著者
辺見 卓男 町田 智正 武田 宗矩 北詰 栄里 猪俣 徹 石垣 佳希 荘司 洋文 添野 雄一 出雲 俊之 柳下 寿郎
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.63-70, 2020 (Released:2020-09-22)
参考文献数
27

口腔扁平上皮癌の予後判断に用いられる病理組織学的因子の一つに,浸潤様式分類がある。本邦では口腔癌取扱い規約に収載されているYK分類や,腺癌の予後指標として知られるINF,近年,口腔扁平上皮癌への適応が報告された簇出などがある。一方,AJCC 第8版では,予後に関連する因子としてWPOI-5が新規収載された。本報告ではpT1/T2舌扁平上皮癌を対象として,これら4つの浸潤様式分類に基づく判定結果を比較し,予後指標としての有用性について検討した。4つの浸潤様式分類に基づき3名の口腔病理専門医が独立して判定した。YK-4C,INF c,簇出5個以上,WPOI-5陽性と判定された各群では,その他の判定群と比較し高率に頸部リンパ節転移を生じ,生存率の低下を示した。従って,これら4つの判定は予後不良のリスク因子であると考えられた。一方,YK-4C群,INF c群,簇出5個以上群,WPOI-5陽性群の4群の予後を比較すると頸部リンパ節転移率,生存率に統計学的有意差はみられず,YK分類,INF,簇出,WPOI-5の予後指標としての有用性はほぼ同等であると考えられた。4つの浸潤様式分類における相互関係を検討すると,YK分類,INF,簇出には一定の相関関係が認められ,これら3つの浸潤様式分類とWPOI-5は独立していることが示唆された。同一症例に4つの浸潤様式分類を併用判定すると,YK-4C,INF c,簇出5個以上,WPOI-5陽性の判定が重複する症例が大部分であった。以上よりpT1/T2舌扁平上皮癌に対する予後判断では,浸潤様式分類は複数を併用することが望ましく,実際に併用する場合にはWPOI-5と他の3つの浸潤様式分類のいずれかを組み合わせる方法が有効と考えられた。
著者
出雲 俊之 柳下 寿郎 八木原 一博
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.64-76, 2012 (Released:2012-11-01)
参考文献数
31
被引用文献数
9 6

粘膜癌において,予後を左右する最も大きな因子はリンパ節転移だが,予後やリンパ節転移に相関する原発巣の因子としては,深達度と浸潤様式が重要である。口腔癌取扱い規約の臨床型分類には発育様式分類が用いられているが,これは従来からあった臨床視診型分類を基盤として,「分けることができて,分けることに意味のある分類」とのコンセプトのもとに,普遍性・再現性のある表在型・外向型・内向型の3型に再編したものである。現在この臨床発育様式分類については,内向型の中に特に予後不良な一群があり,肉眼像,組織像,病態などを踏まえた1病型としうるか否かが検討されている。この仕事は学術委員会WG1において進めていく予定であるので,ここでは次世代の臨床型分類として,浸潤様式を反映した新分類について解説する。私は,臨床型分類は浸潤様式を反映した分類にversion upされるべきであると考えている。外科病理学的仕事の進んだ消化管癌では,シルエット分類が臨床型分類として用いられているが,これは粘膜面の形態と浸潤様式を組み合わせた分類である。口腔扁平上皮癌で悪性度分類として使われている浸潤様式分類(YK分類)は,実はこのシルエット分類に相当し,次代の臨床型分類となりうるものと考えられる。肉眼所見や画像所見は目で見るものではなく,外科病理学的な知識を織り込んで読むものであり,臨床型分類とは,口腔癌に対する全ての知見の集大成としてあるべきものであろう。
著者
石井 純一 八木原 一博 桂野 美貴 住本 和歌子 宮嶋 大輔 柳下 寿郎 出雲 俊之
出版者
Japanese Society of Oral Oncology
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.129-135, 2012-12-15
被引用文献数
6

舌癌の正確な切除のためには術前に腫瘍の進展範囲についての情報が必要である。進展範囲は生体と切除標本超音波像を用いて計測された。二つの超音波像における腫瘍の進展範囲に関して相違は認められなかった。しかし,生体の超音波像と病理標本における腫瘍の進展範囲とは有意な差があった(<i>p</i> < 0.05)。しかしながら,生体超音波像の進展範囲とヘマトキシリンエオジン染色病理組織標本との間には大きさに関して有意な相関関係があった(<i>p</i> < 0.01)。さらに,回帰分析によると生体超音波像の腫瘍の進展範囲から病理標本の腫瘍の進展範囲を正確に予測することができた(<i>R</i><sup>2</sup>:0.52~0.88)。<br>このように超音波検査で腫瘍の進展範囲を正確に把握することは舌癌の患者の外科切除を計画するための検査として有用な方法であることが示された。
著者
前田 顕之 大関 悟 有地 榮一郎 出雲 俊之 大鶴 洋 岡部 貞夫 小村 健 川辺 良一 桐田 忠昭 草間 幹夫 迫田 隅男 佐々木 朗 篠原 正徳 田中 陽一 中村 太保 野口 誠 又賀 泉 山城 正司
出版者
Japanese Society of Oral Oncology
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 = Journal of Japan Society for Oral Tumors (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.163-175, 2007-09-15
被引用文献数
1 1

舌癌治療ガイドラインの作成にあたり, 日本での舌扁平上皮癌治療の現状を把握するためアンケート調査を行い, 75回答の集計結果から本邦における舌扁平上皮癌治療の現状を報告した。<BR>有効回答の得られた75施設の過去10年間 (1995-2004) における総症例数は5, 906例であった。T, N分類ではT2が2, 700例 (45.7%) , N0が4, 367例 (73.9%) と最も多かった。<BR>手術療法では原発巣の切除範囲の適応基準, 頸部リンパ節転移に対する頸部郭清術および舌癌切除後の再建術における適応と術式については, 各施設とも適応基準がほぼ共通しており標準的な治療ガイドラインの作成は可能であるように思われた。<BR>一方, 原発巣や頸部の放射線や化学療法による, 術前・術後の補助療法の目的と適応が各施設それぞれに基準があり, その標準化はガイドライン作成の大きな問題点になると思われた。いずれにしても質の高いエビデンスを持つ治療法をガイドラインに盛り込む必要がある。