著者
内山 秀樹
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度は、以下の4点について成果があった。1.「すざく」X線データの系統解析により、天の川銀河の熱的活動性の起源が、中心と銀河面で異なり、多成分を持つことを明らかにした。2.電波・ガンマ線と「すざく」X線の中性FeKα輝線データを組み合わせ、天の川銀河を満たす非熱的な高エネルギー宇宙線(光子を含む)の巨大分子雲との相互作用や、その加速源候補の調査を行った。3.「すざく」搭載X線CCDカメラXISを用いた新たな解析方法を開発し、系外活動銀河核から時間変動しない軟X線成分を発見した。上記の1-3の成果はいずれも査読付論文として受理・発行されている。特に1.の成果は重要であるため、詳細する。「すざく」が観測した天の川銀河の全データを系統解析し、銀河拡散X線における硫黄、アルゴン、カルシウムの高階電離イオンからの輝線強度の空間分布を世界で初めて得た。その結果、元素の電離温度が、鉄では銀河面より中心の方が高いのに対し、硫黄では逆に銀河面より中心の方が低いことを明らかにした。これは銀河拡散X線を放射する高温プラズマが鉄あるいは硫黄輝線を強く出す高温(~7千万K)と低温(~1千万K)の2成分からなり、それぞれの成分が中心と銀河面で異なる起源を持つことを強く示唆する、全く新しい観測事実である。また、4.次世代X線天文衛星ASTRO-Hに搭載予定の硬X線撮像検出器・軟ガンマ線検出器の地上試験・較正を行い、2015年の打ち上げに向け、計画を進めた。これはASTRO-Hを用いた将来の発展的研究につながる。
著者
小林 尚輝 内山 秀樹 山本 仁 神尾 誠也 木下 拓史 島野 誠大 武井 大 松山 福太郎 内山 智幸 内田 匡 石代 晃司 渡辺 謙仁
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.79-86, 2020-06-10 (Released:2020-09-05)
参考文献数
15

2013 年の調査では日本の高校生の理科の有用感は米中韓と比較し低いが,一方で天文や宇宙開発への関心は高い。そこで,これらと関連し,理科の有用感も増す可能性のある教材として人工衛星電波受信実験に着目した。 受信実験の中では万有引力による運動やドップラー効果など高校物理で学ぶ多くの内容がわかりやすい形で現れ,物理や数学と科学技術との繋がりを実感できる。我々は科学教室と高校授業で実践を行い,理科の有用感と物理内容の理解の向上に対する効果を検証した。結果,多様な学生を対象とする高校授業の実践において効果が確認できた。
著者
内山 秀樹
出版者
静岡大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2013-08-30

「すざく」銀河面データにより、天の川銀河拡散X線放射の空間的揺らぎを測定した。統計誤差を除くと、天の川銀河拡散X線放射と宇宙背景X線を合わせた表面輝度は~10パーセク程度の空間スケールで3.6~8.1% (1σ) 揺らぐことを明らかにした。この揺らぎは天の川銀河拡散X線放射が多くの暗い点源の集まりだとした場合の結果と大きく矛盾しない。また、数百パーセクスケールでの鉄輝線強度比の空間分布から、バルジと銀河面ではその拡散X線放射の起源が異なる可能性が高いことも明らかにした。天の川銀河拡散X線放射の研究を元に、「すざく」データを使った、高校物理で扱うボーア模型の学習教材を作成した。
著者
内山 秀樹
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

天の川銀河中心領域の「すざく」による大規模観測データの系統的解析を行った。銀河拡散X線放射の3本の鉄輝線を分離した上で、銀河中心・リッジ・バルジにわたる2100×700光年の領域での強度の空間分布を初めて取得した。その結果、高階電離鉄輝線の空間分布が赤外観測による星質量分布と互いに異なることを示した。水素・ヘリウム状鉄輝線強度比が中心領域とリッジ領域で有意に大きい一方、中心領域とバルジ領域では両者に差は見られなかった。輝線強度比は高温プラズマの温度を反映する為、銀河拡散X線放射の起源解明の鍵となる。更に、熱的成分の寄与を取り除いた中性鉄輝線の等価幅が中心領域よりリッジ領域で小さいことを明らかにした。これは中性鉄輝線の起源も中心領域とリッジで異なる可能性を示唆する。本研究は「すざく」による高エネルギー分解能を活かし銀河中心・リッジ・バルジにおける鉄輝線の差異を明確にした点で、銀河拡散X線放射の起源解明の新たな手がかりとなるものである。また、データ中から新たなX線天体Suzaku J1740.5-3014を発見した。強い3本の鉄輝線、432.1sの自転周期と見られるパルスを検出し、強磁場激変星候補であることを突き止めた。この天体は、欧米のX線衛星では深い観測が無い、中心とリッジの中間に位置し、この領域でのX線点源、特にGDXEの起源の候補天体と目される激変星(白色矮星連星)のサンプルとして貴重である。