- 著者
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村尾 忠廣
新美 成二
新山王 政和
南 曜子
- 出版者
- 愛知教育大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2001
本研究は、裏声を視点としてジェンダーの問題を学際的に問い直そうとしたものである。以下、今回の研究で明らかになったことについて述べる。1)男性の歌声が80年代後半から急激に高くなってきていることを、日本の歌謡曲の音域のデータを解析して明らかにしたこと。2)男性の高音化と女性化、ユニセックス化がリンクしていたこと。3)男性の高音化には、裏声の活用が関わっていること。4)裏声と頭声、ファルセットなどの用語を歴史的、音声生理学的に整理、解明をはかったこと。5)カウンターテナー、カストラートなど西洋音楽における男性ファルセットを歴史的、社会的にとらえなおしたこと。6)フォーマルとインフォーマルな場では、日本の女性が今なお声のピッチを区別し、公の場所でキーを上げて女らしさを見せようとする傾向にあること。7)学校の音楽教育においては、声による芸術が混声合唱中心となっており、そのため男性が裏声を使うことができない状態にあること。8)平成13年に、国際シンポジウム「International Symposium on Falsetto and Gender」を開催したこと。9)国際シンポジウムの開催によって、日本で現在おこっている声とジェンダー意識の変化が世界的に共通していること、また、その中で何が日本で特に顕著な傾向であるかを明らかにしたこと。以上のように今回の研究は、多分野にわたり、数多くの副次的テーマが広がっている。そのため、鳥瞰図的な研究成果になった嫌いはあるものの、裏声とジェンダーの関係を包括的に扱った最初の研究と言えるだろう。