星残骸のガンマ線観測の結果から,宇宙線のエネルギー総量を推定することが可能になり,超新星爆発の運動エネルギーの数パーセントが宇宙線のエネルギーに移行していることがわかった.フェルミ衛星によるガンマ線観測により,銀河宇宙線の超新星残骸起源説を裏付ける結果が得られたが,決定的な検証は2020年代に本格稼働する次世代の大気チェレンコフ望遠鏡Cherenkov Telescope Array(CTA)によって可能となるだろう.
著者
高橋 忠幸 内山 泰伸 牧島 一夫
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.65, no.9, pp.707-712, 2010-09-05
被引用文献数
2 1

非熱的放射を示す天体現象の研究は,宇宙線の加速機構やその加速現場を探るとともに,宇宙のエネルギー形態の一つである非熱的エネルギーの果たす役割を知る上で重要である.硬X線領域での放射スペクトル測定は,熱的放射から切り離された非熱的放射を選択的に調べることを可能にするが,これまでの衛星では高い感度が得られなかった.日本のX線衛星「すざく」は,広いエネルギー範囲でのスペクトル測定に威力を発揮し,硬X線領域においては世界最高の感度を有する.本稿では「すざく」による硬X線観測の結果を中心として,高エネルギー粒子加速(超新星残骸,ガンマ線連星)と極限状態での非熱的現象(マグネター)の研究を紹介する.
著者
田中 孝明 内山 泰伸
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.67, no.8, pp.556-560, 2012-08-05 (Released:2019-10-18)
参考文献数
18

フェルミ宇宙ガンマ線望遠鏡搭載のLarge Area Telescope (LAT)によるガンマ線観測は,パルサーのガンマ線放射機構超新星残骸における宇宙線加速,そしてダークマターの探索など多岐にわたる科学トピックについて新たな知見をもたらしている.LATによる最近の科学的成果のうち,特に高エネルギー宇宙物理のコミュニティを驚かせたものは,かに星雲と呼ばれるパルサー星雲で観測されたガンマ線フレアである.特に2011年4月に発生したフレアでは,ガンマ線強度が数時間という非常に短い時間スケールで1桁以上も増加した.この観測結果は,既成の粒子加速機構およびガンマ線放射機構では説明が困難であり,宇宙物理における新たな課題となっている.
著者
中澤 知洋 森 浩二 村上 弘志 久保田 あや 寺田 幸功 谷津 陽一 馬場 彩 幸村 孝由 内山 泰伸 斉藤 新也 北山 哲 高橋 忠幸 渡辺 伸 中島 真也 萩野 浩一 松本 浩典 古澤 彰浩 鶴 剛 上田 佳宏 田中 孝明 内田 裕之 武田 彩希 常深 博 中嶋 大 信川 正順 太田 直美 粟木 久光 寺島 雄一 深沢 泰司 高橋 弘充 大野 雅功 岡島 崇 山口 弘悦 森 英之 小高 裕和 他FORCE WG
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会講演概要集 72.1 (ISSN:21890803)
巻号頁・発行日
pp.508, 2017 (Released:2018-04-19)

NGHXTあらため、FORCE衛星は1-80 keVの広帯域X線を高感度で撮像分光し、まだ見ぬ隠されたブラックホールや超新星残骸のフィラメントでの粒子加速の探査を目指している。2016年に変更した計画の内容、検出器および望遠鏡の開発状況、およびサイエンス検討の進捗を報告する。