著者
若尾 昌平 出澤 真理
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.6, pp.299-305, 2015 (Released:2015-06-10)
参考文献数
18

組織幹細胞の一つである間葉系幹細胞は骨髄や皮膚,脂肪などの間葉系組織に存在し,様々な細胞を含む集団から構成されているが他の組織幹細胞とは異なり,発生学的に同じである骨や脂肪,軟骨といった中胚葉性の細胞だけでなく,胚葉を超えた外・内胚葉性の細胞への分化転換が報告されている.このことから,間葉系幹細胞の中には多能性を有する細胞が含まれている可能性が考えられていた.我々は,これらの一部の間葉系幹細胞の胚葉を超えた広範な分化転換能を説明する一つの答えとなり得る,新たな多能性幹細胞を見出し,Multilineage-differentiating stress enduring(Muse)細胞と命名した.Muse細胞は胚葉を超えて様々な細胞へと分化する多能性を有するが腫瘍性を持たない細胞である.また,その最大の特徴として,回収してそのまま静脈へ投与するだけで損傷した組織へとホーミング・生着し,場の論理に応じて組織に特異的な細胞へと分化することで組織修復と機能回復をもたらす点がある.すなわち生体に移植する前にcell processing centerにおいて事前の分化誘導を必ずしも必要としない,ということであり,静脈投与するだけで再生治療が可能であることを示唆する.本稿ではこれらMuse細胞研究の現状と一般医療への普及を目指した今後の展望について考察したい.
著者
若尾 昌平 出澤 真理
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.6, pp.299-305, 2015

組織幹細胞の一つである間葉系幹細胞は骨髄や皮膚,脂肪などの間葉系組織に存在し,様々な細胞を含む集団から構成されているが他の組織幹細胞とは異なり,発生学的に同じである骨や脂肪,軟骨といった中胚葉性の細胞だけでなく,胚葉を超えた外・内胚葉性の細胞への分化転換が報告されている.このことから,間葉系幹細胞の中には多能性を有する細胞が含まれている可能性が考えられていた.我々は,これらの一部の間葉系幹細胞の胚葉を超えた広範な分化転換能を説明する一つの答えとなり得る,新たな多能性幹細胞を見出し,Multilineage-differentiating stress enduring(Muse)細胞と命名した.Muse細胞は胚葉を超えて様々な細胞へと分化する多能性を有するが腫瘍性を持たない細胞である.また,その最大の特徴として,回収してそのまま静脈へ投与するだけで損傷した組織へとホーミング・生着し,場の論理に応じて組織に特異的な細胞へと分化することで組織修復と機能回復をもたらす点がある.すなわち生体に移植する前にcell processing centerにおいて事前の分化誘導を必ずしも必要としない,ということであり,静脈投与するだけで再生治療が可能であることを示唆する.本稿ではこれらMuse細胞研究の現状と一般医療への普及を目指した今後の展望について考察したい.
著者
出澤 真理
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.1311-1314, 2019-06-01

Summary▪Muse細胞は腫瘍性をもたない生体内多能性修復幹細胞であり,骨髄,末梢血,各臓器の結合組織に分布し,組織恒常性に関わっている.▪点滴投与で傷害部位に集積するので,外科的手術による投与は不要である.▪傷害組織に集積すると,同時多発的に組織を構成する複数の細胞種に分化することで修復する.「場の論理」に応じて分化するので,投与前の分化誘導を必要としない.▪他家Muse細胞の利用においてヒト白血球抗原(HLA)適合や長期間にわたる免疫抑制薬投与を必要としない.脳梗塞,心筋梗塞,表皮水疱症で「他家Muse細胞の点滴による治験」が進められている.
著者
河原田 一司 是石 裕子 労 昕甜 上田 忠佳 住田 能弘 大津 見枝子 明石 英雄 出澤 真理 Luc GAILHOUSTE 落谷 孝広
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-202, 2015 (Released:2015-08-03)

