著者
北岡 志保 古屋敷 智之
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.922-928, 2017 (Released:2017-09-01)
参考文献数
21

社会や環境から受けるストレスは内分泌系, 免疫系, 自律神経系を介したストレス応答を惹起する. しかし, これらのストレス応答がいかに統合されて情動変容や精神疾患を促すかには不明な点が多い. 近年ストレスによる情動変容における炎症様反応の重要性が確立され, この炎症様反応における内分泌系, 免疫系, 自律神経系の関与が調べられている. 末梢では, ストレスによる内分泌応答は骨髄系細胞を活性化し血中の炎症性サイトカインを上昇させ, 交感神経の活性化は血中の顆粒球・単球を増加させる. また, ストレスは腸内細菌叢を変化させ免疫系を活性化する. 脳内では, ストレスはミクログリアを活性化し炎症関連分子を介して前頭前皮質のドパミン系を抑制する. これらの知見は, 多様なストレス応答が脳内外の炎症様反応に収斂して情動変容や精神疾患を促すことを示唆しており, ストレスによる炎症様反応を標的とした新規抗うつ薬の開発を期待させる.
著者
北岡 志保 古屋敷 智之
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.702_2, 2017 (Released:2017-07-01)

げっ歯類を用いたうつ病モデルの1つである.このモデルでは,解析対象のマウスを体格が大きく攻撃性の強いマウスの攻撃に1日10分間,10日間連続で曝露し,その後,マウスの行動変化を調べる.反復社会挫折ストレスは社会性の減弱(社会忌避行動の誘導)や,不安亢進,快感覚の消失といったうつ病でみられる症状を誘導する.反復社会挫折ストレスによる社会忌避行動の誘導は抗うつ薬の反復投与により改善する.つまり,このモデルは予測妥当性を満たすうつ病の動物モデルとして注目されている.
著者
北岡 志保 古屋敷 智之
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.681-685, 2017 (Released:2017-07-01)
参考文献数
23

うつ病患者の末梢血で炎症関連分子の上昇や好中球や単球など免疫細胞の増加が報告されている。また、社会ストレスはうつ病のリスク因子であり、ヒトや動物のストレスモデルでも、炎症関連分子が上昇し、免疫細胞が増加する。本稿では、ストレスによる炎症性サイトカインやプロスタグランジンといった炎症関連分子の誘導と免疫細胞の増加、それらのうつ症状への関与と働きについて、ヒトおよび動物のストレスモデルを用いた前臨床研究やうつ病患者を対象とした臨床研究から得られた知見を紹介する。
著者
井上 治久 櫻井 隆 日置 寛之 江川 斉宏 北岡 志保
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

iPS細胞から分化した神経細胞のイメージングを行う技術、遺伝子ノックインヒトiPS細胞作製技術、神経細胞迅速分化技術を開発。これらの技術でALS患者運動神経細胞を作製・解析し、の新たな病態を明らかにした(Sci Transl Med 2012)。アルツハイマー病患者神経細胞・アストロサイトを作製・解析し、新たな医療の方向性を示した(Cell Stem Cell 2013)。ヒトiPS細胞から分化したグリア系神経前駆細胞を用いて、ALS治療にiPS細胞が細胞源として有用である可能性を示した(Stem Cell Reports 2014)。開発してきた新技術を班員間の共同研究に用いた。
著者
北岡 志保
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.155, no.6, pp.390-394, 2020 (Released:2020-11-01)
参考文献数
10