【背景/目的】近年、ヒト初代肝細胞に替わる細胞として、多能性幹細胞から分化誘導・成熟化した肝細胞の利用が検討されている。我々は、間葉系組織に存在する多能性幹細胞「Muse細胞」に注目し、効率的な肝前駆細胞への分化誘導法を検討した。一方、我々はこれまでに、肝臓の成熟過程に関与するmicroRNAを網羅的に解析した結果、microRNA-148a(miR-148a)が肝細胞の成熟化を促進することを明らかにしている。そこで、Muse細胞を肝前駆細胞へ分化誘導し、得られた肝前駆細胞にmiR-148aを作用させ、肝細胞の成熟化を試みた。【方法】ヒト骨髄由来間葉系細胞からSSEA3陽性のMuse細胞を単離した。Muse細胞に発現する遺伝子Xを抑制し、分化誘導因子と組み合わせ肝前駆細胞への分化誘導を試みた。次に、分化誘導した肝前駆細胞にmiR-148aを作用させ成熟化させた。Muse細胞由来肝細胞にCYP酵素誘導剤を添加し、酵素誘導能を評価した。【結果】Muse細胞に発現する遺伝子Xを抑制することで、AFP、ALB、CK18、CK19陽性の肝前駆細胞への分化誘導を確認した。また、Muse細胞由来肝前駆細胞にmiR-148aを作用させることにより、肝特異的遺伝子の発現量は上昇し、miR-148aによる成熟化の促進を認めた。以上の結果から、肝細胞を誘導する出発の幹細胞として、Muse細胞の有用性が示唆された。今後は、フェノバルビタールやリファンピシンによるCYP2B6やCYP3A4誘導能のデータを得ることで肝毒性・薬物動態評価系への応用性を検討する予定である。
著者
出澤 真理
出版者
金原出版
雑誌
整形・災害外科 (ISSN:03874095)
巻号頁・発行日
vol.59, no.13, pp.1749-1758, 2016-12
著者
三村 治 出澤 真理 石川 裕人
出版者
兵庫医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

平成17年度は弱視モデルの作製・骨髄間質細胞のドーパミン産生神経細胞への分化誘導・弱視モデルへの細胞移植方法の検討を行った。弱視モデルは生直後より暗室下で飼育することにより作製した。骨髄間質細胞はDezawaらの報告と同様にドーパミン産生神経細胞への分化誘導が可能であった。弱視モデルへの細胞移植は脳脊髄液経由で細胞懸濁液を第4脳室に注入することにより可能であった。平成18年度は17年度に続いて弱視モデルへの細胞移植を行い、抗体アレイやPCRを用いた解析を行った。抗体アレイでは弱視モデルのタンパク発現を網羅的に解析することが可能であり、種々のタンパクとりわけ、ドーパミン前駆タンパク(Tyrosine hydroxylase;Th)が脳において発現が増強していたが、網膜では既報のようにThの発現は減少していなかった。Apoptosis関連タンパクやMAP kinaseに関するシグナルタンパクなどは脳・網膜共に発現の減少傾向を認めた。これらの結果は既報と同様であり弱視に伴う発現変化を捉えている。抗体アレイの結果をうけPCRを用いた確認実験を行った。PCRではThが弱視網膜においてdown regulationを認め、既報と合致した。細胞移植された弱視脳ではMAP kinase関連タンパクやNeurofilament、GFAPなどの神経グリア系のUp regulationを認めた。この結果から弱視モデルに対するドーパミン産生神経細胞の脳脊髄液経由移植は、弱視モデルによって惹起された様々なシグナル回路に作用し、アポトーシスの回避や神経・グリアの選択的生存をもたらし、さらには弱視モデルにおけるドーパミン量を増加させることとなった。今後、既存のLevodopaの投与と本研究で行った細胞移植の効果との比較検討を行う必要性があり、大型動物での安全試験等も施行していきたい。