既存の抗うつ薬の多くはモノアミンなどの神経伝達物質の作用を調節するが,一部の患者で十分な効果が得られないため,新たな創薬標的の開発が期待されている.近年,うつ病患者の血中で炎症関連物質が高値を示すことから炎症の関与が注目されるものの,うつ病発症と炎症との因果関係は不明であった.社会や環境から受けるストレスは精神疾患のリスク因子であることから,動物に繰り返しストレスを与える反復社会挫折ストレスがうつ病の動物モデルとして使用されている.このモデルを用い,著者らはプロスタグランジン(PG)E2がPGE受容体EP1を介して内側前頭前皮質ドパミン系を抑制することによりうつ様行動を誘導することを示し,ミクログリアに選択的に発現するPG合成酵素シクロオキシゲナーゼ-1がうつ様行動の誘導に必須であることを見出した.この研究を発展させ,反復ストレスによりTLR2/TLR4を介して活性化された内側前頭前皮質ミクログリアがTNFα,IL-1αを放出し,反復ストレスによる神経細胞の応答性や形態の変化を誘導した結果,うつ様行動が誘導されることを示した.これらの結果から,反復ストレスによる情動変容の誘導に脳内炎症が関与すること,またその分子実体が明らかとなった.炎症を標的とした創薬を行うには,病態を培養細胞で再現した疾患モデル細胞が不可欠である.そこで,炎症が病態に深く関わる神経変性疾患を対象とし,炎症に着目した精神・神経疾患の創薬プラットホームを開発することとした.筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者由来のiPS細胞から分化した運動神経細胞は通常の培養条件下では健常者由来の細胞と同程度の生存率であるが,活性酸素を誘導するヒ素の存在下では生存率が低下した.そこで,この培養条件を用いてALS治療薬の候補化合物を同定した.本創薬プラットホームはALS以外の幅広い精神・神経疾患に応用可能であると期待される.
著者
北岡 志保 古屋敷 智之
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.702_1, 2017 (Released:2017-07-01)

げっ歯類を用いたうつ病モデルの1つである.このモデルでは,解析対象のマウスに最低2週間,毎日異なる軽度のストレスを負荷する.ストレスは予測できない順で動物に負荷することがこのモデルの特徴で,快感覚の消失,新奇環境における摂食までの時間の延長といった行動変化が誘導される.これらの行動変化は抗うつ薬の反復投与により改善される.
著者
北岡 志保
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.168-172, 2018 (Released:2019-11-01)
参考文献数
16

適度なストレスは生体の適応反応を誘導する。一方,ストレスの遷延化は精神疾患のリスク因子となる。このようなストレスによる情動変容のメカニズムには不明な点が多い。近年ストレスによる情動変容における炎症様反応の重要性が確立され,中枢および末梢での炎症様反応が調べられている。脳内では,反復ストレスによる前頭前皮質のドパミン系の抑制にミクログリア由来の炎症関連分子が関与し,反復ストレスによりミクログリアは活性化される。末梢では,ストレスによる内分泌応答は骨髄系細胞を活性化し血中の炎症性サイトカインを上昇させ,ストレスによる交感神経の活性化は血中の好中球・単球を増加させる。さらに,末梢の変化がミクログリアの活性化に関与する可能性が示唆されている。これらの知見は,中枢‐末梢連関が炎症の悪循環を形成することを示唆しており,ストレスによる炎症様反応を標的とした新規抗うつ薬の開発を期待させる。
著者
北岡 志保
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.93, pp.3-YAL-1, 2020

<p>既存の抗うつ薬の多くはモノアミンなどの神経伝達物質の作用を調節するが、一部の患者で十分な効果が得られないため、新たな創薬標的の開発が期待されている。近年、うつ病などの精神疾患患者の血中で炎症関連物質が高値を示すことから、炎症仮説が注目されるようになった。しかし、うつ病発症と炎症との因果関係は不明であった。社会や環境から受けるストレスは精神疾患のリスク因子であることから、動物に繰り返しストレスを与える反復社会挫折ストレスがうつ病の動物モデルとして使用されている。反復ストレスは情動変容を誘導し、同時に特定の脳領域のミクログリアを活性化することを見出した。この研究に端を発し、反復ストレスによる情動変容の誘導における脳内炎症の関与とその分子実体を明らかにした。また、脳内炎症の関与がすでに知られている神経変性疾患で、炎症を標的とした創薬基盤を開発した。本講演では、精神・神経疾患の病態形成に関与する脳内炎症について最新の知見を紹介したい。</p>